汚いエルフを見つけたので虐待することにした   作:音塚雪見

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第九話

 フリーレンを拉致ってきてから五年が経った。

 今や二人の師弟関係は強固なものとなり、よくフランメが命乞いする光景が目に映る。

 

 

 ……よく考えるとおかしいな? 一体どういうことだ?

 

 

 まぁきっとフリーレンに俺の虐待スピリッツが宿ったのだろう。

 あのだらしなさは、もはや虐待の域に突入しているからな。

 将来弟子とかを作ることになったら、そいつは大分苦労しそうだ。未来にまで虐待の種をまく悪辣な魔族……!

 

 

「暑い……」

 

 

 ものぐさエルフは机に頬を当てながら、襲い来る夏の猛暑に倒れていた。

 一応、用意してやった水桶に足を突っ込んでいるものの、この気温では直ぐに温くなってしまってほとんど意味をなさないだろうなァ。

 少しの冷を感じさせ、反動で暑さを強調する虐待だ。

 

 

 俺は四季折々の姿を持つ国が前世ということもあり、それら暑さやら寒さやらを楽しむ術を知っている。

 そのため気温調節の魔法は「命に関わるレベル」からしか調整してくれないという、若干ストレスの溜まる設定にしてある。

 フリーレンやフランメにとっては辛いだけだろうけどなぁ!

 

 

 天脈竜の背中にも生態系は存在する。

 木々に止まっているのであろう蝉の鳴き声も相まって、これぞ夏という雰囲気だ。

 

 

「クックック……夏といえば、あれか」

「あれ?」

 

 

 目の前でかき氷を食べられるという虐待をされ、額に青筋を立てているフランメが首を傾げる。

 

 

「海だ」

「あぁ……長らく行ってないな、そういえば」

 

 

 前世の記憶を掘り起こしながら「記憶にあるものを出力する魔法」で頑張って作ったかき氷を俺から強奪して、フランメが宙に目を彷徨わせる。

 祭りで見るようなストローのようなスプーンも再現したのに、もろとも取られた。

 そのまま彼女はいちごシロップ味のかき氷を頬張り、なぜか耳を赤くする。

 

 

「海に行くなら……そうだな、水着を着なければなぁ」

「水着?」

「泳ぐときに着る、まぁ下着みたいなものだ」

 

 

 水着を着るということは、イコール肌を晒すということ。

 魔族である上に異性である俺に見られるなんて、憤死ものだろう!?

 

 

「クク、実は以前から準備をしていてな」

 

 

 定期的に下界を訪れては、目星をつけてきていたのだ。

 こっそり砂の宮殿とかを作ったりしてきたなぁ……魔法で強化して、波で流されないようにしたのだが、あれは一体どうなったのだろうか。

 まぁ大して立派なものでもないしな、多分そのままだろう。

 

 

「フリーレン」

「ん」

「……フランメ、こいつをどうにかしろ。机にへばりついて取れなくなっている」

「この机、ひんやりしてて気持ちいいんだよね。多分魔法で維持してるんでしょ」

 

 

 ドロドロとしているフリーレンを起こそうと思ったのだが、意外と強い力で抵抗された。

 もちろん本気を出せば引き剥がせるのだが、以前力加減を間違えて「もっと優しくして」と言われたのでな。

 

 

「フリーレン、立て」

師匠(せんせい)も体感したら病みつきになるよ。ほら、ひんやりしてる……」

「立て」

 

 

 フランメの命令にも、ものぐさエルフには通じない。

 猫みたいな顔をしながらだらけているところに、無表情になった彼女が歩いていく。

 

 

 溶けているフリーレンの高さに合わせるように、膝を折り曲げ、

 

 

フリーレン。お前が時々、せん――ケーフィヒに寝かしつけて貰っていることは知っている

……なんでそれを…………

それを師匠権限で禁止するぞ

駄目だよそれは

 

 

 耳元でなにを言ったかは全く聞き取れなかったが、フランメがボソボソしたあとにフリーレンは普段とは見違えるような動きで立ち上がった。

 そして愕然としたような目つきでフランメを見るがどこ吹く風。

 

 

「……なにを言ったんだ?」

 

 

 こいつに機敏な動きをさせるなんて、よほどの強い言葉と見た。

 クク、そんなものがあったら、より一層虐待が捗るよなぁ……?

 オラッ! 聞かせろ!

 

 

師匠(せんせい)には内緒だよ」

「あァ? いいから……」

「内緒」

 

 

 チッ、しょうがねぇな……。

 虐待するのはいいが、無理矢理吐かせるのは趣味じゃない。

 それらはキノコとタケノコくらいの違いがあるからな。

 

 

「クックック、まぁいい。とにかく海だ、海に行くぞ」

 

 

 なにもない空間から水着を取り出し、二人に投げつける。

 それほど露出が多くないタイプの水着だ。まぁ当然カスタムできるように作ってあるけどなぁ?

