「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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表スライム山を登って山頂でソーセージを食べよう 2

 

 

 

 パーティー名「オコジョ隊」ということで、ギルドの受付のコレットちゃんに申請した。

 コレットちゃんはおめでとうございます、可愛い名前ですねと褒めてくれた。

 いい子だ。

 

「よっしゃ! 決定!」

 

 命名者たるツキノワがガッツポーズを取った。

 もっとスマートで素敵なパーティー名を考えてやる……と内心決意しつつも、なんだかんだでこれで定着してしまう気がする。

 

「おほん! リーダーは私。巡礼者でポーターの、カプレー=クイントゥス。通称オコジョ。まだデビューしたてだけど、技量は見てもらった通り。よろしく」

 

「魔法使いのジュラ。なんかニッコウキスゲってあだ名つけられた。風属性と水属性の魔法使いだけど片手剣も使える。よろしくね」

 

「人呼んで月の輪熊のフェルド、略してツキノワだ。斧と盾が得意だ。防御は任せてくれ。クライミングは苦手だ。よろしく頼む」

 

 こやつめ、あだ名をちゃっかり自分の二つ名にしている。

 お調子者だがそれゆえに皆に信頼されており、ネゴシエーションでは頼りになる。

 見た目の割に現実論者でシビアなニッコウキスゲとツキノワは良いコンビだなとしみじみ思う。

 

「次の目的地はスライム山。報酬は、ここを攻略する上での装備を整えるのに使いたい」

 

「おう、異論はない……って、スライム山?」

 

「あそこを攻略するのに、特別な装備なんていらないけどね……? 子供だって攻略できるよ?」

 

 二人が首をひねって質問した。

 

 それも当然だろう。スライム山は巡礼者の登竜門でさえない。

 魔物の存在を加味してもタタラ山よりレベルが低い。

 冒険者ギルドが公式に初心者向けどころか「観光客向け」と発言するほどだ。

 

 標高は600メートル程度。

 傾斜は緩く、道も整備されている。

 そしてなにより、スライムが弱い。

 とびかかってきたとしても子供の腕力で振り払えるし、踏めば倒せるらしい。

 ハチとかヘビとかハクビシンの方が遥かに怖い。

 

 聖地だというのに紅葉シーズンには屋台を引いてやってきてお菓子や軽食を売ることさえある。山頂には祠どころか人が常駐する神殿がある。聖地の魔力によって建物が劣化することがないので、普通の神殿に勤めるより管理が楽なのだそうだ。

 

「うん。スライム山が楽なのは知ってる。でもちゃんと下見をして無殺生攻略の計画を立てたい。……無殺生攻略に限るなら、けっこう大変かもしれないし」

 

 だがここを無殺生攻略するとなると、恐らく難易度がまるで変わってくるかもしれない。

 私の悪い予感がが当たっていなければいいのだが。

 

「なんだなんだ、サイクロプス峠をいきなり攻略した新進気鋭のルーキーだってのに。スライム山は楽しいし、気楽に行ってみようぜ」

 

「そうだね。あたしもしばらく行ってなかったっけ。あそこで食べるソーセージとエールが美味しかったな。オコジョは好き?」

 

 そういえばこの世界において、酒を飲んでよい年齢など法で定められてはいない。

 水で薄めたワインを飲むくらいのことはあったが、エールビールは飲んだことがない。

 

「そういえばエール飲んだことない」

 

「そっかそっか! じゃあ初めてのエールはスライム山の山エールだね!」

 

 ニッコウキスゲが嬉しそうにはしゃいでいる。

 意外にこの子はお酒好きらしい。

 

「おいおい、気を付けろよ? スライム山だって、一応は魔物が出る聖地。酔っぱらって頭ぶつけて死んだやつだっているんだからな」

 

「わかってるってば。でもツキノワ。あんただってキツい山に挑んだ後の仕事はもう少し気楽な山にしておきたいでしょ」

 

「まあ気持ちはわかるがな……。スライム焼きとか俺も好きだし」

 

「スライム焼き?」

 

「麦とか雑穀を挽いた粉を丸く練って、炭火で焼いたお菓子だ。蜂蜜とか、胡麻ペーストとか、ピーナッツバターとかをつけて食べる」

 

「何それ美味しそう」

 

