織斑 一真の苦悩   作:nasigorenn

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第13話 織斑 一真の授業参観 その1

 桜も完全に散って5月に入り、藤の花が美しく咲き誇るような時季となった頃。

俺はというと………

 

「諸君、ここはどこだ?」

「最後の審判を下す法廷だ!」

「異端者には?」

「死の鉄槌を!」

「男とは?」

「愛を捨て、哀に生きる者!」

「宜しい。これより……異端審問会を始める!!」

 

今日も今日とて良く分からない裁判にかけられていた。

 

「毎回毎回巫山戯るな、お前等! 何で俺がこんな目に遭わなければならないんだ!」

 

俺は15人に無理矢理押さえられ、椅子に座らされていた。

今までも殺気の籠もった視線を何度も向けられていたが、少し前に夏耶が遊びに来たのを他の奴等が見たのを機に、こうして俺はことあるごとにこの『異端審問会』という奴等と乱痴気騒ぎを演じるはめに遭っていた。

 

「ふん、しらばっくれるな! 諸君、今日の罪状の説明をせよ!」

 

やけに厳つい男が皆を代表するかのようにこの裁判もどきの裁判長を務める。

その声に応じて周りの奴等が口をそろえて罪状とやらの説明を始めた。

 

「罪状、かの者は本日の昼休みに我等が心の癒やし……真田 灯先輩とお昼を一緒にしただけでなく、その上先輩から手作りのお弁当を貰っていた。これが罪でなく何だと言うのだ!」

 

またかっ!

毎回捕まる度にそうだ。いつも灯先輩とのことで問い質される。別に何か悪い事をしたわけでもないというのに。

それにこの罪状にはさらに他の物も加味される。

 

「また、我等がオアシス『徳臣 信吾』からもいつもお弁当を作って貰っている。これが罪でなければ世界は悪意に満ちているとしか言えない!」

 

「「「「「そうだ、そうだ!!」」」」」

 

何故か信吾のことも言われる。

ルームメイトだし、アイツの好意なのだから何も問題はないだろう。

というか、何故信吾までこんなことを言われているのだろうか?

忠保曰く、『正直信吾は男に見えないからね。男性からの人気も高いんだよ。最近も何通かラブレターが来たしね……男性から』とのこと。

俺は普通だと思うんだがな……確かにたまに女の子っぽいようなところがあるけど、それだけだぞ。

というか、アイツは男から告白されたのか。何というか……難儀な奴だな。

そんなことを思い出しながら罪状を聞いていると、裁判長の男がふと思い出したように皆に聞いた。

 

「諸君……少し聞くが……お弁当の中身はどうなっていた?」

「はっ! 真田先輩も徳臣もスタンダードなお弁当でした!」

「しかし、真田先輩のお弁当では桜でんぶでハートマークが、徳臣のお弁当にはタコさんウィンナーが入っておりました!」

 

それを聞いて場が一瞬静まる。

そして何故か裁判長が無表情で淡々と判決と言う名の一方的な言いがかりを告げる。

 

「判決………死刑!」

 

「「「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」

 

その判決と共に襲い掛かってくる集団。

皆その顔は歓喜に染め上がっていた。

 

「ふっざけるなぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

俺は武者としての剛力を用いて拘束していた奴等を振り払う。

 

「ぬぉっ、抵抗するな! 大人しくボコられろ!」

「リア充、死すべきっ!!」

「モテない男の敵めぇええええええええええええええええええ!」

 

俺の抵抗に忌々しく言葉を吐き捨てながら拳や蹴りを繰り出す周りの奴等。

 

「やられるかぁ! おぉおおおおおおおおおおおお!!」

「へぶしっ!?」 「ごぱぁ!?」 「けぺれっ!?」

 

そいつらに俺は武者組打術での応戦を行う。

周りも武者の卵なのだから、一般高校生に比べれば断然鍛えられている。

手加減などしては此方がやられてしまうのだから、容赦なく叩き潰させて貰う。

俺の拳を受けた奴はその場で倒れ、蹴りを食らった奴は壁まで吹っ飛ばされる。

 

