「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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帰省をしよう 2

 

 

 

 おじいちゃんのような巡礼者になるな、という願いなのか。

 

 おじいちゃんのような死に方をするな、という願いなのか。

 

 故人の思いをどう解釈するべきなのだろうか。

 

「……どっちもです」

 

「なぜ?」

 

 伯父様が問いかけを続ける。

 

「おじいちゃんみたいな無茶苦茶な人にならないでくれという願いとは思うんですけど、でも、二人ともおじいちゃんを愛していました。生きて帰ってほしかったんだろうと思います」

 

「なるほど。それはそうだ」

 

 そう言って、伯父様はしばらく黙った。

 気まずい。

 家族でのこういうシリアスな話ってちょっと苦手です。

 

「ええと……答えとしてはどうですか?」

 

「……前者が大きいのではないか、と思う」

 

 半ば予感しつつも厳しい答えが返ってきた。

 つまり、伯父様はおじいちゃんのような巡礼者には賛成できないのだろう。

 

「勘違いするな。巡礼者になるな、冒険心を持つな……という意味ではないだろう」

 

「え?」

 

 私は、ちょっと話がついていけずに聞き返してしまった。

 

「伯父様。話が見えません。おじいちゃんのような精神性を持つなっていうのは……冒険をするなってことではないんですか?」

 

「……きみたちはどう思う?」

 

 私の質問をスルーして、伯父様は仲間たちに語りかけた。

 カピバラ、ニッコウキスゲ、ツキノワが目を見合わせる。

 いきなり家族同士の深掘りした質問を投げかけられても混乱するだけだと思うのだが。

 

「堕天のアローグスのようになるなという話の意味は……」

 

「うん、まあ……」

 

「なんかわかるよな……」

 

 と思いきや、なんかみんなわかったような顔をしている。

 

「なんで?」

 

 え、ちょっとショックなんですけど。

 

「ふむ。きみたちの視点ではどういう解釈になるのか興味がある。聞かせてもらおうか」

 

 伯父様が促すと、カピバラが進み出た。

 

「堕天のアローグスは、ソルズロア教ではその名を出すことが憚られる。そういう空気があります」

 

「そうだ。素晴らしい巡礼者だったし、家族としてはよい人だったが……色々とやりすぎた。やらかしたというべきか」

 

「同じようにこの子は、やろうと思ったことはなんでもやろうとする。私は堕天のアローグスのことは書物や風評でしかしらないけど、オコジョみたいな人だったんだろうなって思います」

 

「オコジョ?」

 

「あっ、あの、すみません、カプレーのことです」

 

「……いい名前だ。面白い」

 

 伯父様が珍しく笑う。

 

「ともかく、その……やりたいことをやるなら、批判を避けるしなやかさとか、批判をはねのける強さとか、そういうのを身に付けろって話なんじゃないでしょうか。アローグス様は聖者になったのに、神官やギルドから支援を取り付けるのも大変だったようなので」

 

「……仲間の方がわかっているじゃないか」

 

 伯父様は、カピバラの答えに満足したようだ。

 外してしまった自分が少々恥ずかしい。

 

「どうせ私はおじいちゃんのことはよくわかってないし……だから来ました」

 

「そうじゃない。仲間がお前のことをよくわかってる、という話だ」

 

 伯父様の言葉に、カピバラたちがにやにやしている。

 なんだか実家ゆえの恥ずかしさがこみ上げてくる。

 子供の頃のアルバムを見られてるような、そんな感覚だ。

 

「しかしカプレー。お前がアローグス氏のことをよくわかってないのも事実だ。彼は、その……偏屈者だったからな」

 

 伯父様が珍しく、非難めいた言葉を口にした。

 客観的な評価というより、伯父様自身がちょっと苦々しい思い出がありそうな感じだ。

 

「……何か、因縁があるんですか?」

 

「家族には優しい男だったが、頑固だし、口下手で、不器用で……良くも悪くも、山の男という雰囲気の人だった。神殿の高官に巡礼計画が無謀だと止められたとき、怒鳴りつけてる姿を見たこともあった。俺の計画は万全だと言って振り切ってな」

 

 あっ、ちょっとその話ストップしてほしい。

 私もちょっと思い当たるところがある。

 怒鳴ったりはしてないけど、無謀だと止められて巡礼を強行したし。

 

「そ、そうですか」

 

「無茶苦茶という点では聖者オリーブに似ているようだが、彼のような根っからの明るさやカリスマは無かったと思う。まあ、それゆえに孤独を愛する巡礼者にはひどく好かれるところはあったんだが……」

