汚いエルフを見つけたので虐待することにした   作:音塚雪見

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続きはないとか言ったじゃねえか嘘つきは死刑! って石とか投げないでください。
以前の描写と矛盾があっても、これは違う世界線ということでご勘弁願います。


第B話

 汚いエルフを見つけたので拾ってみた。

 

 

 俺はぬぼーっとこちらを見ている幼女に、困惑の視線を向ける。互いに見つめ合っているものだから、なんとも言えない時間が経過する。もしもこの状況を誰かに観測されたら、ロリコンの誹りは免れないだろう。

 しかしその可能性はない。なんて言ったって、ここは光も射さない遥か地下なのだから。

 

 

「えーと、君の名前は?」

「ゼーリエ」

 

 

 汚いエルフもといゼーリエは、やはり何を考えているかわからない目を向けてくる。

 手にぶら下げた灯火によって作られた影が、まだ色気のいの字もない彼女の顔を黒く揺らした。

 

 

 俺は久しぶりに自分以外の生物を見て、実のところ安心していたのだ。異世界転生してから一年ほどだろうか。前の体に比べて圧倒的に強いことにあぐらをかいて、寝食もそこそこに旅ばかりしていた。底も見えない宝石でできた谷、首が痛くなるほど見上げなければ見られない高度をゆくドラゴンの姿。

 これぞ異世界、という風情に溢れた風景に、興奮しまくっていたのだ。

 

 

 それで、さあ次は何処へ行こうかと適当に歩いていたところ、地面にぽっかりと空いた穴に落ちた。

 不幸中の幸い、それほど深くなかったようで、数メートルくらいで底に着く。したたかに腰を打ち付けたが、命を落とすよりも遥かにマシだろう。すぐに脱出しようとしたのだが、どうにも穴は垂直で登れそうにない。

 ここが魔法の出番なり、と華麗に使えればよかった。しかし未だに俺は、用途のわからない魔法しか使うことはできなかった。ただ魔力を消費するだけで、どんな効果があるのかわからない。

 

 

 だから諦めて穴の中を探索することにしたのだ。これが大体三ヶ月くらい前の話。

 

 

「……………………」

「……………………」

 

 

 流石は魔族のちーとぼでぃと言うべきか、常人であれば発狂しているであろう環境でも問題なかった。乾燥した木の棒を拾い、なんとか火を起こし、石炭っぽいやつに引火させる。たまたま落ちていた石に固定して、偶然だよりの灯火を作った俺は、下に下にと続く穴を攻略する。

 そうして出会ったのがゼーリエだ。誰もいないのだから気にしなくてもいいだろ、と大きく歌を歌っていたら、ぬぼーっと壁に張り付いて立っていたのだから滅茶苦茶ビビった。

 はじめは幽霊だと思った。やはり異世界だからそれくらいいるだろうって。

 

 

 けれども、おそるおそる話しかけてみたら返事が返ってくるし、足もあるし影もあった。

 一言断ってから肌に触れてみても、ほんのりと温かい。

 それらの理由から、俺は彼女が生きていることを確信した。

 

 

「うーん」

 

 

 しかしそれが問題なのだ。

 ここは日の光も差さない地下世界。魔族ぼでぃーだからなんとかなっているのであって、およそ正常な生物が生きていける環境ではないだろう。

 汚いエルフであるゼーリエを見つめる。彼女はぬぼーっと見つめ返してきた。

 

 

「どうしてここに?」

「落ちた」

「なるほど」

 

 

 俺と同じらしい。

 あんなあからさまな穴に落ちるのは自分だけだと思っていたが、案外みんな落ちるんだな。ゼーリエが底抜けに注意力散漫という可能性もあるが、俺は自分をそうは思わない。つまりあの穴は巧妙に隠されたトラップなのだ。落ちるのもやむなし。

 

 

 ここに来てから食事をしたことがないので、どうやって生き延びてきたのか、と彼女に訪ねたところ、「壁に生えてた苔とか、小さな虫とかを食べてた」という返答を頂いた。

 俺は泣いた。思いがけないところで自分以外の生物を見なかった理由を知ってしまった。それにしたって、こんな小さな少女が苔だの虫だのを食べるなんて。

 

