「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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サイクロプス峠からの凱旋 3

 

 

 

 ひとまず騒ぎが落ち着いたところで、ツキノワが何人かを呼び出した。

 付き合いで一杯飲んだだけで、残った仕事のことはちゃんと覚えていたようだ。安心した。

 

「コールマン、ティナ、アスガード……あとコレットちゃん、ちょっと来てくれ。あとそこの一番大きいテーブルを空けてほしい。荷物を並べたい」

 

「はい? お荷物?」

 

 コレットちゃんというのは受付の女の子の名だろう。

 他の名前はわからないが、ここの仲間のようだ。

 いかめしい顔の男性二人と、恐らく私と同業の巡礼者の女の子であった。

 

「なんだよ、フェルド。自慢話なら付き合うが酒くらい奢れよ」

 

「そうだそうだ。景気良さそうで羨ましいぜ」

 

「せやせや。ちっとくらい分配しいや」

 

 三人の冗談めいた文句に対し、ツキノワは真面目な顔で答えた。

 

「これは真面目な話だ。まず、荷馬車から荷物を降ろして、テーブルに広げたい。お前ら三人は手伝ってくれ。コレットちゃんはその確認作業を頼む」

 

「おいおい。いくら大成功したからって人を顎で使うなよ」

 

「旅商人の落としもんでも拾ったんか? あたいがポーターだからって、仕事でもない他人の荷を預けられても……」

 

「……他人の荷物じゃないとしたら、どうするんだい?」

 

 ニッコウキスゲが意味深な言葉を投げかける。

 三人全員は疑問符が浮かんでるような顔をしていたが、すぐに神妙な顔つきになった。

 

「お前たち、もしかして……アレを見つけたのか……?」

 

「まずは物を確かめてからだ。それじゃ、荷物を運び入れるぞ」

 

 実は、「宝物庫」の遺品回収はけっこうな重労働だった。

 

 船にそのまま載せたら沈没しかねないとわかって、大急ぎで王都に戻って荷馬車を借りてきて往復し、ようやく冒険者ギルドに帰還できたのだ。朝方から回収作業をしていたというのに、もうすぐ日が沈む時間である。

 

 コレットちゃんが暗くなりつつあるのを察してランプを灯すと、温かみのある光が木のテーブルを照らす。

 

「開けるぞ」

 

 回収品が破損しないように、木箱に藁束を詰めてそこに収納し、釘で打って厳重に梱包した。それを今、バールでこじあけて開封している。

 

 まずは、小判のようなものがあった。

 錆びていて状態は悪いが、刻まれた文字は問題なく読める。

 ツキノワがその一枚を手に取り、荷運びを手伝った冒険者に渡した。

 

「これ、親父のネームタグだ……あそこで死んだって聞いて、何度探しに行っても見つからなかった……そうか、宝物庫に行ってたんだな……」

 

 次に取り出したのは、杖だ。

 

 こちらも木製の部分はボロボロで今にも崩れ落ちそうだが、先端と石突の金属部は形を保っている。女の巡礼者が奪い取るように杖を持ち、金属部に刻まれた名前を見た瞬間、嗚咽し始めた。

 

「巡礼者だった姉ちゃんの杖や……。あたし、姉ちゃんより一回りも年上になっちゃったやないの……!」

 

 最後に取り出したのは、赤く錆びきった短剣だ。

 だが鍔や柄に施された装飾や、埋め込まれた魔石の輝きは鈍っていない。

 高級品であることが一目でわかる。

 

「やはり、夢幻の短剣……! 俺のリーダーが愛用してた魔法剣だ……これで俺たちを守ってたんだ……。もう十年も前のことなのに……よく残っててくれた」

 

 ツキノワに呼び出された三人は、私たちが拾った遺品の関係者というわけだった。

 

 遺品を受け取った三人は思い出に浸ったり、あるいは声を上げて泣いている。なんかもらい泣きしてる冒険者も現れた。

 

 なんでも、サイクロプス峠の宝物庫はここ10年以上、発見されていなかったらしい。

 サイクロプスが恐ろしく強いために、力で一掃することは難しい。

 ここでの遺品を回収しようと試みた者はいるが、誰も成功していなかった。

 無殺生攻略によってサイクロプスが一掃され、初めて宝物庫の場所に到達することができた……というわけだ。

 

「……オコジョさん。あんた、オコジョさんでええんやな?」

 

 そして、涙を拭いながら遺品を見つめていた女性が、私の方に向き直った。

 

「あ、まあ、本名はカプレーだけど、巡礼者としてはその名前で通そうかなって」

 

「頼むオコジョさん……! いい値でいい、何が何でも金は用意する! この杖、譲ってくれ……!」

 

 そして、がばっと平伏した。

 待って待って待って。

 そういうの頼んでないから。

 

「お、俺も買う! 頼む!」

 

「いくらだ!」

 

「お、落ち着いてほしい。その話をするためにコレットチャンさんとあなたたちを呼んだ。落とし物を拾ったようなもので、普通に返したい。所有権争いとかもしたくない」

 

「あのぅ……私、コレットって名前で、みんなからコレットちゃんって呼ばれてるだけですけど……」

 

「ごめん、コレットちゃん。というわけで、よろしくお願いします」

 

 アグネス・チャンさんみたいな感じだと思ってた。ごめん。

 ともかくコレットちゃんはこの状況に驚きながらも仕事を始めた。

 

「え、えーと、まず聖地で亡くなられた方の所有物に関してですが……基本的に、発見者、そして亡くなられた方のご家族の双方に所有権がございます。ですので、お金に換えて両者とも半額ずつ受け取るか、どちらかが買い取ってどちらかがお金を受け取ることになります」

 

「なるほど」

 

