灯姉さんの試合が終わり、そして次は俺の試合となった。
相手は先輩方曰く、『真田さん大好きクラブ四天王』の最後の一角。
その先輩はグラウンドで既に待ち構えていた。
使うのは九○式竜騎兵甲。そして武器は大金鎚。長さは先輩の身長と同じ長さであり、その頭は先輩の胴と同じくらいあった。
先輩はそんな巨大な大金鎚を軽々と振るい、俺と戦った。
そして結果は………俺が勝った。
理由は単純で、先輩の攻撃を一切貰わなかったからだ。
確かにあの大金鎚の威力は脅威であった。一撃でグラウンドに大穴を開けるあの金鎚をその身に受ければ致命傷は必死。甲鉄は軽く砕かれ、骨肉は潰される。
一撃で此方を戦闘不能に追い込むことが出来るだろう。
だが、その分小回りが利かない。故にそこを突き、その猛威を発揮させないようにして戦わせてもらったのだ。
先輩の技量も悪くなかったのだが、正直最初の斉藤先輩の方が強かった。
斉藤先輩に対して、この先輩は年相応の理由というだけだったからだ。
でも、出来れば灯姉さんのスリーサイズを言いながら攻撃はしてほしくなかったなぁ。
きっと姉さんは恥ずかしさで顔を真っ赤になってしまっていると思うから…………。
夏耶も大きいけど、灯姉さんはそれ以上だった。く、95もあるんだ……。
こ、こほん。そ、そんなわけで取りあえず俺は決勝戦に進出した。
現在、俺はグラウンドで灯姉さんと向き合っていた。
「やっとこの時が来たね、かずくん」
「そうですね」
灯姉さんはニッコリと笑うと、自分の劔冑を呼び出した。
「おいで、『焔揚羽(ほむらあげは)』
その呼びかけに応じて、灯姉さんの前に上空から一匹の蝶が優雅に降り立った。
勿論、普通の蝶ではない。甲鉄の肌を持つ巨大な揚羽蝶である。その身は炎のように赤く、優雅さの中に激情を感じさせるような印象を受ける。
この巨大な揚羽蝶が灯姉さんの劔冑『焔揚羽』だ。
見た感じは真打に見えるのだが、これは絶影と同じ『試作数打』である。
丁度灯姉さんの代から、主席入学者に試作数打を与えるようになったらしい。
故に灯姉さんの焔揚羽は絶影と同じ、『ISの技術を取り入れた劔冑』なのだ。
完成度からしたら絶影の方が上だが、武者の戦いにおいては武が物を言う。
あまり其方の善し悪しがそのままアドバンテージになるわけではない。
故に気を引き締めながら俺も絶影を呼び出すと、絶影は俺の前に飛び出して来た。
そして互いに己の劔冑を見せ合ったところで睨み合う……のが普通なのだが……。
灯姉さんは俺に笑顔で話しかけてきた。
「かずくん、約束は覚えているよね」
「はい……」
そう聞かれ、改めて告白されたことを自覚してしまう。
か、顔が熱くなってきた…。
「だからね。私は今から本気でかずくんに勝ちにいくから、かずくんも本気で来てね。でないとお姉さん、怒っちゃうから」
にこやかに笑う灯姉さんだが、その目は本気だ。
だからこそ、俺もそれに応えるために意思を固める。
ここから先は武者の戦いだ。老若男女問わず、戦うならば皆等しく武者である。
手を抜くは相手に失礼であり、そのような腐抜けたことは許されない。
相手が幼い頃から世話になっている姉のような人だとしてもだ。
「はい、わかってます」
静かにそう答えると、姉さんは頷いた。
そして同時に装甲の構えを取り、誓約の口上を述べる。
『我が内なる正義を顕現し、全ての悪を滅ぼさん』
『美しき焔となりて、すべく全てを焼き払わん』
そして互いの劔冑は弾け、身体へと装甲されていった。
その場に現れたのは、白と赤の二騎。
俺の目の前には装甲した灯姉さんの姿があるのだが、やはりその姿を見て聞かずにはいられないことがあった。
「灯姉さん……前から聞きたかったんだけど、何でその劔冑は装甲しても兜がないんだ?」
そう、何故かこの焔揚羽は顔や頭を守る装甲がない。
そのため、装甲した姿でも灯姉さんの綺麗な顔を長く美しい黒髪が外に出ているのだ。
明らかに劔冑としては可笑しい。
それを聞いたら灯姉さんは苦笑しながら答えてくれた。
「それがね。何でも私に与えられるって決まった時に、せっかく女の子が使うんだから顔は出した方が良いんじゃないかってことで急遽仕様が変わったのよ。勿論、この部分はISの絶対防御が働くようになってるから下手な甲鉄より丈夫よ」
一応はこれもISの技術の一端で、部分的に絶対防御を作動させることで防御力を高めるという手法らしい。エネルギーは劔冑の内部に組み込んだ特殊なジェネレーターから供給されている。
