汚いエルフを見つけたので虐待することにした   作:音塚雪見

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フランメ生存ルートは考えていなかったので難産でした。




第〇話

 俺は久しぶりに天脈竜の背から降りて地上を散策していた。

 キョロキョロとあたりを警戒しながら歩く。右腕に嵌められた忌々しい腕輪を睨みつけながら、足元に落ちていた小石を蹴飛ばした。

 

 

「……まさかこの俺が、こんな物に縛られることになるとは」

 

 

 外そうとしても込められた命令のせいで身体が動かないし、物理的に破壊しようとしても強度が高すぎて罅一つすら入りやしない。自分でこだわって作ったのはいいが、それが反逆してくるなら話は変わってくる。

 虐待のためにとっ捕まえてきたゼーリエというエルフに「どうしても倒したい魔族がいるから何でも言うことを聞かせられるアイテム頂戴」などと言われたから、頑張って作ったっていうのによォ!!

 

 

 確かに俺を見る目に殺意が混じっていたような気がするし、倒すだけなら言うことを聞かせる必要はない。つまり虐待された恨みを晴らすために、拷問的なことをしようと思っていたんだろうな。

 クックック、たまにはこういったイベントも良いだろう。

 二度とあいつには接触しないけどなぁ!

 

 

 ふっかふかの布団で目を覚ましたときは驚いたぜ。

 なにせゼーリエが腹の上に跨って、怪しい笑いを浮かべていたからなァ……。

 反射的に吹き飛ばしてテレポートしなかったら危なかった。

 

 

「クソ、あの拠点は放棄か」

 

 

 あいつは予想以上に強くなってしまったから、正直、本気で殺しに来られたらかなり厄介だ。

 石橋を叩いて渡る系悪辣魔族である俺は、しっかりと予防のために拠点ごと放棄することにしたぜ!

 まぁ天脈竜は結構いるし、その全てに拠点を構えているから大して問題ないけどな!

 

 

 そういえば朝食を食べていなかったことを思い出してそこら辺の草をむしる。

 昔は食事にありつくのも一苦労だったから、一通り食べられる草は把握しているのだ。

 

 

 そのままむしゃむしゃしてながら歩いていると、森の向こうに煙が登っているのが見えた。

 

 

「……魔族か?」

 

 

 煮炊きなどに使う火にしては少々煙が多すぎる。

 では焼畑か、とも思ったが「周囲を探る魔法」を使ってみると戦いの気配を感じ取った。

 

 

 興味はないが自分以外の魔族がどのように虐待をしているのだろう、と気になったので行ってみることにした。

 なぁに、そこまで距離は遠くない。というか俺にかかれば距離などないも同然だ。

 

 

「任意の場所に移動する魔法」

 

 

 目を瞑って開けばそこはすでに戦禍の真っ只中。

 木造の家たちが倒壊し、火が付けられている。

 そこら中に人間の死体が打ち捨てられていた。彼らは皆一様に怒り、苦しみ、悲しみにくれる死顔をしている。

 

 

「……ふむ、もういないのか」

 

 

 数分村を見て回ったが同族は何処にもいない。

 おそらく人間を殺し尽くしたから去ったのだろう。

 食い散らかすだけ食い散らかしていくとは、行儀の悪い奴らめ。

 

 

 死体を綺麗にする魔法を使用する。

 人間の葬り方は土葬が一般的だったはずだから、適当に穴を掘って各々に作った棺にぶち込んだ。

 そして上から土をドーン! ドーン! ドーン!

 

 

 ハッハッハッハッハッハッハ!!!! 死後貶められる恐ろしい虐待!

 自分の悪辣さ具合に冷や汗すら湧いてくるぜ。

 

 

 そうして俺が哄笑していると、ふと視界の隅に影が映った。

 静かに滑るように近づいてきて懐から何かを取り出す。

 手に持ったそれがナイフだと気がついたのは、背中から刺されたあとだった。

 

 

「死ね……死ね……死ね、悪魔ッ!」

 

 

 急な衝撃に腰を抜かしてしまう。

 それをいいことに襲撃者は俺に馬乗りになって何度も何度も突き刺してきた。

 

 

 茶髪の少女は狂ったように引き笑いを上げている。頭の上にナイフを掲げ、思う存分振り下ろす。もちろん鍔なんてものは存在しないから、自分の手すら傷つけて。 

 油に濡れた刃物は切れ味が悪くなり、やがて鈍器のように殴りつけるしかできなくなった。

 それでも、彼女は笑い続ける。

 何か大事なものを失ってしまったかのように、攻撃するという行為に集中する。まるでそれによって失ったものを取り戻せるとでも思っているようだ。

 

 

「なかなかいい殺意だ。だが拙いな」

 

 

 そんな光景を横から見ていた俺は口元を歪めながら、少女の髪を撫でる。

 血と土にまみれ固まった髪はゴワゴワとしていた。

 

 

「な……っ」

「殺したと思ったか? 憎い魔族を殺せたと思ったか? 残念だったな」

 

 

 呆然としている彼女にひらひらと手を振って、自分の壮健ぶりをアピールしてやった。

 殺したと思ったやつが生きていたという虐待!! なまじ一度やり遂げたと錯覚することで、反動がかなり大きいすさまじい虐待だ!!

