汚いエルフを見つけたので虐待することにした   作:音塚雪見

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第二話

 俺が部屋に突入した頃には、フリーレンはバッチリ目覚めていた。

 やはりベッドでの寝心地は最悪だったようだな……? 自分だったら絶対に昼くらいまで寝ているからなぁ。今日たまたま目覚めたのは彼女の虐待が楽しみすぎたからだ。

 小学生とかによくあるだろ? 翌日の遠足が楽しみすぎて、碌に眠れず直ぐに目覚めることが。アレだ。

 

 

「外に出ろ」

「……分かった」

 

 

 ふん、殊勝な態度だな。相当精神にキているらしい。エルフの集落で見た感じ、魔族絶対許さないウーマンだったはずだからな……こうして俺に従っているのは、明らかに昨日の虐待による恐怖が残っているからだろう。

 まーた将来有望な魔法使いを折ってしまったか。自分で自分のことが怖くなるね。

 

 

 大人しくついてくるフリーレンを背に、趣味の良いログハウスから出る。

 やはり天脈竜の上ともなると強い風が吹いていそうなものだが、そこは俺の「強風が程よい感じになる魔法」で何とかしている。

 以前頑張って作った家が吹き飛ばされたからな……あれは衝撃的だった。起きたら吹き抜けになってたからな。二階ないのに。

 

 

「……何をするんだ」

 

 

 心が折られたとはいえ、警戒を怠るつもりはないらしい。彼女は俺を睨みつけ、いつでも魔法が使える構えだ。

 

 

「クックック……お前には、体外に放出する魔力を十分の一以下に抑えてもらう」

「は……」

 

 

 呆然としているなぁ? それはもう我慢が出来ない領域の命令だろう?

 魔法使いのプライドと言えば、自身の魔力量だ。魔力量とは人間で言うところの地位や財産のようなものであり、尊厳そのものだ。それを隠すというのは一時的なものであればともかく、ずっとやるとなれば非常に屈辱的なものだろう。

 それを強制される……さぞかし辛かろうよ!!!!!!!!

 

 

 フリーレンは何かを考えているようだが、黙りこくったまま腕を組む俺を見てため息を吐き、やがて放出する魔力量がどんどん薄くなっていくのが見えた。

 ほぉ……この一瞬でここまで制御するとは。俺ですらもかなりの時間がかかったと言うのに、やはり天才か。

 

 

「ククッ、流石天才。よく制御できている」

「この程度、エルフなら誰でも出来るよ」

 

 

 かっちーん。

 

 

 てめぇ俺に喧嘩売ったな? 異世界転生天才魔族であるこの俺が!!! 苦労した技術を言うに事欠いて「エルフなら誰でも出来る」だと!? ははぁ、虐待される立場になっても反撃を狙っているらしい。

 それはそれとして許さんぞ!!!! 本当は一時的に魔力量を制限すればいいと思っていたが、お前には死ぬまで続けてもらおうか……!

 

 

「ところでこの魔力の制限はどのくらい続ければいいの? あまり長いと疲れるんだけど」

「俺と同じくらい」

 

 

 フリーレンが猫みたいな口をして首を傾げている。

 なんだァ、その顔……腹立つな。

 

 

 だが、いつまでそんな余裕を持っていられるかな!

 

 

「一生だ」

「え」

 

 

 呆然としているな、そりゃそうだろう。俺のように、強い魔族に絡まれたくないからやっているのではなく、やりたくもないのに強制されたらなぁ!

 

 

 クックック、笑いが止まらないぜ。

 あ、一応魔法使いとかにも効果あるけど、特に魔族に効果てきめんであることも教えておくか。

 

 

「お前は一生を賭けて魔族を欺くんだ」

「………………」

 

 

 まともなやつなら人(魔族)を騙すのに心を痛めるものだろう? それをやらされる……なんとキツイ虐待だろうなぁ。フリーレンの見開いた目が辛さを物語っているようだぜ。

 

 

 俺の高笑いが天脈竜よりなお高い空に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次はお前に世界で最も有意義な時間の過ごし方を教えてやろう」

 

 

 汗を垂れ流しながら地面に倒れ伏すフリーレンに、俺は口角を吊り上げて言った。

 

 

「………………」

「クックック、まぁそう警戒するな」

 

 

 とは言っても土台無理な話だろうがなぁ。

 うつ伏せになりながらもこちらを睨みつけてくる彼女は、やはり天才魔法使いか。このあまりにも厳しい虐待にも未だ心を折られていないようだ。

 

 

「こっちに来な。天国に連れてってやるよ」

「天国……?」

 

 

 とは言っても流石にキツイのか、フリーレンは一向に動こうとしない。

 仕方ないのでおんぶすると、俺は魔力を操作して宙に浮かんだ。

 

 

「これは……」

「あぁ、そう言えば人類はまだ空を飛ぶことが出来ていなかったなぁ」

 

 

 初めて空を飛んだのか、いつもは感情に乏しいフリーレンが心なしか明るい。

 もはや俺にとって空を飛ぶというのは呼吸するようなものだが、魔法に精通していない人類には早すぎるステージのようだなぁ。

 調子に乗って滅茶苦茶魔法を教え込んだフランメですら飛べなかったし。

 

 

「だがまだまだこんなものじゃないぜぇ? とびっきりの時間の使い方ってやつはよぉ」

 

 

 クックック、こんなもの序の口。そもそもこれが楽しいことだって言うのもすっかり忘れていたくらいだ。この程度で満足されちゃ困るなぁ……。

 

 

 全身で大気を切る感覚は、なるほど意識すると人間だった頃の感覚が呼び覚まされるようだ。

 超絶キュートなショタだった俺は、タケコプターに憧れていたからな。今やこうして生身で飛べるようになったわけだが、そうなるとあまり感動を覚えない。

 人間ってのは強欲なもんだ。まぁ俺はそれ以上に強欲で傲慢な、世界最強の魔族様なんだけどな!!!

