織斑 一真の苦悩   作:nasigorenn

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今回、一真は少しだけ感情を学びます。


第17話 織斑 一真への挑戦 その3

 灯姉さんに告白され、信吾と約束してから一週間があっという間に経った。

そして今日は武芸大会当日。ただの学園行事だと言うのに、周りは観客で賑わっている。

と、いうのも、この行事は基本一般公開されているからなのだが、その三分の一は日本の軍事関係者だ。主に自衛隊。

日本の防衛を教育理念としているのなら、有望な人物はスカウトしたいと見に来るのである。

事実、この学園の卒業した生徒の大半は自衛隊へと入る人が多いのだ。

それ以外にも、政府直轄の特殊な役職に就く人もいる。父さんが主にその役職だ。

武力が物をいう仕事へのスカウトが多いということで、試合をする生徒達も張り切っている。後の三分の二は友人や親兄弟、警察関係者やIS関係者、研究者に反劔冑を掲げる組織の偵察など様々だ。

そんな皆の注目が集まる中、校長が開会式の挨拶を終えて早速対戦の組み合わせが発表される。

そこで電子モニターではなく、巨大な和紙に筆を使って書かれた物が出る辺り、やはり現代では珍しいこともあって観客席から驚きの声が上がった。

その声を聞きながら発表を見ると、俺はやはり二学年の方に名が記されていた。

改めてそれを見ると、自分の状況が如何にアレなのがよく分かる。

そして自分のクラスの対戦表を見ると、とあることに気付いた。

 

「あれ? 信吾の名前がない」

 

対戦表には雄飛や忠保の名が出ているのに、何処を探しても信吾の名がないのだ。

そのことに気付き、俺は隣にいる信吾へと聞く。

 

「信吾、お前の名前がないんだけど…」

 

聞かれた信吾は緊張してか少し反応が遅れてきたが、何とか答えてくれた。

 

「あ、ああ。僕はあっちなんだ」

 

信吾は俺に緊張した顔を向けながら指を差す。

その先にあるのは、一学年の代表戦の発表。その中の一組……つまり俺達のクラスの代表の所に信吾の名が書かれていた。

 

「何で信吾の名があっちにあるんだ?」

「一真が二学年の代表戦に参加するにあたって空いちゃったからな。それで急遽次席である僕が参加することになったんだよ」

 

信吾の説明を聞いて納得する。

確かに出場しないんじゃ一組の沽券にも関わるのだから、誰か参加しなきゃならなくなる。それが信吾というのも、実力から考えて当然だ。

俺は緊張に凝り固まっている信吾の肩を軽く叩くと笑顔を向けた。

 

「そこまで緊張するなよ。いつもの信吾だったら絶対に勝てるさ」

「そ、そうだな。平常心平常心……」

 

そう言いながら緊張を解している信吾を見ていると、自分の緊張が解れていくのを感じた。お互いクラスの代表として頑張りたいと思う。

すると信吾が何か決意を秘めた目で俺を見てきた。

 

「どうしたんだ?」

「いや、あのな……前の約束、覚えているか」

 

何故か顔を赤くしながら聞いてきた信吾を不思議に思いながらも、俺は答えた。

 

「ああ、勿論だ。まぁ、この場合は代表戦で優賞したらになるんだろうけどな。でも前にも言ったけど、別にそんな条件なんて付けなくても行くぞ。なんたって世話になってるお前の頼みなんだからな」

「そ、そう言ってくれるのは嬉しいんだけど…そ、それだと決意が……」

 

信吾がトマトのように顔を真っ赤にしてごにょごにょと何か呟いていたが、たぶん試合に緊張したのが振り返してきたのかもしれないな。

そう思ったら無意識に信吾の頭を優しく撫でていた。

 

「キャッ!? い、一体何をっ!」

「あ、すまん、ついついな。どうも癖でさ、夏耶が緊張したり怯えていたりするときはこうやってよく頭を撫でてやるんだ。だから、つい信吾が緊張してると思ったら勝手にやってた」

「そ、そうなんだ」

 

信吾は顔を真っ赤にしたまま慌ててそう返事を返していたので俺は手を退けようとすると信吾はまた慌てた。

 

「い、いや、しばらくこのままにしてくれないかな……お、落ち着いてくるから……」

「そうなのか? なら良いんだが」

 

信吾にそう言われ、俺は信吾をしばらく撫でることにした。

信吾は俯いていたから表情が分からないが、身体から力が抜けているのを感じるあたり緊張が解れているのだろう。

それにしても、さっきから妙に視線が痛い。

主に男達から殺気と羨望の視線が俺に向けられ、何故か女子から奇妙な視線を向けられた。何故………

俺はしばらく信吾が落ち着くまでこうしていた。

 

(ま、まさかこんな風に撫でてもらえるなんて………ポッ)

 

 

 

 そして信吾と別れて、俺は二学年の代表者が集まっている所へと向かった。

そこには既に全員揃っていて、殺気立っている。

 

