「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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裏スライム山でトレーニングしよう 3

 

 

 

 トレイルランニングシューズは完成に近づきつつある。

 そしてトレーニングも万全だ。

 

 今日は本番をイメージした練習として、大スライム峠まで走る予定である。

 これで何の問題もなければ、休養日を挟んで無殺生攻略に挑戦する。

 ドライレイヤーが間に合えばいいのだが、これ以上待っていると本格的な夏が訪れて難易度が上がるだろう。このあたりが見極め時だ。

 

「あっつー。日差しキツいわ……」

 

 ニッコウキスゲがフードを被って補給食を飲んでいる。

 ツキノワが作ったはちみつレモンゼリーだ。

 ゼリーっていうかほぼジュースに近い。

 糖分たっぷりで果肉も微妙に入っていて、味も私の好みだ。

 シェフを呼んでくれ。

 

「俺がシェフだ」

 

「ありがとうツキノワ。これはいい。レシピ買い取らせてほしい」

 

「レシピも何もないけどな。ゼリーを口で吸い込めるレベルのゆるさにしただけだし」

 

「吸い込めるってこともすごい。ストローとかどうやったの?」

 

 ゼリーは木製のタンブラーみたいなものに、薄い木でできたストローが刺さっている。

 なんか地球のカフェよりもお洒落なものが出てきて驚いてしまった。

 

「これか? 大したことねえよ。大工がカンナで木を削ったときに大きな削りかすが出てくるだろ。あれをくるくる巻いて、澱粉で固めて筒状にしただけだ」

 

 なんでもツキノワは老人を連れての巡礼をよくやっているそうで、巡礼者の食事に気を遣うことも多いらしい。

 

 で、老人が食べやすいような一種の介護食や、喉に詰まらせることなく飲み込める嚥下食なども巡礼者家族から教わったそうで、「体の弱い巡礼者を様々なリスクから守る」という案内人としての能力において、冒険者ギルドで信頼されている。あとコレットちゃんと付き合ってるという噂がある。

 

「これがあると両手が塞がらないし、じいさんばあさんも食事しやすいんだよ。異国の旅人が使ってたのを見て真似してみたんだ」

 

「ツキノワ、グッジョブ。美味しい」

 

「おう。味見で飲み干すなよ」

 

「ぐぬぬ……シンプルな発想で解決するの、ちょっと敗北感感じるわ……デザインも可愛いし」

 

 カピバラが悔しがりながらタンブラーを眺める。

 悔しがりつつも褒める気持ちはよくわかる。可愛いし。

 ここにオコジョ隊のロゴとかエムブレムとか描いて某コーヒーショップ感を出したい。

 

「褒めろ褒めろ。冒険者としちゃ大したことはないが、この手の工夫なら負けないぜ」

 

 ツキノワは優秀だ。

 だがどこか自虐めいた言葉を口にする。

 自分から「俺は銅級冒険者だ」と自称することもある。

 あんまり触れるのもよくないのだろうか。

 

「あ、ツキノワ。後ろ後ろ」

 

「おっと、悪いな」

 

 三人ほどの通行人が後ろを通る。

 先頭を歩くリーダーは金髪のツンツン頭で、ちょっとチンピラ感のある剣士のようだ。

 この道を通るということは、裏スライム山を使って王都へ行くのだろう。

 長旅をしているようなベテランパーティーの雰囲気を醸し出している。

 

「……ん? お前、フェルドか? おいおい……奇遇だな。元気してたかぁ?」

 

 冒険者の一人が、ツキノワの顔をまじまじと見る。

 どうやらツキノワ知り合いのようだ。

 

「お前……ブリッツか……。珍しいな、こんなところで」

 

 ツキノワは再会を喜んでるといった空気ではない。

 相手の冒険者の方も同様で、どこか気まずさが漂っている。

 いや、気まずいどころではない。

 ブリッツとかいう冒険者は、思い切りツキノワにガンを飛ばしている。

 