「怯むな、お前等ァ!! モテない男の底力を見せてやれぇええええええええええええ!」

 

裁判長の奴が叫びながら周りの奴等を先導し、それに掻き立てられた奴等がさらに俺へと襲い掛かっていく。

 

「頭を潰す! しゃぁっ!」

「ぷげらっ!!」

 

これ以上応援を呼ばれては厄介だと判断し、俺は裁判長を床に叩き付けた。

その後も続いていく後続を俺は叩き潰していく。

 

「いやぁ~、相変わらず一真はモテモテだね」

「そうだな。あいつは何処に行ってもこうなる運命なんだな、きっと」

 

そんな風に暴徒に襲われている俺に対して、雄飛達がのんびりとそんなことを言っていた。

そんなことを言っている暇があるんなら少しでもいいから助けて欲しい。

 

「一真、大丈夫かな」

 

信吾が心配している眼差しで俺を見ていた。

お前だけだよ、こうして心配してくれるのは。

 

「ま~た、ウチの男達は」

「本当にもう。織斑君もとんだとばっちりね」

「っていうか、このクラスにも女子はいるんだけど! 確かに徳臣君は少しお化粧しただけで女の子に見えそうだけどさぁ。寧ろ今でも女の子にしか見えないけど。だからってこの扱いはどうなのよ、私達」

 

数少ない女生徒からの感想に大いに同感だ。

でも、そう思うなら止めて欲しいかな。

 そんな感じに皆が思う中、俺は向かってくる奴等が尽きるまで戦い続けた。

その場で全員が倒れ伏した後、休み時間を終えるチャイムが鳴り響いた。

 

 

 そんなことが日常となりつつある中、俺はその日のHRであまりのショックに言葉を失ってしまった。

何故か? それはこれから語ることを聞けば理解いただけるだろう。

 

「はぁ~い、みなさん、静かにしてくださ~い」

 

授業が終わり、帰りのHRで鷺沢先生が騒ぐ皆を静かにするよう言うが、周りはあまり聞いてくれないのか静まる気配がない。

 

「もう、ちゃんと先生の話を聞いて下さ~い! 私、先生なんだからね~」

 

若干涙目になりつつもそう先生が言うと、やっと皆が静まった。

実はこれはわざとらしい。

忠保曰く、

 

「先生の可愛い泣き顔がみたいからだよ」

 

と言っていた。

まったくもって不謹慎としか言いようがない。

人の泣き顔が見たいからといってこんな行いをするクラスメイトは鬼畜ではないだろうか?

泣きそうなのを堪えて先生は皆に向き合うと、さっそく連絡事項を伝え始めた。

 

「実はですね~。来週の月曜日に何と、授業参観があります。今から皆さんに保護者宛の書類を渡しますから、後でご家族の方に送って下さいね」

 

それを聞いた瞬間、若干の不満が漏れる。

普通、高校に上がって授業参観などないものなのだが、この武帝校にはある。

何故なら、日頃の成長を親御さんに見せると共に、自分が恥じ入るようなことはしていないと保護者にも証明するために見て貰うためだ。

武者たる者、常に堂々とし己の潔白を示せということらしい。

そこでみんな不満を漏らしていたが、正直俺は内心それどころではない。

授業参観……それは過去において、俺のトラウマに近いものになっている。

何故なら……『あの両親』だからである。

これ以上は言わせないでほしい。

書類を送らないという手もあるが、ばれた場合は母さんが泣き父さんにそれこそ本当の意味で滅多打ちにされるだろう。そうでなくても武者の学校である。

どうせ副担任である真田先生こと、幸長おじさんが父さんあたりに面白がって言ってしまうだろう。

授業参観がバレるのは必然であり、回避する方法はない。

故に……俺は魂が抜けたように諦めるしかないのだ。

 その報告が終わった後、少々の連絡を伝えてHRは終わった。

 

