あの剣も登場します。
サガとギーシュの決闘から数日経った。
とはいっても、なにか変わるわけでもない。サガはいつものように洗濯をしていた。
「さて、こんなものか」
と、同時に昼休憩の鐘がなる。
そして、移動していたギーシュがサガに話しかけてきた。
「やぁ、サガ。相変わらず洗濯かい?」
「おぉ、ギーシュ。相変わらずそうだ。今から食事か?」
「そうさ。良かったら、少し持ってきてあげようか?」
「気遣いは嬉しいが、それはいい。わざわざ持ってきてもらわなくても向こうが渡してくるからな」
「...何故だい?」
「食堂の人間たちがな、私のことを
『我らの絶望神』とよんで、色々渡してくるのだ」
「それ、褒められてるのかい?」
そんな雑談をしていた時、ルイズがやって来た。
「あら、いつの間にか随分仲が良くなったのね?」
「お、ルイズ」
「やぁ、ルイズ。そうだね。今じゃサガは僕の良き友人さ」
「それは良かったわね。そうだ、私サガに用があって来たのよね」
ルイズはサガの方向へ向く。そして、一息ついて、言った。
「サガ、ちょっと付き合ってくれない?」
「どこに?」
「買い物。もうすぐ虚無の曜日だから」
「成る程、いいだろう」
こうして、サガはルイズの買い物に付き合うことになったのだった。
◇
虚無の曜日。俗に言う休日。
その日、とある青髪の少女が出かける準備をしていた。
名をタバサ。このトリステイン魔法学校でも随一のメイジだ。本来なら、この日は大好きな本を読んで誰にも邪魔されずゆったり過ごすはずだったが、予定が変わっていた。
部屋から出るタバサ。と、丁度よくキュルケがやってくる。
「あら、タバサ!?珍しい、この日に貴女が部屋から出るなんて。一体、どうしたの?」
そう言うキュルケに答える。
「...偵察」
彼女のメガネが、きらりと光った。
◇
トリステインの城下町を、サガとルイズは歩いていた。乗ってきた馬は町の門のそばにある駅に預けてある。サガも流石に乗馬の経験はなく、腰のあたりをさすっていた。
「痛い...」
「意外ね、乗馬くらい平気かと思った」
「初めて乗ったからな」
バイクに乗った邪神の事を思い出しながらそう言うサガ。
そして、物珍しそうに辺りを見渡す。白い石造りの街はどれもサガにとって珍しいものばかり。
道端で声を張り上げて、果物や肉や、籠などを売る商人たちの姿。にぎわう人々の喧騒。サガは嫌いではなかった。
「すごい人だな」
「ブルドンネ街。トリステインで1番大きな通りよ。この先にトリステインの宮殿があるわ」
「宮殿か。中々の大きさだな」
「そうね」
そうして、ルイズの買い物が始まった。ルイズは様々なものを買っており、その荷物をサガが持っていた。その時、サガは一つの怪しげな店を見つけた。
「ルイズ、あそこは何の店だ?」
「え?...あぁ、あれは武器屋ね。私達には関係ないわ」
そうしてさっさと歩くルイズ。しかし、サガはじっとその店を見つめている。
「...なに?あんた、武器欲しいの?」
「いや...少し、気になってな」
そう言うサガに、ルイズは言った。
「じゃ、せっかくだし何か剣でも買ってあげるわ」
「いいのか?」
「ま、荷物を持ってくれてるしね。たまには、使い魔にもご褒美をあげないと」
得意そうにそう言って、ルイズは武器屋の方へと向かう。サガもそれに続くのだった。
店の中に入る。店は、昼間だというのに薄暗く、ランプの灯りがともっていた。壁や棚に、所狭しと剣や槍が乱雑に並べられ、立派な甲冑が飾ってあった。
店の奥で、パイプをくわえていた50程度の親父が、入ってきたルイズを胡散臭げに見つめた。紐タイ留めに描かれた五芒星に気がつくと、慌ててパイプを離し、ドスの利いた声を出した。
「旦那。貴族の旦那。うちはまっとうな商売してまさぁ。お上に目をつけられるようなことなんか、これっぽっちもありませんや」
「客よ」
「こりゃあおったまげた。貴族が剣を! おったまげた!」
「どうして?」
「いえ、若奥さま。坊主は聖具をふる、兵隊は剣をふる、貴族は杖をふる、そして陛下はバルコニーから手をおふりになられる、と相場は決まっておりますんで」
「買うのはわたしじゃないわ。使い魔よ」
「忘れておりました。昨今は貴族の使い魔も剣をふるようで」
主人は、商売っ気たっぷりにお愛想を言い、それから、後ろのサガを見てギョッとしたが、気を取り直してじろじろと眺めた。
