第31話 IS学園に……
唐突にやってきた留学の話。
その事に驚きを隠せない俺達であったが、全校集会後に改めて幸長おじさんから説明を受けた。
曰く、
「成績優秀な者にはさらに色々な経験をさせて見識と武を高めて貰いたい。『武者は最強であり、劔冑に勝てない物はない』なんて驕った考え方がこの時期は出やすいからね。そう言った奢りを正すためにも、こうして『他の物』と戦い経験を詰んで貰いたいんだよ」
とのこと。
確かに言っていることは最もなので頷ける。
劔冑の前はISが最強と謳われ女尊男卑という考え方が広まっていたようだが、それは劔冑の登場によって無くなっていった。それは劔冑の強さ故だが、だからといって劔冑を操る武者こそが最強、などと驕ってはいけない。
武者は武の探求者であり、礼節を重んじるもの。奢るなどと自他共にみっともない真似をして良いわけがないのである。
その事を理解しているのを分かっているからなのか、幸長おじさんは俺に笑いかけた。
「IS学園は君のお父さんの母校でもあるからね。色々と感じる事も多いだろうから楽しんできてくれ」
と言ってきた。
つまり当時を騒がせた父さんがどんな生活を送っていたのか、どんなところで学んでいたのかなどを見て聞いて感じてきなさい、ということのようだ。
確かにそれは気になる。
IS学園には何度も足を運んだことがあるが、千冬伯母さんの部屋以外ちゃんと見たことがない。
なので実際にどんな所なのか……楽しみになってきた。
そんな気持ちを胸に秘めて俺達はその日の放課後から留学の準備をし始めた。
尚、おじさんの説明の中には面白い物もあって、
「ここと違ってあの学園は最新鋭のハイテクノロジーが詰まったところだから、凄い住みやすい環境らしいんだ。エアコン完備にベット装備。さらに簡易キッチンにシャワーもあって、部屋の内装も高級ホテル並に良いらしい。だから一真君並に真面目じゃないと、居心地が良すぎて帰ってこなそうだからね」
だとか。
それを聞いたみんなが凄い羨ましそうな目で見てきた。
更に特に男子からは今まで以上の憎悪と嫉妬の視線を向けられた。
「IS学園って九割が女子って所だろ! ハーレムで天国じゃねぇか!」
「一真ぁっ! 貴様はまた更に可憐な少女をその毒牙にかけようというのかぁ!」
「あぁ、何で一真ばっかりがこんないい目に会って……ただの武者馬鹿なのに……」
男子から吐き出される怨嗟の声に若干引くしかない俺。
周りにいた女子は本当に呆れ返って白い目で男子達を見ていた。
俺は学ぶために行くのであって、遊びに行くわけではないのだから。
ちなみに向こうでやることはISと共に実機演習と通常科目、それに一応は囓り程度にISの座学である。これには俺達が使っている劔冑にISの技術が使われているためだとか。
「ここがIS学園なのですね」
「海が近くて綺麗ね~」
モノレールを乗り継いでIS学園の校門前まで来た俺達は校舎を見ながら感嘆の声を上げていた。
俺も何度か見てきたが、やはりこうして改めて見ると凄いことが良く分かる。
特に校舎の案内にホロ映像が使われているあたり、相当お金が掛かっているなと思った。ウチの学校では紙だから……。
「葵さんは確かウチに来なければIS学園を受験するはずだったんですよね?」
「はい。なのでパンフレットで写真とかは何度も見ていたのですが、こうして改めて見るとやはり感慨深いものがありますね」
そう語る葵さんの目は、何やら感動しているようだった。
その姿を可愛らしいと思いつつも、今度は灯姉さんに話しかける。
「そう言えば灯姉さんはIS学園を受験しなかったの? 確か女の子の憧れる学校だって聞いてたけど?」
灯姉さんはその途端、微妙な笑顔をしながら俺に応えた。