 

 

 そのまま十分ほど飛んで、見えてきた大木に着地する。

 

 

「到着だ」

「ここは……」

「立派な木だろう? 気まぐれに植えた木がここまで大きくなってなぁ……」

 

 

 あれは五百年ほど前のことだっただろうか? いや、千年か?

 何年前かは忘れたが、とりあえずそこら辺で拾った適当な苗を植えたら、見上げるほど大きな大木になってしまったのだ。

 

 

「それで、ここで何をするんだ」

「クックック………………それはな」

 

 

 一瞬沈黙が降りる。

 フリーレンは感情が激しいタイプじゃないから、こうやって俺が黙ると気まずい空気になるんだ。

 もう少し明るくなってくれると嬉しいが……まぁせめてもの抵抗ってやつなんだろう! 受けて立ってやるぜ。

 

 

「昼寝だ!!」

「昼寝?」

 

 

 どうも理解が出来ないという顔だなぁ。

 フフフ、しっかりと夜寝たのにまた寝る意味が理解不可能と見える。確かに人間だったときの俺だったらそう思ったかもしれねぇ。だが、魔族として生まれ変わったことで無限に近しい寿命を得た俺は、いくら昼寝をしたところで変わらないんだよなぁ。

 

 

「したことないのか、昼寝」

「……私はそこまで寝るのが好きじゃない」

「クックック、せっかく長命種に生まれたというのに勿体ない。いいか、睡眠というのはなぁ、満足するまで寝るのが最適解なんだよ。つまり朝起きる時は自然と起きるのに任せるのが良い……」

 

 

 俺はフリーレンにだらしないところを見られてもなんとも思わないが、彼女は違うだろう。

 魔族なんていう宿敵……しかも異性にだらしないところを見られたら? 切腹も辞さないほどの羞恥を覚えるだろうなぁ……! これぞ練りに練られた虐待!!!

 自分の恐ろしさに惚れ惚れするぜぇ。

 

 

「何故かは知らないがこの木の上はハンモックのようになっている。しかも葉っぱが多いから風もあまり強くないというおまけ付きだ……ここで寝たらさぞかし気持ちいいだろうなぁ」

「……私はそういうの、よくわからないんだ」

「だったらこれから学べばいい。幸い、エルフには膨大な時間があるだろう?」

 

 

 堕落しきったお前の姿が目の前に見えるようだぜ、フリーレン。

 そのあまりのだらしなさに、未来の仲間が憤っている姿がなぁ!

 

 

 おずおずとハンモック状になっている枝に体重をかけ、身体を倒していくフリーレン。

 しかし魔族が横にいるという状況のせいか、全く眠気が訪れていなかった。

 仕方がないからしばらく頭を撫でる。頬に落ちる一筋の白髪をすくい取り、エルフ特有の長い耳にかけた。

 しばらくそうしていると、やっと眠りに落ちたようだ。

 

 

「………………頭なでんな、よぉ……」

 

 

 寝言でも反抗的なやつだ。

 それでこそ虐待しがいがあるぜ。

 

 

 俺はニヤリと笑うと、すぅすぅと寝息を立てるフリーレンの隣に座って、何もない空間から本を取り出し暇つぶしを始めた。

 

 

 ◇

 

 

「フリーレン様。時々話に出てくるケーフィヒ、とはどのような方なんですか?」

「ケーフィヒ? 話したことあったけ?」

「はい。以前温泉が好きになった理由も、そのケーフィヒさんに無理矢理入れられたからだと……」

「あぁ……」

 

 

 フリーレンはわかりやすく顔を顰め、不思議そうに首を傾けるフェルンをちらりと見た。

 うーん、これは素直に言わないほうが良いね……。

 

 

「……ただの馬鹿だよ。そうだね、自分のことを生え抜きの悪漢だとでも思ってたんじゃないかな」

 

 

 これ、私に何か隠しているときの顔だ。

 

 

 フェルンは何かを悟ったような、あるいは物凄く冷たい侮蔑の目を向ける。

 しかし白髪のエルフは完璧に誤魔化せたとでも思っているのか、猫みたいな口をして汗を流していた。

 

 

 フリーレン様との付き合いは長い。こういうときは碌なことがない。

 

 

 誤魔化すように咳き込んだあと、彼女は「それじゃ、後で宿でね」とフェルンを残して何処かへ歩いていった。

 おそらく余計な物を買いに行ったのであろうが、それ以上に気になることが出来てしまったので、口に出さず考え込む。

 深い深い疑いの眼が、段々と小さくなっていくフリーレンの背中に突き刺さった。




クソボケの名前はケーフィヒです。
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