取り敢えず早くループさせれるよう頑張ります。
サガとルイズは食事をすませ、魔法学院の教室へと向かった。サガとルイズが中に入っていくと、先に入っていた生徒たちが一斉に振り返り、クスクスと笑い始める。
ルイズは気にしない表情で席の1つに腰掛ける。
サガは取り敢えず後ろに立っておいた。
(しかし、先程のヤツだけかと思えば、意外と私以外のクリーチャーも召喚されているのだな)
見渡すと、動物のような使い魔が多く見られた。だが、中には一般的に動物とは思われないものも居た。同胞が意外と多い。その事実にサガはちょっとうれしくなった。
そして、扉が開いて、茶色のローブの女性が入って来た。ふくよかで優しそうな表情を浮かべ、教室を見回すと、嬉しそうに微笑んだ。
「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」
シュヴルーズは再び教室をぐるりと見渡し...後ろで立つサガを見つけた。
「あらあら、とても強そう。ミス・ヴァリエール、とても良い使い魔を召喚したものですね」
「あっ、えっと、ありがとうございます、
ミセス・シュヴルーズ」
ルイズが感謝を伝える。と同時に一人の男子生徒がルイズをからかう。
「ははっ、どうせ見た目だけだろ?ゼロのルイズが召喚できたところで、召喚された使い魔もゼロに決まってるさ!」
それにルイズも言い返す。
「違うわ!こいつはちゃんとしたやつに決まってるじゃない!」
「どうだか!ゼロの言葉は信じられないからなぁ?」
その様子に周りの生徒もクスクス笑う。
「ミセス・シュヴルーズ! かぜっぴきのマルコリヌがわたしを侮辱したわ!」
握りしめた拳でルイズは机を叩いた。マリコルヌと言われた男子生徒は立ち上がり、ルイズに向かって睨みつけ、反論する。
「かぜっぴきだと? 俺は風上のマルコリヌだ! 風邪なんか引いてないぞ!」
「あんたのガラガラ声は、まるで風邪も引いてるみたいなのよ!」
二人が睨み合う。が、シュヴルーズが手に取った小ぶりな杖を振ると、2人とも糸の切れた操り人形のように、すとんと席に落ちた。
「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マルコリヌ。みっともない口論はおやめなさい。お友達をゼロだのかぜっぴきだの呼んではいけません。わかりましたか?」
「ミセス・シュヴルーズ。僕のかぜっぴきはただの中傷ですが、ルイズのゼロは事実です」
笑いが漏れる。シュヴルーズは厳しい表情で教室を見回し、杖を振った。クスクス笑った生徒たちの口に、どこから現れたものか、ぴたっと赤土の粘土が押し付けられる。
「あなたたちは、その格好で授業を受けなさい」
そこで笑いは収まる。その様子を見て、サガはこの世界に来て何度目か分からないが、目を丸くしていた。
(呪文を使えるのか。そういえば、空を飛んでいる奴らもいたな)
召喚された帰りを思い出す。あの時も、何人かの生徒は自分で飛んで帰っていた。
しかし、ルイズの扱いは中々酷いようだ。
サガは少しばかり気分が悪くなった。
「では、授業を始めますよ」
授業が始まった。そこから話された内容は、サガにとっては新鮮なものばかりだった。
魔法の四大系統、『火』『水』『土』『風』、そして今は失われた魔法系統『虚無』の、合わせて5つの系統。
五文明のようなものかと思ったが、少し違う。そもそも文明なら光と闇がない。それに、自然ではなく土と言っていた。風はそもそもよく分からなかった。
そして、自らを『赤土』と名乗ったシュヴルーズは、その中でも『土』系統はもっとも重要なポジションを占めていると語った。
「土系統の魔法は、万物の組成を司る、重要な魔法であるのです。この魔法がなければ、重要な金属を作り出す事もできないし、加工することもできません。大きな石を切り出して建物を建てることもできなければ、農作物の収穫も、今より手間取ることでしょう。このように『土』系統の魔法は皆さんの生活に密接に関係しているのです」
それを聞いて、サガは少し納得した事があった。
これはサガがルイズを起こす前に起こった出来事である。
『ぬぅ...』
朝の洗濯の時間。サガは困惑していた。
『どう洗えばいいのだ、この衣服は』
サガが持っているのは女性物の下着だった。普段服を纏わないサガにとって、他の服を洗うのも一苦労だというのに、よりによって他の服より複雑なデザインの下着だ。
うんうん唸っていると、後ろから女性の声が聴こえた。
『きゃっ!あ、亜人?』
『む、誰だ?』
