「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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秘密の話をしよう

 

 

 

「焔王って……そりゃ、あるに決まってるでしょ。さっきだって火竜山を見たんだし」

 

「無いわけ無いよな。知らないとか言われたらビビるぞ」

 

「一般常識レベルだと思うんだが」

 

 ニッコウキスゲ、ツキノワ、アスガードさんがちょっと呆れ気味になる。

 

「確認も大事なステップなんですー!」

 

 みんなからの総ツッコミに、シャーロットちゃんが恥ずかしそうに反論する。

 

「まあまあ、確認は大事。で、私も当然知ってる。30年前に封印された火竜山の……っていうか、竜の巣一帯のボスでしょ。魔物としての強さも大きさも大陸最大級の竜で、こいつが復活する度にソルズロア教は対策に乗り出してきた」

 

 焔王。

 

 身の丈は人間の10倍以上あるドラゴンである。

 細長い東洋っぽい竜ではない。どっしりとした後ろ足と、やや小さめの前腕、そしてコウモリもしくは翼竜のような背中から生えた翼を持ち、赤銅色の鱗で覆われた姿をしている。

 

 そして名前の通り、炎を操る。

 口から高温の炎を吐き出して敵を焼き尽くす他、周囲の火属性以外の力を弱めて自分の弱点である水や冷気の魔法を遮断することができる。

 

 そんな魔法の力だけに留まるはずもなく、爪も牙も鋭く、サイクロプスくらい一噛みで殺すことができる。ちょっと腕が立つくらいの冒険者では勝負にさえならない。一流の冒険者が死に物狂いで戦って、ようやく生き延びることができるかどうか。

 

 だがこんなことは焔王の、「まだマシな方」の特徴に過ぎない。

 もっとも恐ろしいのは、焔王の存在そのものが噴火を誘発することだ。

 

 まさしく災厄の権化、災害の化身である。

 

 とはいえ、災害というのは来るときは来るものだ。

 

「焔王対策は常に用意されていなければなりません。そして対策とは主に二つ」

 

「討伐か巡礼だね」

 

「はい。討伐においては国中の騎士団を集め、更には伝説級の冒険者を招集し、一軍をもってドラゴン討伐の任に当たることになります。過去に人間側が敗北したこともあり、必ずしも成功するとは限りません」

 

 そうなんだよなぁ。

 

 焔王との全面戦争となったら、どれだけ被害が出るか想像するだけで恐ろしい。

 

 しかも貴族や騎士の家には赤紙が来る。

 

 騎士に来る、のではない。

 騎士の家に来る、という可能性が高い。

 

 まあ、私のような名ばかり貴族はともかく、カピバラは間違いなく招集されてしまうだろう。

 回復魔法を使えるし、野戦病院で死ぬほど働かされる恐れがある。

 

 ま、30年しか経ってないし復活とかはありえないだろうけど。

 

「30年前の焔王がどのように封印されたか、オコジョ様はご存知ですか?」

 

「空を飛んだ。飛翔のアローグスの得意技だね」

 

 私のおじいちゃんがやりました。

 とはいえ具体的に飛翔魔法がどんなものなのかは知らないけれど。

 天使みたいに翼が生えたんだろうか。

 いやでも、翼が生えた程度で出せる速度ではドラゴンに勝てる気がしない。

 

「ですが今、飛翔魔法は失伝しております。当時、飛翔のアローグスと謳われた人のご家族の情報も途絶えて、生きているのかさえよくわかっておりません」

 

「え、そうなの?」

 

 なんか謎の家系になってた。

 あ、でもアローグスの男児の血統は途絶えているのか。

 私にとっては母方のおじいちゃんだし。

 

 でもちょっとこの空気で、「実は子孫です」とは言いにくいな。

 

「そんなわけで、焔王対策が宙に浮いている状態ですね」

 

「巡礼神子になるにはそれを考えだせ……ってこと?」

 

「ええ、まあ、そのようなところです」

 

 なんだか、奥歯に物が挟まったような微妙な顔でシャーロットちゃんが頷いた。

 

「私の目的は、巡礼神子になることじゃない。天魔峰の頂に登ること。そのために必要ならば取り組む必要はあるんだけど……」

 

「仮に焔王がいたとして、やつの目をかいくぐって無殺生攻略を成功させるのは至難の業だろう。カメレオンジャケットも、竜の目をどこまで誤魔化しきれるものかは未知数だしな」

 

 アスガードさんが真面目にシミュレーションしている。

 

「真面目に考えるなら、囮作戦じゃないか? 一騎当千のパーティーに焔王を引き付けてもらって、オコジョみたいな巡礼者が火竜山の山頂まで一気に駆け上がる」

 

「焔王の眷属が厄介だぞ。3メートルを超える竜がそこら中にいるらしいからな」

 

「ベアバスターで何とかならないかな?」

 

「挑発にしかならんだろ」

 

 アスガードとツキノワが冗談交じりに「これは無理」と笑い合っている。

 

 だがそんな何気ない会話を笑っていない人がいる。

 シャーロットちゃんと、ニッコウキスゲだ。

 

 ニッコウキスゲは冗談に呆れているとかではなく、ひどく難しい顔をしていた。

 

「ニッコウキスゲ、何か気になることある?」

 

「んーとさぁ……。この空気で言っちゃっていいのかわかんないんだけど。てか、秘密にしておいてほしいんだけど」

 

「うん」

 

「騎士団って普通の荷馬車とか輸送部隊の他に、商人とか市民に偽装した秘密の輸送部隊があるんだ」

 

「へぇー」

 

「巡礼者やポーターなんかにもいるし、一部の豪商なんかも裏の騎士団メンバーだったりする。そういう連中が、表向きの手続きじゃ進めにくい仕事を進めたり、王族がまだ決断してないけど進めなきゃヤバい案件を内々に進めたり、根回ししたり、そういうのをしてるんだよ」

 

 秘密の協力者ってことか。

 まあ、そういう表とは別の裏の仕事というのはあるのだろう。

 

「で、色んな騎士団の裏の連中……その中でも腕利きや大物だけが竜の巣に集まってるらしいんだよ」

 

「うん……うん?」

 

「大きな仕事があるときの兆候なんだよね。大規模な物資を運ぶ上での事前協議とかさ」

 

「大きな仕事って……例えば?」

 

「……ガチめの戦争とか。国境での小競り合いとかじゃなくて、ルール無用の血みどろの戦いってレベル」

 

「でも竜の巣って完全に国内だよね?」

 

「ってことは、国内に何かあるってことじゃない?」

 

 そこから先、ニッコウキスゲは何も言わなかった。

 これ以上ヤバそうな話をあたしに言わせないでと目で訴えている。

 

 となると、シャーロットちゃんだ。

 

 彼女の方を見ると、冷や汗を流している……というより、もう脂汗に近い。

 こんな話の最中でなければ、体調が悪いのか心配になるところだ。

 

「あのー、シャーロットちゃん?」

 

「は、はい……」

 

「もしかして、もしかしてだけど」

 

「はぃ……」

 

「復活しちゃう感じ、なのかな……?」

 

 私の質問に、シャーロットちゃんは小さく頷いた。

 

 

 

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