「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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表スライム山を登って山頂でソーセージを食べよう 5

 

 

 

 キビタキの後を追いかけるように歩みを進める。

 鳥が棲息しやすい、高すぎず低すぎずの高度感になってきた。

 低山はバードウォッチングもできて楽しい。

 そんな風に野鳥のさえずりに耳を傾けながら歩けば「スライム山 山頂」の立札がデデンと現れた。

 

「はやっ! もう着いちゃった」

 

 小高い丘のような、あるいはどこかの公園広場のような、牧歌的な光景が目の前に広がっている。

 ここがスライム山の山頂かぁ。

 

「ほどよく歩いたからお腹減ったね。ダイエットにも最適」

 

「お前はエールとソーセージが目当てだもんな」

 

 ツキノワとニッコウキスゲが嬉しそうな声を上げた。

 

 すでに山頂に辿り着いている登山客も数多くいて、屋台売りも営業を開始してる。

 

 地球の山にある出店や茶屋は基本的に朝早く始まって早々に店じまいするものだけど、この世界はそれ以上に早い。まあ電気による明かりがないのだから当然ではあるんだけど。

 

「オコジョオコジョ! そこの茶屋で休もうよぉ!」

 

「ツキノワ。ニッコウキスゲがいつになくテンション高いんだけど」

 

「こいつエールに目がないんだよ。つーか攻略を済ませてからだろ」

 

 山頂は公園のようになっていて、ベンチや展望台もあり、そして茶屋もある。

 ここは確かに居心地がいい。

 景色もいいし、デートスポットとしては確かに最高だ。

 

「真ん中のアレかな?」

 

 広場の真ん中に、お地蔵様くらいサイズの女神像がある。

 サイクロプス峠にあったものと同じだ。

 

「祠はこちらでーす。巡礼の方は並んでくださーい」

 

 管理人らしき人が巡礼者を案内している。

 

 すでに四、五人がお祈り待ちの列を作っており、私も最後尾に並んだ。ちょっと時間かかるかなと思ったが、みんな手早く祈りを済ませていて五分も待たなかった。私も早口で祈りの言葉を詠唱する。

 

 いと高きにおわします太陽神ソルズロアよ、なんとかかんとか。

 

「お、光った」

 

 流石に無殺生攻略のときより、光は遥かに小さい。

 だが確かにそこには輝きがある。

 

「はい。攻略完了ですね。おめでとうございます」

 

 管理人らしき人は、白髪で柔和な表情をしたおばあさんだった。

 私ににっこりと笑いながら祝福してくれた。

 

「ありがとうございます。……一つお尋ねしたいことがあるんですが、いいですか?」

 

「あら、なにかしら?」

 

「ここの登山道は、走っても大丈夫ですか?」

 

 私の質問に、管理人のおばあさんが困った顔をした。

 

「……実は、禁止されてるのよ」

 

 あー、やっぱりか。

 ここは老若男女問わず訪れる山だ。

 早朝はまだ人が少ないが、年末年始や祝祭の日は大渋滞になることもありえる。

 全力ダッシュして事故ることはありえるだろう。

 

「やっぱり、過去に事故とかありました?」

 

「聖者様がここを無殺生攻略したときに、人とぶつかって骨折させちゃったことがあるの。だから禁止になっちゃったのよ」

 

「【脱兎】のオリーブ様ですね」

 

「あら、若いのによく知ってるわね?」

 

 【脱兎】のオリーブとは、100年ほど前に活躍した聖者だ。

 自分の肉体を強化する魔法の達人で、魔物や獣よりも速いスピードで聖地を駆け抜けて無殺生攻略を達成した偉人である。

 

「オリーブ様にあやかって走りたいとしたら、裏スライム山かしら」

 

「裏スライム山?」

 

「スライム山の登山道は一つじゃないのよ。多分、あなたが来たのは表登山道。でも反対側から登るルートもあるわ。ちょっとこっちにいらっしゃい」

 

 管理人のおばあさんが手招きする。

 私は、ツキノワ、そしてエールを飲みたそうな顔をしているニッコウキスゲを引っ張っておばあさんの後ろをついていった。

 

 

 

 

 

 

 おばあさんが案内してくれたのは木造の建物で、そこは売店と管理人事務所を兼ねていた。休憩スペースのテーブルと椅子があり、私たちはそこに座った。

 

 ちなみにここでも軽食が売られている。

 エール1杯500ディナで、ソーセージも売っていた。

 真面目なお話をしたいところだったが、誘惑に抗えず三人分頼んだ。

 

 いや、きっとこれは情報料みたいなものだ。

 酒場の店員に話を聞こうとしても「何か注文していきな」とか言われるやつだったのだ。

 おばあさんはそんなこと何一つ言ってないが、そういうことにしておく。

 

「風味豊か。いいね……」

 

「ソーセージもめちゃめちゃ美味い。最高だな」

 

「でしょでしょ! あたしここに来たら絶対食べるって決めてたのよ!」

 