 

「私小さくない」

「え?」

「エルフは長生き」

 

 

 なるほど。エルフといえば長命種の代名詞のような存在だ。一見幼いように見える彼女も、きっと実年齢はうん百歳とかなのだろう。

 

 

「十歳」

「見た目相応じゃねえか」

 

 

 反射的に突っ込んだ。ゼーリエはぬぼーっと首を傾げる。

 

 

 ずっと会話していても埒が明かないと思ったので、俺は彼女を連れて先へ進むことにした。意思が薄弱なように思われたゼーリエだが、「一緒に来るか?」と言ったら黙って頷き、その後はパーティーに加入したNPCのごとくついてくる。あまりにも静かなものだから、心配になって時々振り返ると、やはりぬぼーっとこちらを見つめていた。

 

 

 汚いエルフ汚いエルフと彼女を形容してきた俺。

 しかしずっと地下世界を探検してきたのもあって、こちらもそれなりに汚れまくっている。

 異世界基準では潔癖と評されるほどの衛生観念を持っている自分としては、早急に体を洗いたかった。まあそんな都合よく体を洗えるようなところが見つかるはずもなく、俺はため息をつく。

 

 

「温泉」

「都合いいなあ」

 

 

 諦めモードで曲がり角を曲がったら、なんと湯気がほかほか浮かぶ温泉があった。

 ゼーリエは嬉しいのか嬉しくないのかわからない微妙な表情だが、俺は小躍りでもしそうな心地である。

 

 

 早速服を脱いで爪先をつける。毒だったりしたらこれでお陀仏である。しかし謎の確信が、『これは絶対に安全な温泉だ』と主張していた。

 しっかりと肩まで温泉に浸かって、いつの間にかすっぽんぽんになったゼーリエが隣にいた。

 

 

 あまりに気配が薄いものだから気が付かなかった。流石にこんな少女に欲情するほど変態でもないので、落ち着いて温泉を満喫する。何度も念押しするようだが、彼女は内面を一切見せない、ぬぼーっとした表情をしていた。

 

 

 汚れを落とした俺達は、乾燥するのを待って再び服を纏う。

 せっかく綺麗にしたのに土に塗れた服を着るのに抵抗もあったが、素っ裸で穴蔵を闊歩するようでは、誰が見ても正真正銘の変態だ。

 抵抗感と常識を天秤にかけた結果、後者が勝った。

 

 

「……………………」

「……………………」

 

 

 沈黙が痛い。

 ゼーリエは何も言わないし、俺も必要がなければ話しかけない。

 結果として生まれるのは、暗闇を灯火だけが頼りの中、黙りこくって進行する二人の図である。

 

 

 さしも沈黙を好まない俺は、ぬぼーっとしている彼女と楽しくお話しようと、足りない頭を捻って会話を繰り出した。

 

 

「……虫って美味しい?」

「全然」

 

 

 そりゃそうだ。何馬鹿なこと聞いてんだ。

 

 

 もはや堅固な城塞のように見えてきたゼーリエに通じる話題が思いつかない。そもそもとして、転生してからまともにコミュニケーションを取っていないのだから、普通よりも難易度の上がる子供相手、しかもぬぼーっとしている彼女と楽しくお話できるビジョンが思い浮かばなかった。

 

 

 ため息をついて魔力を弄ぶ。ちーとぼでぃのおかげか、不確かで目に見えない「魔力」であろうものが、謎の感覚によって捉えられていた。

 だから暇になったら大体魔力を弄っているのだ。

 

 

 そうして再び沈黙が降りると思ったのだが、何処からか痛いほどの視線を感じる。

 この穴の中に人間は三人としていないので、視線を発する原因ははっきりとしていた。

 

 

「……………………」

 

 

 ゼーリエがこころなしかキラキラとした目を向けてくる。灯火の光が揺らめいて反射しているだけなのかもしれないが、俺はこれをとっかかりにして会話をしようと試みた。

 眉間のあたりに力を込めて、魔力を明るくしてみる。

 

