織斑 一真の苦悩   作:nasigorenn

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今回は信吾ががんばります


第16話 織斑 一真への挑戦 その2

 灯姉さんの告白により騒然となった教室だが、真田先生が諫めることで何とか静まった。

だが、皆の心は未だ混沌としている。

無論、俺だって驚き過ぎてどうすればいいのか分からない。

小さい頃から本当の姉のように慕ってきた灯姉さんが真逆いきなりこんな場所で告白するなんて思いもしなかった。

混乱する皆を尻目に灯姉さん達は教室から出て行ったが、姉さんは終始笑顔だった。

 

「と、いうわけで一真君は二学年の代表戦を頑張ってね。出来れば灯りに負けてくれると嬉しいんだけどね、私としては」

 

真田先生はそう言い残しながら教室を後にし、その後の教室はとんでもないことになった。

 

「な、なぜだぁあああああああああああああああ! 何で……何で一真ばかりぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

「真田先輩が、そんなぁあああああああああああああああああああ!!」

「お、俺達の天使が…癒しガァああああああああああああああ!!」

 

阿鼻叫喚の地獄と化し、皆(ほぼ男子)が打ち拉がれていた。

そんな光景の中俺はと言うと、最早何も考えられない。

そこでいきなり身体を思いっきり揺さぶられた。

 

「か、一真、どうするんだ! ど、どうするのですか、一真様!」

 

見ると俺以上に混乱して言葉が可笑しくなっている信吾がいた。

 

「いや、あの、その……どうしよう?」

「どうしよう? じゃありませんよ! どうしよう、このままじゃ…」

 

そんな風に二人で混乱して慌てていたら、雄飛達が笑っていた。

 

「これで一真の年貢の納め時かねぇ~」

「さすが一真でもこれは無理かな~」

 

面白そうに笑う二人に、信吾はハッとして食い付く。

 

「ど、どういうことだ、二人とも!」

「どうもこうもねぇよ。こいつ、中学の頃からモテまくりだったんだよ。それこそ、学園随一の美少女がこぞってな」

「ただねぇ~、一真は『ド』が着くくらいの鈍感だから。告白されても買い物とかに付き合うってくらいにしか思ってなかったんだよ。それでショックを受けて泣いちゃった女の子数は結構いたんだよねぇ。御蔭で影じゃ『女泣かせ』なんてあだ名まで付いちゃったくらいなんだ」

「そ……そうなのか……」

 

その事にショックを受けている信吾に、忠保はさらに笑う。

 

「彼女達が一生懸命告白したのにねぇ~。まぁ、彼女達も悪いんだけどね」

 

忠保の言葉に信吾が不思議に思い聞き返す。

 

「それってどういうこと?」

「あのね。彼女達の告白は緊張のあまり『付き合って下さい!!』しか言ってないんだよね。一真の鈍感っぷりじゃあそう言われても男女交際には引っかからなかったんだ。でも、今回みたいにあんなはっきり告白されたのは初めてかも知れないから、一真も大変だよね~」

「人ごとだからってあんまり楽しまないでくれ、忠保」

 

やっと頭が事態に追いついてきた俺は面白そうに笑っている二人に突っ込む。

 

「一真っ!!」

 

信吾が俺を追い詰めるように迫ってきた。

その時、やけに女の子っぽく見えて胸がドキドキとした。

 

「どうするんだ、一真! 受けるのか、受けないのか! どっち!!」

 

凄く泣きそうな顔で問い詰める信吾に、俺は焦りながら答える。

 

「と、取りあえず落ち着け! 灯姉さんはこう言ったんだぞ。『代表戦で勝ったら付き合ってくれって』。なら俺が勝てばその話は通らないだろ」

 

そう答えたら信吾の顔が少し晴れた。

何か心配していたのか?

 

「と、言うことは告白を受ける気は無いってことか? なら、真田先輩のことも好きじゃないってことだな!」

「いや、それは……」

 

聞かれたことに言い淀んでしまい、信吾は半分泣きながら俺の首を絞める。

 

「どっちですか! 好きなんですか! 好きじゃないんですか!!」

「く、苦しい……あまり絞めないでくれ……このままじゃ息が止まる……」

「はっ!? す、すみません……」

 

信吾は慌てて俺の首から手を離すが、その顔は真っ赤になっていた。

俺は呼吸を整えながら、正直なところを信吾達に話す。

 

「正直、どうすればいいのかまったく分からない。いや、その……あんな綺麗な人に告白されて嬉しくないわけがないんだけど、いきなりすぎて何とも。でも、決して嫌いじゃないんだよ。ただそれが男女交際となると、考えた事も無くて……」

「まぁ、一真ならそんなところだな」

「そうだね」

 

雄飛達はそこそこに笑いながらそう答えるが、信吾はそれを聞いて凄く焦った顔になった。

 

「いいですか、一真様! 絶対に勝って下さい!! 絶対にですよっ!!」

「お、おう……」

 

