「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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裏スライム山を駆け抜けよう 1

 

 

 

 靴職人のおじいさんから伯爵を紹介してもらえてよかった。

 

 このドライインナーの生地をもらっただけではない、何か不思議な運命めいたものを感じる。

 

 だが彼と友誼を結んで支援してもらうために最低限必要なことがある。

 それは成功すること……の前に。

 

「オコジョ。これを俺に着ろっていうのか? マジで?」

 

「リーダー命令。全員着て」

 

 パーフェクトな準備を整えることだ。

 

 登山口を出発する前に、靴を含めた装備と衣類のすべてを入念にチェックした。

 今日、私たちは、二回目の無殺生攻略を果たす。

 通常の攻略難易度はベリーイージーを超えて測定不能。

 

 しかしながら、無殺生攻略の難易度はA。

 一切の誤魔化しが効かず、ただ「走る」という攻略しかできないためだ。

 

 私たちは今日、裏スライム山トレイルラン17キロを成功させる。

 

 

 

 

 

 

 私たちが無殺生攻略のために裏スライム山を走ることについて、山頂の祠の管理人のおばあさんに連絡した。

 

 おばあさんは「怪我に気をつけて、がんばってね」と優しい言葉をくれた。

 

 また鉄騎スライム峠のお姉さんも、熱スライム峠のおじさんおばさんも、やたらと応援してくれる。

 

 そんな事前連絡を入念にしていたためか、私たちがスタート地点となる裏スライム山登山口に訪れると、なんだか人だかりが出来ていた。

 

「おっ、来た来た」

 

「あいつらか」

 

「サイクロプス峠を攻略したって話だぜ」

 

「本当かぁ? あんな細っこい娘にできるもんかね」

 

「聖者オリーブ様も痩せてたそうだぞ」

 

「そりゃそうだが、鍛えてたからだろ。見た感じ普通だぞ」

 

「見た目じゃわからんもんだ」

 

「しかし身軽だな……綺麗なもんだ」

 

「見ろよあいつの筋肉。すげぇぜ」

 

 うーん、野次馬だった。

 見たところ冒険者や巡礼者ばかりで、同業のルーキーを観察しに来たというところだろう。

 ま、これから始めることを考えたら立会人は多い方がよいだろう。

 けどこんな風に値踏みされるのは趣味じゃないな。

 

「あれが巡礼神子(みこ)のオコジョ様だ。オリーブ様の後を継いで聖者になるらしい」

 

「ありがたやありがたや」

 

「すみません、お賽銭よろしいですか」

 

「お供え物です」

 

「うちの祖母は足が悪くて、どうか祈ってもらえませんでしょうか」

 

 冒険者の人だかりを超えると、そこにいたのは地域住民であった。

 特に老人が多い。

 冒険者たちとは違った意味で、妙な視線を送ってくる……というか視線に留まらない。

 お金とかみかんとかお団子とか、何だか知らないけど差し入れがどんどんやってくる。

 ていうか重い!

 

「待って待って待って! 持ちきれないんだけど!」

 

「と、とりあえず私が受け取っておくわよ。でも何事なの……?」

 

 カピバラも目を丸くしていた。

 他の仲間もどうしてこんなことになっているのかわからない様子だ。

 適当に、通行人を捕まえて聞いてみる。

 

「噂になってるんですよ。無殺生攻略に挑戦する巡礼神子がいるって」

 

 噂か……。

 確かに、サイクロプス峠を攻略してギルドの中で有名にはなったかもしれない。

 

 しかしまだ攻略したのは一つだけで、今挑戦しているのはスライム山だ。聖者オリーブにあやかって走って攻略するのは確かに地元住民にとっては嬉しいだろうが、褒められるを超えて崇拝されるとなると、流石に過剰反応のような気がする。

 

「驚いてるな? 俺がお前らの話を広めてやったのさ」

 

 金髪のツンツン頭の冒険者は見覚えがある。

 あんまり覚えたくない顔だったが。

 

「えーと……」

 

「自己紹介をしてなかったな。俺たちは冒険者パーティー蒼天の雷鳴、ブリッツ」

 

「そう。サインは後でね」

 

「いらねえよ! ……おい、フェルド」

 

「なんだ、ブリッツ」

 

 ツキノワが、警戒しながら言葉を返した。

 

「ギルドに戻って聞いたぜ。お前、調子良くやってるそうじゃねえか。いやあ、元リーダーとして鼻が高いぜ」

 

 とてもじゃないが、誇っている顔には見えない。

 ていうかあんたが追放したんでしょうが。

 

「だから、みんなに教えてやったのさ。きっとオコジョは聖者オリーブ様の後を継ぐ、未来の聖女様だってな。神子様と呼んだって差し支えはないだろ。なあ?」

 

 なるほど。

 面白おかしく噂を振りまいてくれたってわけだ。

 

 多分、彼らは失敗を期待している。

 

 フェルド……ツキノワのことを逆恨みし、そしてギルドに戻って私たちの情報を聞きつけて、更に恨みを募らせているのだろう。

 

(ニッコウキスゲ、何か嫌がらせとかしてくると思う?)