 

「わあ」

「魔法好き?」

「…………魔法?」

 

 

 どうやら彼女は魔法を知らないようだった。もしかしたら名前が違うのか、それとも存在しないのか。

 どちらにせよ興味は引けたのだから儲けものだ。俺は魔力の形を色々と変えて見せた。その度にゼーリエの表情は明るくなる。

 

 

 彼女に聞いてみたところ魔力の存在は感じ取れるようなので、魔法も使えるかもしれない。

 暇つぶしがてら魔力の手ほどきをして、しばらくしたら「魔法見せて」と言ってきた。

 

 

「……魔法ね」

「駄目?」

「いや、いいんだけど」

 

 

 俺が迷っているのは使うか使わないかではなく、使ったところで効果がないということなのだが。

 そんな内心の葛藤を知るはずなく、ゼーリエは期待した双眸を向けてくる。

 せっかくの子供の期待に水を注すなど悪辣でない俺にはできない。そんなことができるやつがいたら、きっと生粋の悪に違いない。

 

 

 じっと見つめてくる彼女に緊張しながら、魔力をこめて口を開く。

 

 

祝福を授ける魔法(サラフォリーレ)

 

 

 この世界で最初から『使える』と確信していた不思議な魔法。

 たまに自分に向けて使用していたが、いまいち何かが起きているような感じもしない。

 もしや他者に使わないと意味がないのでは、と今回はゼーリエを対象にして使ってみた。

 

 

「……………………」

「…………どうだ」

「不思議」

 

 

 何が???

 俺にとっては君の方が不思議だよ。

 

 

 変化があったのかないのか、彼女のぬぼーっとした顔からは読み取れない。

 どうせ何もなかったのだろうと息を一つついて、俺達は再び歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれなんだと思う?」

「川」

「だよなぁ……」

 

 

 ごうごうと水が流れていく。灯火が雑に反射して、光に慣れない目には随分と厳しい。

 あれから探検を続けて十分ほどだろうか。なんとびっくり地下に川を見つけてしまった。そしてここが行き止まりである。実を言うと今まで一本道だったので、簡単に言うと詰み。

 

 

「どうする? 一生一緒にここで暮らすか?」

「それもいいけど、食料が尽きる」

「確かに」

 

 

 俺は魔族だからまともに飲み食いしなくても大丈夫だが、エルフであるゼーリエは違う。ここまで来るのに生えていた苔は少なかったし、虫もいなかった。たとえ諦めて暮らそうとしても、待っているのは避けようのない餓死である。

 

 

 川なのだから魚の一匹くらいいるんじゃないか、と思って覗き込んでみたが、透き通る水面には未だ見慣れぬ一対の角を持った男のみ。魚の影すらなかった。

 

 

「じゃあ穴に戻って、なんとか登れないか試してみよう」

「川に飛び込めばいい」

「なんて?」

「川に飛び込めばいい」

 

 

 どうしようもない現実に壊れてしまったのだろうか。

 ゼーリエはやはりぬぼーっとした顔で、とんでもないことを口走る。

 確かに川の流れは速い。これが地上に繋がっていたりしたら、もしかすると死ぬ前に出られるかもしれない。けれども死ぬ可能性の方が絶対に高い。それだったら、戻って穴を上る方が遥かに現実的だ。

 

 

 俺は聞き分けの悪い子供に説くように、優しく言う。

 

 

「危ないから、穴に戻ろうね」

「大丈夫。『絶対に安全』だから」

「なんで?」

「不思議な確信がある」

 

 

 それ確信じゃない。自暴自棄って言うんだよ。

 

 

 梃子でも動かない、といった様子の彼女の腕を引っ張って、なんとか戻そうとする。

 しかし一体何処にそんな力があるのか、ゼーリエは全く動かなった。それどころか、徐々に川の方へ近づいている。この先に待つのは集団自殺である。俺はともかく彼女を死なすわけにはいかない。

 

 