 

 

「ころ――」

「拘束する魔法」

 

 

 なおも襲いかかってこようとする彼女を拘束する。

 地面から生えてきた太い蔦が身体に巻き付き、苦悶の声を漏らした。

 悠々とそこまで歩いていく。

 

 

「いい目をしている。お前、名は?」

 

 

 殺意が飽和するほど込められた視線を向けられながら俺は笑う。

 顎を掴んで上向かせた少女の顔は、怒りと若干の恐怖に包まれていた。

 

 

「誰がお前らなんかに……ッ」

「そうかそうか、名前を聞くならまず自分から名乗れということだな? いいだろう、俺の名前はケーフィヒ。この世界で最も悪辣かつ最強の魔族だ!!!!」

 

 

 御名前開示。コミュニケーションの基本だぜ。

 なぜかぽかんと口を開けていたので手に持っていた草を突っ込んだ。

 物凄い目で睨みつけられたが俺も同じものを食べているとわかると、訝しみながら咀嚼し始める。

 

 

「…………。…………? ………………!」

 

 

 するとどうだろう、先程まで激情が支配していた彼女の顔が百面相する。

 人間にあるまじき緑色の顔は見ものだったぜェ?

 

 

「ハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」

 

 

 騙されたなぁ! 食べられるとはいえこの草滅茶苦茶不味いのだ!

 俺も初めて口に含んだときは毒でも噛んだのかと錯覚したからなぁ。

 

 

 涙目になりながら空嘔をする少女を眺めながら大笑い。たまたま持っていた甘い果実を渡してやる。

 砂漠で水を見つけた旅人のように縋り付き、ちゅーちゅーと啜る姿は無様である。

 

 

「はぁ……はぁ……」

「クックック、美味かったかァ?」

 

 

 尋ねるとギロリ。

 先程までとは違う殺意の込められた双眸だ。

 

 

「もう一度聞こう。お前の名前は?」

「……………………、フランメ」

 

 

 ため息でも吐くかのように零された言葉からは少し険が取れている。

 随分顔が汚れていたため、なにもない空間から適当なタオルを取り出して顔を拭った。

 当然抵抗されたが無視。人間ごときの意志を汲むわけがないんだよなぁ……。

 

 

「ところでフランメ、どうして俺を殺そうとした」

「……お前みたいに角が生えた男がこの村を襲ったからだ」

「なるほど」

 

 

 彼女の全身を観察しながら首をひねる。

 

 

「お前、自分が魔法――人間風に言うと呪いをかけられていることには気がついているか?」

 

 

 フランメは一瞬不思議そうな顔をして、地面に倒れ込んだ。

 不味い草を食べたときとは比べ物にならない苦しみ方をしている。

 爪が剥がれるほど地に縋り付き、毛穴という毛穴から冷や汗を流していた。

 

 

「が、ァ……あぁ……ッ!!」

「『対象の魔力を糧に苦しめる魔法』…………いや、『寿命を消費させる魔法』か」

 

 

 かすかに残っている魔力の残滓から魔法の内容を予想する。

 彼女の肌はハリがあったつややかなものから、どんどん皺を刻んだ罅割れた大地のようになっていった。

 豊かな茶髪は少しの間で白いものが混じり始めている。

 

 

「……相手の了承を得ないと使えない魔法があるのだが、もしもそれを使えばお前は助かる」

 

 

 あまりの苦しみで聞こえないかと思ったが、フランメは僅かに顎をやって先を促してきた。

 

 

「助かりたくば頷け」

「…………!」

 

 

 逡巡はなかった。

 すぐに首を縦に振った彼女に俺は笑う。

 

 

「クックック……そうか、ならばお見せしよう! 禁術の中の禁術、神の域にすら達するこの魔法!!」

 

 

 俺ですら条件を厳しく設定しなければ使えない魔法だ。

 失敗しないように眦を吊り上げ、

 

 

寿命を分け与える魔法(マナトローラ)!!!!」

 

 

 身体の中から何かが持っていかれたような感覚がする。

 事実、寿命の半分くらいは失われたのだろう。

 まぁ数え切れないほど生きてきて、なお底が見えない命だ。半分くらい安いもの。

 

 

「…………………………」

 

 

 ふっと意識を失ったフランメを抱きかかえて、俺はため息を吐いた。

 ……ゼーリエという前例を考えると魔法を教えて反抗されるのも面白くない。しかし人間の身には膨大な寿命――魔法に対抗するためとはいえ――を与えておいてハイサヨウナラはいかにも無責任だ。

 俺は責任感の強い虐待系魔族だからなァ!

 

 

 頭を掻きながらベッドを召喚し、そこに寝かせる。

 

 

 まぁ、それは後々でいいだろう。大体のことは行き当たりばったりでなんとかなるものさ。

 それよりも大事なことがある。

 もっと直接的に俺を襲う危機……! 解決しなければ最悪死にかねない危機だ……!

