休日にいきなり来た妹に驚かされたが、兄離れ出来ていない夏耶なら仕方ない事かと納得してしまう。
まぁ、俺自身もそろそろ一回家には帰ろうと思っていたのだし、こいつが来てもおかしくない。
信吾の気遣いで俺と夏耶は別の部屋で移動して話すことにした。
「お兄ちゃん、新しい学校はどう? 楽しい」
改めて向かい合うと、夏耶は目を輝かせながら聞いてきた。
その様子が小さなころから全く変わらないので、俺は少し苦笑しながら答えた。
「ああ、楽しいよ。毎日鍛錬ばかりだけど、その分刺激的なことも一杯ある。特に父さん以外の武者の人に稽古を付けてもらえるのは凄く有り難い」
「そうなんだ。やっぱりお父さんの方が強いの?」
「いや、それは分からない。分かってることは、軽くあしらわれてしまうってことくらいだからな」
「やっぱり武者って凄いね~」
まるでお伽話を聞いているようにはしゃぐ夏耶。こうして見るとまだ子供だなぁ、と思う。
そんな無邪気な笑顔を浮かべていた夏耶だったが、急に少しだけ真剣な顔になった。
「そう言えばお兄ちゃん………お兄ちゃんは格好いいから、女の子が一杯来たんじゃないかなぁ」
笑顔のはずなのに何やら可笑しな威圧感を醸し出す妹に若干引きつつ、俺は妹を落ち着けるように笑顔で話しかけた。
「何を勘ぐっているのかは知らないが、そんなことはないだろう。俺は昔から変わり者だからな。俺に構ってくる女性なんてそうそういないよ。それよりもお前の方はどうなんだ? IS学園でちゃんと生活できてるのか?」
自分の事を聞かれたので少し驚きつつも夏耶は楽しそうに笑った。
「うん、ちゃんと毎日やってるよ! 代表候補生になったからちょっと訓練は大変だけど、それでも友達が一緒だからやる気も十分湧いてくるしね。ご飯も美味しいし。ただ………」
そこで言葉を一端切ると、夏耶は頬を赤らめながら上目使いで俺を見つめてきた。
「お兄ちゃんと会えないのは寂しかったかな。少し前まで毎日一緒だったし」
「そうか」
「ふにゃぁ~」
少し寂しそうにそう言う夏耶の頭を優しく撫でると、夏耶は子猫のように気持ちよさそうにしていた。
こいつは人一倍寂しがり屋だからな。いくら友人が出来てもすぐには克服出来ないもの故にしかたないだろう。
そのまま少し撫でていると、夏耶は俺の胸に飛び込んできた。
「お兄ちゃん!」
そのまま俺に抱きつく夏耶。
どうやら感極まったのか、身体を押しつけるように力一杯くっついてきた。
「えへへへへ~、お兄ちゃんの身体、もっと引き締まってるね~」
「はぁ~、またか…」
少し会わない内にまた成長したのか、大きな胸が押しつけられてその感触に若干異性を意識してしまったが、妹に何を思っているのやらと内心で自身を戒める。
どうやら環境が変わった所為で少し俺も精神的に調子が合わなくなっているようだ。
もっと鍛えないといけないな。
「あぁあああああああああああああああっ!! な、何兄妹で抱き合ってるんだ!! 不潔だぞっ!!」
そんなことを考えていたら布団を干し終わったらしい信吾が俺達を見て顔を赤くしながら指差して叫ぶ。
それを聞いた夏耶はニッコリと信吾に微笑むと、
「だって兄妹ですから。これぐらい普通ですよ。ね、お兄ちゃん」
と信吾に答え俺の頭を抱えるようにして胸に抱きしめてきた。
夏耶の大きな胸に俺の顔が埋まっていく。
こいつは何故か他の女性……とくに束さんなんかがいるときこうして俺に抱きつく。何故かはしらないのだが?
「なっ、なっ、なっ!」
その行為に更に言葉を失って真っ赤になる信吾。こいつには結構潔癖だから、こういうのは許せないのだろう。風紀に厳しいのは、それ故だ。
いつまでもこうしていると信吾が怒りかねないと判断し、俺はそのまま夏耶を引きはがしながら言う。
「それぐらいにしておけ。寂しかったのは分かるが、あまり人前でしていいことじゃない」
「そ、そうだけど~」
残念だと言わんばかりに頬を膨らませる夏耶の頭をポンポンと軽く叩きながら信吾に謝る。
「すまないな。こいつは甘えたがりで良くこうしてくっついてくるんだ。別に変な意味はないから妙な勘ぐりは止めてくれよ」
「そ、そうか……よかった……」
信吾は俺の言葉を聞いて安心したようだ。何故安心したのかは分からないが?
