「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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トラブルが起きたら報告しよう 1

 

 

 

 裏スライム山の無殺生攻略の達成したことについて、私は「でもどうせスライム山でしょ?」みたいな反応ばかりかと思っていた……が、意外にそんなこともなかった。

 

 ていうかサイクロプス峠の攻略よりも大騒ぎになってしまった。

 

 まずスライム山の管理人のおばあさんは私たちがトレッキングポールを使った担架を見ていたく感動したらしく、「救助マニュアルを作りたい」と言い出した。また、トレッキングポールの使い方……特に両手持ちで歩行を楽にする方法などを説明してあげたらそれも驚かれた。

 

 そしてポールと共に、靴にも着目された。

 

 私が普段使っている登山靴にしろ、トレイルランニングシューズにしろ、その性能の高さに気付いた冒険者や巡礼者がぼちぼち現れた。街の靴職人に聞き回る人も出てきて、「ガルデナス家のご令嬢が御用職人に命じて作ったらしい」と話が流れ始めている。

 

 ついでに、私にも注目が集まっている。

 

 ギルドに入れば、なんか知らん顔が増えた。あんまりギルドに顔を出していなかった冒険者や巡礼者、たまたま他の街や地区のギルドに所属している人間が私の顔を身に来ているらしい。

 

「おい、オコジョだぜ」

 

「あんな小さな女の子が……? 意外だな」

 

「間違いねえ。ナリは華奢だが脚力は本物だ。俺ぁ鉄騎スライム峠で確かに見た」

 

「すっ、すみません! 握手してください!」

 

「お前ずるいぞ!」

 

 芸能人みたいな扱いになっていて驚く。

 突然祈ってきて、お賽銭を渡してくるおじいちゃんおばあちゃんとかもいる。

 別に御利益とかないんだけどなぁ……。

 

「オコジョさん、こっちこっち」

 

 コレットちゃんがこそこそと私を手招きをする。

 カウンター奥の会議室に来て下さいという合図だがバレバレすぎて意味が無い。

 まあ、私をトラブルから守ろうという心意気はありがたいのでツッコミは入れないでおく。

 

「よう、オコジョ」

 

「オコジョ、おつかれ。体は大丈夫?」

 

 招かれた先の会議室では、すでにニッコウキスゲとツキノワが椅子に腰掛けていた。

 

 そして体面の座席には、コレットちゃんともう一人、なんだか中間管理職を絵に描いたような禿頭のおじさんが座っていた。

 

「こんにちは、コレットちゃん。それと、ええと……」

 

「どうも、はじめまして。巡礼者協会、王都アーキュネイス支部の支部長のサムです。まずはカプレーさん、無殺生攻略おめでとうございます。もう少し早くご挨拶すべきだったのですが申し訳ございません」

 

 禿頭のおじさんは、ハンカチで汗を拭いながらぺこぺこと挨拶してきた。

 腰低いなぁ……高圧的な人よりは全然いいのだけど。

 

「え、えーと、私はただの一巡礼者なので顔を上げてください」

 

「あ、オコジョさん。お父さ……じゃなくてサム氏の素の性格なので気にしないでください。あとオコジョさんはこのペースだとどんどん偉くなるので、サム氏よりも偉くなると思います」

 

「はい。娘の言う通りです」

 

 コレットちゃんのパパだった。

 支部長が会いたいというから緊張してたが、逆に親しみを感じる。

 

「ところで、今日お呼び立てした内容ですが……」

 

「遺品整理、ですよね?」

 

 スライム山にもサイクロプス峠と同様、『宝物庫』が存在した。

 しかも、聖オリーブが無殺生攻略して数十年、ずっと手つかずのままの状態である。

 

 スライムを倒して普通に遺品回収できるんじゃないの? と疑問をぶつけたが、どうやら『宝物庫』を守るスライムは非常に特殊なもので、大スライムを超える超特大スライムであったそうだ。

 

 5メートル四方はある巨大な体で、『宝物庫』となっている掘っ立て小屋をまるごと飲み込んだ状態で数十年の間、鎮座し続けていた。

 

