俺は何とか一回戦を突破して控え室に戻ると、そこでは灯姉さんが待っていた。
「かずくん、一回戦突破、おめでとう!」
まるで自分のことの様に喜び笑みを浮かべると、そのまま俺に飛びついてきた。
そして俺の顔面が灯姉さんの豊かな胸に埋もれてしまう。
「わっぷっ!? ね、姉さん、ちょっと!」
試合の疲労もあってか、反応が出来なかった。
そのため顔面がマシュマロのように柔らかい感触に包まれて一際動揺してしまう。
さらに桜のような香りが香り、俺は嫌が応でも心臓がドキドキと高鳴ってしまった。
俺をそんな目に遭わせた灯姉さんはと言うと、まるで母さんみたいな優しい笑みで俺を抱きしめていた。
「かずくん、さっきはありがとうね」
「え?」
いきなりお礼を言われて、俺は間の抜けた声を出してしまう。
何でお礼なんかを? 特に何かした覚えなどないのだけど…。
すると灯姉さんは顔を赤く染めながら俺を見つめる。
「さっきかずくん、斉藤君に言ってくれたでしょう。私は私で、他の人が口を出してはいけないって。あの時、感動して私、泣きそうになったのよ。斉藤君とか、他の人はまるで私を私として見てくれなかったから。居心地が悪かったの。だけど、それも好意だから無得には出来なくて。でも、かずくんが私の言いたいことを言ってくれたから。だから、ありがとう」
それを聞いてどことなく納得する。
灯姉さんは人が良いから、基本あまり強く言えないのだ。単純に優しい…いや、優しすぎるところがあるからこそ、人から受けた好意を無下には出来ない。
断ったりすることが苦手なんだよなぁ。
きっとあんな風に崇められるのは嫌だったんだろう、本人も。
と言うか、誰だってあんな風にされて嫌じゃない奴なんていないと思う。
灯姉さんはさらに顔を赤くすると、瞳を潤ませながら微笑む。
「あの時のかずくん、とっても格好良かったよ」
「っ!?」
その表情にさらにドキドキしてしまう。
(か、可愛い……)
ずっと見ていたくなりそうな、目が離せない、そんな……可愛い顔。
今まで灯姉さんのことは綺麗だと思っていたけど、この時初めて『可愛い』と思った。
そう思うと頬が熱くなって仕方ない。
告白のこともあってか、俺は今まで以上に灯姉さんに異性を感じてしまっていた。
あかり姉さんはそれを分かってなのか、更に俺の頭を優しく撫でる。
「もっともっとかずくんに惚れこんじゃった。本当に罪作りなんだから」
「っ~~~~~!」
今までもこうして抱きしめられた頭を撫でられることは多々あったが、今回のそれはいつも以上に落ち着かない。
きっと俺の今の顔は真っ赤になっているに違いない。
何やら可笑しな…まるでガムシロップのような雰囲気を感じて俺は気まずい。
何だかこのまま行くと取り返しが付かなくなるような、そんな感じがする。
灯姉さんの瞳に吸い込まれてしまいそうな気がしてきた。
そしてそのまま顔を灯姉さんにの顔に近づけ…………
『2学年第3試合がそろそろ開始されます。お客様は観覧席へ! 戦う選手はグラウンドへ来て下さい』
その放送が入り、俺は自分が何をしているのかはっとして慌てて灯姉さんから離れた。
灯姉さんはというと、あらあらと笑っていた。
「はぁ、せっかくかずくんと一緒にいられたのに残念。でも仕方ないか」
灯姉さんは少し残念そうに言うと、俺に笑顔を向ける。
「それじゃあお姉さん、頑張ってくるから。かずくん、応援しててね。お願いよ」
そう言って灯姉さんはグラウンドへと向かって行った。
俺はその時の笑顔にずっと見入ってしまっていた。
灯姉さんの試合が行われている間に、信吾達の戦況も確認しておく。
控え室にあるモニターで試合観戦や誰が勝ち残ったかなどを確認することが出来る様になっているのだ。
寧ろ、そんなところに金を回すのなら俺達の寮に金を回して貰いたいというのは全校生徒の総意だと思う。思うだけで先生にそう言える人などいないが。
「えっと、どれどれ?」
調べて見ると、雄飛達は3回戦目で敗退か。
相手は確か4組の生徒だったか。逆胴の一閃が決め手の生徒だったはずだ。あれは大抵の人は防げないからな。
そして信吾は………凄いな! 決勝まで上り詰めてる。
一年のクラス代表戦とはいえ、出てくるのは有数の才能ある奴等ばかりだというのに。流石は一学年次席なだけはある……俺が言うと嫌みにしかならないか?