「良く来たな、織斑 一真ぁ! 地獄へ旅立つ準備は十分かぁっ!」

 

俺を見てそう叫んできたのは、確か挨拶に来た時に俺に噛み付いてきた斉藤先輩だ。

まるで血に飢えた獣のような殺気を纏わせていた。

それに呼応して他の三人も俺を見てニヤリと笑う。

その殺気に俺は殺気を持って笑顔で答えた。

 

「ええ、良い試合になるよう頑張ります。勿論……勝ちにいきますので」

 

その返答を聞いて更に殺気が溢れ出す。

そんな中、俺はいきなり身体を引っ張られて顔が柔らかい何かに包まれてしまった。

いきなりのことに驚いたが、その後の声でそれがなんなのか分かった。

 

「か~ずくん! あんまりそんな怖い顔はしちゃ駄目よ。せっかく格好良くて可愛い顔が台無しになっちゃうんだから。お姉さんはかずくんには常に笑って欲しいな」

「あ、灯姉さんっ!?」

 

「「「「なっ、真田さん!?」」」」

 

いつの間に近づいたのか、灯姉さんが俺の顔を優しく抱きしめているようだ。

顔を埋める柔らかい感触と桜のような香りに心臓がドキドキしてしまう。

今までもそうだったが、告白された所為でさらにその女の子らしさを感じてしまい、顔が熱くて仕方ない。ここで慌てて離れた方が自分のためにも良いのだが、今までのこともあって動くことが出来ない。

そのまま灯姉さんは俺を抱きしめたまま、先輩方の方に笑顔を向ける。

 

「あまり殺気立たないで下さい。これはあくまでも試合なんですから」

「「「「す、すみません……」」」」

 

先輩方が弱々しく謝罪をするが、その視線は羨ましそうだった。

それを見た後、灯姉さんが俺の顔を見つめながら話しかける。

 

「あの告白の返事、ちゃんと聞かせてもらうからね。そのために私、頑張っちゃうから。勿論、かずくんにだって負けないわよ」

 

灯姉さんはまるで………父さんを見ている母さんのような目で俺を見つめながら俺の頭を撫でる。

それが何だか凄く可愛く綺麗に見えて、俺は胸がドキドキしてしまった。初めて感じた良く分からないこの感情に、俺はどうして良いのか分からなくなってしまう。

灯姉さんは更に俺に優しく話しかける。

 

「勿論、かずくんも頑張ってね。私、かずくんのことはちゃんと応援してるんだからね。私と戦う時も、ちゃんと全力で戦ってね」

「は、はい………」

 

 俺は心臓の鼓動を五月蠅く感じながらも、そう返事を返すので一杯一杯だった。

 

 

 

 そして始まった武芸大会。

巨大なグラウンドでは、観客が見守る中で刀同士がぶつかり合う激しい剣戟の音が聞こえてくる。

そして決着が付く度、観客席から悲鳴と歓声の二つが轟いた。

ISの試合と違い、劔冑での試合は審判二人の元で行われ主に戦闘不能になった所で勝敗の判定が下る。鍛えているとはいえ、生死の可能性がある以上そこは審判によってちゃんと管理されている。まぁ、怪我は勿論骨の一本や二本は折れたりするのだが、それは武者としてのご愛敬である。

そして通常生徒のトーナメント戦が行われる中、俺達クラス代表の試合も行われる。

信吾も頑張っているのだろう。信吾の勝利の放送を聞いて俺はしみじみそう思う。

そして……今度は俺の番だ。

俺はグラウンドで今、対戦相手と向き合っていた。

 

「ここで貴様を倒し、真田さんの目を覚まさせてやるっ!!」

 

俺を殺気全開で睨み付けるのは、あの斉藤先輩である。

その殺気を受けて、俺もそれに答えるように殺気を向ける。

 

「先輩の胸、借りさせていただきます。故に……本気でやらせていただきます!」

「上等!!」

 

そう叫ぶと共に、先輩は自分の脇に止められたモノバイク『九○式竜騎兵甲』に手をかけて声高らかに叫ぶ。

 

『尽忠報国』

 

そして先輩は装甲し、武者となった。

俺もそれに応じて叫んだ。

 

「来い、絶影っ!!」

 

俺の叫びに応じて、俺の目の前に絶影が降り立った。

そして誓約の口上を述べる。

 

『我が内なる正義を顕現し、全ての悪を滅ぼさん』

 

そして絶影は弾け、俺の身体へと装甲されていき俺は武者となった。

白と紫の色を纏った武者と灰色の武者が互いに向き合うと、武器を引き抜いた。

俺は左右の腰にかけてある刀『伏竜』『臥竜』を引き抜き構えた。

対する先輩は何と………二本の十文字槍を片手づつに構えていた。

その構えに警戒しつつ、互いに戦闘態勢を整える。

 

「では、尋常に……」

 

そして二人で動じに叫んだ。

 

「「勝負っ!!」」

 

 そう叫ぶと共に、試合開始の銅鑼が鳴り互いに突撃を仕掛けた。

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