「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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表スライム山を登って山頂でソーセージを食べよう 4

 

 

 

 休憩がてら山道に置かれたベンチに座って周囲に人がいないことを確かめて内緒話をする。

 

 そこで聞かされたのは、聖水はソルズロア教の売れ線商品でありながら「看板に偽りあり」の商品であるということだ。

 

 聖水は貴族や王族が旅をする際の必需品だ。

 

 しかし聖地を歩く巡礼者や冒険者が聖水をその身に振りかけても、魔物はその神聖な気配を嫌う様子もなく襲い掛かってくる。ソルズロア教は万能の魔物除けを謳って巡礼者に売り出していたのにもかかわらず、だ。

 

 聖水に宣伝文句ほどの効果がないとわかると、「あくまで偶発的な接触を避けるためのものだ。聖水を過信して魔物を挑発したのだろう」、「そもそも道具に頼って無殺生攻略に挑戦をするのは信心が足りない」と、公然と言い放ち、使用者の責任にすり替えた。

 

 それに、聖水が完全な偽薬というわけではない。

 聖地の外……街道での使用では実際に効果がある。

 

 ソルズロア教は権力のある得意先と結託して聖水についての不満をタブーとした。そのため、今なお「魔物除けの万能の聖水である」という宣伝文句が使われている。

 

「……使い道を改めればよいだけの話じゃない?」

 

「難しいだろうな。聖水の効果を疑うってことは、それを作った聖者を疑うってことだからな」

 

「聖者っていうと……カルハイン?」

 

「そうだ」

 

 大神官にして聖者カルハイン。

 

 確か、魔物を近づけさせない神聖魔法や、魔物が嫌う匂いを生成する錬金術を組み合わせて天魔峰を無殺生攻略したと言われる人物だ。そして現代において唯一存命中の聖者でもある。

 

「カルハインは確かに五合目の神殿まで殺生することなく攻略した。聖山ともなると、祈りの光は凄まじく大きなものだったらしい。その業績もあって、ソルズロア教はカルハインの天下ってわけだ」

 

「なるほど」

 

「カルハインが生きてる内に新しい聖者でも現れたら、聖水の文句も言えるんだがな……。オコジョ、お前、なってみないか?」

 

「いいよ」

 

「おっ、やってくれるか。そりゃ将来が楽しみだ」

 

 がははとツキノワが笑う。

 だがニッコウキスゲの目は、笑っていなかった。

 疑惑の目だ。

 

「ねえ、オコジョ」

 

「なに?」

 

「あんた、その場の冗談で言ってるわけじゃないね?」

 

「天魔峰は、難しいよ」

 

「オコジョ。あんたは難しいって言葉を、無理って意味で使うタイプじゃない。無理なときは無理って言うやつだよ」

 

 完全に読まれている。

 苦笑するしかない。

 

「……ニッコウキスゲ。ツキノワ。オコジョ隊を結成するとき、話忘れてたことがある」

 

「なに?」

 

「なんだ?」

 

「まだ秘密」

 

「なんだそりゃ」

 

 ツキノワが困惑の表情を浮かべた。

 

「聖水の説明ありがとう。地道に攻略しよう」

 

 

 

 

 

 

 樹木の背が低くなって、鬱蒼とした感じが減ってきた。

 地面は石畳で舗装されていて、山っぽさはあんまりない。

 王都の町外れとかよりも文化的な雰囲気がある。

 

 スライムは出てくるが、トレッキングポールで払いのけるだけで勝手に死んで消えていく。

 ほんと不思議な生物だ……。

 

 そう思いながら歩いていくと、少し開けたところに出てきた。

 

「五合目の展望台だ。あそこから王都やタタラ山が見えるぞ」

 

 ツキノワが指さした方向にはベンチと柵があった。

 男女カップルがいちゃつきながら王都を見て嬉しそうにしている。

 

「カップル多くない?」

 

「そりゃまあ、デートスポットだしね」

 

「家族連れも多いからなぁ」

 

 ここが地球なら写真撮ってくれませんかとスマホを渡されるところだ。

 しかしこういう登山の楽しさがこの世界にもあるわけで、良いことだと思う。

 ほほえましい男女二人の横で、私たちも景色に見入った。

 

「ちょっと曇ってるのが残念」

 

「雨は降らないみたいだけどね」

 

「快晴だったら海の方まで見えるんだがなぁ」

 

 しみじみと雑談をしながら水筒の水を飲む。

 前もってお団子を食べたので行動食を食べるほどでもない。

 

「このへんもスライムが出てくるんだ」

 

「日当たりがよすぎて勝手に倒れるけどな」

 

「そうなんだよね……弱すぎてびっくりするよ」

 

