汚いエルフを見つけたので虐待することにした   作:音塚雪見

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第十一話

 フリーレンを拉致ってきてから十年が経った。

 下がり続けてきたものぐさエルフの生活態度が持ち直し、多少マシになってきている。

 これは五年ほど前から更に厳しくなったフランメの影響だろう。あの形相は、傍から見ている俺ですら少しヒヤッとするほどのものだからな。直接向けられるフリーレンは語るまでもない。

 

 

 ……素晴らしい虐待だなァ!!

 

 

 ニヤニヤと笑いながら、俺は魔法の補助として開発した杖に、「歩行補助」のための機能をつける。

 訝しそうにこちらを見ているフランメにため息を吐いた。

 

 

「お前、自分がドジだと思っているか?」

「私が? そんなことはない」

「そうか。俺もそうだと思っている」

 

 

 その発言になおさら深い皺が眉間に刻まれ、首をひねって天井を見上げた。

 クックック……わからないようだな。

 すべての動作に虐待的意図があると評判の俺だ、当然この作業にも意味がある。

 

 

「最近なにもないところで転ぶことが増えただろう」

「……あー」

 

 

 自覚があるのか、目をそらしてポリポリと頭をかくフランメ。

 足腰が衰えてきているようだなぁ? 虐待用玩具がそんなくだらないことで怪我をされちゃ困るから、しっかりと予防するために杖を改良していたのだ!

 フフフ……ただでさえ所有していたくないだろう杖に、更に自分を馬鹿にするような変化が加えられたとあっちゃ、いくらお前でもイライラするだろう?

 

 

「まだまだ若いつもりなんだけどな」

「人間の平均から言ったら……お前はかなり高齢だろ」

 

 

 あ゛?

 

 

 半笑いで呟かれた言葉に、フランメは俺から杖を奪い取って向けてきた。

 流石にライン越えか。それでこそ虐待なんだけどなぁ!

 

 

「クックック……そんなに元気なんだったら、あと百年くらいは生きそうだな」

「チッ、もしもこれを言ったのがフリーレンだったらキッツいお仕置きをするところだが、師匠(せんせい)だから許してやる」

「え」

 

 

 近くにある趣味のいい椅子に座って、何度もミミックに食われながら手に入れた魔導書を読んでいたフリーレンが驚きの声を上げた。

 まさか自分に飛び火するとは思っていなかったのだろう。

 瞳には不満げな色が宿っていた。

 

 

「ところでだフリーレン。お前は動物についてどう思う?」

 

 

 さり気なくそれを無視するという虐待を行う。

 尋ねられた彼女はふらふらと目線を漂わせながら、ぽつり。

 

 

「特にどうこうはないかな」

「そうかそうか、お前はそういう考えなんだな」

「ケーフィヒ?」

 

 

 俺専用の最高にフカフカのソファから立ち上がり――なぜか二人とも当然のような顔をして座る――、なにもない空間から羊皮紙を取り出した。

 

 

「これを見ろォ!」

「……リス?」

 

 

 過剰なほどに眼前に近づけると、顔を顰めながらそれを奪い取るフリーレン。

 ちょっとしたことでも虐待をコツコツするのが大切なんだよなぁ。

 

 

「シードラットと言う。害獣だな」

「へぇ」

「お前が動物に対して思い入れがないのはわかった。フランメは?」

「可愛いから好きだ」

「あ、そう」

 

 

 自分から聞いたくせに何だその反応は、と首を締められつつ、俺は無事に虐待を成功させることができそうだと含み笑いを浮かべた。

 

 

「今日は久しぶりに旅行だ! 予定はキャンセルして俺についてきな!」

「予定って……いつも修行くらいしかないよね」

「あぁ」

 

 

 頭を傾けるフリーレンは目に入らず、天を仰ぐようにして哄笑する。

 任意の場所に移動する魔法!! 場所は下界のある地点!!

 

 

 クックック、無理矢理イベントを捩じ込む虐待……。

 貴様らには自由に時間を過ごす権利すら与えないのだ!

 ハーッハッハッハッハ!!

 

 

 面倒くさそうに椅子にすがりつくエルフを引っ張って、歪む空間に放り込んだ。

 人を人とも思わない悪辣な動きである! これには流石にフランメも「そういうことするから甘え続けるんだよ……」とドン引きした。なにを言ったのかは聞こえなかったが。

 

 

 自分でくぐり抜けようとするフランメを止め、お前はもう老人なんだよということを理解させるために、対照的に優しく手を引く。

 レディファーストやらの考えは地獄に放り捨ててきた俺だが、虐待のためならば優しいムーブもお手の物なんだよなぁ!

 

 

「ありがとう」

「気にするな」

 

 

 軽い調子でウインクするフランメに、お返しとして俺もウインクをしてやった。

 汚らしい魔族である俺がそんなことをしたら鳥肌モノだよな!?

