霧深き朝であった。少々視界が見えづらい中、ルイズとギーシュ、そしてサガは馬に鞍をつけ、出発の準備をしていた。
そうして準備をする中、ギーシュが言いづらそうに言った。
「お願いがあるんだが...」
「何?」
ルイズが答えると、ギーシュは決心したように言った。
「僕の使い魔を連れて行きたいんだ」
「?好きに連れて行けばいいじゃない。どこにいるの?」
「ここにいるよ」
ギーシュが地面を指差した。
「いないじゃないの」
ルイズがそう言うと、ギーシュは笑って足で地面を叩いた。
すると、モコモコと地面の一箇所が盛り上がり、茶色の大きな生き物が顔を出した。
「おぉ?」
「ヴェルダンテ!ああ!僕の可愛いヴェルダンテ!」
ギーシュはすさっ!と膝をつくと、地面から出てきたその生き物を抱きしめた。
「可愛いな」
「流石僕の友人、わかってるじゃあないか!紹介しよう、僕の可愛い使い魔のヴェルダンデだ」
「あんたの使い魔、ジャイアントモールだったの?」
ギーシュの使い魔は、人間の子供ほどはある巨大なモグラだった。
「そうだ。ああ、ヴェルダンデ、君はいつ見ても可愛いね。困ってしまうね。どばどばミミズはいっぱい食べてきたかい?」
ギーシュの言葉に答えるように、ヴェルダンデはモグモグと嬉しそうに鼻をひくつかせた。
「そうか! そりゃ良かった!」
ギーシュはヴェルダンデに頬を擦り寄せた。その様子を見て、ルイズが呆れたように言う。
「ねえ、ギーシュ。ダメよ。その生き物、地面の中を進んで行くんでしょう?」
「そうだ。ヴェルダンデはなにせモグラだからね」
「そんなの連れていけないわよ。わたし達、馬で行くのよ」
「結構、地面を掘って進むのも早いんだぜ?なあ、ヴェルダンデ」
ヴェルダンデがうんうんと頷くが、ルイズは困り顔になった。
「わたし達、これからアルビオンに行くのよ。地面を掘って進む生き物を連れていくなんてダメよ」
ルイズの言葉に、ギーシュはガクッ!と膝をついた。
「お別れなんて辛い、辛すぎるよ、
ヴェルダンデェ...」
「ルイズ...何とかならないか?私もヴェルダンテと行きたいぞ」
「あんたまでそんなこと言ってどうするの?前々から思ってたけど、ちょっとその場の空気に流されやすいわよあんた。もっとちゃんと状況を考えて...」
その時だ。ヴェルダンテが鼻をひくつかせ、くんくんとルイズに擦り寄った。
「な、何よこのモグラ!」
ルイズが思わず叫んだ直後、ヴェルダンデは何故かルイズを押し倒し、鼻で体をまさぐり始めた。
「や!ちょっとどこ触ってるのよ!」
ルイズは体をヴェルダンデの鼻でつつきまわされ、地面をのたうち回った。服が乱れながら、ルイズは暴れ続ける。
「ちょ、ちょっ、と、サガ!はや、早く助けな、さい!」
「多分、ヴェルダンテはルイズとも仲良くしたいのだろう。少しぐらい付き合ってあげるといい」
「それでも使い魔なのあんたぁぁぁ!?」
すると、ヴェルダンデはルイズの右手の薬指に光るルビーを見つけ、そこに鼻を擦りよせた。
「この!無礼なモグラね!姫様に頂いた指輪に鼻をくっつけないで!」
ギーシュが頷きながら呟いた。
「なるほど、指輪か。ヴェルダンデは宝石が大好きだからね」
「ほう?」
「ヴェルダンデは地面に潜って貴重な鉱石や宝石を僕のために見つけてきてくれるんだ。『土』系統のメイジの僕にとって、この上ない素敵な協力者さ」
「それは凄い」
「悠長に話してないで早く助けなさいよぉ!?」
ルイズが暴れていると...突然、突風が吹き荒れ、ヴェルダンテを吹き飛ばした。
「誰だっ!」
ギーシュが叫ぶと、朝もやの中から1人の長身の男が現れた。羽帽子をかぶった男だった。
「貴様、ぼくのヴェルダンデに何をするんだ!」
ギーシュが薔薇の造花を引き抜くが、それよりも早く羽帽子の貴族が杖を振り抜き、その造花を散り散りに吹き飛ばした。
「くっ!?」
「落ち着きたまえ、僕は敵じゃない。姫殿下より、君たちに同行することを命じられてね。君たちだけではやはり心もとないらしい。しかし、お忍びの任務であるゆえ、一部隊つけるわけにもいかない。そこで僕が指名されたワケだ」
長身の貴族が、その羽帽子を取り一礼した。
「紹鴎陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」
文句を言うため口を開きかけたギーシュも、さすがの相手の悪さに口をつぐんだ。魔法衛士隊といえば全貴族の憧れだ。勿論、ギーシュも例外ではなかった。
ワルドはギーシュの様子を見ると首を振った。
「すまない、婚約者がモグラに襲われているのを見て見ぬふりはできなくてね」
「...なんだと?」
驚きのあまりサガはルイズを見る。婚約者?
あのルイズに?