「剣をお使いになるのは、この方で?」
ルイズは頷いた。サガは、棚に並べられた武器を代わる代わる手に取り、興味深く見ている。
ルイズはそんなサガを見て言った。
「わたしは剣のことなんかわからないから、適当に選んでちょうだい」
主人はいそいそと奥の倉庫に入り、聞かれないよう小声でククッと笑った。
「こりゃ、鴨がネギしょってやってきたわい。せいぜい、高く売りつけるとしよう」
彼は1メイルほどの長さの、細身の剣を持って現れた。
随分華奢な剣であり、片手で扱うものらしく、短めの柄にハンドガードがついている。主人は思い出すように言った。
「そういや、昨今は宮廷の家族の方々の間で下僕に剣を持たすのがはやっておりましてね。その際にお選びになるのが、このようなレイピアでさあ」
「貴族の間で、下僕に剣を持たすのがはやってる?」
ルイズが尋ねると、主人はもっともらしく頷いた。
「へぇ、なんでも、最近このトリステインの城下町を、盗賊が荒らしておりまして」
「盗賊?」
「そうでさ。なんでも『土くれ』のフーケとかいう、メイジの盗賊が、貴族のお宝を散々盗みまくってるって噂で。貴族の方々は恐れて、下僕にまで剣を持たせる始末で。へえ」
ルイズは盗賊には興味がなかったので、じろじろと剣を眺めた。しかし、すぐに折れてしまいそうなほどに細い。
「もっと太くて大きいのがいいわ」
「お言葉ですが、剣と人には相性ってもんがございます。男と女のように。見たところ、若奥さまの使い魔とやらには、この程度が無難なようで」
「太くて大きいのがいいと、言ったのよ」
確かに細身な剣とサガはぴったりなイメージだ。しかし、剣に詳しくないルイズは気に入らなかった。
ぺこりと頭を下げ、主人は奥に入った。その際、小声で
素人が!とつぶやきながら。
今度は立派な剣を油布で拭きながら、主人は現れた。
「これなんかいかがです?」
見事な剣だった。1.5メイルはあろうかという大剣で、柄は両手で扱えるように長く、立派な拵えになっている。ところどころに宝石も散りばめられ、諸刃の刀身は鏡のように輝いている。見るからに切れそうな、頑丈そうな大剣であった。
「店1番の業物でさ。貴族のお供をさせるなら、このくらいは腰から下げて欲しいものですな。といっても、こいつを腰から下げるのは、よほどの大男でないと無理でさあ。やっこさんなら、まぁ、ギリギリいけるかどうかというとこですなあ」
「おいくら?」
「何せこいつを鍛えたのは、かの有名なゲルマニアの錬金術師シュペー卿で。魔法がかかってる鉄だって一刀両断でさ。ごらんなさい、ここにその名が刻まれているでしょう? おやすかあ、ありませんで」
「わたしは貴族よ」
ルイズが胸をそらして言うので、主人は淡々と値段を告げた。
「エキュー金貨で二千。新金貨なら三千」
「立派な家と、森付きの庭が買えるじゃないの」
「名剣は城に匹敵しますぜ。屋敷で済んだらやすいもんでさ」
「新金貨で、百しか持ってきてないわ」
ルイズは貴族なので、買い物の駆け引きが下手であった。あっけなく財布の中身をばらしたルイズに、主人は話にならない、というように手を振った。
「まともな大剣なら、どんなに安くても相場は二百でさ」
ルイズは顔を赤くした。剣がそんなに高いとは知らなかったのだ。
だがそこへ、サガが身を乗り出して剣を覗き込み、言った。
「ほう。真鍮の剣とは面白い。だが、これでは直ぐに折れそうな気がするが」
「!?い、いやぁ、一体何を言って...」
そう言う主人に、サガはふんすと言わんばかりに体をそらして言った。
「私は元クリエイターだぞ?それが何でできているのか位分かるに決まっているだろう。しかし、シュペー卿というやつはなかなか面白いやつのようだ」
普通に考えて剣に向いてない素材を使っているのだからな!と、サガが言いきる。
それを聞いたルイズは、ジトッとした目で主人を見る。禿げ上がった親父の頭に、大粒の脂汗が浮かんでいた。貴族の方は素人で合っていたのだが、使い魔の方はとんでもない食わせ物だったのだ。
主人は慌てて裏に入り、額の汗をぬぐった。
「こりゃ、鴨ネギだなんてとんでもない。ありゃあ太い客だ、しっかりしたものを用立てせにゃ」
次に主人が持ってきたのは、赤と青の双剣だった。
「これは?」
「これは、北の果ての国で作られた、
