「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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※3話分投稿します


トレイルランニングシューズを作ろう 1

 

 

 

 王都の職人街の一角に、新たな工房ができた。

 

 老人の男性と少女が二人で何かを作っているだけで客が来ている様子はない。

 周囲の人間は不思議そうにそれを見ていた。

 作っているものはどうやら靴や衣類らしいとはわかるが、それがどうにも普通ではない。

 泥竜の革はともかく、ケルピーの革を仕入れて何かを作っているようだ。

 

 あんなものどうするんだろう。

 

 どうせ貴族の道楽だ。

 

 いやいや何か大発明をしているに違いない。

 

 だがその質問を投げかける勇気ある職人はおらず、老人と少女は面白そうに何かを作っていた。

 

 なんだか楽しそうだなと思って、職人の一人がうっかり声をかけた。

 すると少女が楽しそうに答えた。「巡礼者の靴を作っているのよ」と。

 

 しかも、その巡礼者はなんと無殺生攻略に挑戦するらしい。

 今どき敬虔な者がいたものだと感心する職人もいれば、一笑に付す職人もいた。

 

 だがしばらく後、一つの噂が流れるようになる。

 年若い少女が、巡礼者になった途端にサイクロプス峠を無殺生攻略したという。

 

 その噂が広まるまでは、ここはまだ名もなき工房にすぎなかった。

 

 

 

 

 

 

 新たなギアが必要だ。

 

 そこで靴職人のおじいさんの家に行こうと思ったが、おじいさんとカピバラはなんと新たな工房を構えてそこに案内された。

 

 工房では靴のみならず、木工製品やウェアの縫製などもできるように、狭いながらも様々な道具が置かれている。カピバラのためのテーブルや作業場もある。

 

 ……もしかして私の道具のために工房まで構えたのだろうか。

 

 いや、もしかしてもない。

 確実に私のためだ。

 流石に申し訳なさを覚える。

 150万くらいじゃ絶対に足りてない。ヤバい。

 本気でもっと大きなお返しをしなければ。

 

 そんな申し訳なさを思いながらオコジョ隊の三人で工房へ行くと、カピバラが「あらまあ、久しぶり」という顔を浮かべた。

 

 私に対してではない。ニッコウキスゲに対してだ。

 

「珍しい……っていうか、オコジョの仲間ってあなただったの」

 

「あっ、は、はい! マーガレットお嬢様に置かれましてはご機嫌麗しゅう……!」

 

 ニッコウキスゲが今までになく丁寧な言葉遣いでカピバラに挨拶する。

 私もツキノワも、「こいつどうしたんだろ」とぽかんとした顔をしていた。

 

「もしかしてカピバラってニッコウキスゲと知り合いだった?」

 

「うん。子供の頃、お父様の行事に行くときに護衛してもらったりしてたわね。騎士辞めたって聞いてたけど、冒険者になったんだ……」

 

 カピバラは嬉しそうな顔をしていた。

 思わぬ再会に喜んでいる。

 だがニッコウキスゲの方は泡を食ったような顔をしたままだ。

 

「お、オコジョ! あんたこの人がどういう人かわかってるの!」

 

「どういう人って言われても……友達?」

 

「ガルデナス家のお嬢様だよ! 金獅子騎士団の団長、グスタフ=ガルデナス伯爵のご息女! 立派な貴族だよ!」

 

「うえっ、マジで!?」

 

「あ、それは知ってる」

 

 ツキノワがめちゃめちゃビックリしてる。

 だが更にツキノワを驚愕させる発言が出てきた。

 

「知ってるならもうちょっと振る舞いを何とかしなさいよ!」

 

「……でも、オコジョも貴族よ?」

 

「ウソでしょ!?」

 

「なんだって!? ウソだろ!?」

 

 ニッコウキスゲとツキノワが、まるで天地がひっくり返ったがごとく驚いた。

 

「一応、男爵家の娘。ぶい」

 