 だから思い切り引っ張ったのだが、それがよくなかった。

 俺達はバランスを崩して、透き通る水面に叩きつけられた。

 

 

「あ」

 

 

 残せたのは呆けた息だけ。

 勢いの速い川に飲み込まれ、せめて腕は放すまいと胴体ごとゼーリエを抱きしめる。

 くぐもった声が聞こえたような気がしたが、それは濁流にのみ込まれて消えた。

 そして意識すらも水に溶けていき、肺にあった空気が吐き出されるのを、他人事のように眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助かった」

 

 

 ぐしょぐしょになった服を脱ぎ捨てて、俺は重たくなった髪をかき上げる。

 どうやらゼーリエの言った通り助かったようだ。久しぶりに浴びた太陽の光が身体に沁み込んで、震えるほどの快楽をもたらす。

 これほどまでに地上というのは素晴らしいところだったのか。自由って最高だな。もしも俺が拘束されたとしたら、何をしてでも逃げ出す自信がある。今その自信が生まれた。

 

 

 必死に抱きしめたのが功を奏したようで、ゼーリエはぐったりとしたまま俺の横で寝ている。相変わらずぬぼーっとした表情をしていて、緊迫感やらは何処へ行ってしまったのかと心配になった。

 別に彼女の親でもなんでもないから、叱ったりする資格はないのだろうけど。

 

 

「……ん」

「起きたか」

 

 

 ゼーリエはのっそりと起き上がると、何度か辺りを見渡し、最後に俺の顔を見つめてきた。

 いやなんで??

 

 

 気まずい沈黙が周囲を満たす。気まずいと思っているのはこちらだけで、相手は何も気にしていない気がするが。ぬぼーっとしていてよくわからない。

 やがて満足いったのか、彼女はそっと近寄ってきた。

 

 

「ね」

「ね、じゃねえよ」

 

 

 自信満々にない胸を張ったから、俺は軽く額を弾く。

「あぅ」などと言って首を傾げるゼーリエ。本当に何故デコピンされたか理解できないようだ。

 

 

「あれは偶然。都合よく川が外に繋がってただけだ」

「必然。確信があった」

「勘違いです」

 

 

 はあ……とため息をつく。

 何処かわからず屋を見るような目を向けられている気がするが、彼女の双眸を覗き込んでも、いつも通り思惑が読みとれない。つまり勘違いだろう。

 まあなんにせよ助かったんだ。今後は穴に落ちないように、そうだな、いっそ空にでも住んでみようか。そうしたら穴に落ちることはなくなる。代わりに空から落ちてくるかもしれないけど。

 

 

 魔法が上手く使えたらその状況でも助かるのだろうなあ、なんて実現するかもわからない未来について妄想する。自由で最強の魔族様。かっこいいー。

 

 

 お日様の光で濡れていた服もだいぶ乾き、不快感もなくなってきた。

 そろそろ別れようかと口を開きかけると、ゼーリエが裾を掴んでくる。

 

 

「どうした?」

「ついてく」

「え」

 

 

 まだ口に出してないのだけど。

 よほど不思議そうな顔をしていたのだろう、彼女はぬぼーっとした目で囁いた。

 

 

「魔法使いたい」

「えぇ……いやまあ、別にいいけど」

 

 

 教えるのに否やはない。それどころか楽しみですらある。自分でも魔法が碌に使えないのだから、もしかするとエルフであるゼーリエなら、魔法の使い方をマスターするかもしれない、という期待もあった。

 

 

「それにあの魔法を使ったんだから、もう離れられないよ」

「なんか言ったか?」

「何も」

 

 

 清々しいぬぼー顔である。これから情緒は育っていくのだろうが、まともに育つのだろうか? 心配になってきた。完全に親目線だ。

 

 

 結局俺達は別れることなく、同じ道を目的なく進むことになる。意味が与えられるのは遥か未来のこと。最強の魔法使いなどと呼ばれることになるゼーリエが、初めて使えるようになったのが「服の汚れをきれいさっぱり落とす魔法」であるのは誰も知らないことだろう。あの穴での出来事から、たとえ水浴びをできなくても服くらいは綺麗な状態にしたい、と二人で頑張って開発したのだ。

