皆さん、一真をへたれだ何だと罵って結構ですよ。
今俺は衝撃の事実に驚愕していた。
驚いたことは三つ。
一つ……葵さんに告白されたこと。まさかこんな綺麗な子に告白されるなんて思わないだろう、普通。
二つ……俺と葵さんが過去に出会っていたこと。うろ覚えながらに覚えている。まさかあの時の子が葵さんだっとは思わなかったよ。確かに綺麗な子だったけど。
そして三つ……葵さんが信吾だったということ。
入学してからずっと切磋琢磨してきた友人が真逆女の子だったなんて、誰が思うだろうか? よくよく考えればそれらしい素振りが無きにしも非ずだった。
そしてそれらを全てつなげていくと……
俺は好意を持っている女の子と一緒に同居していた!
ということになる。
その瞬間、意識は現実へと戻り、俺は葵さんに速攻で………
土下座した。
「すみませんでしたぁっ!!」
「キャッ、一真様!? どうなさいましたか!」
困惑する葵さんに俺は土下座のまま今までの非礼を詫びる。
「真逆女の子だったなんて思わなかったんです! それでどれだけ今まで辛い目に遭わせてしまったことか!」
「い、いえ、そんな…」
「着替えづらかったでしょう! お風呂にだって入りたかったでしょうに。それに毎回男装して大変苦労なさったはず。俺に会いたい一心で無茶をして来てくれたのに、俺はっ!」
謝罪していくと同時に自分の中でふつふつと怒りがこみ上げてくる。
何で俺は気付かなかったと! 気付いていれば彼女にそんな苦労をさせることもなかったじゃないか。自分の気遣いの無さがここまで腹立たしいことはない。
顔はずっと下げているので葵さんの顔は見えない。だが、返事を返すその声には俺を気遣った思いやりの心が籠もっていた。
「そんなっ……一真様、お顔を上げて下さい。それは一真様が自らを責めることではないのですから。わたくしはそれを納得した上で行動したのです。一真様がわたくしのことで御心を痛められる必要はありません」
「いや、だけど!」
「それに……今こうしてそのことを気にかけて頂けることを、わたくしは嬉しく思います。それだけわたくしのことを思ってくれているのですから」
うぅ……彼女の優しさが染みる。
こんな駄目な俺を許してくれるなんて………本当に良く出来た子だ。
「それに、良く雄飛達と猥談したりしているときはきつかったんじゃあ………」
「そ、それは………」
更に謝ると葵さんの顔がトマトのように真っ赤になってしまった。
気まずそうに恥じらっている様子は妙に嗜虐心をそそられる。
て、気が動転して俺は何を言っているんだ!
「す、すみません、何俺は馬鹿なことを聞いているのやら」
「い、いえ……殿方はそう言ったことが好きと聞いておりましたし……それに一真様の好みも聞けましたし……」
真っ赤になりながらたどたどしくそう答える葵さん。
謝っておきながらも不謹慎にも可愛いと思ってしまった。
「そ、その……申し訳無い。本当にすみませんでした」
「そこまで謝らなくていいですよ。自分でも納得の上だったのですから」
俺は再び己の今までも非礼を詫び続け、葵さんが全て許してくれるまでそれは続いた。
何とか気を取り直し、俺は葵さんと改めて向き合う。
先程までは本当に動揺していて見苦しいところを見せてしまった。
葵さんは責めてもいいのに、優しく許してくれた。全て納得の上だと、責任は全て自分にあるのだと。
そう言われると救われるが、やはり同時に心苦しかった。
だが、いつまでも公開の念に捕らわれていては、それこそ許してくれている葵さんに失礼だ。故にすっぱりと切り変える。
そして疑問に思ったことを葵さんに聞いた。
「しかし……何で男装なんてして入学したんですか? 一応少ないとは言え、ちゃんと女子だって入学出来るのに」
聞かれた葵さんは少し複雑そうな顔をした後に苦笑した。
「それが………母と交わした約束だったのです。お見合いをしなければその変わりにIS学園に行けと言われていて。でも、わたくしは一真様に会いたくて、その一心で全部断りました。当然母は反対しましたよ。『そんな粗野で野蛮な所に行かせるわけには行かない』と。それでわたくしは母と絶縁しようかと本気で考え始めた時に、父のお客様がわたくし達の口論を聞いて止めに入ったのです。そしてその方はわたくし達の話を聞いて、わたくしに賛同してくれました。そして母にこう説得してくれたのです」
そこで一端葵さんは言葉を切ると、当時のその人の言葉を真似るように言った。
「いやいや、御家のことを考えている御母堂のお考えも然り。しかし、娘の幸せを考え思いやるのも親の勤めと言いましょう。故にこうでは如何だろうか? 娘さんに『男装』をさせて入学させ、二ヶ月間正体がばれなければ娘の恋路を尊重し応援してやると。ばれれば即退学でIS学園に編入。娘さんはとても良く出来ている才媛と聞く。それほどの者ならば入学の遅れも取り戻せよう。そうあのお客様は仰いました」
本人は至って真面目なのだろうが、その無理をして古い言い回しをする姿が可愛らしくて俺は微笑してしまう。
それに気付かず、葵さんはさらに真面目に話し続ける。
