ギーシュ君は、サガに勝てるのでしょうか?
何故、こんなことになってしまったのだろう。
眼の前に居た自身のゴーレム達が次々に崩壊していく様を見て、青銅のギーシュは思った。
ギーシュは少し上を向く。
そこには、龍のような姿をしたナニカがギーシュを見下ろしていた。
◇
サガがこの世界に召喚され、数日経った頃。
その日、サガはシエスタに頼まれ、食堂の手伝いをしていた。
食堂には、様々なメイジがいた。互いの使い魔の自慢をしあうもの、巷で話題の小説について話すもの、恋愛話に花を咲かせるもの。
その中に1人、金色の巻き髪にフリルのついたシャツを着た、キザなメイジがいた。薔薇をシャツのポケットに刺した彼を、周りの友人が口々に冷やかしている。
「なぁ、ギーシュ! お前、いまは誰と付き合っているんだよ!」
「誰が恋人なんだ? ギーシュ!」
ギーシュと呼ばれた少年は、すっと唇の前に指を立てた。
「付き合う? 僕にそのような特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」
そんな事を言っているギーシュを見て、ナルシストにも程があるな、とサガは思いながら自分が運んでいた料理を見た。
サガが持っているトレイには、貴族用の色とりどりの料理がのっていた。
少し位ならバレまい...そんな事を思いながら料理に集中していたせいか、自身の足元に転がってきたソレに気づかなかった。
グシャッ
「トフィスト?」
「は?...!?んなっ!? おっ、おいお前!」
途端に立ち上がる華やかな香り。それに気づいたサガとギーシュが、その香りの出所に気がつく。ギーシュは顔面蒼白になって砕け散ったソレにすがりよった。
「な、な、なんてことをするんだ君は!」
「すまない...気づかなかった。悪いことをしたな、落としたのか?」
「そう……あ、いや、その」
何故か、自分の持ち物であることを濁すギーシュ。
すると、ソレの出所に気づいたギーシュの友達が、大声で騒ぎ始めた。
「おお? その香水は、もしや、モンモランシーの香水じゃないのか?」
「そうだ! その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」
「そいつがギーシュ、お前のポケットから落ちてきたってことは、つまりお前は今モンモランシーとつきあっている。そうだな?」
「違う!いいかい?彼女の名誉のために言っておくが...」
ギーシュが何か言いかけたとき、後ろのテーブルに座っていた茶色のマントの少女が立ち上がり、ギーシュの前に向かってコツコツと歩いてきた。
栗色の髪をした可愛らしい少女は、ポロポロと涙を零していた。
「ギーシュさま...やはり、ミス・モンモランシーと...」
「彼らは誤解しているんだ、ケティ。僕の心の中に住んでいるのは、君だけ...」
しかし、ケティと呼ばれた少女は、思いっきりギーシュの頬をひっぱたいた。
「その香水があなたのポケットから出てきたのが、何よりの証拠ですわ! さようなら!」
そのまま何処かへ行ってしまう少女。
変わって遠くの席から1人の見事な巻き髪の女の子が立ち上がった。厳しい顔つきで、かつかつとギーシュの席までやってくる。
「モンモランシー、誤解だ。彼女とはただいっしょに、ラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで……」
「やっぱり、あの1年生に手を出していたのね?」
「お願いだよ、『香水』のモンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りでゆがませないでくれよ。僕まで悲しくなるじゃないか!」
冷静な態度を装って弁明するギーシュだったが、モンモランシーはテーブルに置かれたワインを掴むと、中身をどぼどぼとギーシュの頭からかけた。
そして。
「うそつき!」
と怒鳴って去って行った。
沈黙が流れる。
ギーシュはハンカチを取り出すと、ゆっくりと顔を拭いた。そして、首を振りながら芝居がかった仕草で言った。
「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」
その流れを見て、サガは言った。
「私、知っているぞ。修羅場だな、これは」
サガの脳裏に、とあるドラグナーの夫婦を思い出した。夫に助けを求めているのに、全然違う奴らが来て怒っているのを見たのは記憶に新しかった。
それはともかく、まだ仕事が終わっていないサガは終わらせるため次の場所へと向かう。
「待ちたまえ」
「?」
そんなサガをギーシュが止めた。椅子の上で体を回転させると、すさっ! と足を組む。
いちいちキザっぽい。
「君が不注意に、香水を踏み潰したりしてくれたおかげで、2人の女性の名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」
「確かに香水を踏んで壊したのは私だ。しかし、修羅場が起こったのは貴方のせいではないのか?」
それにギーシュの友人達が笑う。
「そうだ、二股かけたお前が悪い!」
「そこの使い魔の言う通りだ!」
ギーシュの顔が、真っ赤に染まる。そして一息ついて言った。
「いいかい、使い魔君。君が少し気を利かせて、香水を拾い上げるなりすればよかったろう。機転をきかせて話を合わせることもできたはずだ」
「何故私がそうしなければ良いのかわからない。それに、余計なことに口を挟むと
ウマキン☆プロジェクトに蹴られるときいたぞ」
「そこはウマに蹴られる、ではないのかい?