 その超特大スライムは人間を攻撃してくることはないが、かといって人間の方も手立てがなかった。スライムの体を掘り進めても、すぐに体が修復されて元通りになってしまうのだ。

 

 スライムをまるごと吹き飛ばすような大魔法を使えば倒せるのだろうが、そうすれば中の遺品ごと破壊してしまう可能性が高い。どうすればよいか手をこまねいたまま、年月が経ってしまった……ということだった。

 

 だから、ようやく『宝物庫』に手を付けられて万々歳……と行くかと思いきや、そうはいかなかった。

 

「スライム山で死んだことを秘密にしてほしいという遺族が多いのです」

 

 サム氏が、疲れた表情でそう言った。

 

「……スライム山で遭難したってことを隠したいから?」

 

 その通りと言わんばかりに、サムさんが汗を拭いながら頷く。

 

「普通の観光客はともかく、巡礼者や冒険者にとっては、あそこで事故で死んだというのは恥……ということなのでしょう。死んだ家族の名誉を守りたいという者もおりますし……残された家族が罵倒されたくないという者もおりまして……。協会を管理する一部の委員からも『名誉を守るべきだ』との声が出ております」

 

 事故死が恥。

 

 いや、気持ちとしてはわからなくはない。「あんなところで死ぬやついる?」みたいな嘲笑を語る人間はいる。残念なことに、たくさんいる。

 

 そして死者に対してまことしやかに語られる。「実力を勘違いしていた愚か者」、「はた迷惑なやつだった」と。

 

 私だって油断して舐めきって「こんなところで事故ったりしないよ」、「大丈夫だって」と無意識に言ってしまうことはきっとある。

 

 スイスやネパールまで足を延ばすベテラン登山者が、日本国内の何気ない山で死ぬことも決して珍しくはないのだ。ていうか私がそうだ。

 

「ですが巡礼者教会の意義として、聖地での事故・遭難はできる限り公表したいのです。スライム山での巡礼は皆さんが思った以上に多く、協会を管理する他の委員や神官からも『強く注意喚起をしなければ死者が出続ける。大々的に公表するなどして対策を練るべき』という意見も出まして……」

 

 それもまた、道理だ。

 

 その人が明確な死者なのか、行方不明者なのか、はっきりさせるのは組織にとってやるべきことなのだろう。

 

「秘密にするのは問題がある。それを公開しちまったらしちまったで禍根が残る……。巡礼者協会の意見が割れてるわけか。ついでに言えば、オコジョ隊の評判にも影響が出ると」

 

 ツキノワの噛み砕いた解説に、ニッコウキスゲがいきり立った。

 

「なんでさ! 粛々とやりゃいいでしょそこは!」

 

「落ち着けって。そういうこともありえるって話だよ。オレたちが無殺生攻略をしたって事実は広まってるわけで」

 

「もちろん、死亡者公表にまつわるすべての問題は我々が引き受けるつもりではあります。ただまずは関係者からご意見を聞いておきたいのです」

 

 コレットちゃんパパが汗を拭きながらツキノワと共にニッコウキスゲを宥める。

 

 うーん、これが日本の現代社会なら淡々と処理されるものだろう。

 発見者の私たちが非難されることはまずない。

 

 だがこの国は、まだまだ人命尊重よりも名誉を重んじる気風が残る身分社会だ。巡礼者や冒険者の中には、貴族の出の者もいる。「我が一門の名誉を汚された」と、私や巡礼者協会を恨む人間も現れるかもしれない。

 

 私としては、公表すべきと思うし、登山者を管理する組織として正しい在り方と思う。

 思うけれど……。

 

「で、関係者というのはあなた方だけではありません。実は、とある巡礼者から提案がありまして」

 

 コレットちゃんが意味深なことを言った。

 

「とある巡礼者?」

 

「ピレーネさん、どうぞ」

 

 コレットちゃんが、青い髪の少女を招き入れた。

 

 

 

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