汚いエルフを見つけたので虐待することにした   作:音塚雪見

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第五話

 フリーレンを拉致ってきてから一年が過ぎた。

 この間は俺の見事な虐待技術により、彼女が激しい抵抗を見せることはなかった。しかし最近は起こそうとしてもまともに起きなかったり、ベッドから無理矢理引き剥がしてもぼーっとしていて、食事を俺任せにするなど舐め腐っているのが見える。

 

 

 対策として「寝坊助を起こす魔法」と「布団を吹き飛ばす魔法」を開発したけどな。

 

 

 お前のあえてだらしないふりをして俺に刃向かおうとする魂胆は見え見えなんだよなぁ!!

 クックック、今後とも意味のない抵抗を続けるといい。

 それを正面から叩き潰すことの心地よさよ。甘露かな。

 

 

 そして、半年前から制作を開始したものがついに出来上がった。

 まさか伝説の大魔族である俺が、ここまで苦戦するとはな……。

 いや、ちょっと作ってたら楽しくなってきちゃって、紅鏡竜の鱗とか、祈りを捧げる者がいなくなった神樹とかを材料に使ったのだ。

 

 

 俺は割とこだわりが強いタイプだからなぁ。

 職人肌ってことだ。

 

 

「おいフリーレン」

 

 

 ハンモックで寝ていた彼女を叩き起こし、不満げにこちらを見つめる瞳を鼻で笑う。

 

 

「クックック、お前には足りないものがあるよなァ?」

 

 

 頭の上にはてなマークを浮かべ、首を傾げるフリーレン。

 全く回転が鈍いなぁ? 

 

 

これ(・・)だよ……!」

 

 

 そう言って、何もない空間から取り出したのは立派な杖。

 

 

 そう!! 俺が作り出したのは、おそらく世界で一位二位を争う出来栄えの魔法の杖なのだ!!

 ちなみに張り合ってるのはフランメに押し付けた杖。

 どっちにしろ制作者は俺だから、世界を制しているのはこのケーフィヒだッ!!!

 

 

「それは……」

 

 

 肌で杖の凄まじさを感じ取っているのだろう。彼女は最近少し見られるようになってきた驚愕の表情を貼り付ける。

 さてさて、一体なぜこんなものを用意したのか……当然、虐待的意図があるんだよなぁ。

 

 

 魔族にとって魔法とは息をするようなものだ。

 だから当然補助器具などいらないし、むしろあったほうが邪魔。

 しかし人間にとってはどうか? 魔法とは理論であり、技術だ。当然補助器具があったほうがその効率は上がる。

 ……まぁ、今の時代に人間の魔法使いなんてあまりいないが、いずれ奴らにも魔法は広まるだろう。フランメとかやりそうだしな。

 

 

 そこでフリーレンに専用の杖を用意してやったのだ。

 魔族である(・・・・・)、この俺が!!!

 

 

 彼女にしてみれば魔族は喋る害虫だ。例えるならば直立して話しかけてくるゴキブリだろう。そんなやつから手作りのプレゼントでも貰った日にはどうだ? 全身がサブイボで覆われてしまう。

 だがフリーレンの立場では断ることは出来ない!!

 断ったらなにをされるかわからない恐怖が支配しているだろうからなぁ。

 

 

 瞬間的なものではない、持続的な虐待。

 持続可能な虐待ってやつだ。彼女は大好きな魔法を使うたび、「でもこの杖作ったの害虫なんだよな……」みたいなダメージを負うことになる!!!

 なんて恐ろしいことを考えるんだと、自分でも怖くなるね。

 

 

「遠慮するな」

「でも……」

「黙って受け取れィ!」

 

 

 やはり触りたくもないのか、フリーレンは戸惑いながら杖と俺の顔とを往復する。

 しかし結構時間がかかったのだ。不発に終わらせるわけにはいかない。

 無理矢理彼女の手を取って、しっかりと杖を握らせた。

 

 

「……っ」

「これは俺がフリーレンのために作った、お前だけの杖だ」

 

 

 だから誰かに押し付けたりするんじゃねぇぞ!!

 言わなくてもわかるだろうが、一応念押しに双眸をじっと見つめる。

 

 

 嫌悪感で瞳をうるませた彼女は、顔をうつむかせて、「……ありがとう」と震える声で言った。

 

 

 おぉ!? まさかここで嫌味を言ってくるとはなぁ!

 当然フリーレンが杖を渡されて喜んでいるという可能性はない。つまり先程の発言の意図は、虐待をして楽しくなっている俺に対する当てつけだ。

 

 

 クックック、相当追い詰められているだろうに、反撃を入れてくるとは……成長したってところかぁ?

 だが俺の虐待はこんなものじゃないぜ!

 

 

「早速だ、魔法の修行をしに行くぞ」

「……うん」

「任意の場所に移動する魔法」

 

 

 目の前にブラックホールじみた穴を出現させ、当てこすりに杖を抱きしめているフリーレンの手を引いた。

 移動した先は大きくせり出した岩場。

 下を覗きこめばクラッときてしまいそうな高さだ。

 

 

「ここは?」

「あれを見ろ」

 

 

 キョロキョロと不思議そうにあたりを見渡す彼女に、俺は谷の向こうに奇跡的なバランスで立っている岩を指差す。自然の奇跡ってやつを感じるぜぇ。

 

 

「あの一番岩を魔法で打ち抜け」

「え」

 

 

 フフフ、無理難題を押し付けられて怒り狂ってますって反応だなァ。

 目を見開いたその奥に、マグマのように煮えたぎる怒りが見えるようだぜ?