「ワルドさま...」
「久しぶりだな、ルイズ!僕のルイズ!」
ワルドは笑みを浮かべながらルイズに駆け寄り、その体を抱え上げた。
「お久しぶりでございます」
「相変わらず軽いなきみは!まるで羽のようだね!」
「...お恥ずかしいですわ」
「照れている君もまた可愛らしい。...そうだ、そこの彼らを紹介してくれないかい?」
ワルドがサガとギーシュを見る。ルイズは、ゆっくりと説明し始めた。
「えっと、あっちはギーシュ・ド・グラモン。
で、あの蒼いのは私の使い魔のサガです」
「ほう?これはまた随分と珍しい使い魔だ。よろしく頼むよ」
ワルドがそう言うのでサガも言葉を返した。
「ふむ...よろしく頼む」
サガがそう言うと、ワルドは大げさに言った。
「おっと!?喋れるのか、この使い魔は!いやぁ、流石ルイズ、面白い使い魔を呼び出したものだ!」
そんなワルドにサガは少しイラッとした。まるでサガを喋れない、自分以下の存在だと暗に言っているように感じたからだ。
(失礼なヤツだ。ルイズ達で忘れていたが、人間とはこういうヤツも居たな。...まぁ、ルイズの婚約者なら仕方ない。我慢してやるか)
「ワルド殿、だったか?そろそろ出発したほうがいいのではないか?なあ、ルイズ」
「えっ?あ、あぁ、そうね」
「ふむ、確かにその通りだね」
そう言ってワルドが口笛を吹くと、朝もやの中からグリフォンが降り立った。ワルドはひらりとそれに跨ると、ルイズに手を伸ばす。
「おいで、ルイズ」
「は、はい」
そして、恥ずかしがるルイズをグリフォンの上へと抱え上げると、手綱を握り、杖を掲げ叫んだ。
「では諸君! 出発だ!」
◇
魔法学園を出発してから、ワルドはグリフォンを疾走させ続けた。サガたちは途中で馬を交換していたが、ワルドのグリフォンは疲れを見せずに走り続けていた。
「ちょっと、ペースがはやくない?」
抱かれるような格好でワルドの前に跨るルイズが言った。
「ギーシュもサガも、へばってるわ」
ワルドが後ろを向くと、たしかにギーシュは半ば倒れる様な格好で馬にしがみついている。
サガは...杖を取り出して、何かブツブツと唱えていた。
そんなサガ達を後目にワルドは言った。
「ラ・ロシェールの港町まで、止まらずに行きたいんだが...」
「無理よ、普通は馬で2日かかる距離なのよ」
「へばったら、置いていけばいい」
「そういうわけにはいかないわ」
「どうして?」
「だって、仲間じゃない。それに、使い魔を置いて行くなんて、メイジのすることじゃないわ」
そう言うルイズにワルドは肩を竦める。
「やけにあの2人の肩を持つね。どちらかが君の恋人かい?」
そう言われたルイズは急に真顔になって言った。
「いや、それはありえないわ。絶対」
「...あ、あぁ、そうか。...うん」
ワルドは一息いれると、改めて続けた。
「まぁ、ならよかった。婚約者に恋人がいるなんて聞いたら、ショックで死んでしまうからね」
そう言いながら、ワルドは笑った。
「お、親が決めたことじゃない」
「おや?ルイズ!僕の小さなルイズ!君は僕のことが嫌いになったのかい?」
おどけた口調でワルドが言った。
「も、もう小さくないもの。失礼ね」
「僕にとっては、まだ小さな女の子だよ」
2人の間には、甘い空間が出来ていた。
一方、サガ達はというと...
「もう半日以上、走りっぱなしだ。魔法衛士隊の連中は化け物か」
ぐったりと馬に体を預けたギーシュが呻くように言う。
「マナをチャージ、呪文、コダマダンスチャージャー、ターン終了、マナチャージ...」
「...君はさっきから何をしているんだい?」
サガにギーシュが問うと、サガは言った。
「なぁに。ただ、召喚するだけさ。コイツを」
そう言って、サガは何処からか一枚のカードを取り出し、ギーシュに見せた。
初めて見るものだったが、そこに描かれたそれを見て、ギーシュはニヤリと笑った。
「成る程、そういうことか」
「あぁ。...マナをチャージ。さぁ、溜まったぞ...準備はいいか?」
「ちょっとだけ待ってくれよ...よし!いいぞ!」
ギーシュが言うと同時に、サガの杖から闇のオーラが吹き出した。
「いくぞ!闇に染まりし不死鳥!超神星DOOMドラゲリオンを8マナで召喚だ!」
サガとギーシュは馬から飛び降りる。このままだと大怪我だが...そうはならなかった。
「!?何だ、このバケモノは!」
「サガ!?ギーシュ!?何してるの!?」
現れたドラゲリオンにサガとギーシュは乗ると、グリフォンを超えるスピードで空を飛んだ。
「悪いなルイズ!先に行かせてもらう!」
「2人でゆっくりと来ると良い。私とギーシュは先に行ってご飯でも食べておくから」
そう言い残して、サガ達はラ・ロシェールの方向へと飛んでいくのだった。
因みに、途中でこっちに攻撃してきた山賊らしき奴らがいたのでドラゲリオンでぶっ飛ばした。
ぶっ飛ばされたそれを見たワルドは、渋い顔をしたとかなんとか。
因みに、ドラゲリオン召喚前に、エマージェンシー・タイフーンなどを挟んでいるので8マナで召喚していたりします。