汚いエルフを見つけたので虐待することにした   作:むすめふさ

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や、読者。久しいね。
夢で見たのでどうしても書きたくなった。




第X話

 

 

 目を開いたら森が広がっていた。涼しい風が頬を撫でて流れていく。

 久し振りに感じた外の空気というやつに感動を覚えつつ、右腕に嵌ったそれに苛立ちを覚えた。あのクソエルフ、まさか俺を監禁しやがるとはな……!

 クックック、もう二度と接触しねぇ。

 

 

 ゼーリエに閉じ込められた部屋にかけられた魔法を解析するのに十年。あいつをいなしつつ魔法を解除するのに五年。泣き叫びながら縋りついてくるあいつを何とか撒くのに十五年かかった。

 執念強すぎないか? 何処からその情熱は湧いてくるのか。

 

 

 しつこい。ゼーリエは本当にしつこい。飽き飽きする。心底うんざりした。口を開けば責任を取れ、私を置いていくな、あの女は誰だと馬鹿の一つ覚え。お前の虐待は終わったのだからそれで十分だろう。新しい被害者が生まれたから何だというのか。自分は幸運だったと思い元の生活を続ければ済むこと。

 俺に虐待されることは大災に遭ったのと同じだと思え。

 

 

 鳥籠から逃げた小鳥が羽根を伸ばすように、解放された俺は腕を伸ばす。

 久々の日差しが眩しい。

 

 

 忌々しいエルフの顔を記憶の片隅から消去しつつ、空間跳躍によって移動した森を散策し始めた。魔力の残滓を残さないように移動先を指定しなかったからな、ここが何処だかまったくわからん。

 そうこうしているうちに夜の帳が下り、森を暗闇が覆った。

 

 

「暗闇を見通す魔法」

 

 

 こんな事もあろうかと開発していた魔法を使って、休憩なしに踏破していく。

 完璧で究極の魔族様には通用しないんだよなぁ……!

 ずんずんと突き進めば、まもなく森の全容も掴めてくる。人里に近い森だ。ストレス解消のために人間どもに虐待するのも考えたが、すぐに行動を起こしてしまえばゼーリエに気取られる可能性がある。

 二度と自由を失わないためにもここは我慢の一手だ。

 

 

 それはそれとしてずっと一人で過ごすのも退屈なため、人里目指して歩いていくことにする。念のため魔法は出来る限り使わない。

 

 

 そんな感じで希望に満ち溢れた――あるいは人間にとっては絶望に満ちた――旅路を進んでいたところ、木の根元に座り込んでいる人間を見つけた。

 水色の髪が土に汚れている子供だった。

 

 

「クックック……ガキ、こんなところでどうしたァ……?」

「え……」

 

 

 一瞬でローブを身にまといつつ、ひとまずは情報収集。

 心配しているフリをしてガキの正面に立つ。

 

 

 どうにも気に障る目をしてやがる。自分に自信を持っている者特有の、虐待しても心が折れないタイプの目だ。

 子供ながらにこの自信、実に手折りたくなるねぇ……。

 

 

「……えっと、薬草を取りに来たら道に迷って」

「なるほどなぁ、察するに長い間夜の森を彷徨っていると」

「うん」

 

 

 手を顎に添えつつ頷く。存外素直に答えたガキを流し見しつつ、人里に案内して好感度を稼いでおくとするか、と思考した。

 

 

「立て」

「でも……」

「あァん? どうした」

「腰が抜けちゃって立てない……」

 

 

 恥ずかしそうに目をそらしたガキは、確かに身体を微かに震わせていた。

 考えてみれば夜の森は寒い。しかしそれだけの震えではないだろう。

 ため息を吐くとそのガキは肩を跳ねさせた。

 

 

 クックック、だいぶ俺に恐怖しているようだなァ……?

 いつもなら恐ろしい虐待を施してやるところだが、今の俺は心優しい旅人。圧倒的な実力の差を見せつけてやりつつ、立てるようにしてやるか。

 

 

「ガキ、見てろ」

 

 

 人間の魔法使いは杖を使うが、魔族にはそんなもの必要ない。

 全身からほんの少しの魔力を立ち上らせて、以前見た魔法を再現する。

 

 

「花畑を出す魔法」

 

 

 フランメからフリーレンに受け継がれた魔法。

 綺麗な精神を持っている彼女らにふさわしい魔法であるが、骨の髄まで悪辣な俺が使うことで間接的に二人を貶める、恐ろしい虐待だ……!

 

 

「ガキを慰める」「虐待もする」両方やらなくっちゃあならないってのが「最強の魔族」のつらいところだな。覚悟はいいか? オレはできてる。

 

 

「わぁ……」

 

 

 先程までの暗い表情は何処へ行ったのか。

 ガキは双眸にキラキラとした光を宿して、肩から力を抜いた。

 

 

「もう立てるか?」

「えっ……あ、立てる」

 

 

 もはや自分が腰を抜かしていたことも忘れていたようで、ガキは軽々と立ち上がる。

 横においていたバスケットを持ち上げて、深々腰を折った。

 

 

「ありがとうございます、おかげで助かりました」

「クックック、まさかとは思うが、ここではいお別れとでも言うつもりか?」

 

 

 厭らしく口角を歪め、終わりみたいな空気を生んだガキを責め立てる。

 

 

「夜の森にガキを一人置いていくような、そんなやつに俺は見えるかァ……?」

「そっ、そんな」

「人里まで連れてってやるぜ……! 付いてきな……!」

 

 

 隠していても恐ろしさというのは滲み出るものらしい。

 おっかなびっくり、といった様子でガキは三歩ほど後ろを付いてくる。

 子供は大人には見えないものが見えるとか言うが、それは魔族の恐ろしさにも反映されるんだなぁ?