さらに補足するように言葉を足すことにした。
「こいつは親しい友人にはこうして良く甘えるんだ。これも父さん達の影響だと思う」
「一真の父親……あの織斑 一夏の?」
意外そうな顔をする信吾に苦笑しながら父さんのことを教える。
「ああ、確かに武者としては立派なんだが、母さんと一緒にいると…その……すごくバカップルなんだ。毎日新婚みたいな感じで飽きることがまったくないらしく、子供がいようともいい年してイチャつくんだ。だからこいつもそれが影響したのか、こうしてよく甘えて抱きついてくるんだよ」
「そ、そうなのか。何だか意外だな、あの織斑 一夏がねぇ…」
『※ちなみに確かに夏耶は甘えたがりだが、明らかにわざとと言わんばかりに胸を押しつけて抱きつくのは一真相手のみである。そのことに一真は全然気付いていない』
「ああ。だからその両親の影響か、こんな感じの甘えん坊に育ってしまった。兄としてどうかとはおもうのだが、これでも可愛い自慢の妹だからな。つい甘やかしてしまう」
「自慢の妹だなんて……キャ」
夏耶は褒められたと思い顔を赤く染めつつ喜んでいるようだが、そこまで褒めてはいない。
信吾はそんな夏耶を静かに見つめていた。もしかして気になるのだろうか?
兄として少し複雑な気がしなくもないが、そういうのは個人の問題だからな。俺がとやかくいうことではない。
(一真はまったく気付いてないけど、この娘………明らかに! っていうか、何でこんなあからさまにわかることを気付かないんだ、一真! これはもう一種の病気だぞ)
何か考え込んだ後に信吾から何やら心配されている視線を感じる。
俺は何か心配されるようなことをしたのだろうか? 身に覚えはないが。
そんなことを考えていたら………
くぅ~~~~~…と可愛らしい音が聞こえてきた。
その音源を見ると、夏耶が恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。
それを見て自分達が空腹であることを思い出した。
「………朝食を食べにいくか」
「そ、そうだな」
信吾にそう声をかけるとともに、俺達は夏耶を連れて学食へと向かうことにした。
俺は先程からずっと気まずさを感じていた。
理由までは分からない。だが、寮から出て学食へ向かっている現在までに、妙に殺気の籠もった視線を皆から向けられているのだ。
この学校で生活し始めてからも良くあったが、更に輪をかけて酷い。
何故皆はこうも殺気立っているのだろうか?
「大丈夫、お兄ちゃん? 何か顔に皺が寄ってるよ」
「ああ、大丈夫だ」
殺気を感じていた所為で眉間に皺が寄っていたようだ。
夏耶が俺を心配して覗き込む。
それにしても、何でこいつは腕を繋ぐときに腕を抱きしめるようにして繋ぐのだろう?
まるで母さんがしょっちゅう父さんにしている見たいに。
それを見た信吾が何やら複雑な顔をしているようだし。何だろうか………苛立ちと羨望の二つの感情を感じる気がする。
そんな感じに視線を集めたまま俺達は学食へと入った。
学食にいる皆が俺達、正確には俺の腕を抱きしめるように繋いでくっついている夏耶へと視線が集まる。それを感じて夏耶が少し驚き、俺の腕に更にしがみついた。
「あははははは……」
その視線を受けて信吾が乾いた笑いを上げていた。
俺も正直そうやって笑いたいところだが、この殺気に充ち満ちた視線の前にそれは許されそうにない。
ちなみに武帝校の学食は部外者でも利用は可能だ。
何せ学食自体は本当に何の変哲もない学食だから。
俺はその視線に辟易しながらも食券を買いにメニューを見る。
「二人とも、何がいい」
そう聞くと信吾が自分の分は自分で出すと慌ててきた。
だが、朝からこうして迷惑をかけている身。これぐらいでもしないと気が済まないと思い信吾に奢ることにした。
「えぇ~と……お兄ちゃんと同じ奴がいい。でも量は少なめでね」
夏耶は笑顔でそう言ってきた。
それを聞いて信吾も慌てて注文を決めた。
「な、なら僕は……そうだな、このCセットで頼む」
信吾が頼んだのは量が少なく女生徒に人気のあるCセットだった。
カロリー控えめで油分も少なく、所謂ダイエットに向いているんだとか。
「そんな少ない量で大丈夫か?」
「う、うん、たまにはこういうのも食べたいし……それにフルーツヨーグルトも食べたいし……」
信吾は顔を赤くしながら小さく言った。
それを聞いて俺は笑いながら信吾に聞く。
「何だ、フルーツヨーグルトが食べたかったのか?」
「はぅっ!? き、聞こえてたのか!」
「ああ、まぁな。確かに朝にあの組み合わせは身体に良さそうだな。糖分は頭の回転をよくする」
「う、うん……………」
凄く恥ずかしそうに顔を真っ赤にして頭を抱える信吾。そんなに恥ずかしいことだろうか?