 予想通り彼女は顔を顰めて耳を赤くしている。

 

 

「ケーフィヒ、ここは?」

 

 

 先に移動していたフリーレンがあたりを見渡し、直接虐待に繋がりそうな恐ろしいものがないことを確認した。

 ずっとダイレクトな虐待だと芸がないからな……今回は趣向を凝らしてやったぜ!

 

 

「人間の街だ! 何の変哲もないな!」

「……でもケーフィヒがそんな所に私たちを連れてくるはずがない。そうでしょ」

「クックック……大分俺のことがわかってきたようだなぁ?」

 

 

 そりゃそうだよ。十年一緒にいるんだよ。

 とフリーレンは自慢げに「むふー」と息を吐き出した。

 

 

「……十年か」

 

 

 フランメが遠い目をして笑みを浮かべる。

 俺も喉の奥に引っかかるような、言いようのない面白さが湧き上がってきた。

 

 

 長名種であるエルフの、中でも情動が薄かったフリーレンが。

 たったの十年でここまで変化した。

 こいつぁ随分とフリーレンに影響を与えられたんじゃねぇか!? 長く長く残る虐待の恐ろしさに、思わず震えてしまうぜ!!

 

 

 フランメも表情を柔らかくし、フリーレンの頭を撫でる。

 一体なぜそうされたのか理解できず、彼女は不思議そうだ。

 

 

「で、師匠(せんせい)。なんでここに連れてきたんだ?」

 

 

 改めてフランメが尋ねてきて、クックックと笑いながら答える。

 

 

「ここは何の変哲もない人間の街だ……しかし!! 近頃増えてきた珍しい動物を閉じ込めておく施設を、お前たちに見せてやろうかと思ってなァ!!」

「あぁ、だから動物について聞いたのか」

 

 

 俺も元人間だが、人間の思考には頭が下がる思いだぜ。

 キュートな動物相手でも拉致監禁という虐待を怠らないその姿勢……感服する!

 

 

「人類の悪辣さをまざまざと見せつける拷問じみた虐待……!」

「あ、この羊皮紙はパンフレットだったんだね。色々いるみたい」

「私はライオンってのが見たいな。百獣の王って二つ名がどうにも惹かれる」

 

 

 現実逃避だろうが俺の発言をスルーする二人。

 そのまま頭に通してしまえば、嫌悪感と恐怖で動けなくなっちまうだろうからな! 人類として自然な反応だ。

 

 

 俺はニヤニヤと笑いながら、「人間に変身する魔法」を使う。

 これで見た目だけは何処からどう見ても人間になったが、精神はバッチリ虐待思想に染まった悪辣魔族、ケーフィヒ様の完成だ!!

 

 

「さぁ行くぞ!!」

 

 

 現在地点は城壁は見えるが、少し歩かねばならない程度の距離。

 興味がないふりをしているがぴょこぴょこまつ毛が跳ねており、明らかに楽しみにしているフリーレンを流し見て、若干遅れて歩いてくるフランメと顔を合わせる。

 彼女は苦笑し、高まった感情の発露に頭を撫でた。

 

 

「なに師匠(せんせい)

「いや、楽しそうだなぁと」

「そんな訳ないよ。私はエルフだからね」

 

 

 そういうのには疎いんだ、と。

 何処となく誇らしげに胸を張るその姿は、やはり楽しげな子供のようにしか見えず、またフランメは笑った。

 

 

 数分で城壁の下まで辿り着き、今からなんの動物の下へ行くか考えていたフリーレンが首を傾げる。

 

 

「ケーフィヒ、それはなんなの?」

「クックック……人の街には門番がいてなぁ、怪しい存在を通さないようにしているのさ!」

 

 

 で、これの登場ってわけ。

 俺はなにもない空間から木製のペンダントを取り出し、新人なのか緊張の見える門番に渡した。

 慌てて槍を片手に移し、じっくりと観察した彼は驚きに目を見開く。

 

 

「り、領主様の紋章が入ったペンダント……! これがあればこの街のどこでも自由に出入りできる代物じゃないですか!!」

「……なんでそんなの持ってるの?」

 

 

 不思議そうにフリーレンは俺を見上げてくる。

 当然、天才的虐待の産物なのだが……まぁ時間もないし言わなくていいか!

 

 

「そんなことより早く行くぞォ!」

「……多分いつものだよね?」

「そうだろうな。師匠(せんせい)が虐待だと思っていることは大体いいことだ」

 

 

 ボソボソ俺の陰口を言っているであろう二人に声をかけて、さっきよりもキビキビした態度で敬礼をする門番の前を通る。クックック、門番と言えばサボっていても比較的大丈夫な仕事……そんなときに、いかにも虎の威を借る狐ですみたいなやつが来て不幸だったなぁ!!

 遅れてついてきたフリーレンは、なぜか口元をニヨニヨとさせていた。

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