振り向くと、洗濯の山を持ち、メイドの格好をした素朴な感じの少女が立っていた。
『驚かせたか?それならすまない。私はサガ。ルイズの使い魔をさせてもらっている』
丁寧に挨拶するサガに少し安心したのか、メイドの少女も挨拶する。
『ミス・ヴァリエールの使い魔様でしたか。これは失礼しました。私は貴族の方々をお世話するためにここでご奉仕させていただいている、シエスタといいます』
シエスタは名乗ると、貴族にするように甲斐甲斐しく礼をした。
『よろしく。時に聞くが、シエスタも魔法使いなのか?』
『いえ、私は違います。私はただの平民ですから...因みに、サガ様は何をしてらっしゃったのですか?』
『私か?私は、この衣服を洗っていたところだ』
『あっ...な、成る程、そうなのですね』
シエスタはサガから見せられたそれに少しギョッとした。それは少しばかり派手なデザインだったからだ。それを使い魔に渡して堂々と洗濯させるとは...シエスタは少しばかりルイズの度胸に感心した。
『ところで、1つ聞いていいか?』
『はっ、はい!何でしょう?』
『...これは、どう洗えばいい?』
『あ、はい。これはですね...』
...的な事があった。
と言うわけで、その時は貴族と平民と言うが余り変わらないなと思っていたサガだったが、今は考えが変わっていた。
この世界では、魔法が生活そのものにかなり密接に関係している。単純に生きる術として染み付いているのだ、これは単に便利になるだとかそういう次元を超えている。
であれば、魔法が使える貴族と、使えない平民の地位の差はなるほど明白だとサガは思った。
正直、それでもわざわざ分けるとはくだらないとは思うサガだったが。
「今から皆さんには『土』系統の基本である『錬金』の魔法を覚えてもらいます」
シュヴルーズは、机の上に並んだ石ころに向けて杖を振り、短いルーンを唱える。
石が一瞬光り輝いたと思うと、ピカピカと輝く金属に変貌していた。
まるで金である。その金属にキュルケが反応した。
「ゴゴ、ゴールドですの? ミセス・シュヴルーズ」
「いいえ、真鍮です。ゴールドを精製できるのは『スクウェア』クラスのメイジだけです。私はただの...『トライアングル』ですから」
サガは困惑した。知らない単語が出てきたからだ。スクウェアはよくわからない。彼女は4ではない。ではトライアングルは?三角?彼女は三角形だったのだろうか。
確かに彼女は比較的ふくよかな体系だ。成る程、それで三角...と、サガは変な形で納得していた。
サガが頷いていると、小声でルイズが話しかけてきた。
「なんか勘違いしてそうだから言っとくけど、スクウェアとかトライアングルってあんたの考えてる意味じゃないからね」
「何だと?では、どういう意味だ?」
「スクウェアやトライアングルというのは、メイジとしての位を現す言葉よ。系統を足せる数のことで、それでメイジのレベルが決まるの。
『土』系統の魔法はそれ単体でも使えるけど、『火』の系統を足せば、さらに強力な呪文になるの」
「なるほど。それで3系統足せるものは『トライアングル』、4系統足せるものが『スクウェア』というわけか」
「飲み込みが早いわね、あんた。ちなみに2系統足せるのが『ライン』メイジ。シュヴルーズ先生みたいに『土』『土』『火』、3つ足せるのが『トライアングル』メイジ」
成る程、
そんな風に喋っていると、シュヴルーズに見咎められた。
「ミス・ヴァリエール! 授業中の私語は慎みなさい」
「は、はい! すいません……」
「おしゃべりをする暇があるのなら、あなたにやってもらいましょう」
「え? わたし?」
「そうです。ここにある石ころを、望む金属に変えてごらんなさい」
しかし、ルイズは立ち上がらない。困ったようにもじもじするだけだ。
「...? どうした?」
サガが聞くが、答えない。
「ミス・ヴァリエール! どうしたのですか?」
シュヴルーズが再び呼びかけると、キュルケが困った声で言った。
「あの、先生、やめておいた方がいいと思いますけど……」
「どうしてですか?」
「危険です」
キュルケは、きっぱりと言った。教室のほとんど全員が頷いた。サガもつられて頷いた。
「危険? 何が危険だと言うのです?」
「ルイズを教えるのは初めてですよね?」
「えぇ。でも、彼女が努力家ということは聞いています。さぁ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。失敗を恐れていては、何もできませんよ?」
「ルイズ。やめて」