 俺の虐待的技術を舐めるんじゃねぇぜ! 人は選択肢があると悩み、余計に時間を浪費してしまう。そこで選択肢どころか自由を与えればどうなるか? 

 当然比べ物にならないほどの時間をドブに捨てるというわけだァ……!

 なんて悪辣、転生するときに人の心は捨ててきたのだ!!

 

 

「任意の場所に移動する魔法」で空間をつなぎ、通ればそこは透き通るような大海原。

 海流の影響で流木などが流れ着いてはいるが、それは魔法で何とでもなる範囲だ。

 

 

「なにあれぇ……」

 

 

 フリーレンが砂浜に建つそれ(・・)を見て、目を擦った。

 

 

「気づいてしまったようだな……」

 

 

 俺はいかにも自慢げですよという空気を醸し出し、腕を組む。

 こういう細かなところでもマウントを取っていくことで、虐待ポイントを稼ぐのが大事なんだ!

 

 

「苦節十年……百年だったか? とにかく頑張って作った砂の城だ」

「砂の城……」

「本当に砂の城じゃねぇか」

 

 

 フリーレンは猫のような顔をして肩をすくめ、フランメは馬鹿を見るような目を向けてきた。

 ククク、思わず少年心が疼いてしまってな……。

 前世では絶対にできなかったスケール感で、魔法も駆使しつつ完成させたのだ。

 

 

 とは言っても、精々一軒家くらいの大きさだ。

 城を名乗るには少々力不足感は否めないが……まぁ上出来だろう。

 

 

「泳ぐときはウォーミングアップをしっかりしろよ。怪我されちゃ困るからなぁ」

 

 

 虐待はベストコンディションで行うから楽しいのだ。怪我をしているやつにやっても、それが虐待による苦痛なのか怪我による苦痛なのかが判断できなければ楽しくない。

 城の中で水着に着替えてきた二人は、言いつけどおり柔軟をし始めた。

 虐待による恐怖で命令に逆らえなくなってきているな……いい感じだ。

 

 

 俺はなにもない空間からお手製ビーチパラソルを取り出し、柔らかい砂浜に深く差し込む。

 そして同じくお手製のビーチチェアを召喚。

 砂を操って机を生成し、トロピカルジュースを取り出した。

 

 

「クックック……夏を最大限に楽しむ必需品……!」

 

 

 駄目押しにこいつ、サングラスだ。

 ぴかりと強い太陽光を反射するそれを装着する。

 

 

師匠(せんせい)は泳がないのか?」

 

 

 ウォーミングアップが終わったフランメが歩いてくる。

 俺はビーチチェアに寝転がりながら、確実に意味のない曲がり方をしたストローを吸った。

 

 

「俺は監視役だァ!」

「……そう。じゃあ私はフリーレンを見てくるよ」

 

 

 あの子は放っておくと流されちまいそうだからね。

 と呟きながら、案外気分が上がっているのか、足跡を残しながら走っていく。

 

 

 夏の開放的な空気に虐待が緩むとでも思ったか?

 馬鹿め、自由を求めて大海原に飛び込んだのかもしれないが、俺の目が黒いうちはぬるい虐待なんてしないぜ。

 打ち寄せる波が音を奏でる砂浜で、作ってやった浮き輪に収まっているフリーレンが流されていくのを眺める。

 焦りながらフランメが抑え込み、呑気に挨拶でもされたようだ。

 

 

「馬鹿者」

「痛い」

 

 

 ここまで鈍い痛みが伝わってきそうなほど、勢いのある拳がフリーレンの頭に突き刺さった。

 両手でかばいながら、涙目でフランメを睨みつける。

 しかしそんな弟子の視線など関係ないのか、ふんと口角を上げた。

 

 

「楽しそうだな」

 

 

 確かにこれは虐待の一種ではある。

 一応かけてやった「日焼けしない魔法」によって安全に強い日差しに貫かれるだろうし、たとえ溺れたとしても「水中で呼吸が出来るようになる魔法」で大事には至らない。

 というか俺がここにいるんだから大事には至らせないが。虐待ができなくなってしまう。

 

 

 しかしそれ以上に、いつもよりは楽だ。

 意識的に楽にさせている。

 

 

 最近のマイブームは「メリハリ」……つまり、緩急をつけた虐待をすることで慣れさせず、常に新鮮な苦しみを供給してくれるようになるということ。

 なんて最低な思考なんだ。やっぱり最悪の魔族は一味違うぜ!!

 

 

 俺は大笑いしながら、海のように蒼いトロピカルジュースを日に透かした。

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