エイリア伯オンセンの作の1つでさ。扱いの難しさで言えば確たるもので、普通に振り回して扱うようなものではございやせん。普通の者じゃ、扱いきれないというものでさあ、へえ」
「ふむ」
サガは双剣を手に取り、じっくりと観察する。どこか似たようなクロスギアがあったような気もする。
それはともかく、主人の説明通りの作りであれば確かに簡単に扱えるものではない、だが、それに勝る利点もとても多いように思える。
「いいな」
そうサガが、呟いたときだった。
「なぁに言ってんだ、おめぇ」
そう呟いたときだった。乱雑に積み上げられた剣の中から、声がした。低い、男の声だった。
「誰だ?」
サガが声の主を探す。しかし、どこを探しても、人の姿は見えない。
「見ただけでモノが分かるだぁ?馬鹿言っちゃいけねぇ!自分にあった武器もわからないくせに、知った口をきいてんじゃねぇ!わかったら、さっさと帰りな!おめえもだよ!貴族の娘っ子!」
「失礼ね!」
サガが声のする方に近づく。
「どこにいる?」
「おめえの目は節穴か!」
サガは驚きのあまり声を失った。声の主は1本の剣だった。錆び付いたボロボロの剣から声は発せられていたのである。
「ドラグハート...では、なさそうだな」
すると、主人が怒鳴り声をあげた。
「やい、デル公! お客様に失礼なことを言うんじゃねえ!」
「デル公?」
デル公と呼ばれたこの剣、先ほどの大剣と長さは変わらないが、刀身が細い、薄手の長剣だった。表面の錆のせいで、お世辞にも見栄えがいいとは言えないが。
「それって、インテリジェンスソード?」
ルイズが、当惑した声をあげた。
「そうでさ、若奥さま。意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。いったい、どこの魔術師が始めたんでしょうかねえ、剣をしゃべらせるなんて...とにかく、こいつはやたらと口は悪いわ、客にケンカは売るわで閉口してまして。
やいデル公!これ以上失礼があったら、貴族に頼んでてめえを溶かしちまうからな!」
「おもしれ! やってみろ! どうせこの世にゃもう、飽き飽きしてたところさ! 溶かしてくれるんなら、上等だ!」
「やってやらあ!」
そう言って近づく主人を遮るように、サガが剣の前に立つ。
「デル公と呼ばれていたが、貴方の名は?」
「俺はデルフリンガーさまだ!覚えておきやがれ!」
「名前だけは、一人前でさ」
主人が言う。それを聞いて、さらにサガは納得したようだ。
「私はサガ。デルフリンガー、私は貴方が気に入ったぞ」
「ほーぅ、言いやがるじゃねえか。褒められるっつーのは慣れんぞ、俺様照れっちまう」
ふと、剣は黙りこくった。まるでサガを観察するように。
息を飲むように剣がささやき、小さな声で話し始めた。
「おで、れーた。おめ、『使い手』か。いや、それだけじゃない。まさか、クリーチャーか」
その声は、先ほどまでの威勢とは打って変わり、震えていた。
サガも、それを聞いて驚いていた。
「クリーチャーを知っているのか?」
その問いに、デルフリンガーは言う。
「知ってるも何も、昔戦ったことがあるよ」
「なるほどな。よし、ルイズ。私、この剣に決めたぞ」
ルイズはいやそうな声をあげた。
「え〜〜〜〜、そんなのにするの? もっと綺麗でしゃべらないのにしなさいよ」
「デルフリンガーを選ばないとはとんでもないぞ、ルイズ。デルフリンガーはいい剣だ」
「褒めるねえ、俺様、感激」
「そうは見えないけど...」
ルイズはぶつくさ文句を言ったが、あまりにもサガが気に入っているようなので、主人に尋ねた。
「あれ、おいくら?」
「あれなら、百で結構でさ」
「安いじゃない」
「こっちにしてみりゃ、厄介払いみたいなもんでさ」
主人は
「どうしても煩いと思ったら、こうやって鞘に入れればおとなしくなりまさあ」
こうして、サガはデルフリンガーという剣を手に入れたのだった。
◇
後日。サガがいつものように洗濯していると、1人の少女が話しかけてきた。
「ちょっと、いい?」
「何だ?」
サガが振り向く。居たのは、青髪のルイズより小柄な少女だった。青髪の少女は、サガに名乗る。
「私は、タバサ。貴方に、興味がある」
それに対し、サガは...
「そうか。私はサガ。私は貴女には興味はないぞ」
と、真面目そうな顔で言うのだった。
因みにデルフリンガーの前に出された剣は
炎水剣オンセン・サバキが元ネタだったりします。