 エールビールとソーセージも食欲をそそられるが、お団子もいい。

 ビールよりも日本酒派だった私としては、お団子の方にそそられる。

 

「ま、そのかわり攻略の報酬自体ないけどな。『聖地だけど実際は観光地』って感じの場所さ。登山者の喜捨を義務化しようって動きもあるらしいぞ」

 

「ケチだねぇ、まったく」

 

 ニッコウキスゲが呆れ、ツキノワも苦笑を好かべる。

 

「じゃあ、親睦と偵察を兼ねて、スライム山行ってみよう」

 

 和気あいあいとした雰囲気で、次なる目的地が決まった。

 

 

 

 

 

 

 スライム山には乗合馬車で1時間半ほどで、タタラ山よりは近い。

 そして巡礼者は多い。

 

 両親と子供が和気あいあいと談笑していたり、恋人同士がイチャついてたり、リア充オーラが凄い。ガチ目の登山靴を履いてる私がちょっと浮いてる気がする。

 

 馬車が駅舎に止まって降りると、朝の爽やかな風が頬を撫でる。

 狭い客席で窮屈にしてた皆が、その開放感に身を委ねていた。

 

「シーズンオフだから空いてるかもと思ったけど、けっこう混んでたね」

 

「快晴だから人も増えるさ。新緑のスライム山もいいもんだぜ」

 

 ニッコウキスゲとツキノワが首や肩を回したり、関節をほぐしている。

 私も見習って足首や膝の柔軟をしておく。

 

 よし、バッチリ。

 体は問題なく、そして次なる問題は空模様だ。

 精霊様にお伺いを立てようか……と思ったら、とある看板が目に入った。

 

「本日曇り。降水の確率は稀なり。風は並。明日は小雨……って、もしかして大地の精霊のお告げ?」

 

 そこには本日の天気と風の強さが書かれていた。

 

「ああ、毎朝この山の神殿の人が精霊様にお伺いを立てて、天気を書いてるんだよ」

 

「便利だ……。私がやるまでもないか」

 

「おっ、スライム焼き売ってるぞ。食べてから行こうぜ。3本くれ! 1本は蜂蜜にしてくれ。お前らどうする?」

 

 看板のすぐ隣には、炭火で団子を焼く屋台があった。

 見つけたと同時にツキノワが屋台のおじさんに注文していた。

 食欲旺盛さに笑いつつも、甘いものの誘惑には私も抗いがたい。

 炭火の香ばしさと甘やかな香りが合わさって、同じ馬車に乗った客たちもふらふらと吸い寄せられていく。

 

「あたしピーナッツバター」

 

「胡麻ください」

 

「あいよっ」

 

 屋台のおじさんが焼き立てのお団子にそれぞれの味をつけて渡してくれた。

 団子は一本の串に3つ刺さっている。

 けっこう大きめの団子で一口では食べきれない。半分ほどをがぶりとかじる。

 

「あ、これ美味しい」

 

 日本の普通の団子よりも更に野趣がある。白玉粉オンリーの上品な団子ではなく、トチの実や粟といった雑穀が混ざっていて風味が強い。

 

 この世界においては原材料費を安くするための努力だろうけど、日本で作ろうとすると逆に高く付くやつだ。栄養バランス的にも、雑穀が混ざってたほうが良いだろう。

 

 だがもっとも素敵だなと思うのは、お団子の風味の強さを胡麻の香ばしさと甘さでコーティングして、優しい味わいにしていることだ。いくらでも食べられそう。

 

「おすすめするだけのことはある。美味しい」

 

「スライム焼きを食べると、スライム山に来たって感じするんだよね」

 

「そうだろう。名物に美味いものなしなんて言うが、ここは何食っても美味い」

 

 二人ともスライム山推しだ。

 まあ気持ちはわかる。

 殺伐とした仕事になりがちな冒険者家業を続けていれば、こういう場所が恋しくなるのだろう。

 私も日本アルプスとか火山とか大好きだが、それはそれとして低山も大好きだった。

 筑波山とか高尾山とか超好き。

 ふもとにはお風呂もあるし美味しいご飯もある。

 そして高山が雪で閉ざされて初心者お断りになる冬でも気軽に行ける。

 アイラブ低山。

 

 

 

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