 

(んなわきゃない……と言いたいところだけど……この分だと怪しいね。ただ直接的な邪魔はしてこないはずさ)

 

 ニッコウキスゲとひそひそ話をする。

 

(どうして?)

 

(他にも旅人は多いから、人目がある。見られちゃ困るタイプの嫌がらせはできない。逆に、人目を利用した何かはやられるかも)

 

 なるほど。私が聖者オリーブの足跡をたどる、敬虔なソルズロア教の教徒であるという声望を高めて、そこから失墜させる……みたいな感じかな。

 

 露骨な罠がないにしても、こうしてプレッシャーを掛けさせてくる時点で悪い手ではない。

 それが私でなければね。

 

「それにしても、こんな騒ぎになるなんて頑張ってくれたね。ありがとう」

 

 皮肉をぶつけたつもりだが、ブリッツはなんだか微妙な顔をしている。

 

「いや……宿屋で話をしただけだったが、すでにお前の噂はけっこう流れてた」

 

「あ、そう」

 

 そんなに頑張ったつもりもないのに大騒ぎになって、ブリッツもちょっと困惑しているようだ。

 まあ、オリーブ様強火勢はいるしなぁ……。

 

「えー、おほん。そもそも私は巡礼神子じゃない」

 

 私は、この場にいる皆に聞こえるよう、大きな声で告げた。

 

「申し訳ないけど誰かのお願いに応えたいわけでもないし、オリーブ様の名跡を継ぐために来たわけでもない。私はただ、ここを攻略して祈りを捧げたいだけ。成功しようが失敗しようが、それさえも天の思し召し。それでもいいというなら、見届けて」

 

 私の言葉に、場が静まり返る。

 集まってきたおじいちゃんおばあちゃんを失望させたかもしれないが、大事なことだ。

 私は他人のために走るわけじゃない。

 これだけはキッパリと言っておかなければいけない。

 

「それはまさに……」

 

「うむ」

 

「まさしくオリーブ様の生き写しじゃ……!」

 

 ……うん?

 

 おじいちゃんおばあちゃんたちのざわめきが、なんか予想と違う。

 ますます私を尊敬の目で見てくる。

 

「オコジョ様のお言葉は、聖者オリーブ回顧録の2章『どんなときでもポジティブハート』、3節『やりたいことやるっきゃないじゃん』の内容とまさしく同じだ……! やっぱりオコジョ様は未来の聖女様なんだ……!」

 

 マジで!?

 聖者オリーブってそういうキャラだったの!?

 

 いや聖地をとにかく駆け抜けたって時点で体育会系だろうなとは思ってたけど。

 

 助けを求めるようにカピバラたちを見るが、「知らん知らん」とばかりに首を横に振る。

 噂を広めたはずのブリッツさえも展開に付いていけずにポカンとした顔をしていた。

 

「え、えーと……ここの攻略はともかくとして、皆さんの安寧を祈るくらいはしていきます。お供え物もありがとね」

 

 いと高きにおわします太陽神ソルズロアようんたらかんたら。

 

 祈りの言葉を終えると、おじいちゃんおばあちゃんが涙ながらに祈り返してくる。オリーブ様もこんな風にお祈りしてくれたのうとか思い出に浸っていた。どうどう、落ち着いて。

 

「そ、それじゃ道を開けてもらえるかな。もうそろそろスタート時刻」

 

 簡易祭壇を用意して、大地の精霊を呼び出す。

 もやもやと白い煙が立ち上り、男とも女ともつかない曖昧な姿を現してくれた。

 ちわっす。

 

【スライム山の管理人に話は聞いている。タイムの計測と不正の有無はこちらで確認するゆえ、安心して励むがよい】

 

「ありがとうございます」

 

【パーティーに変更はないな?】

 

「はい。巡礼者カプレー。冒険者ジュラ、冒険者フェルドの三人で間違いありません」

 

【他に何か願いはあるか?】

 

「私の巡礼をどうかご照覧あれ」

 

【見届けよう】

 

 精霊が微笑をたたえながら消え去る。

 いや、表情はよくわからないけど多分、微笑んでいた。

 

「じゃ、私は馬車で下の道から追いかけるわ。向こうで待ってる」

 

「一緒にくればいいのに」

 

「無茶言うんじゃないわよ!」

 

 カピバラはお留守番である。カピバラは巡礼者登録も何もしてないので、本番で巡礼すると手続きがちょっと面倒くさい。それでも誘いはしたが、「めんどくさい」で却下された。

 

「普通の登山ならついてってあげるけど、ちゃんとした攻略はあんたの仕事。帰りを待ってるから行ってきなさい」

 

 カピバラが、にかっと太陽のように微笑んだ。

 

 実際、何かあったとき……遭難してしまったときのことを考えると、人がいる場所に誰かがいてくれるのはありがたいの一言だ。カピバラはそれを理解している。

 

 いつぞや、カピバラの部屋にもぐりこんでそのまま寝入ってしまったことを思い出してちょっと恥ずかしい。だけど、これほど心強いものはない。

 

「面白い自慢話、期待してるわ」

 

 グッドラックとばかりに、カピバラが親指を立てた。

 

 

 

 

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