その余りの剣幕に押されつつ、俺は返事を返す。

どちらにしたって、あの四人の先輩とは絶対に戦わなければならないのだから、勝たなければどうなるか分かった物ではない。

それに戦う以上、それは本気での試合だ。正直に言えば死合いが好ましいが……。

 そんなわけで、HRが終わり一時間目が始まるまでこの阿鼻叫喚は続いた。

 

 

 

 それから放課後になるまで、それはもう大変だった。

朝の告白騒動はあっという間に学校中に知れ渡り、一年二年は勿論、三年生の男子まで意気消沈してしまい学校中が暗く沈んでいた。

そして俺に向けられる殺意は既に呪いの域を超えていて、俺は今にも吐血しそうなくらいストレスで胃が痛い。

俺自身のショックも大きく、授業中に注意されること十回以上、実技の時に相手からの攻撃を何度も直撃してしまった。いつもなら有り得ないことに自分がどれだけ動揺しているのかが見て取れる。

それはもう酷い物で、壁に激突すること三十回、階段を上れば必ず踏み外して転げ落ち、食堂で頼む料理を間違えるわ砂糖と塩を間違えるわ、散々だ。

そんなボロボロの状態で放課後の鍛錬に身が入るわけもなく、俺は頭を抱えたままであった。

 

(本当にどうしよう………)

 

改めて考えて見よう。

真田 灯………俺の一つ上の幼馴染みであり、小さい頃から兄弟同然に育ってきた人。

実の姉のように慕っており、俺達兄妹を優しく見守ってくれている。

とても綺麗でスタイルも良く、家事炊事も抜群の文句の付けようがない。優しく、とても母性的な人だ。こんな女性と結婚出来たのなら、その人はきっと幸せに成れると思う。

そんな女性から告白されたのだ。

ただ……俺はそれにどう応えて良いのか本当に分からないんだ。決して嫌いじゃない。

だけど、俺は色恋というのが本当に分からない。

だから、この今の胸にあるのが何なのか判断することが出来ない。

 

「大丈夫か、一真?」

 

そんな俺に信吾が心配そうに声をかけてきた。

その心使いを有り難く思うが、それでこの悩みが消えるわけではない。

 

「ああ、すまん。あの告白についてずっと考えてたんだが、答えが出なくて……」

 

そう答えると信吾は俺を見つめて鍛錬の中止を言ってきた。

それには俺も賛成であり、大人しく自室へと一緒に戻った。

そして寮の自室で信吾と向き合いながら、俺は今まで考えていたことを信吾へと話した。

その話を信吾は真剣に聞き、俺に真面目に話す。

 

「その……一真は今まで人を好きになったことはないのか?」

「ああ、何故かまでは分からないんだけどよくわからなくてな。あ、勿論ちゃんと女の子には興味はあるからな」

 

流石にホモとは思われたくないので補足を入れると、信吾はクスッと笑った。

そして優しく微笑みながら諭すように俺にこう言った。

 

「一真はきっと武者として成長するために他のことを学ぶのが遅れたんだな。だったら、これから学べば良いと思う。何も急いで答えを出す必要はないんだから」

 

その言葉は今の俺にはまさに求めていた答えのように聞こえた。

そしてそれは正解だと思う。

その御蔭で、少しは気が楽になった。

 

「ありがとう、信吾。御蔭で少し楽になった」

「ああ、そう言ってもらえるなら嬉しいよ。そ、それに…付き合って欲しくないし……」

「何か言ったか?」

「な、何でも無い!」

 

信吾の御蔭で俺は少し気が休まり、他のことも考えられるような余裕が出てきた。

どちらにしろ、今は試合が先決なのだから。二年生ならその実力も凄まじいだろう1年とは比べものにならないはずなのだから、悩んでいては瞬殺されてしまう。気を引き締めなければ。

俺の様子を見て、信吾の表情も緩んだ。

そして信吾は少し考えた後に、顔を真っ赤にして俺に話しかてきた。

 

「そ、それでだな。ぼ、僕がトーナメント戦で優勝したら…その……僕の『妹』とデートしてやってくれないか!」

「妹なんていたのか、信吾」

「あ、ああ。実は妹は男が苦手でな。それを克服させるには男性と一緒に遊んだりしたほうがいいと思って。こんなことを頼めるのはお前しかいないんだ。だから頼む!」

 

一生懸命に顔を真っ赤にして頼む信吾の願いに、俺は先程のアドバイスの礼も込めて返事を返した。

 

「ああ、いいよ。別に優賞しなくてもそのデートとやらに付き合うよ。なんたって信吾の願いだからな」

 

そう答えたら、信吾は泣きそうなほど目を潤ませて、心の底から喜びの笑みを浮かべた。

 

「やったっ! これ、嘘じゃありませんよね! ね! っ~~~~~~」

 

そんなに喜んでもらえて良かった。

信吾はそれほど妹思いなんだな。

そう思うと、より親近感が湧いた。

 こうして、信吾の御蔭で悩みが軽くなった俺は約束するのであった。

 

 

 

 

 

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