その姿に観客席から歓声が上がった。
灯姉さんの姿は、まるで鎧を着込んだ女騎士のように華麗で注目を集めやすいからである。灯姉さん自身が凄い美人ということもあって、主に男性の声が良く聞こえてくる。
細身な身体に密着するような装甲。背中にある合当理は大きく、見た限りは此方と同じ『単鋭装甲』だ。つまり速度を活かした高速戦闘がメインとなる。
外見を見ればあまり武者っぽくないのだが、その手に持たれている十文字槍を見れば如何にも武者であることがわかるだろう。
灯姉さんはそのまま槍を構える。
俺も腰から『伏竜』『臥竜』を引き抜き構えた。
「それじゃあ……いくわよ」
「はい!」
そのやり取りを終えると同時に、試合開始の銅鑼が鳴った。
「しゃぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「えぇええええええええええええいいいいっっっっ!!」
互いに合当理を噴かして一気に間合いを詰める。
やはり予想通り、灯姉さんは速かった。
そのまま近づくと、その手に持った十文字槍から突きを放つ。
槍と刀では間合いが違う。故にどうしても先手は槍に取られてしまう。
それは斉藤先輩の時と同じであるが、だからといって負けると言うわけでは無い。
寧ろ槍相手は『良く戦っている』のだから。
「つぇらぁっ!!」
俺は気合いを込めた一閃で向かってきた槍の穂先を弾いた。
そしてもう片方の一刀で斬り掛かる。
「やぁっ!」
その攻撃を灯姉さんは槍の柄を使って防ぐと、即座に後ろへと引いた。
そして俺に嬉しそうな笑顔を向けた。
「うふふふふ。かずくん、前よりも断然強くなってるわね。嬉しいわぁ~」
「そ、そう言ってもらえるとやっぱり嬉しいかな」
あまりにも優しい声をかけられたものだから、少し調子が狂ってしまう。
しかし、いつまでもそうしているわけにはいかないと気を取り直す。
「それじゃあ、今度はお姉さんが見せる番ね。いくわよ!」
灯姉さんはそう意気込むと共に、再び俺に突きを放ち始めた。
「やぁあああああああああああああああああああああああっっっっっ!!」
その突きは散弾の如く、凄まじい連続突きであった。
斉藤先輩の二槍の突きも凄まじいものだが、それ以上の数である。
その突き一つ一つの威力は低いが、数が多すぎて弾ききれない。
それを俺は身体に受けつつも必死に弾いていく。
「あぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
甲鉄が欠けて弾け、その身に傷が刻まれていく。
それでも俺は致命傷を避けるように弾き続け、その衝撃は地面に幾度とない爪痕を刻み込んでいく。
そして灯姉さんの突きが終わりをみせる頃には、砂埃で辺りが覆われてしまっていた。
その砂煙が晴れると、そこには悠然と構える灯姉さんが構えている。
「HITAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
俺はそれを確認した後に咆吼を挙げながら二刀で斬り掛かる。
その斬撃に姉さんは槍で迎え撃つが、今度は此方の番だ。
回転を全力で上げて放つ攻撃はまさに目に見えない速度で繰り出していく。
そのれ灯姉さんは少し焦った顔で捌いていた。
「DRYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「くぅうううううううううううううう、手が痛い! 一撃一撃が重いわ」
その攻撃に晒された灯姉さんは頑張って防ぐが、そこは女と男の地力の差が出てしまう。
先程の槍もそうだが、やはりどうしても女性から放たれる攻撃は速いが重さに欠ける。
そのため、灯姉さんの突きは凄く速いが弾くのに苦労はしないのだ。
しかし、此方はそうはいかない。男の力を込めた太刀に、灯姉さんの筋力では真正面から受け止めきれないのだ。故に俺が真正面から弾くのに対し、姉さんは力を流すように逸らすしかない。
逸らされた攻撃の衝撃はそのまま地面を抉り込み、灯姉さんの足下を荒らしていく。
そして次第に耐えられなくなり、その身に一撃が当たった。
「きゃぁっ!? くぅううううううううううううう、いった~い!」
その攻撃を受けて姉さんは後ろへと下がった。
刃を受けた胸部の甲鉄は確かにひび割れていた。
「此方とて成長していますからね」
「そうだね。やっぱりかずくん、格好いいわ。見てて惚れ惚れしちゃうもの」