「……火竜山の帰りだ。王都に帰るにはここを通るのが一番近いからな」

 

「そうか。お疲れさん」

 

 淡々としたツキノワの言葉に、冒険者は苛立ちを強くしてツキノワを睨みつける。

 

「……お前こそ、スライム山なんかで何やってんだよ。まだまともに戦えねえのか」

 

「戦うことだけが冒険者の仕事じゃないさ」

 

「未だにそんなこと言ってんのか。この臆病者め」

 

 はぁ? なんなんだこの男は、突然やってきてケンカを売ってきて。

 そういう罵倒語、嫌いだ。

 

「今はこちらのパーティーの行動中。メンバーに用があるなら、リーダーの私を通してほしい」

 

「なんだお前。新人の巡礼者か?」

 

 けっ、とでも言わんばかりのチンピラしぐさで冒険者はこちらを睨んでくる。

 

「私たちはオコジョ隊。王冠八座の攻略中。サイクロプス峠を攻略したところ」

 

「サイクロプス峠だと!? 嘘つけ! だいたいパーティー名がオコジョ隊とかバカにしてんのか! 俺たち『雷光の剣』みたいな立派な名前をだなぁ……!」

 

「待てブリッツ。デビューでいきなりサイクロプス峠を無殺生攻略したパーティーがいたって、ギルドでも話が出てただろう。あいつらマジだぜ……」

 

 仲間の冒険者が、何かに気付いてブリッツとかいう冒険者を制止した。

 だが彼の勢いは止まることなく因縁を付けてきた。

 

「へっ、だからどうしたよ。お前、本当に新人みたいだからフェルドのことは知らないだろう。こいつは、ゴブリンにさえ背を向ける臆病者なんだよ。ピンチになったら尻込みして役に立たなくなるやつだ。今のうちに追い出すのを勧めておくぜ」

 

 ツキノワは反論しなかった。

 目をそらすことなくブリッツの罵倒を受け止めている。

 

 確かに私はツキノワが戦っているところを見たことない。

 ていうか戦う必要がある場所に行くことは少なかった。

 事実かもしれない。

 

 だがそんなこと知ったこっちゃない。

 私はブリッツとかいう男の目をまっすぐに見る。

 

「あなたたちが過去に何があったか知らないし興味もないけど、ツキノワはサイクロプス峠の崖を3度落ちて、4回目で登りきった。血まみれの手で我慢しながら歯を食いしばって、80メートルの断崖絶壁をクリアした。私の知ってるツキノワは根性と勇気がある冒険者」

 

 その言葉に、ブリッツが後ずさった。

 

「う、うそつけ……!」

 

 それでもブリッツは、まだ諦めずに因縁を吹っかけてくる。

 おいよせよとか他の冒険者が止めにかかる。

 そうそう、止めてほしい。

 反論はするが、私は別にケンカが強いわけじゃない。

 ニッコウキスゲさんそろそろ助けて。

 

「全部本当だよ。あたしたちはサイクロプス峠を登りきった。さっさと帰りな」

 

 ニッコウキスゲが射殺すような視線で冒険者たちを睨みつける。

 流石に修羅場をくぐった本物は違う。

 私もカピバラも冒険者どもよりもニッコウキスゲの方にびびってる。

 

「げえっ……ジュラ、お前いたのか」

 

 ブリッツが驚いてますます後ずさる。

 

「ああ!? いたに決まってんだろ! 顔忘れてるんじゃないよ!」

 

「だ、だってフード被ってたじゃねえか……! くそっ、わかった、帰るさ。勝手にしろ!」

 

 ブリッツは、仲間の冒険者を引き連れて荒々しい歩みで去って行く。

 

 彼の仲間がちょっと申し訳なさそうに私たちに頭を下げていたが、ブリッツに「サッサと来い!」とどやされていた。

 

 

 

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