織斑 一真の苦悩   作:nasigorenn

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今回はやっと告白回です。


第26話 織斑 一真の初めてのデート その6

 五反田食堂でお昼を食べた俺達は再び町へと繰り出した。

俺に取って馴染み深い光景だが、葵さんにとって新鮮な光景ばかりだと言う。

商店街に行ってみて彼方此方の店を覗いていく。

最初に入ったのは八百屋だった。

 

「おぉ~い、そこで歩いてるのは一夏のボンのガキじゃねぇか!」

「あ、八百屋さん。久しぶり」

 

この商店街の八百屋は父さんが若い頃から付き合いがあるらしく、俺もよく父さん達に連れられて来ていた。

そのため顔もしっかりと覚えられていたりする。

八百屋のおじさんは俺を見た後に葵さんを見て、ニヤニヤと笑い始めた。

 

「おいおい、その別嬪さんはお前のコレかい?」

 

そう聞きながら右手を軽く握り小指だけを立てて俺に見せつけてきた。

それが意味することは一つだけである。

 

「なっ!? 何いきなり言ってるんだよ!」

「はっはっはっはっは! 何だ、からかってみたがその通りなのか?」

 

カラカラと笑うおじさんに俺は凄く慌てる。

確かにこんな綺麗な人と恋仲だと思われるのは光栄だと思うが、流石に葵さんに失礼だ。葵さんはあくまでも男性が苦手なのを克服するためにデートしているのだから。

そう思って葵さんに目を向けたら……

 

「そ、そんな……コレだなんて………」

 

顔を真っ赤にしていやんいやんと言った感じに身体を振っていた。

その表情は恥ずかしがっていたがとても嬉しそうである。

あれ? 葵さん、本来の目的は何処に行ったのでしょうか?

 

「どうやらお嬢さんはあながち冗談でもねぇみたいだぞ。男だったら腹括れよ」

「だ、だから、この人とは」

 

こう経験が圧倒的に上の人間を説得するというのは難しい。

少なくても俺のような話術があまり得意でない人間には尚更だ。

そのまま上手く説得出来ない俺を見て楽しんでいるのか、さらに昔を思い出したように語り出す。

 

「お前の親父さんもお前と同じ歳くらいの時、こうして恋人連れて来たっけなぁ。あん時の一夏と来たら、俺が冷やかしたら顔赤くしながらも恋人の肩を抱いてよぉ。『あははは……はい、俺の恋人です』て答えてきたんだよ。恋人も思いっきり顔真っ赤にしてたけど幸せそうだったよ」

 

何度も見てはいるが、やはり他の人から聞く親の話というには恥ずかしいものがある。

赤面して恥ずかしいと思っている俺に対し、葵さんは興味津々にその話を聞いていた。

ここでこう差がでるのは、やはり男女の考え方の違いなんだろうか?

そしておじさんがある程度話し終えると、店内が忙しくなってきた。

 

「んじゃそろそろ忙しくなってきたから戻るわ」

「あ、はい。色々とためになるお話を聞かせていただき、ありがとうございます」

 

店内に戻っていくおじさんに葵さんは丁寧に頭を下げてお礼をする。

そこまでお礼するようなことじゃないと思うのは俺だけかな?

そして店を出ようとしたところで、少し急いで戻ってきたおじさんに呼び止められた。

 

「ほら、こいつ持ってけ」

 

何かが一杯入った紙袋を渡され、何かを二人で見るために開ける。

 

「えっと……ジャガイモ、にんじん、タマネギ、さやいんげん……」

 

葵さんが確認するように言いながら中を見る。

確かに言われた通り、紙袋の中はそういった野菜が大量に入っていた。

 

「野菜食っとけ、野菜。こいつ等結構使えるからな」

「あ、ありがとうございます」

 

寮生活を始めたことを知っているらしく、身体を心配して野菜をくれたのだ。

申し訳無い気持ちと申し訳無い気持ちで一杯になる。

むかし同じような時に断ったら、『ガキが遠慮するんじゃねぇ』と突っぱねられてしまった。だから今回は有り難くいただくことにする。

野菜を渡し終えたおじさんは本格的に忙しくなってきた店に大わらわに戻って行った。

 

「よかったですね、一真様」

「そうですね」

 

そんなおじさんの背が見えなくなるまで見続けた後、俺達は再び商店街を歩き始めた。

 

 

 