 

 

「ガキ、お前名前は?」

 

 

 振り返って、身体に対して大きすぎる気もするバスケットを抱えているガキに尋ねた。そういえば自己紹介もしていなかったことに今更気づいたようで、少し焦ったように口を開く。

 

 

「ヒンメルです」

「クックック……俺はケーフィヒだ」

 

 

 案外素直に吐くじゃねぇか。

 しかしその素直さがお前に牙を剥く。

 

 

 俺は相手の名前を知っていれば常に場所を把握する魔法が使えるからな……気が向いたらいつでも虐待してやるぜ。

 ちなみにこの魔法の開発者はゼーリエである。当然のようにかけられたが、抜群のセンスによって解除済みだ。フランメにも気まぐれに教えたっけなぁ。

 

 

 しばらく沈黙が支配する森を歩き続けると、やがて村が見えてきた。

 

 

「一応聞いておくがあそこがヒンメルの住んでいる村だよな?」

「はい」

 

 

 小さく首を振ったのを見届けて、ニヤリと笑う。

 おそらくヒンメルの親は自分の子供が遅くまで帰ってこないことに絶望を覚えていることだろう。こいつは親になにも言わずに遊び呆けるタイプには見えないからなぁ。その恐怖もひとしお。

 自分はなにもせずに絶望の顔だけは楽しむ。俺レベルになると二兎だって簡単に得られるんだよなぁ……!

 

 

 締め切られている入口を見て、正面から入るのを諦める。

 ぽつーんと心細げに立っているヒンメルを腕に抱えて、魔力で強化した身体能力でもって壁を跳び越えた。

 

 

「わっ!?」

 

 

 子供らしい、甲高い悲鳴だった。

 それにしては何処か楽しそうな色が混じっているような気もするが、まぁ気の所為だろう。知らないやつに抱えられているんだからな。

 

 

 音も立てずに着地してヒンメルを解放する。

 ふらふらとした足取りだったが、転ぶようなことはなかった。

 

 

「で、お前の家は?」

「あそこです」

 

 

 指差された建物は一般的な家とは違い、いかにも女神様でも信じていますよと外観からも言っているようであった。つまり教会じみていた。

 

 

「あぁ、孤児だったのか」

「はい」

「ふぅん、悪かったな。短慮だった」

「珍しいものでもないので」

 

 

 気にしてません。ヒンメルはこともなげに言い放った。

 まぁ俺の前世では孤児は珍しいものだったが、この世界ではありふれた存在だ。だから気にしたりしないか。と頷く。

 

 

 ……クックック、ひとまずこいつを帰らせて、俺は野宿でもするか。

 

 

「じゃあな」

「えっ」

「まさか目と鼻の先なのに迷うなんて訳でもないだろう? なにを戸惑っている」

 

 

 ヒンメルはきょろきょろとあたりを見渡した。

 それはちょっとした勇気を必要とする決断をするための時間を稼いでいるような動きだった。

 

 

「あの、今日は泊まっていきませんか」

「ほぅ」

 

 

 なるほど、面白い提案だ。

 女神を信仰している場所に俺みたいな魔族が侵入したら何が起こるのか? 試したことがないからわからん。そして考え始めたら気になってきたぜ。

 大規模な虐待をしたらゼーリエに気付かれるかもしれないから出来ないし、しばらくは暇が続く。

 ならばここでちょっとした暇つぶしをしていくのもいいか。

 

 

「クックック、世話になる」

 

 

 明日から宿に泊まるのも良いな。振り返ってみれば、俺は普段から天脈竜の背を拠点にしていたから、人間の街に長く滞在したことがない。

 もしかすると新しい虐待のアイデアを思いつくかもしれないしなァ……!

 

 

 目を輝かせたヒンメルの背を見送って、綺羅星を宿す夜空を見上げた。

 そういえばフリーレンはどうしているんだろうな。虐待の責任を取るために俺を殺させようとしたのだが、何故か何事もなかったかのようにあのあと目を覚ました。

 明らかに助かるような傷ではなかったのだが……。

 まさかフリーレンにかけた「祝福を授ける魔法(サラフォリーレ)」の影響か?

 

 

「――そんな訳ないか」

 

 

 ふと浮かんだ下らない仮説を打ち捨てる。

 ぽてぽてと走り寄ってくるヒンメルに目を細め、回想をやめた。

 

 

「ケーフィヒさんを泊めても良いって許可をもらいました!」

「フフフ……」

 

 

 まぁ、この先どうなるかはわからないが、とりあえずは目の前に広がっている愉悦を貪るとするか。

 

 

 ◇

 

 

「……この魔力って」

 

 

 魔法によって召喚された花畑が散った頃、白髪のエルフがそこを訪れた。

 空気中に漂う魔力の残滓には覚えがある。

 というか、忘れたくても忘れられないほど脳裏に刻み付いたもので。

 

 

「ケーフィヒ?」

 

 

 数百年前に失ったと思っていたものの気配。

 気の所為だろうか。いや、気の所為じゃない。

 確かに彼は自分の手でとどめを刺した。だけど私の魂がそれを確信している。漂っている魔力がケーフィヒのものであると。

 

 

 考えてみたら魔族は死んだら死体が残らないはずだ。あのときは動転していて気にしなかったが、彼の死体は残っていた。

 なるほど、これは。

 

 

「……探しに行こう」

 

 

 きっとこの近くにいるはずだ。

 そう呟いて歩き出したフリーレンが悪辣な魔族と再会するのは、案外すぐ先である。






続きはない。





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