俺は彼女が住んでいる石造りの小屋で、湯気が上るティーカップを傾けていた。
「……
もちろん毒殺を防ぐために――俺に毒はほとんど効かないが、こいつが自分の知らない魔法を開発している可能性がある――淹れたのは俺だけどなぁ!
自身の住処に招いて復讐しようとしているのは見え見えなんだよ。
「その言い方やめろ。さぶいぼが立つ」
「じゃあパパ」
「論外だ」
クソ、舐めやがって。
フランメは俺の正面に座り、なにが楽しいのかニコニコ笑っていやがる。
どうせ暗殺でもしようと計画を張り巡らせているのだろう? だが俺の虐待的洞察力には到底及ばないなァ。
見えるぜ、お前の隙の糸!!
「おっと、少しふらついているなぁ?」
彼女が目をつぶった瞬間に、純粋な身体能力によって後ろへ移動する。
紅茶を嗜みながらフランメの観察をしていた所、目の下に薄い隈、それに加えて僅かな魔力の残滓が見えた。
おそらく寝不足だ。そんな状態で俺を相手取ろうとは……随分と舐められたものだぜ。
「察するに、どうせ睡眠時間を削って魔族を殺していたんだろう? 昔からお前は無茶をする。しっかりと寝ろとあれほど言ったのになぁ」
どうだ、この「久しぶりに会った親戚みたいな距離感の会話を
魔族を心の底から嫌っているフランメには効果てきめんだろう!!
「……懐かしいな、これ」
「あぁ?」
「
嘘つくんじゃねぇ。
俺には見えるぜ、魔法によって隠していたものの寝不足に気付かれてしまった焦りが。
「魔法で隠蔽しようとするほど怖かったか?」
「…………そうだ、怖いな。一体どんな虐待をされてしまうのか」
ふふふ、とフランメは薄い笑みを浮かべた。
浅いんだよなぁ、俺を騙そうとするには、お前の演技は薄っぺらすぎる。
そんなことを思っていないのは明白だ。つまり間違いなく、その余裕ぶった表情は嘘であり、心の奥では虐待の恐怖に汗水垂れ流しているんだろう!?
「クックック……そうだな、久しぶりの虐待だ……軽いものにしてやろう」
嘘だけどなぁ!
さり気なく紅茶に仕込んでおいた眠気が我慢できなくなる薬の効果で、フランメの肩は頼りなく揺れている。そっと彼女を横抱きし、ベッドに放り込んだ。
魔族に抱かれる……これは、いわばカマドウマに愛情を示されているのと同じくらい気持ちの悪いことだ。
しかもフランメは大の魔族嫌い……。
「お前が眠りに落ちるまで頭でも撫でてやろうかァ? 子守唄もセットでなぁ」
「はっ、ガキ扱いするなよ……私はもうすぐ三十路だぞ……」
「俺にとっちゃフランメはいつまでもガキだ」
目蓋に乗った髪を取り除き、その流れに沿って撫でていく。
薄気味悪い魔族が横にいるだけで辛いのに、子供扱いまでしてくるとあってはなぁ。
きっとフランメは頭の中で絶叫していることだろう。哀れだな。
クックック……しかも、よく見ればこのベッドかなり硬いじゃないか。
つまりお前は硬いベッドが好きなんだな?
いいこと知ったぜ…………極上の柔らかさを誇るベッドを用意してやろう!! 身体が沈み込む違和感という柔らかさに抱かれながら寝ればいい!
「ハッハッハッハッハ!!!」
「うるさい」
「……………………」
まぁ常識的に考えて微睡んでいるときに大声を出されるのは頭にくるからな。
俺もそれくらいは弁えている。
やがてフランメは小さく息を吐いて眠りに落ちた。
それを確認した俺は立ち上がり、キョロキョロ室内を見渡す。
「……女っ気の欠片もない部屋だな。そういうのが嫌いなのか?」
あとでフリーレンに着せているようなフリルが沢山ついた奴をくれてやろう。
……さて、予想以上にフランメを容易くゲットしてしまった。
こちらの想定では虐待の恐怖に怯え逃げ惑う彼女を、神算鬼謀を用いて捕まえる……というものだったのだが。
トラウマがフラッシュバックしたか、やけに素直に俺の言うことに従ったからなぁ。
一週間くらいを予定していたが繰り上げ、今日中にでも帰ろう。
恐怖の象徴がいない幸せな生活を夢見ていたフリーレンを、絶望のどん底に突き落とす高レベルな虐待!
