「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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トレイルランニングシューズを作ろう 3

 

 

 

 スライムを素材に使う。

 ゴムの製造技術が確立していないこの世界では大正解という気がする。

 だが根本的な疑問がある。

 

「でも、スライムってすぐ死なない?」

 

「はい。人の攻撃ではすぐに死にますね。ですが耐久性がないわけではないんですよ。風に飛ばされて死んだりはしませんし、滑落して死ぬこともありません」

 

 ……矛盾してない?

 と思うのだが、どうやらカピバラは同じ疑問を抱いたようだ。

 すぐに靴職人のお祖父さんに質問した。

 

「それって変じゃない? なんでスライムって山みたいな厳しい環境にいるのに、人間に触れられただけですぐ死ぬのかしら?」

 

「人間には微量ながら、魔物を弾く魔力のようなものがありますからな。魔物のような不自然な生き物には自然と反発してしまうのです」

 

 えっ、そうなんだ、初耳。

 

「そういうことだね。ついでに言うと、魔物を弾く魔力ってのは鍛えられるのさ。聖地で魔物を倒し続けると、戦士だけじゃなくて魔法使いだって魔物を寄せ付けない強さを持つようになる。レベルアップとか言われてるね」

 

 ニッコウキスゲが補足で解説してくれる。

 っていうか……この世界ってレベルアップ概念あったんだ……。

 

「え、じゃあニッコウキスゲとかツキノワってレベルいくつ?」

 

「いやレベルアップって言われてるだけで、何か具体的な数値があるとかじゃないけど」

 

「なんだ……残念……。レベル99のチート魔法使いだったりしたら燃えたのに……」

 

「そこガッカリするところ!?」

 

 ニッコウキスゲが妙に困惑している。

 いや、別にいいんだ。私の地球人由来のこだわりなのだから。

 

「えー、続きを話してもよいですかな?」

 

「あっ、すみません」

 

 靴職人のおじいさんの話を遮ってしまった。

 

「つまり、スライムに対して人間が強すぎるのです。ですので人間の魔力を使わずにスライムを捕獲すれば、素材として扱うことができます。魔力を遮断する手袋を使ったり、あるいは袋そのものを罠にして捕獲するとか。その後、なめしや乾燥処理などをすればよい素材になりますよ」

 

 魔力を遮断する素材なんてあるんだ。

 興味深い。

 だが、もっと興味深いのはおじいさんのその知識だ。

 

「……もしかして、靴に使えるかもって思ってた?」

 

 私の言葉に、おじいさんがにっこりと笑う。

 おじいさんの言葉は、前からスライムに目を付けていないと出ないものだ。

 

「若気の至りで、妄想じみたアイディアをやろうとしたことはあります。ああ、ですが成功するかはわかりません。巡礼者に履かせる靴として適してるかは私も未知数です」

「でも、十分頼りになる」

 

 おじいさんには助けられてばかりだな。

 でもスライムを使った靴を作りたいって気持ちがあるなら嬉しい。

 トレランシューズを作りつつ、この人の理想の靴も作れたらいいな。

 

「方針は決まったわけね。スライム山で素材集め、がんばってね」

 

 カピバラが「私行きませんから」とばかりに言った。

 どさくさで拉致るのは流石に難しそうだ。

 

「うん。それに、ぶっつけ本番で裏スライム山を走りたくない。一度視察しておきたい」

 

「じゃあ裏スライム山からの攻略だな。スライム山、無殺生攻略の第一歩だ」

 

 こうしてツキノワの言葉で、雑談兼打合せが終わった。

 まだ先は遠いが、希望が見えたことに全員の顔に喜びが浮かんだ。

 ……と思ったが、ニッコウキスゲが妙にそわそわしていた。

 

「カピバラ。クライド様、一応聞いておきますけど……この仕事やこの工房について、団長はご存じですか?」

 

「……実は、話しておりません。ここを構えたのも家の者から隠れるためです」

 

 おじいさんが口に人差し指をあてて、秘密と茶目っ気たっぷりの仕草をする。

 団長、というのは多分、カピバラの父のことだろう。

 クライドっていうのはおじいさんの名前だろうか。初めて知った。

 

「だ、大丈夫なのですか?」

 

「今は旦那様は練兵のための遠征に出かけているので、しばらくは不在です。それまでにスライム山の件は片付けた方がよいでしょうな」

 

「あ、そうでしたか……よかった」

 

 ニッコウキスゲがほっとした表情を浮かべる。

 そして少し真面目な表情で私の方に向き直った。

 

「オコジョ。後でちょっと相談」

 

「ん? いいけど」

 

 ニッコウキスゲが気になることを言ってきた。

 この場で話せばいいのにとは思ったが、内密にしたいらしい。

 

 その後はニッコウキスゲとツキノワの足の採寸を図ったりして彼らのための登山靴の準備をして、解散となった。

 

 

 

 

 

 

 裏スライム山の登山口には、西側の国に通じる宿場町や街道がある。

 

 というか裏表含めたスライム山そのものが、聖地となるまでは一つの街道だった。現在は山を通らない迂回路としての街道ができている。スライムと言えど事故は起きるし、裏スライム山のスライムは表側よりちょっと強い。油断すれば事故も起きうる。

 

 だが今も距離や時間の短縮を目当てに、スライムを蹴散らして山を直行する旅人や旅商人もいるらしい。

 

 ていうか、いた。

 

「あんたたち王都方面から迂回して裏スライム山を歩くのか? 巡礼目的で?」

 

「なんで……?」

 

「しかも走るんだって?」

 

「全然わからん」

 

 ていうか旅人でもなんでもない巡礼者や冒険者なのに、王都からぐるっと遠回りして聖地巡礼する私たちの方が遥かに異端だった。奇異の目で見られまくって流石にちょっと恥ずかしい。

 

「ちょっとムカつく」

 

 ニッコウキスゲがぶすっとしている。

 私も同感だ。

 

「ここをトレランの聖地にして、あいつらを伝説の生き証人にしてやる」

 

 あの旅人たちには目にもの見せてやる。

 

「俺たちがやってることがわかったらみんな手のひら返すさ。俺たちみたいにな」

 

「自虐なのか励ましなのかはわからないけど、説得力がすごい」

 

 ツキノワの言葉に思わず笑ってしまう。

 こうして私たちは、裏スライム山の登山口から歩みを進めることとなった。

 

 

 

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