キュルケが蒼白な顔で言う。しかしルイズは、そう言われれば言われるほどワナワナと震えていた。そして、勢いよく立ち上がった。
「やります」
緊張した顔で、つかつかと教室の前へと歩いていく。
隣に立ったシュヴルーズはにっこりとルイズに笑いかけた。
「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」
ゆっくりと杖を振り上げたルイズを見て、サガは何やらただならぬ気配を感じた。先程のキュルケの様子といい、他の生徒たちといい、何か妙だ。目の前の女子生徒が何故か椅子の下に隠れる。
やはり、なにかあるようだ。
そして、その時は起こった。ルイズが短くルーンをとなえ、杖を振り下ろした瞬間、強烈な爆発音と衝撃が教室中に響き渡った。
爆風をモロに受けたルイズとシュヴルーズは、黒板の下で伸びている。爆風に驚いた使い魔たちが暴れ出し教室はパニック状態となった。
「だから言ったのよ! あいつにやらせるなって!」
「もう! ヴァリエールは退学にしてくれよ!」
「俺のラッキーが蛇に食われた! ラッキーが!」
「...おぉ、凄まじいな。マジボンバーや火の
教室は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
シュヴルーズは倒れたまま動かない。たまに痙攣しているから死んではいないようだ。
そんな中、ルイズはむくりと起き上がる。見るも無残にボロボロになった制服。煤で真っ黒になり、綺麗だった桃色の髪もグシャグシャ。
しかし、大騒ぎの教室を意に介した風もなく、頬についた煤を、取り出したハンカチで拭きながら、淡々と言った。
「ちょっと失敗したみたいね」
当然、他の生徒たちからは怒号が飛び交った。
「ちょっとじゃないだろ、ちょっとじゃ!」
「いつだって成功確率ゼロじゃないか!」
「ゼロのルイズ!」
その様子を見て、サガは思った。
ゼロ文明の事ではなかったのか、と。
◇
その日の夕方。爆発の影響でボロボロになった教室を、サガとルイズが片付けていた。
掃き掃除をルイズに任せ、サガが崩れたガレキや机を片付ける。
淡々と掃除だけを続ける2人に、会話はなかった。
「...なんで何も言わないの」
沈黙を破ったのはルイズの方だった。しびれを切らしたように、サガの方を見ずに言う。
サガは気にせず、ガレキを片付けている。時々砕いて散らかしてしまっているが。
「? 何がだ」
「みんながなんで私をバカにしてるか、わかったでしょ」
ルイズは不安だった。自分が魔法を失敗するたび、必ず自分をバカにする言葉だけが飛んでくる。みんなが自分を蔑み、嘲笑い、去っていく。それが当たり前だった。
そんな自分の失敗を初めて見たのだ。サガが何も言わず黙っているのが、ルイズには耐えられなかった。
「分からん」
「ッ!」
そしてとうとう、ルイズの感情は爆発した。
「もうっ!見ればわかるでしょ! 成功確率ゼロ、出来る魔法はゼロ、とにかくゼロ、ゼロゼロゼロ! これがあんたのご主人よ! 『ゼロ』のルイズ!...あんただって、心の中でバカにしてるんでしょ。こんなご主人様で残念だなって思ってるんでしょ! 黙ってないで、そう言えばいいのよ!」
サガは黙ってルイズを見つめる。そして、ぽつりと言った。
「ゼロはそんなに悪いのか?」
「当たり前じゃない!なにも無いって事なのよ!?」
「私はそうは思わない」
「何でっ!」
「何も無い奴らなぞ、私の世界には沢山いたぞ」
「...え?」
ルイズの動きが止まる。気にせず、そのままサガは続けた。
「バニラと呼ばれていてな。何も能力がない、正直弱い連中だった。...だがな、それでも諦めることはなかった。そうしたら、その内奴らに協力するクリーチャーが現れた」
「...」
「奴らは、自分ができることを全力でやっていた。そうして、バカにしていた奴らを見返していたぞ」
「でも、私は...」
言いどもるルイズにサガは言った。
「向き不向きがあるなど当たり前の事だ。それをバカにするということの方が私には理解できない。...まぁ、取り敢えずだ。私はルイズの事を残念とは思わない。今は、それでいいだろう」
「...」
変わらずルイズはサガの方を向かない。だが、サガは感じていた。ルイズの雰囲気がほんのちょっぴり良くなったのを。
主人が元気になって良かった。サガはそう思いながら最後のガレキを片付けるのだった。
とうとうこの時がやってきてしまいました。
一体何ーシュ君が犠牲になってしまうのか...ご期待ください。