「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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大鬼山を普通に攻略しよう 1

 

 

 

 こうしてケヴィンとの話し合いを終えた私たちは、コルベット伯爵邸へと帰った。

 もはや勝手知ったる我が家状態だ。

 

「大叔父様! 私、決めたわ! 独立して店を構える!」

 

「お嬢様……」

 

 心配そうなクライドおじいさんに、大丈夫大丈夫とカピバラが笑顔を浮かべて肩を叩く。

 頼もしい子になったものだ。

 

「お父様のことは気にしないで。上手く言いくるめて見せるから。これから忙しくなるんだから、そんなしょぼくれた顔しちゃ駄目よ」

 

 言いくるめるのはケヴィンなわけだが……まあ私たちが交渉した結果だし、いっか。

 

「……わかりました。こうなればわたくしも覚悟を決めましょう」

 

 クライドおじいさんが決心したように頷いた。

 楽しみだな、カピバラのお店。

 工房はあるにしても、靴や道具店に卸すのか、それとも直販ストアを開くのだろうか。

 トレッキングポールやザックも量産してほしい。

 あとはウェア類も並べてほしい。

 きっとレインウェアとドライインナーは飛ぶように売れるだろう。

 

「あんた、なにニヤニヤしてるのよ。あんたもバシバシ働いてもらうからね!」

 

「もちろん。宣伝隊長のオコジョですってギルドとかコンビニで言い回ってくる」

 

「何なのよその勢いは」

 

 カピバラがくすっと笑う。

 

「おぬしの出番はまだまだ先だろう。むしろ独立準備は儂が手伝う労力が大きいわ」

 

 コルベット伯爵がぬうっと姿を現した。

 

「伯爵、色々とありがとう。カピバラのことも口添えをしてくれたみたいで」

 

「グスタフの件は気にするな。それよりオコジョ。働かずに食う飯がそろそろ不味くなるころだと思うのだが、どうじゃ?」

 

「伯爵のごはんは美味しいです。肩肘が張って見栄えがするだけの料理より、遥かに本質を捉えている。グッジョブ」

 

「バカモノ。お世辞で誤魔化そうとするな」

 

 お世辞ではなく本当に美味しいんだよね。

 カロリー過多なのが玉に瑕ではあるが、栄養価はばっちりだ。

 タンパク質も、欠乏しがちなビタミンやミネラルも豊富に摂れる。

 

「冗談はさておき、色々とお世話になってますし、お仕事とあらば遠慮なく」

 

「そうこなくてはな。少し危険な仕事になるが、覚悟はよいな?」

 

 コルベット伯爵が悪の首領みたいな笑みを浮かべた。

 なんだか自分が食客や用心棒みたいなポジションになったかのようだ。

 先生お願いしますって請われて出てきて、主人公にあっさり斬られる死亡フラグかな。

 

「私に頼む危険な仕事となると……山?」

 

 うむ、とコルベット伯爵が頷く。

 

「大鬼山は知っておるな」

 

「もちろん」

 

「おぬし、どうするつもりじゃ?」

 

 どうすると私に聞くということは、どうやって無殺生攻略をするかという質問だろう。

 

 大鬼山は王冠八座の一つであり、つまり私の行くべき山の一つだ。ゴブリン系の魔物が巣くう山で、冒険者として活動するならば一度は攻略しなければいけない山とされている。

 

 ゴブリンは魔物のザコの代表格と言われることもあるが、当然、スライムより遥かに強い。また登山道は緩やかで水はけもよく歩きやすいが、単調な道がひたすら続く。片道5時間、往復で9時間は掛かる。頑張れば日帰りもできるかもしれないが、魔物が出る以上は安全マージンを多めに見る必要がある。

 

 ただしゴブリン系の魔物は耐性というものがない。硬い表皮に覆われていたり防具を身にまとったりしていないので、剣や斧をいっぱしに振るうことができるならば倒せる。また、攻撃魔法はよく聞くし、デバフや幻惑魔法だってよく効くそうだ。

 

 だから大鬼山においては、剣技であれ魔法であれ、「私は剣士です」「私は魔法使いです」と名乗れる程度の基礎的な技能を養っているかどうかと、一泊二日の登山ができるサバイバル技能、そして基礎体力が問われる。

 

「そろそろ巡礼者として名前が売れてきた。幻惑系やデバフの魔法を使える人をネームバリューとマネーでビンタして雇うつもり」

 

「ま、それが王道じゃが……つまらん。つまらんぞ。畏怖のカルハインとまったく同じではないか」

 

 畏怖のカルハインとは、存命の聖者である。

 だが彼は魔物避けの薬の調合や、魔物との遭遇率を下げる魔法に長けていたと聞いている。

 マネーでビンタしてたとか初耳なんですが。

 

「えっと……カルハインって、魔物除けのスキルを持ってたんじゃないんですか?」

 

「それもある。が、それだけで攻略できるほど聖地巡礼が甘くないことはおぬしもわかっておろう」

 

「そりゃまあ、そうですけど」

 

「あやつ、自分の聖水が効かないところでは金貨を積んで他人に頼り切りじゃったよ。相当な額の金が動いておったらしい。ま、一部の人間にとっては公然の秘密じゃが」

 

「一部の人間にとっての公然の秘密って、公然の秘密ではないのでは」

 

「……黙っておけよ。他の者ならともかく、おぬしが他人に言うと面倒事が起きる」

 

 伯爵が気まずそうに言った。

 まあ……色々と黒い噂があるということだけ理解しておこう。

 ちょっと深入りしない方が良さそうだ。

 

「それよりも、無殺生攻略をするならもっとおぬしらしい手を使わぬか?」

 

「うーん……考えなかったわけじゃないけど……難しい。魔法に頼らざるをえない」

 

 大鬼山の攻略にあたってはサイクロプス峠のように、一般の巡礼者や冒険者が使わないルートの開拓……つまりバリエーションルートでの攻略を考えていた。

 

 だが、大鬼山はサイクロプス峠と違って断崖絶壁があるわけでもなく、傾斜が緩くなだらかな山だ。別ルートを取ったところでゴブリンと接敵する確率は少なくない。ちゃんとした登山道のある場所で接敵した方が事故がないだろう。

 

「それはわかる。だが他人に頼るのではなくおぬしらしい道具に頼ってみてはどうじゃ。胡蝶の剣をもらったであろう」

 

「それはクライドおじいさんが私に合うように改造を……って、その名前を出すってことは……できたの?」

 

 コルベット伯爵がにやりと笑った。

 魔道具を改造するために知人と相談するとか言ってた気がするが、その知人とやらはコルベット伯爵だったわけだ。

 

「できたぞ。おぬしのためにチューニングした秘密兵器がな」

 

 

 

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