「所有者に存命の家族がいない場合や、100年以上前に所有者が死亡したと判断できるものは100%発見者のものです」

 

「ほうほう」

 

「それ以外のもの……そもそも所有者がわからないものや、ご家族がご存命かわからないものについては、まずギルドでお預かりして調査いたします。まあ、所有者不明で発見者のものになることが多いのですけど」

 

 遺失物と同じく1割の謝礼とかでいいんだけどなぁ……と思うが、聖地巡礼は大きな危険が伴う。

 冒険者という仕事は「危険に見合った報酬がある」という保証を誰かがしなくては成り立たないのだろう。

 

「うん。まあ、わかった」

 

「では具体的に、こちら三つの遺品の処理のお話に移ります。ネームタグについては申し訳ございませんが、一律1000ディナの報奨のみです。こちらは冒険者ネームタグも冒険者や巡礼者として登録するときの保証金で作られているので、ご遺族の負担はございません」

 

 そりゃそうだろうな。

 死体の身元を確認するための名札のようなもので、タグそのものに価値があるわけではない。

 ていうか、お金をもらうこと自体に申し訳無ささえ感じる。

 

「それと杖ですが……こちらは教会の神官見習いに支給されるものでして市場価値はほぼないかと……。名前も彫られていますし、ネームタグと同じような扱いになるかなと思います」

 

 なるほど、短剣以外の分についてはこれといった価値はなさそうだ。

 それを聞いた男女二人の冒険者たちは安心した……かと思いきや、複雑な顔をしていた。

 

「理屈はわかる。わかるんだが……」

 

「遺品を回収してもらって何も払わずに『ありがとうございました』はないやろ。道端や酒場で拾ったんならともかく、サイクロプスが強すぎて誰も手を出せなかった宝物庫から持って帰ってきたんや。これでタダで返してもらったら巡礼者として恥ずかしゅーて表を歩けへんわ」

 

「そ、それはそうですが……ええと……どうすればいいんでしょうね……?」

 

 コレットちゃんが困った表情で固まった。

 ごめんそこは私もわからない。

 とはいえ私が何か言わなければ物事が進まない。

 

「うーん……遺品回収を依頼した仕事とか、そういうのってないの? 参考になりそうな見積もりとか相場を見て、そこから算出すればいいんじゃないかなと思うけど」

 

 そうコレットちゃんに言うと「わかりました!」と猛スピードで書庫に行き、猛スピードで帰ってきた。私が例に出したような依頼は、どうやらすぐ見つかったらしい。

 

「はぁ……はぁ……おぇっぷ……」

 

「だ、大丈夫?」

 

「すみません、体力がなくて……。でも見つかりました……! 聖地以外での遭難事故処理で、ネームタグ回収依頼を1日依頼した場合、冒険者一人あたり日当5千ディナとなっていました。ですので今回は1万5千ディナが妥当なところかなと。あ、その他、移動や食事にかかる経費も請求して問題ありません」

 

「経費とかいいよ。偶然見つけたようなものだし。諸々併せて1万ずつでいいよ」

 

 人差し指を立てて1万でどう、と示した。

 が、冒険者二人は「「値切れるわけないだろ!」」と逆に怒って、倍額を出してきた。

 

「3万ディナだ! 文句ないな!」

 

「いつもニコニコ現金払いでええやろ! ヨシ!」

 

 二人が財布から金貨3枚ずつを出した。

 合計6枚、6万ディナである。

 しかしこれを素直に受け取るのはちょっとなぁ……。

 

「こういう上乗せ分は気持ちの問題だ。もらえるもんはもらっとけ」

 

 迷っている私に、ツキノワがそう促した。

 

「まあ、そうだけど……」

 

「値引きするとあいつらに悪い評判が付くこともあるし、お前にたかろうとするやつも出てくる。普通の巡礼者ならともかく、オコジョは一度の巡礼で色んな新記録を打ち立てた超大型新人なんだからな」

 

 期せずして超大型新人になってしまった。

 そう言われたなら仕方ない、受け取っておくか。

 

「わかった。受け取る」

 

「ありがとう……おふくろが喜ぶよ」

 

「本当にありがとうな……」

 

 二人がまた泣きながらお礼を告げる。

 みんな泣かないで。

 ほんと、偶然手に入ったのでそんなに感謝されても困る。

 

 そんな困った私を察したのか、ニッコウキスゲが大きなジョッキになみなみとエールをついで二人に渡してきた。そして二人の肩を叩きながら別のテーブルへと移動させる。グッジョブ、ニッコウキスゲ。

 

 彼女は口調こそちょっと荒っぽいし皮肉屋なところがあるが、こういう生き死にの話だとすごく優しい。最初に話しかけてきた冒険者が彼女でよかった。

 

「さて、残るは……夢幻の短剣だな」

 

 ツキノワが、テーブルに置かれている高そうな短剣をちらりと見る。

 魔石が埋め込まれた武器は、総じて高い。

 剣が錆びていてもそこだけ交換すればまだまだ使えるわけで、市場価値はそんなに減ったりはしない。少々緊張しながら私はコレットちゃんに尋ねた。

 

「コレットちゃん。この短剣っておいくら?」

 

「……これは、ええと」

 

 コレットちゃんは即答しなかった。

 告げることが申し訳ないとでも言うような雰囲気だ。

 

「構わない。言ってくれ」

 

 ツキノワに呼び出された最後の冒険者が、どこか緊張しながら言った。

 コレットちゃんもまた緊張しながら、さっきの私のように指を1本立てる。

 口で説明する勇気が無いということだ。

 となると一万ディナや十万ディナではあるまい。

 

「もしかして……百万ディナってこと?」

 

 私の問いかけに、コレットちゃんは首を横に振った。

 

「いえ……一千万ディナですぅ……」

 

 

 

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