まぁいい、使い魔如きに貴族の機転を期待した僕が間違っていたな。さ、行きたまえ」
人をバカにした言い方に、サガはぽつりと呟いた。
「貴族と言っても、人間の子供か。考えもなしに、浅ましいものだ」
ギーシュは激昂した。かのゼロの使い魔に礼儀を叩き込んでやらねばと思った。
ギーシュは立ち上がり、言った。
「決闘だ。逃げるとは言わせん」
「...いいだろう。何処でやる?」
「ヴェストリの広場で待っている、それを配り終わったら来たまえ」
ギーシュの友人たちが、ワクワクした顔で立ち上がり、ギーシュの後を追った。1人は、テーブルに残った。サガを逃さないよう、見張るつもりのようだ。
シエスタが、ぶるぶる震えながらサガを見つめて言った。
「あ、あなた、殺されちゃう...貴族を本気で怒らせたら!」
「...シエスタ、残りは頼んだ」
「え?あ、はい...」
サガは、シエスタにトレーを渡す。シエスタは少し迷ったような表情を見せ、やがてだっと走って逃げてしまった。
そして、入れ替わるように、ルイズが走って来た。
「あんた! 何してんのよ! 見てたわよ!」
「おお、ルイズ。今から
「デュエル?とにかく、今すぐ謝ってきなさい!」
「
「もちろん」
サガと監視役の貴族が広場へと向かっていく。
「ちょっと!聞きなさい、メイジには絶対に勝てないの!怪我で済んだら運がいい方なのよ!」
しかし、サガはかけらも聞く耳を持たずに歩いて行ってしまった。
「あぁもう! ほんとに! 使い魔のくせになんで勝手なことばっかりするのよ!」
ルイズは、サガの後を急いで追いかけた。
◇
ヴェストリの広場は、魔法学院の敷地内、『風』と『火』の塔の間にある、中庭である。西側にある広場なので、日中でも日があまり差さない。決闘にはうってつけの場所であった。
広場は、噂を聞きつけた生徒たちで溢れかえっていた。
「諸君! 決闘だ!」
ギーシュが薔薇の造花を掲げると、うおーっ! と歓声が巻き起こる。
「ギーシュが決闘するぞ!相手はルイズの使い魔だ!」
ギーシュは腕を振って、歓声に答えている。
集まっている観客は皆、決闘が見られる事というより、ギーシュが使い魔を一方的に打ち倒す様が見られる事に期待し、湧き上がっていた。
そのためギーシュの相手が何者であるかなど、彼らにとってはどうでもいいことだった。
と、観衆の間から蒼い影が現れる。サガだ。
「ふっ、逃げずによく来たね。誉めてやろうじゃないか」
「当たり前だ」
「では、始めようか?」
ギーシュは、サガを余裕の笑みで見つめ、薔薇の花を振った。
花びらが1枚、宙に舞ったかと思うと……次の瞬間、硬い金属製と見られる、甲冑を着た女戦士の形をした人形になった。
「ほう、召喚したのか」
「召喚ではないよ。魔法だ。僕はメイジだ。だから魔法で戦う。文句はあるまいね? 言い忘れたな、僕の2つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」
「成る程、確かにそうだ。では、こちらも」
そう言うと、サガは杖を構える。杖は輝き、サガの周りに五枚の薄青色の板のようなものを作り出した。
「改めて名乗ろう。私はサガ。ゼロの使い魔にして...」
「...絶望神の名を冠する者である」
◇
学院長室。ミスタ・コルベールは、オスマン氏に説明していた。
春の使い魔召喚の際に、ルイズがとある使い魔を呼び出したこと。
その使い魔から、ただならぬ気配を感じ取ったこと。
ルイズがその使い魔と契約した証明として現れたルーン文字を調べていたら...始祖ブリミルの使い魔、『ガンダールヴ』に行き着いたこと。
