ダンジョンがどうやって発生するのかは知らん。
それなりに長く生きてきたつもりだが、いつ生まれるのか、誰かが作るのか、そういうのには全く詳しくないんだ。
なんせ天脈竜の背で下界の人間共を見下すのに忙しかったからなぁ!
というわけでダンジョンに入った俺たちだったが、フリーレンがものすごくつまらなそうにしている。
その表情を見るのもなかなか乙なものではあるが、プロの虐待家としてさらなる地獄を生んでやるぜ。
「おいフリーレン。魔法は好きか」
「突然どうしたのケーフィヒ? 好き……いや、ほどほどかな」
彼女はなんとも思っていないような顔で、すんと答える。
「お前は少し前魔法が好きだとはっきり答えた」
「たった半年前でしょ」
「そうだな」
俺は顎に手を添えて、ダンジョンの天井を見た。
「その考えに至るまでなにがあった?」
「なにって……ケーフィヒとずっと一緒にいたんだからわかるでしょ」
「ククッ……たしかにな」
なるほどなるほど、そういうことか。
つまり度重なる虐待で、その手段として使われていた魔法に忌避感を覚えるようになってしまったと、そういうことだな!?
それでフリーレンは魔法が好きだと答えられなくなってしまった。
フフフ……虐待は無事に進行しているようだ。
しかし、それではつまらないよなぁ? もっと、もっと上を目指せる……!
「ダンジョンには宝箱がある」
「……うん、あるね。目の前に」
「あれの中には魔導書が入っていることがあるそうだ」
「へぇ」
あれの中にね。
彼女はつまらなそう……というか興味のなさそうな態度を取っているが、俺にはわかるぜぇ? 瞳の奥の奥、自分自身ですら感じ取れないところに魔法への情熱が燃え残っていることがよぉ!
エルフというのは感情に乏しい生物だが、それでも少しは感情があるのだ。
魔族やエルフにとっては半年などゴミのようなものだが、俺は元人間。多少は短命種の感覚も風化しきらずにこびりついている。
それによれば、半年というのはそこそこ長いものだ。そしてその期間をともに過ごし、少しくらいはフリーレンの感情が読み取れるようになってきた……。
クックック、これで虐待がはかどるなぁ!
「ワクワクするだろう? いまだ見ぬ未知、空っぽかもしれない、もしくはとても貴重な魔導書が入っているかもしれないという期待感は」
「……そんなに」
「わかるぜぇ、お前が隠そうとしても、この俺には通用しない」
不服そうにこちらを睨んでいるなぁ。
だがやめねぇ。フリーレンが再び魔法を好きだと胸を張って言えるようになるまで、俺は宝箱の魅力を語り続ける。
そうやってしばらく問答をしていると、彼女も折れたのか、ため息を吐きながら「それで、なにをすればいいの」と聞いてきた。
「開けろ」
「……それだけ?」
「それだけだ。その瞬間、全てがわかる」
片眉だけを上げて、宝箱へと歩いていくフリーレン。
クックック……俺にしてはぬるい虐待だとでも思ったんだろう? 違うんだよなぁ。
「じゃあ開けて……ッ!?」
ぱくり。
そんな擬音が聞こえてきそうな動きで、彼女はミミックに食われた。
これこれ、こーいうのよ!!
こーいうのが向いてんのよ!!
油断しただろう? 何の変哲もない宝箱だと。
俺にとっては宝箱かミミックか判断するなど造作もないこと。それをあえてミミックを開けさせたのは、こうやって食われるさまを見たかったからだ。
フリーレンの期待感を煽り!!
ワクワクしながら開けた宝箱の中には牙!!
呆然としただろう。恐怖を感じただろう。それが愉悦の種となる。
「ハッハッハッハッハ!!!!!」
「…………ケーフィヒ。助けて」
「あぁ? 聞こえねぇな。本心を言ってみろ」
澄ましたエルフはなんともないような感じを気取ってやがる。
癪に障るねぇ。そういう余裕をぶっ壊したいんだよなぁ!!!