「母はそれを聞いて最初は否定しました。そんなことを出来るわけがないということもあって。ですが、そんなことを言われたお客様は豪快に笑うと『それがしはあの学校と縁があってのう。多少の口添えは出来るのだよ』と自信満々に仰られて。そこに父が加勢して母を説得して、それで何とか承諾してもらったのです」
話し終えると共に葵さんは笑みを俺に向ける。
その時にことを思い出していたのか、少しだけ目から涙が零れていた。
その表情は夕陽に当てられてとても美しく見える。
しかし……随分と学校も思い切ったことをしたものだ。バレたらただでは済まないというのに。
そう考えると、また更に疑問が出てくる。
「でもそれだったら次席になる必要なんてなかったんじゃあ……」
「そこはちゃんと試験を受けての結果です。あのお客様はしたのは、わたくしが女なのに男子として入学出来るようにしたことと……一真様と同室にしたことですから」
そこで顔を赤らめて恥じらう葵さん。
ただでさえ可愛いのに、告白された所為で余計に可愛く見えてしまう。
それだけで俺の胸はドキドキしてしまう。
「そうだったんですか……。あれ? そう言えば入学式の時に試合をしましたけど、あの時怒っていたような」
今更ながらに思い出したことを言うと、葵さんは思いっきり恥ずかしがった。
「す、すみません! あれも一応指示を受けていたので。で、でも、式の前に一真様に挨拶したのに、覚えていないって言われてしまって……その時の苛立ちもあって……」
「す、すみません……」
必死に会いたいと思っていた相手に忘れられていたのだから、確かに怒りたくもなる。
本当に申し訳無い。
これで入学までの経緯は聞いた。
そして最後に残った疑問を聞く。
「だったら……何で今こうして俺に正体をばらしたんですか?」
そう。母親との約束は二ヶ月間ばれなければ在籍して良いという話のはず。
俺にばらしては不味いのでは?
すると葵さんはクスクスと笑い始めた。
「一真様が考えていることも分かります。ですけど、一真様。今日は何月何日ですか?」
聞かれて俺は今日の日付を口にし、そして気付いた。
「あ……そういうことか」
「はい! 今日は入学式から丁度二ヶ月経過した日ですよ」
そう、今日は入学式から数えて62日目。丁度二ヶ月経ったことになる。
普通に考えれば一月一月で考えがちだが、葵さんの言い分も充分立つ。
「今日という日を今か今かと待ちわびていました。そうすれば一真様にちゃんと告白できますから。でも、焦っていたんですよ。まさか年上の幼馴染みがいるなんて知りませんでしたから。それにあんな可愛いくて胸の大きな妹さんも……」
そう言われては苦笑するしかないが、何故夏耶のことが出てくるのだろうか?
「ただでさえ焦っているのに、その上真田先輩の告白まで出てきて。わたくしは毎日気が気ではありませんでした」
「あ、あははははは………」
苦笑してしまうが、正直それどころじゃない。
忘れていたわけではないが、灯姉さんの告白の返事をいわば保留状態にしていた。その上信吾……葵さんからも告白されてしまった俺は返事を返さなくてはいけない。
その事が心に突き刺さる。
今日一日一緒に色々とやったが、葵さんはとても良い人で可愛くて綺麗で、灯姉さんとは違ったタイプだけど一緒にいて楽しい。正直惹かれている。
だけど告白の返事を俺に返せるのか?
ただでさえ灯姉さんの返事を返せていない男に。それに俺はこんなにも思ってくれている彼女の傷付く所なんて見たくないし傷付けたくない。
どうすればいいんだ………。
そう苦悩していたら、葵さんは俺の気持ちを察してか少し寂しそうな笑みを浮かべた。
「一真様……お返事はまだ返さなくて結構です。一真様も色々と思うことが多いでしょうから」
「本当に申し訳無いです」
まさに心からそう謝るしかない。
だが、葵さんは次には俺を見つめながらお茶目な笑みを浮かべた。
「でも、わたくしが一真様のことをお慕いしていることは絶対ですから。諦めませんし、真田先輩にも負ける気はありません。だからこれからも一真様と一緒にいますからね」
夕陽に照らされた公園の中、俺はこの日で一番可愛い葵さんを見た。
その後は二人で帰ることに。
正体を明かしても葵さんのしゃべり方や態度は変わらない。此方が素らしく、男装時は相当無理をしていたようだ。心苦しくて仕方ない。
「一真様、今日は商店街の人達から色々と貰ってしまいましたから、御夕飯は肉じゃがにしようと思います。お好きでしたよね」
「ええ、確かに好きですけど……よく覚えてましたね」
帰り道でそんな会話をする俺達。
傍から見ると新婚夫婦のような会話だと自覚して赤面してしまうがどこか嬉しい自分がいた。
肉じゃがが好きなんて話は、一回だけ男装時に作って貰ったときに言った時だけだ。まさか覚えているなんて。
俺にそう言われた葵さんは満面の笑みで俺に答えた。
「はい! だってお慕いしている一真様の好きなものですから!」
「っ!?」
その笑みに俺の心臓は鼓動が鳴りっぱなしだった。
その翌日、信吾は俺の部屋からいなくなっていた。
さて、実は次回でこのデートの顛末も終わりですが、葵の所にいたお客さんって誰でしょうね?