 一年間魔法を教えてきたものの、あの距離にある岩を打ち抜くほどのレベルまでは達していない。長距離魔法は魔法使いに必須な三つの要素の合わせ技だ。

 

 

 魔力の量、打ち出す力の強さ、コントロールする力。

 これら三つが高いレベルでないと、たとえ一番岩に届いたとしてもバランスを崩して倒れるだけだったり、そもそも当たらなかったり……とにかく、かなりの魔法技術がないと不可能だ。

 

 

 それを強制される……なんて酷い虐待なんだ!

 フリーレン、お前には同情するぜ。俺みたいな悪辣な魔族に捕まっちまったんだからなぁ。

 もしも俺と出会っていなかったら、きっと素敵な人生を送れたのだろう。白馬の王子様みたいのに出会って、恋をして……いや、こいつのことだから死後想いに気づくとかありそうだな。

 まぁ気楽な人生だっただろう。それが俺に出会ってしまったばかりに。

 

 

 フリーレンがまだ手に馴染まない杖を構え魔法を発動する。

 それはそれなりの威力をもって谷を飛び越えていったが、一番岩に到達する前に霧散した。

 

 

「……どんな修行をすればいいの?」

「クク、先に一つ聞こう。魔法は好きか?」

 

 

 しばらく考える時間を置いた彼女は、握りしめた杖を見て、口を開く。

 

 

「好きだよ」

「俺と同じだな」

 

 

 ニヤリと口角を上げ、俺はフリーレンと修行を始めた。

 

 

 ◇

 

 

 勇者ヒンメルの死から20年後。

 中央諸国。聖都シュトラール郊外。

 

 

「この森いつも迷うな……」

 

 

 白髪のエルフが森を歩いていると、紫色の髪をした少女に出会った。

 フリーレンは少女にこの森を訪れた理由を話すと、「ではお客様でございますね」と案内された。

 

 

「まだ生きてたんだ、生臭坊主」

「はっはっは。格好良く死ぬのも難しいものですな」

 

 

 森の奥にぽつんと立っていたログハウス、そこに住んでいたのは勇者パーティーの一員、僧侶ハイターだった。

 

 

「この家は……」

「私がこの森を訪れたとき、随分と寂れた……言ってしまえば、倒壊寸前の小屋を見つけましてね。ちょうどいいので修復がてら増築したのです」

「そう」

 

 

 家の中に入って懐かしそうに眼を細めるフリーレンに、ハイターは首を傾げた。

 

 

「ここはね、私が昔住んでいた場所だよ」

「そうだったのですか? しかし、私達が出会ったのは……」

「森の中。それよりもずっと前の話……そうだね、千年くらい前かな」

 

 

 思わずハイターは目を見開いた。

 どれほど昔から生きているかわからないとは思っていたが、まさかそれほどとは。

 

 

「と言っても精々十年くらいかな、ここに住んでいたのは」

 

 

 劣化を防ぐ魔法をかけたものの、まさか千年前から残るほどの強さとはね。

 流石にケーフィヒが使ったものだ、そんじょそこらの魔法使いのものとは根本から違う。

 

 

 そんな思いを口の中で噛み潰し、フリーレンとハイターはしばらくを話をした。

 

 

「……ではひとつ頼みごとを。弟子を取りませんか。フェルンには魔法使いとしての素質があります。あなたの旅に連れて行ってはくれませんか?」

「ごめんハイター。それだけはできない。足手まといになるから」

 

 

 眼を細めながら答えた彼女に、ハイターは口元を緩めた。

 

 

「そうですか。では別の頼みを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フリーレンは枝をかき分け、ハイターの「フェルンに魔法を教えてあげてくれ」というお願いを叶えるためにフェルンを探していた。

 魔力探知にほとんど引っかからないために、かなり苦労したようだ。

 

 

「いた」

 

 

 切り立った崖に臨んでいたフェルンは、やはり情動の薄い反応で振り返る。

 

 

「探すのが大変だったよ。いつも森で修行しているの?」

「フリーレン様でも私を見つけるのが大変でございましたか――」

 

 

 ――とてもよいことでございますね。

 

 

 そう思っているのかいないのか、やはり彼女の表情に色は見えない。

 しかし対するフリーレンも以前とは見比べるほど表情が柔らかくなったものの、依然として読み取りづらいことに変わりはない。

 そこに不思議な空間が形成された。

 

 

「ハイター様にあの一番岩を打ち抜けば一人前になれると言われました」

 

 

 そう言ってフェルンが視線を向けたのは、三日月のように一部が欠けた大岩。

 奇跡的なバランスで立っており、僅かな振動で崩れてしまいそうに見える。

 

 

「へぇ。ハイターもわかってんじゃん。あれはね――」

 

 

 ――私も昔、修行に使ったんだよ。

 よく観察しないと読み取れないほど薄く、フリーレンは口元に笑みを浮かべた。

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