「ちょっとね。どっちにしようか悩んだんだけど、『あの子』と一緒っていうのはあまり好きじゃ無いのよ」
そう答えられて納得した。
この学校には夏耶以外、一人だけ俺の幼馴染みが通っている。歳は一つ上、つまり灯姉さんと同い年。小さい頃から世話になっていたのだが、どうもこの二人は犬猿の仲……と言う程ではないのだが、ライバルらしく張り合うことが多かった。
なので一緒の学校に通うのは抵抗があったのかも知れない。
「武帝校に入ってから一回も連絡してないけど、元気かな」
「元気だと思うわよ。だてそれがあの子の取り柄だもの」
灯姉さんはそう言いながらクスっと笑う。
何だかんだと言いつつ仲は良いと思うのは俺だけかな。
そして俺達はゲートの警備員に渡されていた通行証を見せて通ると、校舎の前まで歩いて行った。
そこでは既に見知っている人達が立っていた。
「あ、千冬おばっ」
その一人である千冬伯母さんに挨拶をしようとしたところで声は中断されてしまった。何せ、
「お兄ちゃぁああああああああああああああああああああああんんんんんんんんんんんんんんん!!!!」
そう叫びながら俺に向かって妹が飛び込んできたからだ。
その声量に驚きつつも受け止めると、夏耶は思いっきり抱きついてきた。
相変わらずの幼い顔を感動の涙で濡らし、顔に反してかなり不相応に成長している胸を押しつけて。
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!」
「まったく夏耶はもう。ほら、落ち着けって」
相変わらずな甘えん坊の妹に仕方ないなぁと俺は思いつつ夏耶の頭を優しく撫でてあげる。
しかし、それでも落ち着かないようで更に顔を俺の胸に埋めてきた。
「ん~~~、お兄ちゃんの匂いがする~」
「はぁ、何を言っているんだ、お前は。汗臭いだけだろうに」
ぐりぐりと顔を擦りつける夏耶。
それに実は……少しだけドキドキしてしまう自分がいた。
今までも気に留めなかったが、夏耶も相当スタイルが良い。その大きな胸がこうして押しつけられているというのは、妹と言えどドキドキしてしまうものだと今更ながらに思い知らされた。
そんな俺達に少し呆れた様子で千冬伯母さんが来た。
「すまんな。まさかここまで我慢出来ないとは思っていなかった」
千冬伯母さんは俺にそう謝ってきた。
しかし、その目は何やら面白そうなものを見ているかのような目になっている。
「別にいつものことだからいいですよ。おばさん達もお元気そうで何よりです」
「ああ、久しぶりだな一真。ちょっと大きくなったんじゃないか?」
そう言いながら俺の頭を撫でてきたのはマドカ叔母さんだ。
その優しい笑みと撫でられていることに照れてしまう。
「どうなんでしょうね。測っていないので何とも」
「絶対に大きくなってる。それに昔の兄さんに顔立ちが更に似てきたな……今もそこまで変わらないけど」
「あはははは、確かに」
マドカ叔母さんと二人で苦笑する。
父さんに似てきたと言われるのは嬉しいが、そもそも父さんが見た目そこまで歳を取っていないから見比べても差が無いんじゃないだろうか。
そんな風に再会を果たして喜んでいたが、このままだと灯姉さんはともかく葵さんがついて行けないので改めて紹介することにした。
「葵さん、改めて紹介させてもらいます。此方がこのIS学園の教頭先生である織斑 千冬さんと、教員である織斑 マドカさん。俺の伯母さんと叔母さんです」
「あ、それでそんなに親しそうにお話をなさっていたのですね」
俺の言葉で納得がいったらしく、葵さんはほっとしているようだ。
そして灯姉さんが二人と夏耶に挨拶をする。
「お久しぶりです、千冬さん、マドカさん。それに夏耶ちゃんも久しぶり」
姉さんの笑みに二人とも笑いながら再会を喜び、夏耶も喜ぶ。だが、何故か俺から離れてくれない。