オスマンは、コルベールが描いたルーン文字のスケッチをじっと見つめ、ふーむと唸り髭をいじった。
「ふむ、確かに同じじゃ。ルーンが同じということは、その使い魔は、『ガンダールヴ』になった、ということになるんじゃろうな」
「どうしましょう」
「しかし、それだけでそうと決めつけるのは早計かもしれんがの。そういえば、彼女の使い魔について詳しく聞いてなかったの。一体、どんなやつなんじゃ?」
「えっと、中々説明しにくいのですが...」
と、オスマン氏にサガについて説明しようとした時だった。
コンコン
ドアがノックされた。扉の向こうから、ミス・ロングビルの声が聞こえてくる。
「私です、オールド・オスマン」
「なんじゃ?」
「ヴェストリの広場で、決闘をしている生徒がいるようです。大騒ぎになっています。止めに入った教師がいましたが、生徒たちに邪魔されて、止められないようです」
「まったく、暇をもてあました貴族ほど、たちの悪い生き物はおらんな。で、誰が暴れておるんだね?」
「1人は、ギーシュ・ド・グラモン」
「あの、グラモンとこのバカ息子か。オヤジも色の道では剛の者じゃったが、息子も輪をかけて女好きじゃ。おおかた女の取り合いじゃろう。相手は誰じゃ?」
「...それがメイジではありません。ミス・ヴァリエールの使い魔です」
オスマン氏とコルベールは顔を見合わせた。
「教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めております」
「アホか。たかが子供のケンカを止めるために、秘宝を使ってどうするんじゃ。放っておきなさい」
「わかりました」
ミス・ロングビルが去っていく足音が聞こえる。
コルベールは、唾を飲み込んだ。
「オールド・オスマン」
「うむ」
オスマン氏は、杖を振った。壁にかかった大きな鏡に、ヴェストリの広場の様子が映し出された。
◇
「いけ!」
ゴーレム達がゆっくりとサガに近づく。
が、サガは意に介さない。
「ふむ...まずはマナがなければな。
『ブラッディ・タイフーン』をマナチャージ」
サガの持つ杖にエネルギーらしきものが集まる。何かする気か。ギーシュは警戒する。
しかし、サガは動かない。そして、眼の前にゴーレムが一体たどり着く。
「何がしたかったのかは知らないが、残念だったな。これで、終わりだ!」
ゴーレムがサガに攻撃する。その攻撃はサガに直撃...
パリン
しなかった。その代わり、周りに作られた一枚の板が割れる。
「シールドチェック。...無いな。では、『氷牙レオポル・ディーネ公』をチャージし、2マナ。
呪文、『ブラッディ・タイフーン』!」
杖から竜巻が起こり、サガに集まりつつあったゴーレムが吹き飛ばされる。しかし、殺傷能力はないのか、無傷だ。
「魔法を使えるのか!?...だが、流石ゼロの使い魔。見た目は派手でも、威力がまったくないじゃないか!」
ギーシュが嘲笑う。が、やはりサガは意に介さない。
「...まぁいい。とにかく、やはり君じゃ僕には勝てないということさ。その邪魔な板を壊して、トドメをさしてあげよう!」
ゴーレムが4体、一気にサガを守る板を破壊する。
勝った。ギーシュがそう思ったときだった。
「...シールドトリガー、発動」
「『迷いはない。俺の成すことは決まった』」
杖が光る。そして、サガの隣に...
「なっ...!?」
「うそ...!?」
サガが、現れた。
デュエルは後半に続きます。
次回、ギーシュ敗北!
次回もサガ!ループ!