織斑 一真の苦悩   作:nasigorenn

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第14話 織斑 一真の授業参観 その2

 遂に恐れていた授業参観。

来たのは寄りにも拠って母さんであった。

ここで父さんなのなら偉大な武者として注目を浴びていただろう。それは大丈夫だが、その分父さんからのプレッシャーを感じずにはいられないので気が抜けなくなるが。(只の一真の思い込みであり、一夏は基本優しく見ているので怒るということはない)

だが、来てしまったのは母さん。

小さい頃から育てて貰った身として見慣れているので特に思うことなどないのだが、周りから見れば凄い美人らしい。

友人曰く、

 

「あんな可愛い妹と綺麗な母親に恵まれてシスコンとマザコンにならないのは可笑しいっ!!」

 

だそうだ。

まぁ、俺から言わせて貰えば、確かに周りの保護者から確実に浮いているな。

服装よりも見た目が。

そんな周りから見目麗しい母さんがこのほぼ男所帯に来ればどうなるか。

当然皆から注目が集まることになる。

そしてその注目の的となった母さんは特に気にした様子もなく俺の頭を撫でたりした訳なのだから、最近騒がしい異端審問会の奴等が黙っているわけがなかった。

鷺沢先生が戸惑いながらも授業を行い、偶に生徒に間違いを指摘されつつも微笑ましい時間が終わりを告げると共に、奴等は動き出した。

授業終了のチャイムが鳴るとほぼ同時に一斉に動き始め……というかクラスの殆どの男子がそうだった。まさかこんなにいたとは思わなかったよ。

その中で一人の身長の高い男が一歩だけ前に出ると、静かに皆に話しかける。

 

「諸君、準備はいいかね?」

「「「「「「「イヤァー!」」」」」」

 

声をそろえて応じる男子達。

その様子はもはや軍隊と変わりないかもしれない。

 

「なっ!? 伊藤、真逆!?」

 

そう、クラスメイトの伊藤が真逆異端審問会の人間だとは思わなかった。

伊藤は俺を見るとニヤリと笑みを浮かべ、皆に指示を飛ばした。

 

「半分は一真を押さえつけろ! もう半分はあの美しい女性に突撃だ!!」

「「「「「「応っ!!」」」」」」

 

伊藤の檄の元、乱れることなく俺に飛びかかる半分、約一五人。

そして残り半分が母さんの元へとゆっくりと歩いていった。

俺とて一端の武者。だが、流石にこの数相手には手こずるのは必須であり、まるでラグビーのタッチダウンを止めるかのようにのしかかられてはどうしようもない。

 

「ぐぁっ!?」

 

潰されたせいでそんな声が漏れるが、そんなことお構いなしに更にのしかかってきた。

常人ならとっくに潰れて大惨事になりかねないぞ、これは。

 

「だ、大丈夫か、一真っ!?」

 

そんな俺を信吾が慌ててワタワタしながら心配してきた。

こうしているところは本当に女の子っぽくて可愛らしい。何となく男にモテるのがわかるような気がした。

 

「信吾、そんなに心配することじゃねぇよ」

「そうそう、もう一真には毎回のことだからね。まさに避けられない運命ってやつだよ」

 

慌てる信吾にそう笑いながら雄飛達が言うが、そう思ってるんならせめて助けて欲しい。

そんな俺達を置いて伊藤達は母さんの前に静かに来た。

 

「済みませんが。お名前を窺ってもよろしいですか?」

 

やけに格好付けた顔で母さんに話しかける伊藤。

母さんはいつもと変わらない笑顔でそれに応じた。

 

「はい、私は織斑 真耶って言います。かずくんのお友達ですか?」

「はい、そうです! 彼とはいつも切磋琢磨共に技量を磨き合っている仲です」

「あら、そうなんですか。頑張ってますね」

「いやぁ~」

 

褒められて嬉しいのだろうが、そんな目線は大きな胸の方にいっている。

身内としてあまり見て欲しくないが、今の現状どうすることもできない。それに周りの奴等も母さんに見入っている。

 

「し、失礼ですがお歳はいくつですか!」

 

周りの奴等の一人からそんな質問が上がると、母さんはちょっとだけむっとした顔でそいつの方を向く。

 

「女性に軽々しく歳を聞くのは失礼ですよ。めっ、です」

 

「「「「「はうっ!?」」」」」

 

指を軽く出して良く俺や夏耶を叱るポーズで注意すると、そいつを中心に周りにいた五人が何かを喰らって後ろへと吹っ飛んだ。その顔は凄く緩んでいたようだが、何か母さんがしたのだろうか? 

