「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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サイクロプス峠からの凱旋 4

 

 

 

「ウッソでしょ」

 

 流石に私も唖然とした。

 だがコレットちゃんは至って正気である。

 ていうか、唖然としてるのは私だけだ。

 

 短剣を見て懐かしんでいた冒険者は「仕方ない」という諦めの表情をしており、ツキノワとニッコウキスゲは「さもありなん」という無常観を漂わせている。

 

「いえ、本当です。この『夢幻の短剣』は、高名な魔道具職人によるものとして有名でして……魔道具としての力、希少性、美術品としての評価の三拍子が揃った逸品です。完璧な状態であれば二千五百万ディナくらいは行っていたかと……」

 

「うわぁ……」

 

 コレットちゃんの冷静かつ端的な説明に、こっちが戦慄してしまう。

 

「魔道具として見たときは問題ないのですが、刀剣としては状態があまりにひどく、美術品としての価値はありません。柄や鞘は一見綺麗ですが純正部品ではなく別の職人が後で交換補修したもののようで、こちらも残念ながら評価不能です。ですので実用品の魔道具として算定するしかなく、大幅な減額となっております」

 

「それでも一千万ディナするんだ……」

 

「はい。効果としましては、所有者の姿を消すことができます。もっとも効果時間は短く、一般人で5秒ほど。魔力に優れた人でも最大30秒ほどでしょうか。なお姿を消すというのは視覚情報のみでして、匂いや音までは消せません」

 

 一瞬、微妙かな……って思ったが、よく考えたらそんなことはない。

 その一瞬が生死を分ける場面は確実にある。

 特に、聖地の攻略という危ない仕事をしているのであれば。

 致命的な攻撃を避けるとか、必殺の一撃を放つとか、ここぞというタイミングで強力なパワーを発揮するだろう。

 

「あたしも昔、ツキノワから聞いたことがある。腕利きの冒険者が使ってた魔道具だったけど、サイクロプス峠で依頼人と新人を守るために命を落としたって……」

 

 ニッコウキスゲの言葉に、冒険者が頷いた。

 

「そのときの新人ってのが俺だよ。運悪く、魔物が活性化する魔の新月だった。勝てるはずの魔物にも勝てなくて、リーダーが身を挺して守ってくれた。……昔、フェルドにも話してたが、覚えててくれたんだな」

 

「偶然だよ」

 

 ツキノワが、気にするなとばかりに肩をすくめる。

 

「恩に着る。……それで、オコジョさん」

 

 冒険者……確かアスガードさんとか言ったっけ。

 白髪交じりの剣客みたいなベテランの雰囲気漂わせるおじさんに下手に出られると、こっちが緊張してしまう。

 

「え、えーと、買い取りたいって話……ですよね?」

 

「残念だがそんなに金は持ってなくてな」

 

 まあ、そりゃそうだ。

 一千万ディナをキャッシュでポンと出せる人は冒険者などやってはいない。

 そして恐らく、この人は夢幻の短剣の持ち主の家族や親戚というわけでもなさそうだ。

 

「俺が駆け出しだった頃のパーティーリーダー、夢幻のレンドルは天涯孤独だった。調べればすぐにわかるだろうが、これはあんたの持ち物になるだろう」

 

 お、重い……。

 短剣の重みに耐えきれない気がする。

 この人、半分もらってくれないかなぁと思ったが、彼の要求はもっともっと謙虚なものだった。

 

「それで本題だ。魔法が込められた魔石以外の部分を売ってくれ。コレットちゃん、相場としてどれくらいになる?」

 

「魔石を外した後の短剣については、恐らく十万ディナくらいかと」

 

 コレットちゃんの話に、冒険者さんが頷く。

 正直まるっとプレゼントしたいくらいだが、見つけたなりの責任がある。

 彼もそこまでは望まないだろう。

 

「わかりました。それでは短剣部分はお譲りします」

「ありがとう。オコジョさん」

 

 商談成立だ。私と冒険者は堅い握手を交わした。

 

「扱いには注意してくれ。俺も若い頃に使わせてもらったことはあるが癖のある魔道具だからな」

 

「それは確かに……。悪用するつもりはないけど」

 

 無殺生攻略には凄く役立ちそうだが、売るのも手だ。

 ただどういう形にするにせよ注意しなければいけない。

 これを盗もうとする人も現れるかもしれないし。

 

「ちなみに、暗殺やスリには使えないぜ。人を攻撃したり金を盗んだりすると、魔法が解除された上に自分の体が光を放つ。魔道具の職人はこんなもの作っといて悪用されたくはなかったみたいでな」

 

 なんかスマホの盗撮防止機能みたいだな。

 だがそういう機能があるのはむしろホッとする。

 誰かに売り渡して悪用されるのも、自分が使ってあらぬ疑いを招くのもありえそうだし。

 

「とりあえず、一番価値がありそうなものは何とかなりそうだな」

 

「他にも色々と細かいものはあるけどね」

 

 ツキノワとニッコウキスゲが、残る遺品を見て少し疲れた表情を見せた。

 正直なことを言うと、ごめん、一つ一つが重い。

 遺族たちの感情に向き合って遺品を処理したいし、粗雑に扱いたくもない。

 けどそれはとても緊張するし疲れる。もうちょっと時間を掛けてやりたい。

 

「……明日にしない?」

 

「そうだな」

 

「うん、あたしも寝たい。コレットちゃん、悪いけどここの倉庫で預かってくれるかな?」

 

「私としても助かります。もうそろそろ閉める時間なので……」

 

 みんな、どこか虚脱した顔をしていた。

 気ままに宴会モードに入っている他の冒険者たちがちょっと羨ましい。

 まったく、こっちだって気ままに酒呑み話や自慢話だけで終わりたいものだ。

 

 ……と、自慢話と言えば。

 

 あの子にしてあげる約束だったっけ。

 

「あ、えっと、アスゲートさん。これ、一日だけ使わせてもらってもいい?」

 

「夢幻の短剣か? そりゃあんたのものだから構わないが……」

 

 アスゲートさんが、首をかしげつつも同意してくれた。

 

「友達一人だけには教えておきたい。攻略のための装備や魔道具を作ってもらってる人で、この短剣のことも相談しておきたくて。魔石を外したり分解したりもしなきゃいけないし」

 

「あんまり見せびらかさない方がいいとは思うが……魔道具を扱える職人なら大丈夫か。使い方も教えとこう」

 

 やった!

 

 金額の高さにビビっていたし、来歴を考えると大事に扱うべきものだ。

 

 だがそれはそれとして、ニューギアを試す瞬間は心がときめく。

 

 そして何度か練習してコツを掴んだところで、私はとある場所へと向かった。

 

 

 

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