 しばらく商店街を回った後、俺達は近所の公園に来ていた。

あれから結構大変だった。肉屋さんのおばさんに捕まっては牛肉をわたされてしまった。おばさん曰く、『お肉があれば大体の料理もおかずになるからね』とのこと。

どうやら母さん達が買い物に来る際、俺と夏耶のことについて話しているらしい。

そのため、この商店街では俺達が寮生活を送っていることは皆知っているようだ。

有り難いが恥ずかしい。

この町の名物夫婦的な父さん達の子供なだけに、皆俺の事を小さい頃から見ているので気にかけてくれる。嬉しいが恥ずかしいのも確かなことだ。

本屋でエロ本を買わないのか? とからかわれた時は本当に大変だった。

 

「え、エッチな本、ですかっ!!」

 

表紙の少し際どい水着姿の女性を見ただけで顔を真っ赤にし、何かあったのかそのまま気絶しかける。

この後、気を取り直した葵さんに、

 

「か、一真様はやっぱり………エッチなものが好きのなのですか……」

 

と凄く恥じらいながらも真剣な表情で聞いてくるのだから。

言えるわけがない。

そうしたことが何件かあり、気がつけば夕暮れに辺りはなっていた。

俺達はブランコを椅子替わりにして座っている。

葵さんの短いスカートから覗く真っ白な足が夕陽を受けて赤く染まり、その光景に艶めかしさと美しさを感じた。

 

「ふふふ……一真様、一杯貰いましたね」

 

そう俺を見ながら葵さんは柔らかい笑みを浮かべる。

その笑みに俺は苦笑しながら答えた。

 

「そうですね。でも、これで信吾へのお土産ができました。あいつ、こういうのとか喜びますから」

 

そのまま『そうですね』と返してくると思っていたが、葵さんからは何も帰ってこない。

それが気になって葵さんを見ると、葵さんは俺を見つめたまま無言になっていた。

綺麗な瞳が俺を捕らえる。恥ずかしいはずなのに、俺はその目に魅入ってしまう。

そして葵さんは何かを決意したのか、俺に真面目な顔で話しかけてきた。

 

「まだ………気付かないんですか?」

「え? それってどういう……」

 

いきなりそんなことを言われたって分かるわけもなく、疑問符を浮かべる俺。

すると葵さんはブランコから下り、俺の前に一歩進むとくるり振り返った。

夕陽に照らされた顔が美しく、俺は惹きこまれていくのを感じる。

そして葵さんは俺に笑みを向けると、頭を下げた。

 

「ごめんなさい。今まで嘘をついていました」

 

静かに、でもはっきりと謝罪の言葉を告げた。

何で謝られたのか分からない俺は唖然としてしまう。

 

「この度のデート……その理由に嘘をついておりました」

「嘘……ですか?」

「はい。この度のデートは、わたくしの男性が苦手なことを克服するための物ではありません」

 

え? それじゃあ何でデートなんかを……そう聞きたくなったが、その言葉は喉に引っかかって出てこなかった。

葵さんは俺に優しげな笑みを向けると、静かに話す。

 

「この度のデート、本当の目的は………一真様に会うためです」

 

そう言うと、俺の顔を真剣に見つめる。

周りは夕陽で真っ赤に染まっているというのに、それでも分かるほど顔を真っ赤にして、今にも泣きそうじゃないかと思うくらい瞳を潤ませて。

そして彼女は決意を決めて俺に言った。

 

「わたくしは……あなた様のことを、お慕い申し上げます。好きです……」

 

「…………………………え?」

 

まさかそんなことを言われるとは思わなかったので、理解するのに時間が掛かってしまった。

そして理解した瞬間、顔が思いっきり熱くなっていき、赤面していることに気付いた。

 

「い、いや、その…なんで!?」

 

考えがまったく纏まらない。何を言えば良いのか分からない。

そもそも、初めて会った人からいきなり告白される理由が分からない。

するとそれを見透かされたのか、葵さんはクスッと笑った。

 

「きっと一真様は覚えていないでしょうね。実はわたくし達、昔この公園であったことがあるのですよ」

「え?」

 

葵さんはそう言うと、昔を懐かしむように語り始めた。

 