矢張り気が抜けそうになってしまう。
何というか、灯姉さんは殺気がないのでやりづらいのだ。
何だか母親にじゃれつく子供のような、そんな感じになってしまう。
それでも頑張って、俺達は再びぶつかった。
何合も剣戟がぶつかり合い、金属の甲高い激突音が何度も何度も鳴り続ける。
合当理の噴射音がアリーナに吹き荒び、互いの甲鉄が削れ砕ける音が耳に入っていく。
それらが常に高速で行われるこの試合に。観客席からは歓声が絶えない。
そして試合は遂に終局を迎えるつつあった。
互いの損傷は中破。此方は何度も突きを受けて甲鉄が削れ取れ、灯姉さんは四カ所の甲鉄が砕けていた。
攻撃を受けた回数は此方が上だが、威力は此方の方が上。
故に互角。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
灯姉さんから乱れた呼吸音が聞こえてきた。
ここでも男女の差が出てしまう。
「これで終わりね」
「そうですね」
そう話すと、互いに最後の一撃を放つよう構えを取る。
すると灯姉さんは俺に笑いかけた。
「かずくんがこんなに強くなってくれて、お姉さん嬉しい。だから、負けても後悔しないわ」
優しくそう言われ、見えないだろうが俺も笑顔で返した。
「はい。俺も灯姉さんと戦えて嬉しかったです」
そう言うと共に、互いに合当理を噴かせた。
灯姉さんは必殺の神速を持った連続突きを放つ。それは高速過ぎて、穂先が何十本にも見えるほどに凄い。
対して俺は、二刀を鞘に戻し、鞘を固定した状態からほぼ同時に引き抜いた。
「やぁああああああああああああああああああああああああああ!!」
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
『吉野御流合戦礼法 迅雷が崩し……二刀流、双雷!!』
俺の全力を持った二刀流における神速の居合い。
右の左の刀を僅かにずらして引き抜く、超高速の二刀抜刀術。
その二撃によって灯姉さんの槍の穂先を丸々斬り飛ばし、そのまま灯姉さんの胸の甲鉄を粉砕した。
それによって審判が判定を下した。
『勝者、織斑 一真!!』
その判定によって試合終了の銅鑼が鳴り、観客席が歓声で溢れた。
俺はそのまま装甲を解除すると、地面に倒れている灯姉さんを急いで抱き起こす。
既に焔揚羽は解除されているので心配になったが、外傷はあまりなかった。
「あ~あ、負けちゃったなぁ」
「そうですね」
そう答えると少し残念な顔をする灯姉さん。
気持ちは分からなくもない。
「せっかくかずくんと付き合えると思ったのになぁ」
「あははははは…」
その事には苦笑するしかないのだが、俺はどうすれば良いのか分からない。
それを見て灯姉さんはクスリと笑う。
「かずくん。せっかく優賞したんだから笑って。ね」
そう言うと、起き上がり……
「ちゅ」
俺の頬にキスをした。
「っ!? へ、何で?」
「いいじゃない、これくらい。私、頑張ったんだからね」
急な事に混乱する俺に姉さんは笑みを浮かべて去って行った。
一体何だったんだろうか?
こうして、俺はこの武芸大会2学年代表戦を優勝した。
信吾も優勝したらしく、顔を真っ赤にして喜んでいた。
他のみんなも、灯姉さんが交際しないことを喜び……涙を流していた。
なのだが………
「か~ずくん! 一緒にお昼食べよう!」
いつもの昼下がり、灯姉さんは俺にそう言いながら俺を抱きしめてきた。
それを見て真っ赤になって慌てる信吾。
「な、何で一真にくっついてるんですか! 大会に優勝出来なかったら付き合わないって話のはずでしょう!」
そう言われた灯姉さんは顔赤く染めつつ笑顔で返した。
「私は、『優勝したら告白する』って言っただけよ。かずくんが大好きなのはかわらないんだから、いつだってアタックをかけるつもりよ」
「なっ!?」
その返事に絶句する信吾。
そして灯姉さんは瞳を濡らしながら俺を見つめてこう告げる。
「かずくん、だ~い好き。この気持ちはずっと変わらないからね。私はいつでもかずくんにアピールするし、かずくんが告白してくれるのも待ってるから」
そんな風に見つめられて言われては、俺は乾いた笑みしか浮かべられない。
嬉しいような何と言って良いような……そんな問題がまた一つ出来上がってしまったことに、悩めば良いのか喜べばよいのか、俺はどうすればいいのか分からなかった。
でも、胸は何やら温かい気持ちで一杯になっていた。