「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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サイクロプス峠からの凱旋 1

 

 

 

 祠から岩壁に戻ってポータレッジを回収して、ザックに収納した。

 

 そして壁の上から下まで、懸垂下降で一気に降りる。

 

 懸垂下降は特殊部隊とかレスキュー隊が高所からロープでスルスルっと降りる姿を想像すれば大体あってる。ただ、クライミングであんな風にスピードを出すと流石に危ない。ロープを使って体を支えながら壁を後ろ歩きする……みたいな感じになる。もちろん手と足で降りるよりは格段に速いけど。

 

 下ではツキノワが待っていた。

 留守番させたことを詫びると「待つのも仕事さ」と気にしないでくれた。

 

「とりあえず飯にしようぜ。腹が減っちまった」

 

 ツキノワは暇つぶしがてら、魚を釣ってくれていた。

 グッジョブ、ツキノワ。

 焚き火を起こしてご飯を炊きながら、魚は塩焼きにする。

 野趣に溢れた朝食だ。

 

「美味い。このあたりイワナ釣れるんだ」

 

「おう。ここは釣り人も多いんだぜ」

 

「ツキノワ、あんた冒険者やるよりも釣りが上手いんじゃないの」

 

 フルーティーな香りがする上品なヤマメも美味しいが、ザ・魚! って雰囲気を楽しむならばイワナだと思う。

 

 焼いているときは川魚らしいクセのある芳香を感じさせつつも、かじりつけば上品で淡白な味わいが楽しめて、そのギャップがたまらない。

 

 香ばしく焼き上がった皮もいいアクセントになっている。カリッと焼けたところ好き。

 

 また、釣れたてで絞めたばかりの魚は身離れがいい。串に差した身をガブッとかじりついても骨がスッと離れてくれるので、ストレスを感じることなく食べられる。思わず二匹食べてしまった。

 

「日本酒があれば骨酒を楽しめたかな……」

 

「骨酒? なんだそりゃ?」

 

「米から作った酒で、イワナとかの魚の骨を軽く煮出して飲む」

 

「なにそれ美味そう。だが米酒はもっと北に行かないと手に入らないんだよな……。あ、いや、無いとは限らんな」

 

「え、あるの!?」

 

「ああ。今は時期じゃないから普通には売ってないが、酒好きやどっかの酒屋は隠し持ってるかもしれんぞ。探ってみるか」

 

「朝っぱらから何を言ってるんだい。あんたたちおっさんくさい」

 

「お前だってエールには目がないじゃねえか。こないだだってコレットちゃんに酔っ払ってウザ絡みしてただろうが」

 

 食後にはお礼を兼ねてコーヒーを淹れて、そしてデザート代わりにエナジーバーを分け与えた。

 

「なんか悪いな。つーか美味いな、このエナジーバーとかいうやつ」

 

「気にしないで。食事の準備は本来、ポーターとか巡礼者の仕事。こっちこそ魚釣ってくれて助かった」

 

「むしろこれくらいしとかないと、本当に俺が付いてきた意味もないしな。がはは!」

 

「大丈夫。ちゃんとツキノワも攻略できるよう指導する。二人だけで攻略したんじゃなくて、三人で攻略したら帰ろう」

 

「そうだね、せっかく来たんだからあんたもやってきな」

 

「えっ」

 

 こうして、ツキノワのクライミング特訓が始まった。

 3回落ちたが、なんとかツキノワも無事に崖を登り切ることができた。

 登りきったときの「二度とクライミングなんかやらないからな!」という言葉は聞き流した。

 

 

 

 

 

 

 ツキノワが壁を登りきった後、ふたたび祠の前で休憩することにした。

 

「死ぬかと思ったぜ、まったく」

 

 ツキノワが消耗した顔でため息を付く。

 だが普通はもう二の腕と背中がパンパンになって疲労困憊で倒れかねない。

 登りきった後に脱いだ鎧を再び身につけられるのだから、ツキノワもしっかりと体を鍛えている。

 

「全然問題ない。適性がある。懸垂下降もやっとこう」

 

「はいはい、ありがとよ……。しかしサイクロプスのいないサイクロプス峠なんざ、初めての光景だな……」

 

 ツキノワが不思議そうに周囲を見渡す。

 ニッコウキスゲはさっさと去りたいようで、どこかそわそわした雰囲気だった。

 

「これ大丈夫だろうね? 本当に一匹もいない?」

 

「明日の朝までは絶対に現れない。現れても一匹や二匹だけのはず。……とはいえ、記録を読んだだけだけど」

 