そして灯姉さんはと言うと、すぐさま試合を終わらせていた。
相手は斉藤先輩と一緒に俺を睨んできた、通称『真田さん大好きクラブ四天王』の一人である。
その先輩は斉藤先輩と同じ九○式竜騎兵甲を纏っており、その手には大きな片手鎌が握られており、その柄からは頑丈そうな鎖で繋がれた重そうな鉄塊が転がっていた。
所謂鎖鎌というものだ。
この武帝校では2年になってからそう言った特殊な武器も使えるようになっている。
1年では主に剣術を学び、2年でそれ以外の武器も扱う。
と言っても、元からその流派を学んでいる人は1年からでもそういった武具を使って良いことになっている。剣術は必須事項というわけだ。
この先輩はきっと鎖鎌を専攻していたのだろう。鎖鎌は武者の武具としてのアドバンテージはあまりないのだが、使い方次第では強大な効果を発揮する。鎖を使っての束縛、鉄塊を使っての中距離投擲、近距離は勿論、鎖を使って振り回せば距離が伸びる片手鎌。
十文字槍とは違った変幻自在の攻撃を可能とする絡め手上手な武具。
それが鎖鎌だ。
だが、その使い手たる先輩は今は地面で倒れ伏している。
その甲鉄にいくつもの穴を開け、先程言った鎖鎌は鎖は千切れ飛んで刃は柄から綺麗にへし折られていた。
見るも無惨と言うべき姿に、どれだけ灯姉さんが強いのかが窺えた。
勝った灯姉さんはというと、装甲を解除して笑顔で周りに手を振っていた。
その姿に観客席から歓声が上がり、女優やアイドルのような感じに見えた。
「何か……こうして見るとやっぱり灯姉さんって綺麗だな」
そう自分で呟き、それを自覚して急に恥ずかしくなってきた。
今までそう思ってきたが、改めて認識させられたせいで正直直視出来ない。
そんな風に思ってたら、控え室に灯姉さんが戻ってきた。
そして俺のところまで一気に間合いを詰めると、俺を抱きしめてきた。
途端に身体を覆う女の子特有の柔らかさを感じて俺の頬が一気に熱くなってしまう。
「ちょっ、灯姉さん!?」
抱きしめてきた姉さんに驚く俺。
そんな俺に灯姉さんは満面の笑みを浮かべる。
「かずくん、勝ってきたわ。どう? 私の雄志、ちゃんと見てくれた」
「は、はい! 凄い槍捌きでしたから、だから急に抱きしめないで下さい!」
「そんなこと言わないの。頑張ったんだからご褒美、くれない?」
そう聞いてきた灯姉さんは何やら期待した視線で俺を見つめる。
その視線に中てられて、俺はドギマギしてしまった。
「ど、どうすれば…」
「出来れば…キスが良いかな。でも、それは優賞した後に取っとこう。でも、かずくんが望むなら……お姉さん、いつでもいいよ」
「いや、それは、でも、そのっ」
熱い視線を向けられた俺は挙動不審になってしまい、慌てふためいてしまう。
それを見てか、灯姉さんはクスリと笑った。
「だ・か・ら、今は頭を撫でてくれるだけでいいよ。お願いね」
潤んだ瞳で俺を見つめる灯姉さんのそのお願いを、俺は嬉し恥ずかしながらに聞き入れて灯姉さんの頭を優しく撫でた。
「こ、これでどう?」
「うん、良い感じ。やっぱりかずくんの撫で撫では気持ち良いわぁ」
こうして俺は次の自分の試合までの間、灯姉さんの頭を撫で続けた。