 

「その服、凄く似合ってますね」

 

また誰かが言ったと思ったら今度は褒めてきた。

褒められて母さんは嬉しいらしく顔を赤らめて喜ぶ。

 

「そうですか。若い子に褒められるなんて嬉しいですね。せっかくのかずくんの授業参観ですから、おしゃれして行こうと思いまして」

 

「「「「「「「ごほっ!?」」」」」」

 

何やらどこからか拳銃の発砲音のような音が聞こえた気がする。

それに応じてか、褒めた奴も含めて周りにいた奴等数名がその場で倒れ伏せた。

 

「キャ!? 大丈夫ですか!」

「は、はひ、大丈夫でっ…もげらぁああ!!」

 

それを心配して母さんが少し介抱する様に抱き起こしたら、その際少し胸が触れてしまったんだろう。そいつが鼻血を出して気絶した。

母さんはさらに心配になったのだが、周りの奴等から大丈夫だと言われて言いくるめられていた。

そして伊藤達は気絶した奴に向かって冷たい視線を向けていた。

こいつ等は味方でも容赦ないな。

 

「あの、本当に大丈夫なんですか? 急に鼻血を出してしまって…」

「いえ、大丈夫ですよ。こいつ鼻炎持ちですから」

 

心配する母さんにそう説明するが、少なくても鼻炎は鼻水が酷くなるのであって鼻血がいきなりでる物ではない。

そんな風に困惑している母さんに伊藤達は様々なことを聞いていく。

俺はというと、拘束している奴等を引っぺがしていた。

 

「はぁ、はぁ、毎回しつこい!」

「うるせぇ、このモテ男!」

「リア充!」

「もげろっ!!」

 

俺に叩き潰され床でき朽ちている奴等から怨嗟の声が漏れるが、聞く耳はない。

俺は少し困っている母さんを助けようと歩き始めたが、意外な人物に止められた。

 

「な、なぁ、一真。あの人は一体誰なんだ? お前と同じ名字で親しそうだけど……」

 

そう聞いてきたのは信吾である。

何やら少し焦っているように見えるのは俺だけ何だろうか?

そう思いながらも答えようとしたところで、母さんの方から質問が上がった。

 

「あの、一真とはどういう関係ですか?」

 

その質問が出た瞬間、周りは静まりかえった。

よく見ると女子も気になるらしく聞き耳を立てていた。信吾に至っては緊張しているのか唾を飲み込んだ音が聞こえた。

何でこんなに静まりかえっているのだろうか?

その質問に母さんはえへ、と笑いながら答えた。

 

「かずくんはですね、私にとって大事でとっても大好きな………」

 

最後の方は聞こえなかった。

何故なら、その途中で母さんの周りにいた奴等が一斉に振り返ったせいで音が鳴ったからだ。伊藤達はそのまま俺の前に静かに歩いて行くと、一斉に横に並んだ。

俺に叩きのめされた奴等も無言で起き上がって横に並び始めた。

静かなのが余計に怖さを感じさせる。

そして皆、泣き始めた。

声もなく、音もなく、ただ静かに涙を流す、

それも血涙だ。

俺がそれを見た瞬間、伊藤は覇気を込めて皆に叫んだ。

 

「抜刀、用意!!」

 

そう言ってどこからか木刀を抜いていた。

伊藤の叫びを聞いて周りの奴等も続いて順に木刀を抜いていく。

 

「岩崎、抜刀!」

「藤田、抜刀!」

「神岸、抜刀!」

「兵藤、抜刀ぅ!」

 

ドミノが倒れていくかのように、見事に順に木刀を引き抜いた異端審問会の奴等はそのまま木刀を構え始めた。

 

「全員、かかれ!!」

「「「「「「「「「「「応っ!!」」」」」」」」」」」

 

その声と共に俺に木刀で殴りかかってきた。

 

「うわ、危ない!」

「きゃっ!?」

 

信吾がいるのにもかかわらず斬り掛かってきたので、信吾を胸に抱えて真横へと飛んで回避する。何やら信吾から可愛らしい声が聞こえた気がしたが気にしている余裕はない。

 

「死ねぇええええええええええええええええええ、かっずっまぁああああああああああああああああ!!」

「どんだけモテんだよ、お前は!!」

「この巨乳キラーが! 妹と言いそこの女性と言い、どんだけ好かれてんだ、このクソ野郎!」

「何でテメェばかりなんだ! 顔か! それとも親譲りの武力か! あぁ!!」

 

絶え間なく降りかかる木刀の乱撃を何とか回避するが、このままじゃ信吾が危ない。

 

「信吾、しっかり捕まってろ!」

「は、はい」

 