 

 

「………………飯、どうするか」

 

 

 今までは買ってくるかゼーリエに任せていたから、これから何を食えばいいのか。

 流石に草だけってのもなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ん」

 

 

 モゾモゾと掛け布団をずり下ろしながら、フランメが目覚めた。

 寝起きのためしばらくぼーっとしていたが、俺の姿を視界に収めて思い出したのか、勢いよく立ち上がる。

 

 

 それに構うことなく、俺は汗を流しながら鍋を見つめていた。

 

 

「クク……やれば出来るじゃないか……流石は最強の魔族……!」

 

 

 不思議なことに紫色をしたそれはゴポゴポ粘着性の高い気泡を作っていたが、まぁ多分見た目だけだろう。なんせ俺が失敗するはずないからなァ!

 材料も適当に取ってきた食べられる草しか入っていないし問題ないはずだ。

 

 

 木製のスプーンを差し込んで皿によそおうとした。

 ジュッと音を立てて消滅。

 ぽかーんと見つめても目の前にあるのは柄から先がなくなったスプーン。

 見なかったことにした。

 

 

「……さ、飯だ」

 

 

 気を取り直して金属製のスプーンで金属製の皿になみなみとスープを入れ、起き立てでお腹が空いているであろうフランメに渡す。

 

 

「私は今見てたぞ」

「……なにがだァ?」

「溶けただろ」

「……なにが」

「木」

 

 

 なに言ってんだこいつ。変な夢でも見たのか?

 俺は哀れな者を見る目をフランメに向け、彼女は額に青筋を立てる。

 

 

「お前ら悪魔ならともかく私は人間だ。こんな物食ったら死んじまう」

「その悪魔っていい方、気に入らねぇな。今後は魔族とでも呼べ」

 

 

 言いながら恐る恐るスープを啜り、案外イケることに驚く。

 嘘だろ、なんて思っていそうな顔をしているフランメにドヤ顔を向けてやった。

 彼女も首をひねりながら眉をひそめ、唇をすぼめて皿に口をつけ、

 

 

「まっっっっっっっっず!!!!!」

 

 

 吐き出した。

 

 

 そりゃそうだ、考えてみれば不味い草を適当に煮詰めたものが美味くなるはずもない。

 睨みつけてくる彼女を笑った。

 

 

「――さて、お前も薄々気づいているだろうが、今のお前はまともな人間ではない」

「……だろうな」

「具体的に言うと普通に千年以上生きるだろう」

「すごく長い」

 

 

 子供らしく目をまん丸くしながら、フランメは呟いた。

 

 

「そこで選択肢をくれてやろう。その一、このまま村の惨状から目をそらし続け、幸せな日常を送る」

「………………」

 

 

 俺はあたりをちらりと見渡す。

 時間が経ったからそれなりに鎮火されてきているものの、未だに血の匂いは色濃く漂っていた。

 彼女は沈鬱そうに表情を暗くし俯く。

 

 

「その二、俺に付いてきて魔族をぶっ殺す」

「…………!」

 

 

 その言葉に弾かれたように顔を上げるフランメ。

 驚いたように口を開いていたためにスープを押し込む。

 吐き出した。

 

 

「いちいち茶化さないと駄目なのかお前は!!」

「クックック、虐待だよ虐待」

 

 

 涙目で睨みつけてくるものだから面白くなって笑う。

 

 

「……そうだな、俺に付いてきたら人間最強の魔法使いくらいにはなれるだろう」

「そしたら、魔族をぶっ殺せる?」

「殺せる。最強の魔族である俺が保証してやる」

 

 

 ニヤリと口角を上げて彼女の手を引いた。

 その拍子にずっと握り込んでいた血まみれのナイフが滑り落ち、地面に軽く転がる。

 

 

「俺のもとに来いフランメ! 戦う手段を教えてやろう!」

 

 

 という名の虐待をたっぷり味わわせてやるからなァ!!!

 彼女は何処か迷ったように村を見渡しながら、しばし目を瞑って、口を開いた。

 

 

「わかった。私はお前――ケーフィヒについてく」

 

 

 クックック、ゼーリエに代わる虐待用玩具を手に入れたぜ。

 今度は手綱を握って逆らえないようにしていこう。

 俺は彼女に見えないようにあくどい笑みを浮かべた。

 

 

 ◇

 

 

 遠い未来。

 

 

「……師匠(せんせい)は人間なのに長生きだよね。なんで?」

 

 

 フリーレンは木製の浅い皿に入ったスープを飲みながら、感慨深げに頷いていたフランメに疑問を呈する。

 彼女は柔らかく笑った。

 

 

「昔、とっても悪い魔族に呪いをかけられちゃったからな」

「殺したの?」

「……フフ、責任を取ってもらってるところさ」

 

 

 その曖昧な言葉にフリーレンは首を傾げる。

 フランメはさらりと髪を撫で、簡素なスープ――しかし自信をもって料理だと言えるものを啜った。

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