「本心を話す魔法」
手を伸ばして俺が発動させたのは、状況を限定して胸に秘めている言葉を吐かざるを得なくなる魔法だ。
もちろん指定すれば常に虚言を吐けなくなるが、それでは虐待が面白くない。
ふつふつと浮かび上がってきているであろう恨みつらみを想像しながら、それでも抵抗できない状況に身を甘んじているフリーレンを眺めるのが楽しんだよ。
そこで俺は、「ミミックに食われているときのみ本心を話さなければいけない」という魔法をかけた。
さて、ここでやつがどんなことを考えているかわかるなぁ?
「――暗いよー!! 怖いよー!!」
やっと、飛び出してきたのは彼女らしからぬ子供じみた言葉。
「……ハッハッハ!!! やはりお前も子供かぁフリーレン!!」
あぁ、いつもは大人然としている白髪エルフの泣き言からしか得られない栄養がある。
おそらく彼女は生まれてからそこまで時間が経っていない。
まぁ数百年くらいは経っているかもしれないが、エルフにとっては子供だろう。
こうして魔法を使ったことで初めて子供らしい一面を見ることが出来たなぁ。
さぞかし恥ずかしいだろう。
恨めしい魔族に誰にも見せたことがないかもしれない面を見せてしまったのだから。
「ハッハッハッハッハッハ!!!」
「暗いよー!! 怖いよー!!」
ひとしきり無様な姿を楽しんだところで、普通にフリーレンを救出する。
ズルリとミミックから出てきたところで、乙女としての尊厳を終わらせる液体の噴出が止まったが、まだ恐怖が残っているのが見えるぜ。
「どうだった、フリーレン」
「…………どう、って」
「楽しかったか?」
懐から取り出したモコモコの布で彼女を拭いつつ、拗ねたのかこちらに顔を向けないフリーレンに尋ねる。
不満げにしていたものの、虐待の成果か大人しく白状した。
「……楽しかったよ、少しね」
「そうかそうかぁ、それはよかったなぁ」
クックック、宝箱を開ける楽しさに目覚めてしまったようだな。
正直言って本物の宝箱というのは少ない。だから魔導書を求めるというのであれば、多くのミミックに食われなければ成し遂げられないのだ。
未来に羞恥の種を蒔く高レベルな虐待!!!
それが長命種であるエルフならなおさらだ。いずれ俺の真意に気づいたとき、フリーレンはどんな反応をするんだろうなぁ。
今は先程の魔法の影響を引きずっているのか、多少童女のような受け答えをしているが、もしもこれが本当に成熟したとき……あの情けない様を仲間に見られたら。
「お前が何回食われても助け出してやる。だから安心して挑戦してこい」
「………………ケーフィヒは本当に魔族っぽくないね」
「クク、そりゃあなぁ?」
俺をそんじょそこらの魔族共と一緒にするんじゃねぇ。悪辣さも狡猾さも一枚……いや、千枚くらい上回ってるんだからな!!!
その後は効率的にダンジョンを攻略しようとするフリーレンを止め、ダンジョンは一階層ごとにコンプリートしてから次に進むのが鉄則だと教えこんだ。
これで時間を無駄に使わせるという虐待だ。
自分で自分のことが怖くなるね。これはそろそろ悪辣な大魔族、「虐待のケーフィヒ」という名が広まるのも近いな。
まぁ俺は人間を殺したことがないから、俺を知ってるやつなんて……フリーレン、フランメ、あとはゼーリエくらいか。
フフフ、そのすべてが俺の虐待被害者なんだから、当然ケーフィヒの名前を聞いただけで震え上がっちまう。
そんな状態で名前を広めるなんて出来ないだろうけどな!!!
「……いわば、無名の大魔族ってところか」
「どうしたの」
「なんでもないさ」
首を傾げているフリーレンの頭を撫でながら、俺たちは地下へ降りていった。