信吾がやけに顔を真っ赤にして小さく頷くのを確認次第、少し後ろへ跳んで距離を取る。

母さんの方を見ると、突然の自体に慌てているようだが雄飛達が落ち着けているようだ。

それを見て大丈夫なのを確認次第、俺は相棒を呼んだ。

 

「来い、絶影!!」

 

俺の呼びかけに応じて外で待機していた絶影が窓を突き破って教室に入ってきた。

そして主の窮地だと判断し、胸から伸びるマフラーのような触手、『絞竜』を伸ばして警戒する。

俺は絶影の腰から『伏竜』を引き抜くと、峰を前に出して構える。

 

「お前等、いい加減にしておけ! これ以上俺を襲うというのなら、此方も手加減はしない!」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「上等っ!!」」」」」」」」」」」」」」」」

 

そして襲い掛かってくる異端審問会の奴等に、俺は絶影と共に戦っていくのであった。

 

 

 

 

 そして約二〇分後………。

教室は見る目もないほど散らかり、暴れていた奴等は皆床にのたうち回っていた。

俺は息を切らせながらも胸に抱き留めている信吾に話しかける。

 

「大丈夫だったか、信吾? どこも怪我とかしてないよな」

「は、はい……大丈夫です………」

 

信吾は何故か潤んだ瞳で俺を見つめてポーっとした様子だった。

何やら可愛らしくて少し気まずくなってしまう。

取りあえず大丈夫だと判断し、俺はのたうち回ってる奴等へと叫んだ。

 

「何を勘違いしているのか知らないが、この人は俺の母親だ!!」

 

そう叫んだ瞬間………教室は時間が止まったかのように静かになった。

そして約五秒ほど経った後に、

 

「「「「「「「「「「「「「えぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」」」」」」」」」」」」」

 

この場にいる全員から驚愕の声が上がった。

それを聞いた後、口々に嘘だろ、とかどう見ても高校生にしか、とか漏れていたが、それはあまり気にしてもしかたない。

そして母さんが改めて皆の前に出た。

 

「改めまして。かずくんのお母さんの織斑 真耶です。かずくんのこと、みなさんよろしくお願いします」

 

可愛らしくそう言うと、ペコリと頭を下げた。

そんな様子にさらに驚愕の声を上げる皆だが、雄飛達はその光景を見て笑っていた。

これが俺が授業参観で毎回味わう光景である。

 

「っていうことは………貴方の旦那さんは……」

 

一人が途切れそうな声でそう聞いてきたのに対し、母さんは満面の笑顔で答えた。

 

「はい、私の旦那様は織斑 一夏です! かずくんのお父さんでもあるんですよ」

「やっぱり!」

 

それに驚愕する皆に、嬉しそうに答える母さん。父さんの事になると歯止めが効かない節がある。

そんな風に話していたところで、突如母さんの携帯から振動音が鳴り始めた。

それに急遽でる母さん。

 

「あ、はい、もしもし……」

 

きっと急いで出たために誰か確認していなかったのだろう。

次の瞬間、母さんの顔が変わった。

 

「あ、旦那様!!」

 

目が潤み、頬を赤くそめて甘い声を出していた。

そして実に幸せそうな笑みを浮かべる様はまさに恋する乙女そのものである。

 

「どうしたんですか、一体? え、今日は仕事が早く終わったからこれから家に帰るんですか。そんな、お土産なんて……え、そ、それは嬉しいですけど……で、でしたら今夜にでも……」

 

顔を赤く染めながら電話をしているが、皆それだけでも漂ってくる甘さに顔を青くし始めていた。

電話相手は百パーセント父さんだな。

そして電話を終えると、俺の方にふやけた笑顔を向けてきた。

 

「ごめんね、かずくん。旦那様が早く帰ってこれるから二人でデートしようって……楽しみですね~! だからもう帰るね。かずくんが元気にやってるってことは旦那様に伝えておくから。じゃあね」

 

母さんは俺にそう言うと、幸せのあまり弾んだ感じに帰っていた。

 

「か、一真様……あのお方は……」

「あ、ああ、さっき言った通り、俺の母親だよ」

 

信吾が俺を見つめながらそう聞いてきたので素直に答えたのだが、何故敬語なんだ?

 

「そ、そうですか……よかった……」

 

胸を撫で降ろす信吾に疑問符を挙げながらも、俺はこの後散らかった教室をかたづけることになった。

 

 

 

 これが授業参観での悩み。

母さんや父さんが来ると絶対に騒ぎになるということ。

兄弟や姉弟に見られることも多いので、苦労が絶えないのだ。

これもきっと、学生である以上解決されることはない悩みだろう。

 

 

 

 

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