クックック、偶然のものとはいえなんて恐ろしいんだ……。
フランメが起きるまでの暇つぶしとして、エーヴィヒの魔導書を捲る。
せっかくだから絵でも使って難しくしたらどうだとアドバイスしたものの……まさか本当にやるとはな。
後世の奴らが期待して開いた魔導書が暗号まみれという落胆感を楽しむために言ったのだが。もしやエーヴィヒは俺と同じ虐待スキーだったのか?
フフ、人間にしてはなかなかセンスがあるじゃないか。
そうして一通り彼の魔導書に目を通していると、それなりの時間が経ち。
「師匠ッ!!」
目覚めたばかりであろう、毛が跳ねたフランメが走り寄って来た。
「どうした」
「…………はぁ、はぁ……なんでも、ない」
クックック、この俺にそんな言い訳が通じるわけがないんだよなぁ。
どうせ怖い夢でも見たんだろう? 起きぬけに大声を出すなんてそれくらいしか理由がないからな。
バレたのを察したのだろう、悔しさでフランメの双眸の周りに涙がにじんでいる。
俺にとっては世界で一番の光景だなァ? こういう光景が見たくて虐待をしているんだ!
これだけでも大分虐待ポイントを稼いでいるが、もう少し勤勉に頑張っとくか!
「もうフランメを置いて何処かへ行くことはない。安心しろ」
「…………本当だな?」
「あぁ。二度とお前を離さない」
大嫌いな魔族からの「もう逃さないぞ」宣言!!
ストレス値がマッハで溜まっていくのが目に見えるねぇ。
俺の虐待的センスが高すぎて、もしかして俺は悪魔の生まれ変わりだったのか? とすら思う。
最近騒いでいる魔王よりも悪辣レベルが高いことは間違いないなァ!
フランメは先程とは異なる理由で潤む瞳を俺に向け――先程は悔しさからのものだが、今は絶望由来だ――、おずおずと背に手を回してくる。
そしておそらくそのまま絞め技をかけようとしているのだろうが、自由落下程度ではダメージを受けない身体能力を誇っている俺に物理攻撃を仕掛けるとは……フッ、馬鹿め。
彼女の企みを真正面から打ち破るべく、堂々と抱擁し返してやった。
お前の叫び声が内心から漏れ聞こえてくるようだぜ!!
くすくす、と鼻をすする音だけが響く時間。
しばらく抱き合っていると、目が赤くなっているフランメが上目遣いを向けてくる。
「それで、
「……お前に弟子でも取らせようかと思ってな」
「弟子」
目を丸くしているフランメに気分をよくし、俺は口角を上げた。
「クックック……フランメにはそういうのが向いているだろう?」
弟子とかいう面倒くさいものを押し付けられるのがなァ!!
あぁ、ちょっと前はこうして雑事を押し付けていたものだ。例えば買い出しに出たときに人間の街を襲っていたドラゴンを倒させたり、強力な魔物に挑ませるものの、俺は後ろから観戦しているだけだったり。
フランメにとっては地獄のような日々だっただろうなぁ。
「いずれ人間にも魔法が広まるだろう、それは間違いない。そしてそのときに広めた者として名が残るのは…………フランメ、お前だ。何千年もフランメの名は風化せずに残り、あるいはおとぎ話の住人になるかもしれない。これはその練習みたいなものだ」
人間にとって禁忌である魔法。それを広めた奴をなんて呼ぶか知ってるか?
大罪人だよ!!! お前を無理矢理大罪人にする恐ろしい虐待! 自分で自分が怖くなるね。
呆然と目を見開くフランメを見ながら、俺は腰を反らせて哄笑し続けた。
もともとフランメは寿命で亡くなる予定だったのですが、予想以上に感想で生存を望まれたので
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そのまま行こう。
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生存のIFルートも見たい。