 

 

 季節が何回も何十回も何百回も何千回も過ぎて、俺達は成長する。

 人間らしく優しい心を持っていた俺は、見るも無残な、誰しもが恐れおののいてしまうような魔族に。

 ゼーリエは、ぬぼーっとしていたのも見る影もなく、絶対魔族ぶっ殺すウーマンになってしまった。以前人間の女のような見た目をした魔族に「私達付き合わない?」と言われた頃くらいから、そんな傾向が見え始めている。一体何が彼女を変えたのか皆目見当もつかないが、いわゆる「虐待」をするのであればそれくらいがちょうどいい。

 

 

 それはそれとして逃げるけど。

 

 

 なんってったってゼーリエは強くなりすぎちまったからなぁ!! 奴が作って欲しいといったから作ってやった腕輪を、あろうことか俺に着けやがった。

 別にそれは想定していたからいいものの、あまりにも殺意が強すぎたから思わず拠点ごと放棄してやったぜ。

 

 

 世界最悪の魔族である俺に長年の情なんてものはないんだよなぁ! まああいつが寂しがってたら、たまにくらいは顔見せてやってもいいが。

 その後も自由気ままな虐待ライフを楽しみ、最近はゼーリエと同じ、汚いエルフを見つけたから虐待することにした。奴はなかなかに強情で、俺の腕も鳴るってもんよ。虐待の先輩であるフランメも捕まえてきて、いよいよ虐待も佳境ってところだな!

 

 

 いやあ、やっぱり自由って最高だぜ!!!!!!

 

 

 ◇

 

 

「ゼーリエ様、機嫌よさそうですね」

 

 

 本に囲まれた椅子に座るエルフが、弟子の放った言葉に眉を上げた。

 

 

「そうか?」

「はい。いつも薄気味悪い笑みを浮かべていますが、今日は幼子のような純粋無垢な笑みです」

「そうか、そう見えるか」

 

 

 お前は折檻だ。

 冷たく呟かれると同時、何処からともなく檻が落下してくる。

 弟子は容易く閉じ込められてそのまま地面に沈み込んだ。

 

 

「……それにしても、機嫌がいい、か」

 

 

 にやり、と。

 ゼーリエはまるで恋する乙女のごとく、それにしては少々粘度が高いものの、華やかな笑みを浮かべる。

 

 

「それはそうだろう。なんといっても久しぶりに師匠(せんせい)を捕まえたのだから」

 

 

 孫弟子が連れてきたフェルンとかいう者に、思い出の魔法を持っていかれて落ち込んでいたが。

 思い出どころかケーフィヒ本人を捕まえることができたのだから、むしろお釣りが出るくらいだ。魔法はいくらでも覚えなおしがきくが、彼は自由気ままに何処かへ羽ばたいて行ってしまう。それこそ鳥かごに囚われた鳥のように。

 

 

 しかし、まあいつものことながら彼は見積もりが甘い。

 

 

 自分の持つ魔法がどんな効果をもたらすか考えずに、軽々と披露してしまう。だからこんな女に捕まってしまうのだと、ゼーリエは天井を見上げて頬を緩める。

 フリーレンも怪訝そうな顔をしていたものの、ケーフィヒの存在には気付いていないようだった。かすかな魔力すら出ないように監禁しているから当然ではあるが。というかその状態で訝しんだ彼女がおかしいのだ。

 

 

「さて、今日は何をしようか」

 

 

 ゼーリエは彼を捕まえるために設立した大陸魔法協会の長の座に座りながら、今日も幸せな生活を夢見る。

 いつかケーフィヒは逃げ出すのだろうが、また捕まえる。それが必然だから。

 たとえ彼の存在がバレたとしても、魔族に対する魔法の実験だのなんだの言えば納得してもらえるだろう。外への言い訳はばっちりである。

 

 

 彼女には不思議な確信があった。幸せな確信だ。

 まるで祝福のような。




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