 休憩ポイントでも普通にスライムが出てくる。

 カップルの方にも体当たりしてくるが、彼氏も彼女も手馴れた様子で払いのけている。なんかシュールだな……。

 

「ねえ、ここって走ったら危ない?」

 

「そりゃ危ないよ。屋台もあるし、普通の通行人もいるしね。急いでる人が老人にぶつかって骨折させたとかって話も聞いたことあるし」

 

「なるほど」

 

「それに、もう少し先に行けばわかるけど神殿の敷地を突っ切って山頂に行くのさ。そこでドタバタ走ったら怒られると思うよ」

 

 ニッコウキスゲが、当たり前じゃんとばかりに語る。

 うーん……私の懸念がばっちり当たりそうだ。

 

 そして休憩ポイントからまた歩みを進めたらニッコウキスゲの言葉通りに神殿が目の前に現れた。

 

 パルテノン神殿みたいな立派な石柱が天井を支えており、壁はない。屋根があるだけでほぼ野外だ。そして中央には母性的な表情の女性の石像がたたずんでいる。

 

 これはソルズロア教の太陽神を擬人化したものだ。女神像であることはサイクロプス峠の祠と同じだが、丸い石を持っていない。

 

 丸い石は太陽を指している。太陽を抱えた女神像こそが、聖地における祈りを集める役割を持つ特殊な石像なのだ。

 

 だがそれ以外の女神像はどうでもいいのかというと、そうではない。

 

 日本にある仏像などと同じで、近隣の人やその宗派の信仰を集める大事なものだ。ついでに言えば、美術的な価値もある。そんなわけで、ここの神殿も、山頂の祠とは役割が違うが大事な場所ということだ。

 

 王都の中にある神殿よりは小さいものの、十二分に立派な神殿である。掃除も行き届いている……というか、掃除しなくてよいのだろう。聖地の中なので、異物やゴミは自動的に排除されてしまう。

 

「ここは山頂じゃないから、お祈りしても攻略達成にはならんぞ。聖地になる前からあった神殿ってだけで、巡礼ポイントとは違う」

 

「うん。わかってる。山頂にある祠でやるんだよね。でもせっかく来たしお祈りしてく」

 

 私たちよりも朝早くから来ている人もいて、ご老人が祈りの言葉を上げている。

 それにならって私もお祈りした。

 別にご利益のためだけに祈るってもんじゃないしね。

 

「いと高きにおわします太陽神ソルズロアよ。寄る辺なき空の寒さにその御心が凍てつくことのなきよう我らが日々の歓喜と哀切の薪を捧げます」

 

 私が祈る姿を見て、同じように祈ってたご老人が微笑みを浮かべ、「若いのに偉いねぇ」と誉めてくれた。ありがとうございます。

 

「お待たせ」

 

「……オコジョ、こういうところ意外だよなぁ」

 

「ほんとね。こういうのやらない方だと思ってた」

 

 私は宗教的な信仰心は薄い方ではあるが、こういう場所でお祈りも何もしないのもそれはそれで気が咎める性格である。なんとなく登山に来ると「せっかく来たんだしなぁ」とお賽銭を放り込む。あと巡礼者が「信仰心が薄い」と見られるのも厄介だし。

 

 結果的に、けっこう真面目に祈るので「なんだ意外と信仰心が厚いじゃないか」と思われたりする。カピバラにも言われた。

 

「こういうのは大事。やっておけば気持ちよく登れる。一種のジンクス」

 

 そして神殿の横を通り抜けると再び林道に入る。

 舗装されてた地面が、むき出しの土になった。

 本格的な山っぽい雰囲気になってちょっと嬉しい。

 

 鳥のさえずり。

 ざぁざぁという木々のざわめき。

 セキレイの激しいリズムの声に混じって、音程こそ高いが落ち着いたリズムの鳴き声が響く。

 頭上を見ると、黒い背中に黄色いの小鳥が飛んでいるのが見えた。

 

 野球チームのやたら濃いキャラのマスコットに似ているが、ツバメではなくキビタキだ。

 

 力強い稲妻のような眉毛と、オレンジと黄色が混ざり合った炎のような喉がめちゃめちゃ格好いい。

 

 キビタキは私たちを一瞥すると、山頂の方へ去っていった。

 さっさと来いよとでも言ってるかのようだ。

 

「キビタキ、いいよね……」

 

「いい……」

 

 私の言葉に、ツキノワがしみじみ頷く。

 

「ほら、鳥も頂上に向かってるんだ。あたしたちも行こうよ」

 

 ニッコウキスゲは鳥にはそこまで興味は無さそうだが、頂上の気配が近付いたことにワクワクしていた。

 

 

 

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