「夏耶ちゃん、そろそろかずくんを放してあげないと」
「もうちょっとだけお願い、灯お姉ちゃん! お姉ちゃんと違って私はなかなかお兄ちゃんに甘えられないんだもん。いいでしょ」
その様子にあらあらと笑う灯姉さん。
おばさん達も夏耶のことは気にしないらしい。正直剥がしづらくて困ってたりするのに。
そんな風に困っている所で、葵さんがおばさん達に自己紹介をしていた。
「この度はお世話になります。わたくし、徳臣 葵と申します」
「ああ、聞いている。一真と同室らしいな。甥が世話になっている」
「一真が迷惑かけてないか? ちょっと気になっていて」
「いえいえ、そんなことありませんよ。寧ろいつも一真様にはご迷惑をかけてばかりでわたくしのほうが申し訳ないです」
三人でにこやかに話しているようで少しホッとした。
途中で葵さんの顔が真っ赤になったりしているけど、何を言われたのやら。
すると俺に抱きついたまま夏耶が葵さんに話しかけた。
「あ、徳臣さん……やっと戻ったんだ」
意味ありげな笑みを浮かべる夏耶に葵さんも笑みで答える。
「ええ、此方の問題を解決出来たので」
そして二人だけが理解しているようで、互いに笑いあった。
「負けないよ、私」
「ええ、わたくしも負ける気はありませんから」
「それは勿論、私もよ。いくら可愛い妹分と可愛い後輩でも譲る気はないからね」
そこに灯姉さんも加わり、何やら笑顔なのに火花が飛び散っているような錯覚を覚える。
葵さんと灯姉さんなら分かるけど、何で夏耶まで……。
そんな様子をおばさん達は面白がって見ていた。
そうしてしばらくそんな時間が過ぎた後、俺達は取りあえず荷物を降ろすために急遽用意して貰った寮の部屋へと案内して貰うことになったのだが……
歩いている時、急にそれは来た。
「かっっずっく~~~~~~~~~ん~~~~~~~~~~~!!!!」
上空から突如そんな声がしたと思ったら、俺の顔は大きな柔らかい何かに包まれてしまった。
その途端に香る女性特有の甘い香りに胸がドキドキしてしまう。
それが何なのか? 俺には一人しか思いつかない。
「お久しぶりだね~、かずくん! 元気そうでなによりだよ~! ん~、前よりもさらに締まった『男』の体つき…束さん、お腹がきゅんきゅんしてきちゃうよ。あ、濡れてきちゃった」
「むぶぷっ、た、束さん、放して…」
そう、こんな過剰なスキンシップを取ってくるのは束さんしか有り得ない。
「あぁ~、束さん、いつの間に! お兄ちゃんを放して!」
「えぇ~、夏耶ちゃんはさっき思いっきり抱きついてたじゃない。いいじゃんいいじゃん、これぐらい。私だってかずくんともっとくっつきたい! キスしてあれして『ピー』して『ピー』されてたいししたい~」
明らかに放送禁止用語の混ざった返事に葵さんと灯姉さん、それに夏耶の三人の顔が真っ赤になっていく。
なんてことを言うんだ、この人は。一応ここは九割は女子の学校のはずだよな?
「かずくんが望むなら、私は前も後ろもオールオッケーさぁ! おっぱいも大きいから挟んであげられるしね。というわけで今から保健室に行こう!そして…ぐへへへへ」
何やら貞操の危機を感じる。
ヤバイんじゃないだろうか! でも、何故かこの柔らかい感触の物に腕でがっちりと固定されてしまって外せない。
大真面目にどうしよう!?
「いい加減にしろ、この万年発情兎がっ!!」
「ちょ、ちーちゃん、やめっ…ぷげらっ」
不味いと焦っていたら、その声と共に柔らかい物から解放された。
そしてそこには千冬伯母さんが立っていた。
「さてと、余計な邪魔も入ったが、取りあえずいくか」
「あ、うん…」
その言葉に素直に頷き、俺達はIS学園の寮に向かっていった。
後ろを振り返ったら、束さんが地面に倒れていたけど、気にしないことにした。