「授業参観だってさ、一真」

 

雄飛がニタニタと笑いながら俺に話しかける。

俺はうんざりした顔で雄飛のに答えた。

 

「そう言うなよ。こっちは大変なんだからさ」

「今度はどっちが来るんだろうね~」

 

忠保も笑いながらそう言ってきたが、どちらが来ても可笑しなことにしかならないのは知っているじゃないか。

中学からの付き合いであるこいつ等は何故俺がこうなっているのかを知っている。

故にもうちょっと同情してもらいたい。

 

「大丈夫か、一真。何だか顔色が良くないようだが」

 

そんな俺を見かねてか信吾が声をかけてきた。

 

「いや……何とかな、少し精神的なショックが大きいだけだよ、うん」

「そ、そうか…。何というか、頑張れとしか言えないな」

 

心配してくれるだけでも本当に有り難い。

信吾自身も何やら神妙な顔をしていたので、もしかしたら授業参観に何か思うことがあるのかもしれないな。

 そう思いながらも、俺はこの日、すぐに実家へと書類を送った。

 

 

 

 そしてあっという間に授業参観の日になり、俺は席で若干の脂汗をかきつつ座っていた。

一応連絡を入れたのだが、行くと即答された。

ウチの両親はこういう行事には無理にでも参加する性質で、子供の成長をよく見る親だ。

親としては良いと思うが、その結果どうなるかということを考えて貰いたい。

そんなことを思っているウチに教室の後ろへと保護者が入って来た。

ぞろぞろと入って来る大人達に、皆手を振ったり声をかけたりと、色々やって親と話したりする。

皆壮年の大人達であり、様々な人がいた。

 

「あ、ウチの親だ」

 

近くにいた雄飛がそう言うと、雄飛の父親が俺達を見て手を軽く振る。

いつ見ても人が良さそうな優しい人だ。

そして保護者同士で色々と話し合ったり挨拶を行うため、少々騒がしくなる教室。

だが、次に扉が開いた瞬間、その騒がしさは消え去った。

 

「えぇ~と、ここですね」

 

脳がとろけそうな甘い声でそう言い教室を入って来た人に、皆視線が釘付けになった。

白い刺繍の入った綺麗なシャツに黒いスカートを穿き、胸に少し無骨な濃藍の三角錐のアクセサリーをぶら下げメガネをかけた女性がそこにいた。

歳の頃は20になるかどうか、見ようにとっては高校生かもしれない。

しかし、その見た目に反してその胸はとても大きく服がはち切れんばかりである。

肩にかけられた薄手のストールのせいか、余計に際立っている。

そんなこの場にいる年齢の人間からかけ離れているような女性の登場に保護者も含めて皆驚き言葉を失っていた。

特に男性はその胸から目を外すことが出来ず、女性はその美貌に羨ましい視線を送っていた。

そしてその女性は俺の方を見ると、にこやかな笑顔になり俺の方に歩いてきた。

 

「あ、かずくん、久しぶり。元気にやってる。ちゃんとご飯は毎日食べてるの? 私、心配で」

「うん、取りあえず元気だからね。早く保護者席に移動したほうがいいんじゃないかな。保護者同士で挨拶も必要だと思うしさ」

 

そう答えると、女性は嬉しそうに笑った。

 

「かずくんもそんなことを言うようになったのね。偉いわね~、いいこいいこ」

 

そして頭を撫でられる俺。

それを振り払いたいが、すれば後でどうなることやら……考えただけでも背筋が凍る。

そして女性が俺の所から保護者席へ移動するとともに……

 

俺の所に凄く殺気だった視線が集中してきた。

 

((((((またお前か、かっずっまぁあああああああああああああああああああ!!)))))

 

その視線に耐えつつ、心底思う。

 

(何で来ちゃったかな……母さん)

 

そう思いながらもチャイムはなり、授業が始まった。

母さんが俺に微笑んで手を振ってくれるが、そのせいで視線が痛くて仕方なかった。

 

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