「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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大鬼山を普通に攻略しよう 8

 

 

 

「死ぬところだったじゃねえか!」

 

「わ、悪気はなかったし……。褒めようと思っただけだもん」

 

 だもんとか、ニッコウキスゲは妙に可愛い素振りをする。

 

「で、でも、なんでそんなに奮起してるのさ。ギルドで格上の戦士を捕まえて戦闘訓練とかもしてるんだろ?」

 

 あ、話を逸らしてきた。

 だがその話は私も気になる。

 

「そーなの?」

 

「そーなんだよ。なんか剣術指南とか受けてて。あたしが教えてやるのに」

 

「お前からは教わってるし、お前とは違う技能を身に付けなきゃしかたねえだろうが」

 

「なんでよ」

 

 ニッコウキスゲがギロっとツキノワを睨む。

 けっこう独占欲の強い子だな。

 

「なんでって……そんなの決まってんだろ? 俺たちで、こいつを天魔峰に連れていくんじゃねえか」

 

 ツキノワが、あっけらかんとした態度で言った。

 その言葉にニッコウキスゲは驚いた。

 ついでにアスガードさんもシャーロットちゃんも驚いた。

 というか私も驚いてる。

 

「え……そのために……?」

 

「お前ほどの実力がありゃ苦労はしねえだろうけど、こちとら銅級冒険者だからそう簡単にはいかねえんだよ。つーかこのままじゃ俺だけ天魔峰には入山できねーし、さっさと銀級に昇格しなきゃいけねえ」

 

「え、等級での足切りとかあるの?」

 

 なんか知らない制度が出てきた。

 

「あるぞ。冒険者として五大聖山に入山するには銀級以上にならないとダメなんだよ。それにしたって生きて帰れる保証をしてくれるわけじゃねえ。根本的に実力不足だったら何の意味もねえんだからな」

 

 なるほど、けっこう厳しい条件が課されている。

 行楽としての登山ではないし、それもやむを得ないことだろう。

 

「お前はもう銀級くらいにはなってるさ。気にしすぎだ。不安なら推薦状くらい書いてやるよ」

 

 アスガードさんの言葉に、ツキノワが快哉を叫んだ。

 

「マジかよ! 助かるぜ!」

 

「ちょっとツキノワ! なんであたしに頼まないんだよ!」

 

 やいのやいのやっているパーティーの皆を、シャーロットちゃんがどこか遠い目で見ている。

 

「……みなさん、目標があるんですね。羨ましいな」

 

「そういえばシャーロットちゃんは、なんで冒険者やってるの?」

 

「えっと、私の家はちょっと親が厳しくて……。冒険者になってそれなりの成果を出さないと跡継ぎとして認めてもらえないんです」

 

 えっ、すごいスパルタだな。

 はにかんでいるシャーロットちゃんには悪いが、ちょっとビビる。

 

「そうなんだ……」

 

「あ、ちょっと引きましたね?」

 

「ごめん、ちょっとだけ」

 

「素直ですね」

 

 うふふとシャーロットちゃんが笑う。

 うーん、槍を担いで歩く姿はもののふだが、こうして話す姿はまさにお嬢様だ。

 

「実際ちょっとつらいなって思うことはあります。でも、冒険者をするうちに困った人を助けたり、素敵な人に助けてもらったり……。家の中にいてはわからないことだらけで、楽しいです。性に合ってますし」

 

 ポジティブな子だ。それに加えて体力もしっかりあるし、そこそこ冒険者歴の長そうな他のメンバーもシャーロットちゃんに対してどこか畏敬の念を持っている雰囲気がある。若くても、芯というべきものがある。

 

「オコジョさんは、どうして天魔峰に行きたいんですか?」

 

 どうして、か。

 

 ちょっと説明が難しいな。おじいちゃんの話はちょっと冒険者や巡礼者には言いにくい。とはいえ「そこに山があるから行きたいから行く」というのもなんかパクリっぽいし、自分の中の答えとしても何か違う。

 

「やはり、聖者になりたいんですか?」

 

