「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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避難小屋に泊まろう

 

 

 

「怪談か……。こういう小屋で凍死しそうになった四人の冒険者が、うっかり寝ないように四隅に座って……」

 

「隣の隅に移動して肩を叩くけど、五人いなきゃ成立しなくて『残り一人は誰だったんだ?』って話だろ。知ってるよ」

 

「えっ、知ってるんだ」

 

 ツキノワにツッコミ入れられた。

 

「あたしも聞いたことあるよ。でもそれ、精霊がこっそり助けてくれたとかじゃないの?」

 

「なんか不思議よね。山に行くなら色々と魔法を使ってもうちょっと何とかできそうなものだけど。4人もいてみんな魔法使えないって設定、妙よね」

 

 ニッコウキスゲとカピバラが、この世界ならではのツッコミを入れる。

 もしかして過去に私以外に転生者がいて、こういう話をしたんだろうか……。

 ていうか多分、私以外に転生者はいるのだと思う。

 なんとなく「これ地球由来の文化だな」と思うようなものは幾つかあるし。

 

 そういう人はこの世界で楽しくやっているだろうか。

 孤独を分かち合える人はいるだろうか。

 私はあんまり孤独を感じてはいない。

 他人には言いにくい秘密を持ってはいるが、墓場まで後生大事にもっていくつもりもないし。

 

「何よ、変な顔しちゃって」

 

「面白い話がないか考えてた」

 

「いっそあんたが伝記でも怪奇本でも書けばいいのよ。印刷代は出してあげるわ」

 

「印税少なそう。カピバラ書房は作家を大事にしてほしい」

 

「変な名前つけないでよ!」

 

 そんな風に雑談していたら、一つ思いついたものがある。 

 とっておきのホラーだ。

 

「怖いお話となると……ギルドに行って事故調査報告書を読めば一切の脚色がない恐怖がある」

 

「それ一番洒落にならないやつでしょ」

 

 カピバラが渋い表情を浮かべた。

 

「思い出したくねえ」

 

「あたしも」

 

 書いたことがあるっぽい二人が頭を抱える。

 そういえばツキノワも事故が原因でパーティー解散になったんだった。

 

「でも巡礼者や冒険者の伝記とか吟遊詩人の語る物語とか、そういうジャンルあるわよね……。大冒険のお話が主流だけど、たまに『無謀な巡礼者がこんな風に全滅しました』ってバッドエンドになるお話とか聞くし」

 

「それもホラーといえばホラーだね」

 

 悲劇的な冒険者の末路は、ラブストーリーや英雄譚の次くらいには吟遊詩人の飯のタネだ。

 

「ああいうのって事故調査報告書が元ネタになってたりするのかしら?」

 

「そうだね。ただ……うーん……ちょっと頷きにくい部分もあるというか……」

 

 カピバラの質問にニッコウキスゲが微妙な顔をして答えた。

 ツキノワも複雑な表情をしている。

 なんとなく答えにくい理由に察しが付いた。

 

「大筋としては間違ってなくても……話し手による脚色がある?」

 

「そう。それがあるんだよ」

 

 私の言葉に、ニッコウキスゲがしみじみ頷いた。

 

「吟遊詩人なんかは、その場の雰囲気を盛り上げるために大げさに言ったりするもんなのさ。故人の言葉を捏造したり、わかりやすくパーティーメンバーを善玉悪玉に色分けしたり……。たまたまそれを聞いて怒った遺族が吟遊詩人を殺しちゃった事件とかもあったっけ」

 

「冒険者の撤退で、たまたま生き残った魔法使いが強かっただけなのに『この魔法を覚えてたから助かった』、『覚えてなかったから死んだ』って宣伝文句に使うやつもいたな。しかもそういうのに限って評判になったりする」

 

「あー……それは露骨な」

 

 日本にもそういうのあったっけなぁ。悲惨な山岳事故の大見出しで視聴者を集めて、読んでる人を怖がらせる動画とか。

 

 大筋として間違ってないので得られる教訓がないわけではないが、話し手の結論が正しい分析なのか怪しいのが多かった。ニッコウキスゲが言ったように故人を冒涜していることもあれば、ケースバイケースのものが「絶対やるべき手法」として語られていたり、あるいは根本的に遭難対策について語り手の知識が不足していて間違った対策を提示していたり。もちろん正しい解説をしている話者もいるのだが、正解を選び取るのはなかなか難しい。

 

「……なんか一夜を楽しく過ごすための娯楽のはずがすごい真面目な話になっちゃった気がする」

 

 カピバラの呟きに、ツキノワとニッコウキスゲが苦笑する。

 

「もうホラーやめよう。ハッピーエンドのお話とかの方が聞きたいね。うっかり大鬼山に行ってゴブリンに負けたけど生きて帰ってこられましたとか」

 

「俺じゃねえか。そこはあんまりイジるなよ」

 

 言葉にツキノワは少々すねた言葉を返す。

 だが、ニッコウキスゲは笑みを消して真面目な表情を浮かべた。

 

「あんたは恥じてるし実際バカにする人はいるけどさ。誰も死ななかった事故調査報告書って、救われるもんだよ。特にコレットちゃんとかギルド職員にとっては冒険者の成功も大事だけど、事故や失敗と関わらざるをえないからね」

 

「……まあ、それはそうなんだが」

 

 ツキノワが納得したようなしてないような顔で頷く。

 

「なんだい、不満かい。褒めてやってんのに」

 

「そりゃ自分の失敗した記録には他ならねえしな。他人が褒めるのはいい。いいんだが。俺自身がそれを認めて褒めていいかどうかは別だ」

 

 ツキノワは普段頭が柔らかいが、こういうところ頑固だ。

 信頼できる美徳でもある。

 

「どういう気持ちを持つかは人それぞれだけど、私としてはちゃんと生き残った記録は読んでおきたい」

 

「なんでだ?」

 

「遭難するときって、素人でもベテランでも、みんな心構えができてない。『嘘だ』、『こんなはずがない』ってパニックになるところからスタートする。私だって例外じゃない。そのとき、みんな死んでるケースばっかり読んでるとそればかり思い出して頭がクールダウンするまで時間が掛かる。冷静になれば助かる確率が上がるって確信を得るためにも、生還者の話は聞いておきたい」

 

「あんた、そういうところ身も蓋もないわねぇ」

 

 カピバラが笑いながら言った。

 

「カピバラも一度、そういう記録に目を通してみるといい。極限状況で、一人一人が諦めることなくやるべきことを遂行して絶望的な状況を打破する。冒険小説みたいに感動できる」

 

「でも結局、そういう風に楽しむ人が居るから脚色する人も出るんじゃないの?」

 

「むむ……それは反論できない」

 

 ノンフィクションの記録は、フィクションとはまた違った面白さがある。

 遭難動画につい夢中になる気持ちもわかるんだよね。

 感動の救出劇とかを特集してるテレビ番組とかも好きだったし。

 

「なんであれ、一番いいのは悲劇の主人公にならないことよ。滑落しないのが一番って言ってたじゃない。明日もちゃんと帰ってきなさいよね」

 

「もちろん」

 

 明日は氷菓峰の山頂へのアタックをする。

 オコジョ隊、初めての雪山攻略だ。

 

 とはいえ時間はさほど掛からない。

 恐らく登り2時間以内、この小屋に戻るまで1時間半といったところか。

 それまでカピバラはこの小屋で待っていてもらう予定だ。

 

 そんな明日に備えるため、私たちは温かい食事を摂り、早めに寝ることにした。

 こうして一日目が終わりを告げた。

 

 

 

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