「それで、あんたはここに残っている、てわけね...」
「あぁ...まさか人間如きに遅れをとるとは...!」
船に乗れなかったサガは、どうにか宿から脱出してきたギーシュ達と桟橋前で合流し、情報を共有していた。
「...ここまでかぁ」
ギーシュが諦めたように言う。同時に、受付に行っていたタバサが戻ってきた。
「...次の船は明け方だって」
「なら、もう間に合わないわ」
キュルケも落胆したように言う。それに対して、サガは力強く答えた。
「いや、ドラゲリオンなら間に合う」
「そうは言うけどね、きみ、ルイズ達がどこに向かうのか聞いているのかい?」
ギーシュの言葉に、サガは言い淀む。
「そ、れは...」
「アルビオンは広い。そこから二人を見つけるなんて不可能だよ」
「そうね...ここは、ルイズを信じて待つしかないわね...」
サガは手を握りしめる。DOOM型ではなければ、フーケに手間取ることはなかった。自身の仲間たちが悪いわけでは無いが、サガはそう思わずにはいられなかった。
その時だった。ギーシュの立っている地面が盛りあがったのだ。
「え、え?」
「!まさか、フーケか!」
サガがすぐさま臨戦態勢をとる。キュルケ、タバサも杖を構えた。
ギーシュが泣きそうな声で助けを求める。
「うわー!だ、誰か助け、ってあだっ!?」
ギーシュがバランスを崩して仰向けに倒れる。そして、そこから...
「もぐもぐ」
「ヴェルダンテ!?」
ギーシュの使い魔、ヴェルダンテが現れた。
◇
一方、場所は変わって船の中。
その船の一室に、ルイズとワルドはいた。
「きみも一杯やらないか? ルイズ」
ルイズは言われたままにテーブルについた。ワルドがルイズの杯にワインを満たしていく。自分の杯にも注いで、ワルドはそれを掲げた。
「二人に」
ルイズはちょっと俯いて、杯を合わせた。かちん、と陶器の杯が触れあう。
「姫殿下から預かった手紙は、きちんと持っているかい?」
ルイズはポケットの上から、アンリエッタから預かった封筒を抑えた。ワルドはそんな様子を興味深そうに見た。
「...ええ」
「心配なのかい? 無事にアルビオンのウェールズ皇太子から、姫殿下の手紙を取り戻せるかどうか」
「そうね...」
「大丈夫だよ、きっと上手く行く。なにせ、僕がついてるんだから」
「そうね、あなたがいればきっと大丈夫よね。あなたは昔から、とても頼もしかったもの」
ルイズはそう言うが、その表情はどこか暗かった。
それに柔らかな笑みを浮かべて、ワルドは安心させるように頭を撫でる。そして、きりっ、と表情を引き締めて、言った。
「...ルイズ。皇太子に会う前に、君に伝えたい大事な事がある」
「大事な、事?」
ルイズのきょとんとした顔を見ながら、ワルドは続ける。
「きみは偉大なメイジになるだろう、始祖ブリミルのように。歴史に名を残す、素晴らしいメイジになるに違いない、僕はそう予感している」
「どうしたの、急に」
ルイズは頬を染める。ワルドは一息ついて言った。
「ルイズ、この任務が終わったら僕と結婚しよう」
「え」
突然のプロポーズに、ルイズははっとした顔になった。
「僕は魔法衛士隊の隊長で終わるつもりはない。いずれは国を、このハルケギニアを動かすような貴族になりたいと思っている」
「で、でも、わ、わたし、まだ...」
「もう子供じゃない。きみは十六だ、自分の事は自分で決められる年だし、父上も許してくださっている」
「ルイズ、僕にはきみが必要なんだ」
「ワルド...」
ルイズは考える。ワルドはずっと、幼い頃からの憧れの人。そんな人にプロポーズされたのだ。嬉しくないはずがない。
...なのに。
(どうして、皆を思い出してしまうの?)
脳裏に浮かぶのはキュルケやタバサ、ギーシュにモンモランシーの、学校の友人達。そして、彼らと縁を繋いでくれた自身の使い魔、サガ。
ワルドと結婚したところで、サガ達との関係が変わるわけではない。気にすることはない、気にすることはない、のだが。
(関係ない、関係ないわ!これは、私とワルドの話。あなたたちには関係ない!)
何度も振り払おうとするが、余計にサガ達との思い出がルイズの心を埋め尽くす。
「わ、たし、は...」
「うん」
ワルドは相変わらず柔らかな笑みを浮かべていた。だが、ルイズには酷く不気味なものに見える。
(...何で?何でそう思ってしまうの?ワルドは、わたしの婚約者で...)
ルイズはここまでの旅路を思いだす。ワルドは、紳士的で、ルイズにいつも優しく...
(...違う!わたしだけじゃない!ワルドは、皆に優しかった!表面的なんじゃない、心の底から皆を、回りの仲間の人や友人を大事に思う人だった!)
ルイズは旅の間でのワルドの顔を思い出す。ルイズには優しく、紳士的だった。しかし、サガやギーシュ、途中から合流したキュルケ達に対しては表面上では紳士的だったが、その目はどこか冷たい、興味のない目をしていた。
(わたしが憧れたのは、かつてのワルド。今のワルドじゃ、ない...!)
ルイズの心は決まった。改めてワルドの顔を見て、まっすぐに伝えた。
「ごめんなさい、ワルド。わたしはあなたのプロポーズを受けれません」
「...何故だい?」
「わたしは、確かにあなたに憧れていました。でも、その思いは過去のもの。今のものではないの。だから、ごめんなさい、断らせてください」
ワルドはルイズの言葉に一瞬目を丸くする。そして、一瞬被った帽子で目を隠すと...次の瞬間、ルイズの身体を押さえつけ、目の前にあるものを突き出した。
帽子の隙間からワルドのものとは思えないほど冷たい、冷酷な目がルイズを見つめる。そして、言った。
「きみの心の中には、誰かが住み始めたみたいだね。仕方ないな、この手はあまり使いたくなかったのだが」
ブーン、ブーン、と。ワルドが手に持っているものから音が発せられる。それにあわせて、ワルドはこう言った。
「きみは、僕のプロポーズを受けたくなる...そして、僕の為に尽くしたくなる...」
「あ、あぁ...」
音は響き続ける。そのうちに、ルイズの目からは...光が、失われた。
すとん、と、ルイズはソファーに座り込む。その姿は自身の意思を失っているように見えた。
それを見下ろして、ワルドは手に持ったソレを、懐にしまう。
「これで、力は手に入った。あとは献上するだけ」
ワルドはニヤリと笑う。そして、ある名前を呟いた。
「全ては、
ワルドは、笑いながら残っていたワインを飲み干すのだった。
改めて、更新が遅れてすみませんでした。適度に更新できるように頑張らせていただきますので、これからもゼロの絶望神をよろしくお願いします。