墓地にサガは置けましたか?
時刻は朝方。外は日が昇り始め、美しい景色を生み出している。そんな清々しい朝の中、可憐な少女に近づく影が一つ。
「起きろ、ルイズ。朝だ」
サガである。自身の鋭い手でルイズを傷つけないよう、慎重に彼女の身体を揺する。
「ん...うるさいわね、ってきゃぁぁぁぁ!?」
「どうした、ルイズ!」
「ぁ、っ、いや、何でも無いわ。えぇ、何でも」
正直、彼女はサガに驚いていた。当たり前だ。朝起きて眼の前にあったのが神々しくも禍々しさを感じさせるサガの顔面なのだから。仕方ないといえば仕方ない。
頭を切り替え、彼女はベットから起きだし、1つ大きなあくびをして、思いっきり伸びをする。そして気だるそうな顔をサガに向けた。
「着替えさせて」
「...何?」
「着替えさせてって言ってるの。そこの引き出しの中にあるから。早くして」
サガは首をかしげ、呟く。
「自分で着替えないのか?」
「...? 当たり前じゃない。使い魔は下僕。貴族は下僕がいる時に、自分で着替えなんてしないのよ」
そう言うルイズにサガは答える。
「ならば着替えさせるが、一つ良いか?」
「なによ、さっさと言ってよね」
「私の手では、恐らくだいぶ酷いことになってしまうと思うのだが」
そう言われ、ルイズはサガの手を見る。どう考えても、それはいわゆる凶器的な形をしていた。
ルイズの顔が引き攣る。
そんなルイズを後目に、サガは続ける。
「いや、いいのだ。ルイズがこれでいいのだと言うのなら反抗しても意味はないからな」
「そ、そう、ね...」
「では、早速準備をしよう。えっと、確かここだと言っていたな...」
サガの鋭い手が今まで集めた自身の服に向かう。ルイズは、切り裂かれた布が散らばる様子を一瞬見た。
「あぁぁぁ、わかったわよ! もう! その代わりあんた、朝ごはん抜きだからね!」
主従関係はハッキリさせたい。だが、それでこちらに被害があっては元も子もない。
使い魔ができたら、散々こき使ってやるつもりだったのに!
仕方なく、ルイズは自分で引き出しを開けるのだった。
◇
ルイズとサガが部屋を出る。
扉は相変わらずサガの形に傷ついているが、ルイズは気にしないようにした。
と、近くの扉が開いて、中から燃えるような赤い髪の少女が現れた。
ルイズよりもいくばくか背が高く、シャツの胸元のボタンはいくつかはだけさせ、少女と呼ぶにはいやに大人っぽい雰囲気をたたえて...ルイズを見つけるなり、その印象が消え去り、子供のようにいたずらっぽく笑った。
「おはよう、ルイズ」
ルイズは顔をしかめ、嫌そうに挨拶を返す。
「おはよう、キュルケ」
「あんたの使い魔って、それ?」
「そうよ」
それを聞いて、キュルケは値踏みするようにサガを見つめる。
「へ〜ぇ?ゼロにしては中々の使い魔じゃない?でも、ちょっとゴツゴツして、スマートじゃないわね。どうせ使い魔にするならこういうのがいいわよね、フレイムー!」
キュルケが勝ち誇った声で言うと、キュルケの背後から真っ赤で巨大なトカゲが現れた。むんとした熱気が漂い、口からはちろちろと火が漏れている。
「これって、サラマンダー?」
ルイズが悔しそうに尋ねる。
「そうよー、火トカゲよー。素敵でしょー? 私の2つ名、『微熱』のキュルケにぴったりの気品溢れる使い魔よね?」
そう言って再びルイズと喋り出すキュルケ。それはそれとして、サガは思わぬところで出会った仲間に驚いていた。
(まさか、クリーチャーが私以外に召喚されていたとは。しかし、見たことないクリーチャーだ。ドラゴン...ではなさそうだ。かといってドラゴノイドという訳でもない。しいていうなら、フレイム・モンスターだろうか?)
実際はクリーチャーではなく、この世界の生き物なのだが、今のサガにそれを知るすべは無かった。
「きゅる」
可愛らしく鳴くフレイム。サガが手を伸ばすと一瞬警戒するも、直ぐに手を受け入れた。
「警戒心がないな。私じゃなかったらバトルで破壊されていたぞ?」
「きゅ?」
純粋な目でサガを見つめる。敵ではないと認識しているようだ。見た目が人ではないからなのもあるかもしれないが。
と、サガがフレイムと戯れていたが、突如身体がルイズに引っ張られる。
「ほら、さっさと行くわよ!朝ご飯に間に合わないわ!」
「おい、無理に引っ張るな。伸びるところはないとはいえいい気分ではないぞ」
知らないわよ!と言われながらサガはルイズに引っ張られていくのだった。
「あらあら。ルイズはともかく、彼には悪いことしたかしら?ね、フレイム」
「きゅる」
◇
トリステイン魔法学校の食堂は、学園の敷地内で1番背の高い、真ん中の本塔にあった。
食堂の中には、100人は座れるであろう長いテーブルが3つ並べられている。
その真ん中、2年生の生徒が座るテーブル。ルイズの席の後ろ、床に置かれた皿を見て、サガは唸っていた。
「朝ご飯抜きではなかったのか?」
「...私は心が広いのよ。特別に、それは撤回はしてあげる」
「それに、ほんとなら、あんたみたいな使い魔はこの『アルヴィースの食堂』には一生入れないの。その上使い魔は外のところを、あんたは私の特別な計らいで、床」
「...百歩譲って床で食べろというのはいい。だが、何だ、このご飯は」
サガに出された食事。それは、固そうなパン二つと色の薄いスープ。お世辞にも美味しそうな食事とは言えなかった。
「使い魔と貴族と同じ食事をさせるってのは違うでしょ?」
「それはそうかもしれないが、しかし...」
意外かもしれないが、サガは食事には結構うるさい。それもそのはず、クリーチャーワールドでは様々なものを食してきたのだ。
火文明のバッドドッグ、ミタラスの団子、
Theラー漢達のラーメン...どれも一流の美味しさだった。
特に美味しかったのは、クルト達と一緒に食べたおにぎりだ。食べたあとにクルト達がビーストフォーク達に連れ去られてたりしていたが。
それはともかく。要するに、サガは出された食事に文句があったのだ。
「...分かったわよ、ほら、コレあげるからそんな顔しないでくれる?」
差し出されたのは健康に良さそうな野菜だ。少なくともサガに出されたものよりは美味しそうだ。
「いいのか?」
「いいわよ?その代わり、私の命令にはしっかりと従ってもら...「おかわり」...え?」
見れば、皿の上にはもう何も無い。あまりの早さにルイズは思わず絶句する。
「おかわりだ。まだあるだろう?」
これでは足りないのでな。というサガを見て、
ルイズは言った。
「...ぃ、わよ」
「?」
「ないわよ!それで終わり!」
「何だと!?」
驚きのあまり、後ずさるサガ。そして、あまりのショックに、床へと倒れ伏すのだった。
次に目覚めたのは、ルイズがデザートを口に運んでいたときだった。
「ハッ!カレーパン!宇宙一のカレーパンは!?」
「うるさっ!知らないわよ、そんなもの!」
自身の呼び出した使い魔は、実はかなり面倒くさいのでは?
そう思わずにはいられないルイズであった。
ループまで後1ターン。
果たしてどうなる...?