...これは、なんてことない幼き日の夢。
生まれ故郷のラ・ヴァリエールの領地にある屋敷。夢の中の少女は、屋敷の中庭を逃げ回っていた。
「ルイズ、どこに行ったの? まだお説教は終わっていませんよ!」
そう行って騒ぐ母。出来のいい姉たちと魔法の成績を比べられ、説教をされる毎日。
少女...幼き日のルイズは歯嚙みをして、逃げ出した。そして、彼女自身が『秘密の場所』と呼んでいる中庭の池へと向かった。
あまり人の寄り付かない、うらぶれた中庭の池。真ん中には小さな島があり、白い石造りの東屋が建っている。
島のほとりには小舟が一つ浮いていた。今やもう、この池で舟遊びを楽しむものはいない。ルイズは叱られると、決まってこの小舟の中に逃げ込むのだった。
夢の中の幼いルイズは、小舟の中に用意してあった毛布に潜り込む。そんなふうにしていると、中庭の島にかかる霧の中から、一人のマントを羽織った立派な貴族が現れた。
「泣いているのかい?ルイズ」
つばの広い、羽根つき帽子に隠れて顔は見えない。だがルイズにはそれが子爵だとすぐにわかった。最近、近所の領地を相続した歳上の貴族。夢の中のルイズの、憧れの子爵。父と彼の間で交わされた約束。
「子爵さま、いらしてたの?」
「今日はきみのお父上に呼ばれたのさ。あのお話のことでね」
「まあ!」
ルイズは恥ずかしそうに顔を隠してうつむいた。
「いけない人ですわ、子爵さまは...」
「ルイズ、僕の小さなルイズ。きみはぼくのことが嫌いかい?」
おどけた調子で、子爵が言う。
「いえ、そんなことはありませんわ。でも、わたし、まだ小さいし、よくわかりませんわ」
ルイズがはにかんで言うと、帽子で顔が隠れたまま、子爵は手をそっと差し伸べてくる。上質な革手袋に包まれた、大きな手。
ふと手が離れる。ルイズは、子爵に目を向け言った。
「子爵さま、どうしたのです...!?」
子爵が向いている方向を見る。すると、そこには...
「いい湯ですね、貴方」
「そうじゃな」
「そういえば、どうでした?最近きたバトライ閣の居心地」
「広くて良かったぞ。色んなドラゴンが呼ばれてきて楽しかった」
「バブバブ(最近のループは凄えよなぁ)」
「そうッスね。ドリル・スコールと暴れてた時が懐かしいっス」
温泉に浸かる、鎧を纏ったドラゴン、青い肌の亜人、鉄の騎士、赤ん坊のような豆がいた。
「えぇ...?」
ルイズがじっとそれを見ていると、一つの蒼い影がこちらに近づいてきていた。
「えっ、えっ!?」
(まさか、サ...)
ルイズの脳裏に自身の使い魔が思い出される。
近づいてきた影の正体。それは...
「ワタシが天才だ!!!!」
身体に顔のある赤いマントのゴーレムっぽい何かだった。
「いや誰よあんたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
「朝から元気だな、ルイズ」
そこでルイズの目は覚めるのだった。
◇
これはルイズが目を覚ます前の時である。
サガは夢を見た。
それは、自身が殿堂王来空間に行き、温泉を満喫していた夢であった。
「...はぁ~、極楽、極楽、極楽鳥」
周りではかつての敵味方関係なく、共に温泉を楽しんでいるクリーチャー達。そんな中でサガは頭にタオルを乗せ、温泉を楽しんでいた。
そして、隣のクリーチャー達の話が聞こえてきた。
「いい湯ですね、貴方」
「そうじゃな」
「そういえば、どうでした?最近きたバトライ閣の居心地」
「広くて良かったぞ。色んなドラゴンが呼ばれてきて楽しかった」
「バブバブ(最近のループは凄えよなぁ)」
「そうッスね。ドリル・スコールと暴れてた時が懐かしいっス」
(流石禁忌と呼ばれた者たち。余裕を感じる)
ずれた感想を思うサガ。
ふと、知った声が聞こえてきた。
「...ルイズ?」
ルイズが誰かと話している。それを聞いて、サガは...