「ぶいって何よ、ぶいって。……でもあなた、貴族の割にずいぶん自由に行動してるわよね。家とかご両親とか……あ」

 

 カピバラが自分の失言に気付いて言葉を止めた。

 と言っても別に気にしてはいないんだけどな。

 

「流行り病で死んじゃったんだよね。後見人になってくれた親戚はいるけど、いい感じに放任してくれる」

 

 両親が亡くなった後、父方の親戚が私の後見人になった。

 

 とはいえ私は12歳のときから学校に入るために寮暮らしだったし、婚約者もいた。遺産も現金化したものを受け取っているので後見人が必要な場面はほぼなく、彼らには一年以上会っていない。両親が管理してた領地とかも彼らに譲っている。

 

 ぶっちゃけ「それ乗っ取られたんじゃないの?」と思われそうなところだが、領地は小さく、大した税収もない。領民が飢えずに済むにはどうすればいいか頭を悩ませるような寒村もあるため、彼らには感謝をしている。

 

「あ、そういえば後見人さんに色々と説明するの忘れてた。巡礼者になったことも話してなかった」

 

「それは説明しておきなさいよ……わたしが言うのもなんだけど……」

 

 彼らには婚約破棄の話など何もしていない。

 そのうちご機嫌伺いと説明に行かなきゃなぁ。

 とはいえ貴族なのに世捨て人みたいな変人なので問題なく許してくれるだろうけど。

 

「まあまあ、そんなことより仕事の話をしよう」

 

「そんなことよりって言われてもな」

 

 流石にツキノワもわたわたしてるが、カピバラが口を挟んだ。

 

「今更オコジョの、なんかよくわかんない距離の詰め方にどーのこーの言っても仕方がないでしょ。あなたたちも楽にして頂戴」

 

「立ち話もなんです。どうぞお掛けください」

 

 靴職人のおじいさんが椅子を勧めてくれて、ついでにコーヒーと茶菓子も出してくれた。

 そこまでされて断ることもできず、二人はようやく諦めて座った。

 

「失礼します……」

 

「ジュラ。あなた騎士を辞めたんだから変に気を遣わなくていいの。言葉も堅苦しいの苦手でしょ」

 

「それはそうですけれど」

 

「わたしはこいつの道具を作るって約束してて、ついでにあなたたちの分のも用意してあげる」

 

「わかりました……いや、わかったわ。カピバラ」

 

 ニッコウキスゲの言葉に、カピバラがくすっと笑う。

 

「カピバラ呼びはするのね」

 

「あっ、あっ、すみません」

 

「いいわよ、ニッコウキスゲ。ツキノワもよろしく」

 

「おう。人呼んで月の輪熊のフェルド。頼りにしてくれ」

 

「あんたねぇ、そういう異名じゃなくてただのあだ名でしょ」

 

 お調子者のツキノワに、ニッコウキスゲが呆れる。

 なんとなく和やかな空気になったところで、カピバラが具体的な話を切り出した。

 

「……で、二人の登山靴を作りたいってところかしら?」

 

「うん。普通の登山靴を作りたいんだけど……他にも調達してほしいものが」

 

 カピバラが「またそれぇ?」という表情を浮かべた。

 

「今度は何がほしいのよ。クライミングくらいヤバいのはやめてよね」

 

「大丈夫。安全。スライム山だから」

 

「え、スライム山? 楽勝じゃないのあんなところ」

 

 その言葉に、ニッコウキスゲとツキノワが何とも微妙な表情を浮かべた。

 

「え、違うの? 老人でも巡礼できる山って聞いたし、スライムも弱いんじゃなかったっけ。子供の頃に遠足で行ったことあるわよ」

 

「スライムは、弱すぎるのが問題」

 

 私は、スライム山の難しさをカピバラに説明した。

 スライムが弱すぎて逃げ続けるしかないこと。

 表スライム山はダッシュ禁止で、裏スライム山を走るしかないことなどなど。

 

「なるほど……そういうことなら今までの登山靴は難しいわね。軽い靴がほしいの?」

 

 

 

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