「なんか不安だね……。ここに居続けるのも薄気味悪いし、そろそろ帰ろ……」

 

「いや、まだだ」

 

 ツキノワが妙なことを言い出した。

 

「なんでよ。帰って休みたいんだけど」

 

「無殺生攻略できるなんて半信半疑だったからすっかり忘れてたが……今はチャンスだ。遺品の捜索ができる」

 

「あ! そうか!」

 

 ニッコウキスゲが驚きの声を上げた。

 あれ? でも聖地って、後から物を持ち込んでも弾かれるんじゃなかったっけ。

 

「外から来たものって外に弾かれるんじゃなかったっけ? 看板とか立てられないらしいし……遺品って残ってるもんなの?」

 

 私の質問に、ツキノワが部分的に頷いた。

 

「基本的にはな。だがここでサイクロプスに殺されて、人間が身につけた鎧や剣、肌見放さず持ってたものについては、外に弾き飛ばすまで相当時間が掛かるらしい。死体が風化しても、そこに人間の念や魔力が残留してるせいで押し出しにくいんだと」

 

「そういうこと。看板とかを突き刺してもすぐにポロっと抜けちゃうけど、遺品は時間が掛かるのさ」

 

「へえ……それは知らなかった」

 

 ツキノワとニッコウキスゲの解説に、なるほどと頷く。

 

「しかもそうなる過程で、聖地は中間の集積所や倉庫みたいなのを作る。そこを見つけちまえば、ここで死んだ人間の忘れ形見を一気に回収できるってわけだ」

 

 そうか……遺品を集めて持って帰ることができるなら、遺族は喜ぶだろう。

 

 だがその一方で、ちょっとだけ思った。

 ここ、サイクロプス峠に訪れるのは基本的にそれ相応の実力者であり、身につけているものも良いもののはずだ。

 そんな人たちの遺品が固まっているとしたら、宝の山……もはや宝物庫なのでは? と。

 

 だが流石に不謹慎すぎる。

 人の思いが詰まっている遺品なのだから、厳かな態度でいなければ。

 

「オコジョ。こういう話は不謹慎かもしれないが、お前は宝物庫を見つけたようなもんだ」

 

「それ言いかけたけど不謹慎だと思って止めたやつ」

 

「……今のセリフやり直していいか?」

 

「悪気が無いのはわかる。話を進めよう」

 

「オコジョは別にいいのさ。あんたに取っちゃ縁もゆかりもない冒険者の遺品だからね。不謹慎なのはこいつだけ」

 

 ニッコウキスゲがツキノワを指さして呆れる。

 

「そうは言うが、純然たる事実なんだから仕方ねえじゃねえか」

 

「言い方ってもんがあるだろ」

 

「それはほんとすまん」

 

 大金持ちになるという言葉に嘘はなさそうだ。

 ニッコウキスゲもそこを否定してはいない。

 

「……正直、お金はほしい。喉から手が出るほどほしい」

 

「そりゃそうだ」

 

 いや、ほんと、ぶっちゃけた話、めちゃめちゃほしいです。

 

 今はカピバラに甘えまくっているが、彼らにだって限度はある。

 ていうかこんな素晴らしい道具を作ってくれた以上はいずれ報酬という形で報いたい。

 

「でも、高値をつけて売り払うことを目的にしたくない。山に残されたものを遺族が欲しがるのは当然のこと。死体回収さえできず遺品もろくになくて、残された家族のつらさはよくわかる」

 

「オコジョ……」

 

「……そうだな。あんたに着いてきてよかったよ」

 

 ニッコウキスゲとツキノワが、しみじみと頷く。

 

「そんなわけで、お金のことは後で考えるとして、遺品回収は賛成。あと、遺骨とかあったら持って帰った方がいいの?」

 

 私の質問に、ツキノワの渋い顔を浮かべた。

 

「それができればいいんだが……残ってないと思う。金属ならともかく、死体とか食料とかはすぐに風化しちまうし」

 

「そっか……」

 

 自然に帰ったなら仕方がない。

 それも一つの供養の形と思うしかないだろう。

 

「……じゃあ、遺品だけでも探して持って帰ろう。待ってる人がきっといる」

 

「だね。さっさとやろう。量が多いと日が暮れちゃう」

 

「馬車を借りて往復しなきゃいけなくなるかもしれないな。急ごう」

 

 こうして私たちは、サイクロプス峠攻略の後始末に取り掛かった。

 

 

 

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