「あ――ぼ――ぜ!!」
「?」
「相棒!朝だぜ!」
サガの目が覚める。デルフリンガーが起こしてくれたようだ。
「ありがとう、デルフリンガー」
「いいってことよ!!」
と、同時にルイズが飛び起きた。
「いや誰よあんたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
それを見て、朝から元気だな、と言うサガだった。
◇
少しだけ時間は遡る。
遠く離れたトリステイン城下町の一角、チェルノボーグの監獄で、フーケはぼんやりとベッドに寝転んでいた。
これまで散々貴族のお宝を荒らし回ってきた怪盗だったフーケも、城下で最も監視と警備が厳重なこのチェルノボーグに入れられてしまっては手詰まりだった。
「かよわい女ひとり閉じ込めるのにこの物々しさはいかがなもんかねぇ」
一言ぼやく。が、そんな事を言っていてもしかたないので寝ようと目を瞑る。しかし、すぐにその目は開かれた。
上の階から、誰かが歩いてくる音がする。
こつ、こつという音の中に、ガシャガシャと拍車の音が混じる。上階に控える牢番なら、拍車をつけているわけがない。フーケは飛び起きた。
鉄格子の向こうに、長身の黒マントの人物が現れた。白い仮面に覆われて顔が見えないが、マントから突き出た魔法の杖でメイジだと直ぐに分かった。
フーケは、おそらく自分を殺しにきた刺客だろうと当たりをつけた。どうせこれまで盗みを働いた貴族のうち、明るみに出るとまずいものを取られたことへの口封じだろうと。
「あいにくだけど、ここには客人をもてなすような気の利いたものはございませんの」
フーケは身構えた。囚われたとはいえ、むざむざとやられてやるつもりはなかった。魔法だけでなく、体術にもいささかの心得はある。鉄格子越しに魔法を使われたら終わりなので、なんとか牢に引き込もうとする。
「この痩せた体以外、何も得るものはないでしょうがね」
だが、黒マントの男はそれを無視し、口を開いた。
「土くれだな」
「誰がつけたか知らないけど、そう呼ばれているわ」
「話をしにきた」
「話?弁護でもしてくれるっていうの?物好きね」
「なんなら弁護してやっても構わんがね。マチルダ・オブ・サウスゴータ」
「...あんた、何者?」
震える声でフーケは聞き返した。それはかつて捨てた、捨てることを強いられた貴族の名だった。その名を知るものは、もうこの世にいないはずだった。
しかし、男はその問いには答えず、笑っていった。
「再びアルビオンに仕える気はないかね、マチルダ」
「まさか! 父を殺し、家名を奪った王家に仕える気なんかさらさらないわ!」
フーケが怒鳴り声を上げる。しかし、男は態度を変えない。
「勘違いするな、何もアルビオンの王家に仕えろと言っているわけではない。アルビオンの王家は近いうちに倒れる。革命によってね。無能な王家はつぶれ、我々有能な貴族が
「でも、あんたはトリステインの貴族じゃないの。アルビオンの革命とやらと、なんの関係があるっていうの?」
「我々はハルケギニアの将来を憂い、国境を超えて繋がった貴族の『連盟』さ。我々に国境はない。ハルケギニアは我々の手で1つになり、始祖ブリミルの光臨せし『聖地』を取り戻すのだ」
「バカ言っちゃいけないわ。で、その国境を超えた貴族の『連盟』とやらが、このコソ泥に何の用?」
「我々は優秀なメイジが1人でも多く欲しい。協力してくれないかね?土くれよ」
「夢は、寝てから見るものよ」
フーケは話にならないとばかりに手を振った。
ハルケギニアを1つにする。たいそうなものではあるが所詮夢物語。数多くの王国が未だ小競り合いを繰り広げる中、それらを1つにするなどできるはずがない。
おまけに『聖地』を取り返すときた。あの強力なエルフたちにまで挑むつもりか。
「わたしは貴族は嫌いだし、ハルケギニアの統一なんかにゃ興味がないわ。おまけに、『聖地』を取り返す?エルフどもがあそこにいたいってんだから、好きにさせればいいじゃない」
黒マントの男は腰に下げた長塚の杖に手をかけた。
「土くれよ。お前は選択することができる。我々の同胞となるか...」
「ここで死ぬか、でしょ?」
男は薄ら笑いを浮かべ、続ける。
「その通りだ。我々の事を知ったからには、生かしてはおけんからな」
「ほんとに、あんたら貴族ってやつは、困った連中だわ。他人の都合なんか考えやしない。つまりは強制でしょ。だったらはっきり味方になれって言いなさいな。命令もできない男は嫌いだわ」
「我々と一緒に来い」
フーケは腕を組む。
「あんたらの貴族の『連盟』とやらは、なんていうのかしら」
「味方になるのか?ならないのか?それを先に答えろ」
「これから旗を振る組織の名前は、先に聞いておきたいのよ」
男は少し黙り込み...そして鍵を取り出し、鉄格子の錠前に差し込んだ。そして細い声で、しかしはっきりと言った。
「レコン・キスタ。それが我々の名だ」
仮面の男は、仮面の下でニヤリと笑うのだった。
仮面の男...一体何者なんだ...