「そうですね……あれは去年の今頃です。わたくしは家の進める無理矢理なお見合いに辟易しておりました。まだ人を好きになったこともないのに、無理矢理お見合いをさせられて……皆わたくしの家柄ばかり見ていて、話していて不快感しかありませんでした。そんなお見合いが何件も続き、わたくしは我慢出来なくなってしまったのです。家……母から良い家に嫁ぐよう毎日言われ、見合いに来る人達もわたくしよりも年上の御人ばかりで、わたくし自身を見てはいない。見ていたとしても、まるでナメクジのようにイヤらしい視線ばかり。もう、心の限界でした。それでわたくしは人生で初めて家を飛び出しました。すぐにでもこの場から逃げ出したかった。そして当てもなくふらふらと歩き……この公園に着きました。そこで疲れてしまったわたくしは今丁度座っていたブランコに腰掛けて休むことに。気が動転していて、これからどうしようかと纏まらない考えを必死に考えていました。だから気づけなかったんです……わたくしに近づく男の人達に。声をかけられて初めて気づき、顔を上げるとそこにはわたくしよりも少し上くらいの年齢の男の人が二人いて、わたくしを可愛いと言って一緒に遊ばないかと誘ってきました。いくら世間知らずなわたくしでもそれが所謂『ナンパ』というものだというのはわかります。それにその人達の視線は正直、怖かった。わたくしにとって、得体の知れない異質な物に思えてならなかった。だからわたくしは拒否しました。『お断りします』と。そう言われた二人組は怒って無理矢理私を引っ張ろうとしました。捕まれたときの力の強さは凄くて、思い出すと今でも怖いです。でも……」

 

そこで一端言葉を切った葵さんは俺を見つめてきた。

 

「そんな時に、あなた様……一真様は来ました。嫌がるわたくしを掴む二人を見て、『止めろ! その子が嫌がっているじゃないか!!』と二人に言い放つとそのまま私達の所まで駆けつけ、手を振るって掴んでいた男の手を打ち払いました。そしてわたくしを守るように二人に立ち塞がったのです。二人は逆上して一真様に襲い掛かりましたが、一真様は目にも止まらない早業で二人を返り討ちにし、あっという間に自分より大きい二人を地面に倒しました。その時の姿は今でも鮮明に思い出せます……格好良かったです。まさに窮地の人を助けるヒーローそのものでした」

 

それを聞いて段々思い出してきた。

そう言えばそんなことがあったな。いつも父さん達と出かけると毎回の事だったから忘れてた。あの時の子が葵さんだったのか。

 

「そして一真様にやられた二人は一真様を恐れて急いでその場から逃げ去り、一真様はそれを見た後にわたくしを心配して下さりました。そしてわたくしが落ち着くまでずっと一緒にいてくれて、相談に乗ってくれて……。わたくしがお見合いで辟易していたことを相談したとき、一真様、何と答えたと思います? あの時一真様は『そんなにイヤならイヤだって言えばいいよ。それでも駄目だっていうなら……正面から自分の意思を貫くしかない。俺ならそうする。だって俺は武者になりたいから』ってそうお答えしたんですよ。それを聞いて強い御人だなって……惹かれたんです。格好良くて真っ直ぐで優しくて……わたくしはこの時、初めて人を好きになりました。一真様のお言葉で私は家で話し合うことを決め、そして帰りました」

 

成る程と思う。

確かに会っていたし、そんなことを言った覚えもある。

昔からずっと俺は父さんのような人に……立派な正義の武者に憧れていたから。

 

「そして家の母を説き伏せ、わたくしは自分が好きな人と交際するということを明確にし文句を言わせないようにしました。そう、一真様以外、わたくしは好きになる人などいないって分かっていたから。そしてまた一真様に会いたいと必死になって探し、一真様が言っていた言葉から武者を目指すと判断してわたくしも入学しようと思ったのです……武帝校に」

「あれ、でも葵さんは武帝校に通っていないですよね。何で?」

 

そこで葵さんはイタズラをする子供のような笑顔をして俺に向けた。

 

「まだ…気付かないんですね」

「気付かない?」

 

すると葵さんは手を使って後髪をポニーテールのように纏めると、俺に話しかけた。

 

『いい加減気付け、一真』

「え………?」

 

その声、その見覚えのある顔。

常日頃見ているその顔は、俺の中で一人しかいない。

そして俺も……やっと気付いた。

 

「も、もしかして……信吾……!?」

「はい」

 

葵さんはやっと気付いたと嬉しそうに笑った。

その笑みを見て、俺は自分の思考が真っ白になっていくのを感じた。

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