「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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※5話分更新します


裏スライム山を歩いてみよう 1

 

 

 

「こっちの方が森っぽいね。鬱蒼としてる」

 

 表スライム山はブナの木など、比較的まっすぐな樹木ばかりだったが、こっちはブナの木に混ざって樫の木や赤松など、様々な形状の樹木が乱立してて混沌としている。

 

 道幅は表スライム山やタタラ山より狭い。足元の木の根っこが邪魔する。登りがいのある山道だ。

 

「地図を見る限り、裏スライム山は三つのピークを乗り越えなきゃいけない。鉄騎スライム峠、熱スライム峠、大スライム峠の総称が裏スライム山。これらを踏破して、ようやくこないだ行ったスライム山の山頂に辿り着く」

 

 私が説明すると、ニッコウキスゲが興味深そうに言葉を返す。

 

「スライムの種類の8割くらいここで見つけられるんだね。裏スライム山は興味なかったから知らなかったよ」

 

「ていうか、鉄騎スライムってなに?」

 

「体に鉄分を多く含んでて、普通のスライムの3倍くらい重たいんだよ。とはいえ、普通のスライムと同じく相手に体当たりした衝撃で自分も死ぬけど」

 

「……体が銀色だったりしない? 鉄騎スライムを倒したらレベルアップしたりしないの?」

 

「色はちょっと濁ってるだけだし、体が重いだけだよ? 経験値とかレベルアップとか言われても、目に見えないもんだしなぁ」

 

 経験値たくさんもらえそうだけど、そう上手くはいかないようだ。残念。

 

「ちなみに熱スライムは、太陽の光とか熱を吸収して蓄えられるんだ。人を見つけるとその熱を放出して……」

 

「火傷する?」

 

「うん。真夏の昼間だと火傷するね。朝方くらいだとほんのり暖かいくらい。冬場に熱スライム見つけると暖房がわりにするやつもいるくらいさ」

 

「……体に優しいスライムだね」

 

「大スライムはその名の通り、大きい。そんだけ」

 

 全部、それほどの脅威ではなさそうだ。

 ただし、くたびれ果てたときに攻撃されたら怪我をする恐れもある。

 

「……とりあえずここの攻略の注意としては、体力が尽き果てるとか脱水症状で動けなくなるとか、道が歩きやすくてわかりやすいからといって迂闊な行動をするとか、そういうのをちゃんと避けよう。そのくらいかな」

 

「ま、そうだね」

 

「冒険や巡礼の基本を守れってことだな」

 

 私の言葉に、ニッコウキスゲとツキノワが頷く。

 そして道の視察のみならず、今回はもう一つの目的がある。

 というかそっちの方がメインだ。

 

「おいでなすったぜ」

 

 ツキノワが、とある木陰を指さした。

 鉄騎スライムだ。

 普通のスライムはほんのり水色であり、そこに周囲の風景の色が映っている感じだが、鉄騎スライムは微妙に透明度が低い。曇りガラスのような、艶のない渋い質感だ。

 

「えーと、専用の袋に入れるんだっけ」

 

「ああ。本来は倒した魔物の素材を回収して保管する袋なんだが……。まあ、このまま入れちまうか」

 

 ツキノワが、40Lゴミ袋くらいの大きめのズタ袋を広げた。

 そこに鉄騎スライムの突進してくるが、ツキノワはひらりと直撃をよけつつ、袋の中にスライムを見事に収納してみせた。

 

「やるじゃん」

 

「とはいえ、所詮はスライムだしなぁ……。あんまり仕事って感じがしねえや」

 

 ニッコウキスゲが誉めるが、ツキノワは淡々と袋の口を縛る。

 魔物退治というには作業感が強すぎるのだろう。

 

「その袋を使うと、聖地の外に出ても魔物の体が消えないの?」

 

「ああ。袋の中は魔力を遮断するからな。こうして密封しておけば聖地の魔力の密度のままだから、魔物のツノとか骨とかを劣化させずに街に持ち込んで保管できるわけだ」

 

 聖地では魔物が住みやすい。

 ついでに精霊とか、あと見たことはないが妖精や妖怪とか、半分この世の生き物じゃないものが生活しやすい場所なのだ。

 

 だが聖地でない場所では彼らは活動しにくい。魔物は活動レベルが低くなって弱くなるし、魔物から剥きとった素材は劣化する。スライムみたいな元から弱い魔物は即死する。釣り竿で引っ張り上げられた深海魚みたいなものだ。

 

 だがこのズタ袋……魔物袋は特殊な素材でできていて、鮮度を維持したまま聖地の外に持ち出すことができる。釣りで使うクーラーボックスみたいなものだ。

 

 本来は魔物を倒してから使うものだが、今回は魔物袋を使って生きたままスライムを捕獲する。スライムは死んでから劣化するまで速すぎるためだ。

 

「巡礼者の護衛をする冒険者は多いが、魔物狩りで稼ぐ冒険者も多いんだぜ。ま、スライム山を狩場にしてるやつはまずいないが」

 

「……思ったんだけど、これで服を作ったら楽に攻略できたりしない?」

 

 ニッコウキスゲの言葉に、一瞬光明が見えた。

 

「やめとけ。スライムを倒せないとしたら脅威度が全然違ってくる。生地が分厚くて動きにくいし、その状態で顔にでも引っ付かれてみろ。窒息して死ぬぞ」

 

「うっ……それは嫌だね……」

 

 ニッコウキスゲが肩を落とす。

 諦めて走ろっか。

 

「さて、鉄騎スライムは狩ったな。進もうぜ」

 

 今回、一種類ずつ捕獲してスライム素材を色々と試すことにしている。

 私たちは次なる目的地を目指した。

 

 

 

 

 

 

 山を登って鉄騎スライム峠の山頂に辿り着いた。

 このあたりにはベンチが点在している。

 聖地となる前に峠道の休憩所や茶屋があった名残だ……と思ったが、誰かいる。

 

「いらっしゃいませ。休んでいかれますか?」

 

「喫茶店……?」

 

 エプロンを付けた綺麗な女性が、私たちににこやかに声をかけた。

 名残とかじゃなく、休憩所が普通に営業している。

 

「はい。宿場の方から出張して、昼下がりくらいまで営業しているんです。表スライム山ほど人はいないですけどね」

 

「助かるな。水の補給なんかもできるのか?」

 

「もちろんございます。コーヒーと軽食などもありますし」

 

 ……峠道で飲むコーヒーは美味しいんだよな。

 ちょっと惹かれてしまう。

 

「みんな。ちょっと一服していこう」

 

「だな」

 

「せっかくだしね」

 

 コーヒーを一杯ずつもらってテーブルについた。

 なんかおまけにドライフルーツやナッツをくれた。ラッキー。

 

「うーん……いい香り……」

 

「表スライム山もいいが、こっちはこっちで長閑でいいな」

 

「空気もいいしね。お酒が飲めないのは残念だけど」

 

 鉄騎スライム山は、なだらかな丘陵という感じだ。

 今日は快晴で、天魔峰がよく見える。

 天魔峰はその高すぎる標高ゆえに、富士山のごとく色んな場所から見える。

 旅先で見えると「あ、ラッキー」って気分になる。

 

「オコジョ。あんた、もしかして……天魔峰に行きたいの?」

 

「……なんでわかった?」

 

「そんな顔してたよ」

 

 ニッコウキスゲがふふっと笑う。

 

 

 

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