もしかしてあれだろうか。男は甘い物が好きなんて格好良くないとかいう考え方か?
でもその割によく三時に幸せそうな笑顔で良く学食のスィーツを食べている姿を見かけるが。
それでこいつは気付いていないが、『男性』のファンが増えているらしい。
取りあえず三人の注文を纏め、職員の方に注文する。
「すみません、注文をお願いします」
「ああ、織斑君かい。今日もイケメンっぷりがすごいねぇ~」
いつも世話になっているので職員の人達とは皆顔見知りだ。
そのからかいに俺は苦笑しながら注文を伝える。
「すみません、Cセット一つとA定食を少なめで一つ。それと……AからEまでの定食を一つずつお願いします」
「あらあら、今日はいつもより二人前多く食べるのね」
「いや、その二人前は友人と妹への奢りですよ」
「あら、妹さんがいるの?」
どうやらいつもと違う行動に興味を持たれたらしく、俺の妹がどれかを聞かれたので信吾の隣に立っている夏耶を指差した。
「あれが俺の妹です」
「あら、これまた随分と可愛らしい女の子ね! あれが織斑君の妹ね!!」
夏耶を見て大きな声でそういう職員の方の声が学食内に響き、一瞬だけ食堂内が静かになった。
そして再び騒がしくなる。
ただし夏耶の話ばかり聞こえてきた。
それで夏耶に話しかけようとする奴も出てきたが、信吾が追い払っていく。
そのまま頼んだ食事を持って俺は信吾と夏耶がいるところへと行くと、夏耶が少し涙目になって抱きついてきた。まぁ、ここの生徒に人見知りの夏耶が話しかけられれば当然かもしれない。たぶん心細かったのだろう。
そのままあやしていると、何やら更に殺気立った視線が集まってきた。
だから何でだ!
そして三人で席を見つけて座ると、持ってきた食事を広げる。
「「「いただきます」」」
席で行儀良く礼をしてさっそく食べ始めた。
「うわぁ、美味しい!」
夏耶が興奮気味に喜ぶ。どうやら口に召したようだ。
あまり意識したことはないが、家は父さんがプロ(料理人)というのもあってか、結構舌が肥えている。なので美味しくない物には敏感だったりするのだが、この様子なら夏耶も満足のようだ。
「~~~~~~~~~~えへへ……」
信吾も嬉しそうに食べていた。
滅多にCセットなんて頼まないから嬉しいのだろう。凄く上機嫌だ。
俺も食べるがいつもと変わらずに美味しい。
そのまま食べていたら、夏耶があることに気がついたのか俺の顔を見て言う。
「あ、お兄ちゃんおべんとさん着いてる」
「む、そうなのか」
どうやら米粒が口の周りのどこかに着いているらしい。
取ろうとするが、こういうのは場所が良く分からないので取れない。
「ここだよ、お兄ちゃん。おべんとさん、いただきます。んふふふふ~」
夏耶はそう言うとオレの頬に着いていたと米粒を指で取ると、それを自分の口に入れて食べた。
「「「「「「ぶぅうううううううううううううううううっ!!」」」」」
その瞬間に食堂にいた皆の殆どが噴き出した。
皆急いで食べているから咽せたのだろう。早食いは身体に悪いというのに。
そう思ったら信吾も咽せてしまったらしく、苦しそうに咳き込んでいた。
「大丈夫か、信吾! いきなりどうしたんだ」
「な、何でも、こほっ、ない、けほけほ」
どうやらフルーツヨーグルトを食べていた時に咽せたらしい。
口元がヨーグルトで汚れてしまっていた。
「大丈夫か? ほら、こっちを向いてくれ」
「んむっ!?」
苦しそうにしている信吾を見かねて、信吾の口元を紙ナプキンで拭いてやると、信吾は凄くびっくりして身体を硬直させた。顔が一瞬でふっとうするかのように真っ赤になっていく。
それで周りがまた咳き込むという事態に……。
「大丈夫だったか?」
「う、うん………」
信吾はどこか上の空で返事を返してきたが、見た限り大丈夫だろう。
「むぅ~~~~~~~~~~」
何故か夏耶が羨ましそうに見てきたが。
こうして何とか俺達は食事を終えて部屋へと戻ったが、それまでずっと殺気が充ち満ちた視線に晒され続けた。
((((((………織斑 一真、絶対に許すまじ! イケメンに死を! リア充に復讐を!!)))))