「うーん……なりたいと言えば、なりたいかな。聖者になれば禁足地にも行けるし、費用面でも色々と支援してもらえるし。だから資格あると色々と便利だよね」

 

「えっと……なんか、聖者ってそういうものでしたっけ。もう少し何というか……俗世間から離れてるもののような……」

 

 シャーロットちゃんが苦笑気味に尋ねる。

 

「でもさー、ソルズロア教の中もなんだかんだで俗っぽいところはあるじゃん。というか、たくさんの人間をまとめる以上は金勘定だって大事だし、『俗』なところは避けて通れないと思うんだよね。今のカルハイン様も、ちょっと商売っ気あるっぽいし」

 

「ええと、その……カルハイン様は、何と言いますか……」

 

 シャーロットちゃんはそこで黙ってしまった。

 迂闊にあれこれ言うと危うい話題だと気付いてしまったようだ。

 

「ごめんごめん。えっと、批判とかそういうことを言いたいわけじゃない。実際、稼いだお金のおかげで巡礼者の支援をしたり、支援を受けた巡礼者が大地を鎮めて天変地異を抑えてるわけで、それも必要なことだと思う」

 

「え、ええ、そうですね」

 

 シャーロットちゃんが何とも複雑な顔をして頷いた。

 危うい話に深入りせずには済んだが、さりとて同意もしにくい、みたいなところだろうか。

 

「けど……こんな言い方すると誤解されるかもしれないけどさ。聖者って称号を与えられても、そこで偉くなるわけではないと思うんだよね」

 

 私の言葉に、シャーロットちゃんが緊張した面持ちになった。

 

「聖山と言われるような山で無殺生攻略したら凄いと思う。でもそれ、偉いとは違くない? タタラ山の山小屋の管理人さんだって、スライム山の山頂神殿の管理人さんだって、聖者より不真面目なわけでもないし、敬虔さが足りないわけでもないと思う」

 

「それは……確かに敬虔であることで上下を競っても仕方の無いことです」

 

「神殿の位階や序列とは無関係に、毎朝毎晩、太陽の方角に向かって礼拝してる人とか、神殿を掃除してる人とか、偉い人たくさんいると思うんだ。あるいは今、私たちが履いてる靴を作ってる人だって、偉いと思う」

 

 私は語りながら、カピバラの顔を思い出す。今、何をしているだろう。開店準備に忙しなく動いているにしても、余裕綽々でこなしているのか、それとも七転八倒しているだろうか。

 

「……日常を支え、日々を真面目に生きている人がいてこその聖者である、と」

 

 シャーロットちゃんの目に、理解の光が宿った。

 

「私は、他の人にできない凄いことやってみせるよ。それで何かを得られたら、私を支えてくれた人や、日々をちゃんと過ごしてる偉い人に還元したい。それが、私がワガママを貫く上での最低限の義理」

 

「オリーブ様とも少し違うのですね。なんとなくわかりました」

 

 シャーロットちゃんが、安堵の表情で言った。

 

「巡礼神子になる上での心構えはこんな感じ。もうちょっともっともらしく言っても良かったんだろうけど、嘘吐いても仕方ないしね。どう? 合格?」

 

「えっ? なんで知ってるんです?」

 

「ん? シャーロットちゃんがそのあたりの審査員として派遣されたんじゃなかったのかな?」

 

 実は、大鬼山に行くときにコレットちゃんから「多分そろそろ巡礼神子の昇格について、意志を確認されたりこっそり審査員が派遣されたりすると思います」みたいな情報をポロっと漏らしてくれていた。今回、パーティーに参加してきた人はミ○ュラン審査員みたいな仕事を請け負っていてもおかしくないだろうと私は勝手に予測していた。

 

「えーと、いや、その通りなんですが……内密の調査でしたので、ええと、バレたらいけない感じのお仕事でして、あは、あはは」

 

「もしかして、言ったらマズかったやつ?」

 

 話の流れが少々あからさまっぽかったから聞き返してしまったが、シャーロットちゃんを困らせてしまったようだ。

 

「……すみません……知らなかったことにしてもらえますぅ……?」

 

 シャーロットちゃんの弱り切った声は、大鬼山の山道に消えていった。

 

 

 

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