 一応言っておくと、私はこの世界基準での成人です。

 お酒を飲むことに何の問題もないので遠慮無く楽しむ。

 とはいえ登山中の泥酔は避けたいので、ニッコウキスゲには「1杯までね」とリーダー権限で申し渡した。ニッコウキスゲは涙を堪えて頷いた。

 

 まあ、おかわりしたい気持ちもわかる。日本のラガービールのような喉越しはないものの魔法によって冷やされていて、かすかにフルーティな香りと合わさって何とも言えない清涼感がある。

 

 ソーセージもすごく美味しい。

 炭火で香ばしく焼かれているので、皮がパリっとした歯ごたえになっている。

 その下にははちきれんばかりの粗挽きの肉が潜んでおり、そこらのソーセージとは食べ応えが違う。

 

「美味しかった……」

 

「うふふ、ありがとうございます。それで……ここに張ってあるのが裏スライム山の地図よ」

 

 管理人のおばあさんが休憩スペースの壁にかけてある地図を私たちに見せてくれた。

 

 それを見ると、私たちが通ってきた登山道はスライム山のごく一部……全体から見て2割か3割くらいにしかならないことがわかる。

 

「……そういえば裏スライム山、来たことなかったな」

 

「こっちに来たがる巡礼者は少ないしね。向こう側にも宿場町があるはずだから人の往来はあるのだけど、表側よりは全然少ないって話だよ」

 

 と、ツキノワとニッコウキスゲが解説する。

 

「それに裏スライム山は難易度が上がるのよねぇ」

 

 管理人のおばあさんが、地図上を指でなぞる。

 私たちが乗合馬車で来た登山道入口は、正確には「表登山口」という名である。

 そして通ってきたルートを指でなぞり、今、私たちがいる山頂を指で示す。

 

 その山頂の先に、うねるように続く道がある。

 その道の終端には、「裏スライム山 登山口」と書かれていた。

 

「反対側から行くルートは長いだけじゃなくて、魔物がちょっとだけ強いのよ。鉱物を含んだ体の鉄騎スライムに体当たりされたら怪我をしかねないわ。あとは太陽の熱を溜め込む熱スライムとか。まあ、どれも足の速さは普通のスライムと変わらないのだけど」

 

 案内人のおばあさんが、魔物の出現するポイントを指で示す。

 

「……裏スライム山は普通の聖地って感じだな。でもなんでこんなことを調べてるんだ?」

 

「そうだよ。前みたいに岸壁を登れば……」

 

 ニッコウキスゲとツキノワの疑問はもっともだ。

 だが現実は無慈悲である。

 

「クライミングに適した壁はない。全部、緩やかな斜面でできてる」

 

「あ、そっか……」

 

「ていうかスライムはサイクロプスみたいに図体が大きくないし二足歩行でもない。歩ける範囲って意味では人間よりスライムの方が上。魔物が歩けないルート自体が存在してない」

 

 私の諦め交じりの言葉に、ニッコウキスゲとフェルドの表情が固まる。

 逆に案内人のおばあさんは、正解を口にする学生を見る教師のように優しい顔をしていた。

 

「どうやらあなたたち、無殺生攻略をしたいのね?」

 

「はい」

 

「じゃあ、どうすればいいと思うかしら?」

 

「……魔法じゃダメ? 眠りとか幻惑とか」

 

 ニッコウキスゲが苦笑を浮かべながら答えた。

 それをおばあさんが穏やかに否定する。

 

「不可能じゃないけど……個体数が多すぎるから普通は魔力が尽きるわね。魔法が効き過ぎて死んじゃうこともあるわ。だから……」

 

「逃げる。それが唯一の正解」

 

 私が、おばあさんに代わって答えた。

 おばあさんが、正解おめでとうと微笑む。

 

「そういうことね」

 

「スライムは数が多くて、囲まれたら逃げられない。無力化させようとするとうっかり倒しちゃう。だから、囲まれる前に走って逃げるしかない。追いすがるスライムを振り切って、新たにスライムが現れても無視してひたすらに走る。表スライム山だったら4キロ弱だから、走れなくはない。でも……」

 

「……猛烈に嫌な予感がしてきたんだが」

 

「奇遇ね。あたしもよ」

 

 ツキノワとニッコウキスゲが、げんなりした表情を浮かべる。

 

「気持ちはわかるのだけれど、表スライム山で走るのは禁止なの。ごめんなさいね」

 

「通行人が多いから仕方ないです。……だから、ここを走る」

 

 私の指は、案内人のおばあさんがなぞった道の逆を辿る。

 地図の一番上の裏スライム山登山口を示し、そこから道なりに下っていってスライム山の山頂で止める。

 

「17キロの道を、スライムに追いつかれないように逃げ続ける」

 

 私は、地獄に付き合ってくれるよねと言う願いを込めて二人の顔を見た。

 

「トレイルラン、しよっか」

 

 

 

 

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