「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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秘密の話をしよう 2

 

 

 

 シャーロットちゃんは私の質問に小さく頷いた後、「絶対に他言無用でお願いします」と土下座した。

 

「わかってるわかってる。絶対話さない」

 

「誰にもですよぉ!」

 

「あー……カピバラには話すかも。どっちにしろ騎士団長の娘だから、すでに何か情報が伝わってる可能性は大きいし」

 

「そ、それでも情報の取り扱いには注意してください!」

 

「もちろん」

 

 とはいえ国家レベルや大陸レベルでの危うい話だ。私たちが漏らさなくても多分どこからか漏れるだろう。どれだけ情報を統制しようとしたところで、ニッコウキスゲが言ったような「軍隊や物流におけるなんだか不自然な動き」として人々に察知されていくと思う。

 

 何より、「世界のピンチ」みたいなセンセーショナルな話題なのだ。人の口には戸が立てられない。

 

 その上、明確な解決法が定まっていないのだ。シャーロットちゃんによれば、アローグスの名を出すのはタブー視されているのに「アローグスが生きていれば、あるいは記録が残っていれば、もう少し対策も立てやすかったのに」という声が高まりつつあるそうだ。聖者カルハインも知恵者ではあるが、一人だけでは焔王復活の衝撃を抑え切れていないのが実情であった。

 

 そんなわけで、いずれは「極秘」から「公然の秘密」になるのが目に見えている。

 それまで胸にしまっておくのは別に難しいことではない。

 皆、秘密を守ることに同意して話し合いは終わり、楽しい食事を再開した。

 ここまで大きな動きがあるなら一人一人の冒険者としてやれることは少ない。

 つまり、今この瞬間、悩んだり未来に絶望したところで意味が無いのだ。

 

 みんなそれなりにプロなので、そういうメンタルの切り替えはできるのだろう。

 ニッコウキスゲは戦争も経験していることだし。

 

 なので、センチメンタルな気分になっているのは私だけかもしれない。

 私は皆が寝静まったころ、テントから出て星空を眺めた。

 

 そこにあったのは、満天の星だ。

 

 前世の知識が、あの星々の一つ一つが、今私たちが住んでいる星と同等のスケールを持っていると

教えてくれる。竜一匹のことなどちっぽけで、そして竜一匹に右往左往する人間などますますちっぽけだ。

 

「オコジョ、何してるの?」

 

 テントの横でゴロっと寝転んでいると、ニッコウキスゲが話しかけてきた。

 

「星と星を結んで絵をイメージするゲーム」

 

「何それ」

 

「こぐまとか、ひしゃくとか、天秤とか、そういう図形を思い描く」

 

「なんとも面白いことしてるねぇ」

 

「星の配置を覚えやすい。山歩きだとあんまり関係ないけど、砂漠や海で目印がないところは星が頼りになる」

 

「凄いじゃん。占星術師みたい」

 

「そんなに頭良くないよ」

 

「そーかな。あんた、妙に物知りだし」

 

 そういえば、この世界における星占い……占星術はそこそこ当たるらしい。

 もしかしたら焔王の復活の予測にも関わっているかもしれない。

 だが占星術師になるためには星々や暦などに熟知する必要があり、そして魔法もしっかり勉強しなければならない。多分、弁護士資格くらいの狭き門である。

 

「焔王復活でお嬢様が苦労するんじゃないかって思ってる?」

 

「……カピバラは大変だよね。家を出たって言っても正式に縁切りしたとかじゃないだろうし。回復魔法使いって、戦場で捨てられることもあるらしいし。そういうの、いやだな」

 

「どうかな。グスタフ様が上手いことやって、身内を出さないよう工作するかもしれないよ。クライド様も一緒だし」

 

 そういえばクライドおじいさんは、平民になったことで家との縁を切って騎士としての義務を放棄し靴職人になった。今のところその弟子みたいなポジションのカピバラは、恩恵を受けられるかもしれない。

 

 とはいえ何もしないわけにもいかないだろう。

 

「じゃあ、靴作りとか装備品の提供のデスマーチに突入するかも」

 

「そうなったらみんなで針と糸を持って徹夜だね。靴メーカーの名を挙げるチャンスじゃないの」

 

「それはいい。みんな、この靴を履けば巡礼用品としても欲しくなるはず」

 

「……浮かない顔だね。もしかして、お嬢様のことじゃないのかい?」

 

「カピバラは心配。何とかしたい」

 

「そうだね」

 

 ニッコウキスゲが、優しい表情で頷く。

 

「問題は、どうにもならないから天に任せるしかない」

 

「そうだね。天災じみたことは、人間一人の力じゃなんともならないさ」

 

「……とは、断言できないことだと思う。もしかして、もしかしたら、今のうちに動けばヒントくらいは見つかるかも」

 

「なにそれ」

 

 ニッコウキスゲが笑った。

 だが私は笑わなかった。

 

「んーとさ、ニッコウキスゲ。私はけっこうリアリストで、できないことをできるとは言わない。できるかもね、くらいの無責任な言い方ならたまにする」

 

「すごく納得いかないけど、うん、続けて」

 

「元聖者のアローグスの子孫は行方不明ってことだったけど、実は知ってる」

 

「……続けて。小声で」

 

 ニッコウキスゲが私の吐息が聞こえるくらいの距離に来る。

 

「堕天のアローグスには娘がいて、多分その人は親との関係を絶って暮らしてた。多分、その人の足跡を辿ればアローグスの秘密に行き着く可能性はある」

 

 ぶっちゃけ私のママのことだけど。

 ママはおじいちゃんの話はしなかったし、巡礼なんて嫌いみたいな話をしていた。

 だがなぜかタタラ山に行ったりもしたし、山についての知識は妙に豊富だった。

 恐らく、秘密がある。

 子供の私には伝えることができなかった、何かが。

 

「じゃあ、飛翔魔法の使い手が、今もこの世に……!?」

 

「あ、それはない。ていうか飛翔魔法の使い手なんていたら目立つんじゃない?」

 

「それもそっか」

 

 ニッコウキスゲがあからさまにガッカリした顔を浮かべる。

 

「けれどアローグスは色んな山々に、革新的なアプローチで巡礼した変人であることも事実」

 

「あんたみたいに?」

 

「火竜山や焔王に対しても独自で色んな調査をしてたと思う。大鬼山の攻略が終わったら、ちょっと調べてみたい」

 

「……それはいいんだけどさ」

 

「うん」

 

「つまるところ……あんたが火竜山の無殺生攻略をやるって認識でいいのかい?」

 

「やれたらやる」

 

「そういう適当なセリフは、もっと適当な顔をして言うもんだよ」

 

 ニッコウキスゲが苦笑する。

 私は今、どんな表情をしているのか自分でもよくわからない。

 ほっぺをつねるが、それはきっと私の可愛らしさが増していくだけのことだろう。

 

「ま、いいけどさ。なんかそんな気がしてたし」

 

「空は飛ばないと思うから安心して」

 

 パラグライダーとか気球のスカイスポーツはやったことなかったんだよね。

 

「壁を登るのは空を飛ぶのとそんな変わらないよ」

 

「そうかな。そうかも」

 

 笑いながら星空を見る。

 空を駆ける大馬鹿野郎は、どんな景色を見ていたのだろうかと想像しながら。

 

 

 

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