 

「ああ……ストイックな人だったんですね」

 

 修験者のようなソロ登山者とか、避難小屋の管理人さんとか、そういうタイプの人っているんだよな……。人間社会よりも山に馴染むことを選んだタイプというか。

 

「ふっと消えてしまいそうなところは常々感じていた。事実、消えてしまった。悲しくもあり、腹立たしくもある」

 

 伯父様が、遠くにいる人を想っている。

 

「……」

 

「お前のような人間にとって、繋がりがしがらみになって身動きが取れないのは苦痛だろう。振り払わなければいけないときもある。だがそれでも、時々でよい。お前を見ている人や支えてくれる人を、思い出すように」

 

 諭すような言葉。

 なんだかそれは、私の前世にも言われているような気がした。

 

「肝に銘じます」

 

「そうしてほしい。……だが、それはそれとして少し明るくなったな」

 

「そうですか?」

 

「なんだか、少し昔に戻ったような気がする。エルクもサーシャさんが亡くなってから、お前のやんちゃなところは鳴りを潜めていた」

 

「やめてください」

 

 それは、前世を思い出したからだろう。

 あるいは自分に素直になって、山を登ろうと思ったからか。

 とはいえ「幼くなった」と言われてるようなむず痒い気分だ。

 

 

 

 

 

 

 しんみりしたところで、空気を入れ換えるようにメイドのおばあさんがお茶を淹れてくれた。

 地元の人で、古くから叔父様に仕えている人で見おぼえがある。

 あちらも同様なようで、「まあまあ美人さんになって」と嬉しそうな顔をしてくれた。

 実家のような安心感だ。実家だけど。

 

 ちなみにここはミルクティーが基本だ。寒冷な地域なので乳牛のたんぱく質や油脂分をしっかり摂取する必要がある。まあ大昔よりは食糧事情はよくなったが、お茶にまつわる文化は定着しているのだろう。美味しく、そして懐かしい。

 

 お茶請けは芳醇な味わいのクッキーだ。バターたっぷりでとても美味しい。ちょっと重いけど、登山に持っていきたい。

 

「で……肝心な用件を聞いていなかったな。何も婚約についての話をするためだけに来たわけじゃあるまい?」

 

「もちろん」

 

 伯父様の言葉に、私は素直に頷いた。

 

「巡礼者を中心としたパーティーで来たと言うことは……登るのか?」

 

 どこに、など言うまでもない。

 この近辺で装備を調え、領主に挨拶をして登るべき山は一つ。

 シュガートライデントだ。

 

「行こうと思います。ですが……それとは別にお願いが」

 

「なんだ?」

 

「母から、祖父の資料を預かっていませんか? もしあるならば見せてほしいんです」

 

 伯父様が沈黙した。

 快く提供してくる……というわけでもなさそうだ。

 

「……彼の資料は封印している。直系の孫たるお前であっても、すぐに封印を解放する……というわけにもいかない。アローグス氏との関係は一応、伏せているからな」

 

「そうですか……」

 

「どうしても、という事情でもあるのか?」

 

「あります。火竜山を無殺生攻略したいんです」

 

 私の言葉に、伯父様が凄まじく渋い表情を浮かべた。

 それだけで今何が起きようとしているのか、すべてを察したようだ。

 

「火竜山……焔王か。復活が早すぎるんじゃないか」

 

「ご存知ですか」

 

「アローグス氏の名を轟かせた場所だからな……それにお前が挑むというのは、流石に因縁めいている。巡礼者をするだけならともかく、これは流石にお前の両親なら反対するぞ」

 

「そうかもしれません。でも、どうかお願いします」

 

「……彼が何を調べ、どのような足跡を辿ったかを知りたい気持ちはわかる。だが、それに追随できる程度の実力が求められる。火竜山に挑むとなれば尚更だ」

 

「レベルが高すぎて参考にならない、と」

 

「そうだ。アローグス氏は飛翔魔法や曲芸めいた魔法で有名になったが、さりとて通常の巡礼でも飛び抜けた実力者だった。彼の資料を読んで中途半端な腕前で模倣しても死ぬだけだ。こればかりはお前の頼みと言えど賛同できない。仲間の君たちも同様だ。それができる実力があるのか」

 

 思わぬほど強硬な反対が来た。

 だが、ここで引くわけにはいかない。

 

「では実力を示せばいいんですね? シュガートライデントを無殺生攻略する。それで認めてもらえますか?」

 

 

 

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