先程の事もあって顔の熱がまったく引かない。
そのことがマドカ叔母さんにバレないかとヒヤヒヤしたものだったが、何とか慌てて誤魔化した。
「二人共、本当に大丈夫か?」
「は、はい」
「あぁ、何でも無いよ。少し緊張してただけ」
俺達の返事を聞いたマドカ叔母さんはそうかと言って笑い、俺達を教室に招く。
「お前等、この二人が武帝高等学校からの短期留学生だ。今日から一ヶ月間一緒に勉学を学んでいく仲間になるのだから、みんな仲良くしろ!」
その声と共に教室に入ると、途端に大きな歓声が湧いた。
クラスの三分の二以上は女子生徒のためか黄色い声が多く、男子の声は聞きづらい。
窓際の席を見ると夏耶が満面の笑みで俺達に手を振っていた。
そのはしゃぎようと来たら遠目からでも見て分かるくらいであり、俺は苦笑を浮かべてしまう。
「静かにしろ~、お前等! これじゃあ二人がびっくりしてしまうからな」
マドカ叔母さんの声で皆静まる。
それを見る限り、ちゃんと教師をやっているんだなぁ。ウチでいつも俺や夏耶に甘いからちゃんと出来てるのかちょっと信じられなかったけど。
「それじゃどっちから紹介する?」
「あ、でしたらわたくしから。きっと皆さん、一真様の方が興味がおありでしょうから。最後の方が目立ちます」
葵さんはマドカ叔母さんに上品に笑いかけながら前に出る。
きっと俺のためを思っての事なのだろうけど、流石にそれはちょっと……個人的にはあまり目立ちたくない。いつも変に目立ってばかりだから。
しかし、俺にも笑いかける葵さんにそんなことは言えない。俺は黙って先を譲るしかなかった。
葵さんは皆に見えるように真正面を向くと、高貴さを含んだ上品な笑みで自己紹介を始めた。
「皆様、初めまして。東京武帝高等学校から参りました、徳臣 葵と申します。一ヶ月と言う短い期間ではありますが、皆様と共に学べることを心より感謝しております。どうぞ皆様、よろしくお願いします」
美しい動作で一礼すると、皆息を呑んだ。
てっきりまた歓声が上がるものかと思ったけど、そうはならなかった。
正直、俺もその綺麗な所作に魅入ってしまったくらいだ。
それくらい葵さんは綺麗だった。
そして皆はっと気を戻すと葵さんへ歓声を上げる。
「うわぁ~、綺麗な子~!」
「お姫様みたい! 肌も真っ白~」
「ウチの相当レベル高いと思ってたけど、それ以上じゃないのか!?」
「あんな子がいるなら、俺も武帝校行っとけばよかったぁ!」
皆からあがる葵さんへの賞賛の声。
それを聞いていると改めて葵さんが凄い美少女だと思い知らされ、何やら恥ずかしくなってきてしまう。
「次は一真様の番ですよ。頑張って下さいませ」
皆から歓迎されたことが嬉しいのか、葵さんが俺に微笑む。
その笑顔を可愛いと思いながらも、俺は変わって皆の前に出た。
その途端に緊張で身体が強ばる。
人の前に出るというのは、いつやっても何度やっても慣れるものではない。
皆から集中する視線に息を飲み込みつつも、俺は自己紹介を始めた。
「みなさん、初めまして。彼女と同じく東京武帝高等学校から来ました、織斑 一真と申します。この度は短期留学で一ヶ月間此方の学舎で学ばせていただくことになりました。不出来な無骨者ですが、よろしくお願いします」
そのまま一礼し辺りを窺うが、何も返ってこない。
何かすべったのだろうかと心配になりつつも辺りを見回す。
そして一拍の間が開いた後に………
「「「「「キャァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」」」」
今まで聞いたことのない大きな声が襲いかかって来た。
その声に驚くも表に出さないように気を付ける。武者足る者、あまり戸惑いや不安、動揺を見せてはいけない。
「格好いい! ウチの男子共よりも数段格好いい!」
「うわぁ~、さわやかだけどしっかりしてる感じがたまらない!」
「あの髪、地毛であの色なんでしょ。凄く綺麗な色……」
女子からそんな声が聞こえてきた。
まさかそんなに言われるとは思わなかったから、結構驚いてしまう。
俺なんてどこにでもいる普通の男なのだから、そんなに喜ぶ事でも無いだろうに。現にこのクラスの男子生徒の顔を見るに、皆結構な美男子ばかりだと思う。
そんな風に喜び興奮しているクラスの皆にマドカ叔母さんは仕方ないなぁ、という顔をしつつも皆を静めに掛かる。
「お前等、まだSHR中なんだから静かにしろ~! せっかくだから一時間目は二人への質問タイムにしようと思う」
マドカ叔母さんの声に再び賑やかになる教室。
こんな賑やかな教室というのは初めてかもしれない。
「やった~!」
「気になること一杯聞いちゃおう!」
「あの子、恋人とかいるのかな?」
「是非ともお近づきに……」
皆からそんな声が聞こえてくる。
何だか気恥ずかしい。こんな風に言われることは向こうじゃなかったからなぁ。
そろそろSHRも終わりと言うことで、マドカ叔母さんから席へと案内される。
その席を見て、やはり凄いと感心してしまった。何せ高性能な電子機器の装備された机だ、武帝校の何もない勉強机とは天と地のさほどある。
そんな凄い席に座ると、隣の席に葵さんが座った。
「此方でも一真様の隣です。よろしくお願いしますね、一真様」
「ああ、よろしく」
嬉しそうに微笑む葵さんに俺も笑顔で返す。
知っている人間がすぐ近くにいるというのはやはり心強い。
しかし、どうもこれにもきな臭さを感じるのは俺だけだろうか。
「うふふふふふ……」
だけどこうして葵さんが嬉しそうだから、別に良いのかもしれない。
そしてそのまま一時間目が始まり、マドカ叔母さんが言っていたとおり俺と葵さんへの質問タイムになった。
「それじゃあ最初は……」
マドカ叔母さんがそう言うと、一斉に手が上がり教室内が騒がしくなる。
「「「「「ハイっ、ハイ、ハイ、ハイ!!」」」」」
「だから騒がしくするな、お前等。そうだな……んじゃ赤城、お前から」
叔母さんにそう言われ、一人の女生徒が席から立ち上がる。
「先生、織斑君って先生と同じ名字ですけど、ご親戚なんですか?」
その質問に叔母さんはニッコリと笑った。
その笑顔を見て周りの人達が凄く驚いているようだが、何かあったのだろうか?
耳をいすますと、『いつも全然笑わないのに』とか、『あんな笑顔見たことない』といったことが小声で話されている。
叔母さんってそんな笑わない人だったのか? ウチに来るときはいつもニコニコしているけど。
「よく聞いてくれた! いいか、一真はなぁ……私の可愛い可愛い甥だ!」
満面の笑みで皆にそう告げる叔母さん。そんな堂々と言うことなのだろうか?
「「「「「「えぇええええええええええええええええええ!!」」」」」
そして上がる驚愕の声。
このクラスは驚くことが多いな。ウチだともっぱら女子絡みだけだけど。
そして叔母さんは得意顔で俺のことを語り出した。
「一真は私の兄の息子でなぁ、とても可愛いくて良く出来た子なんだ。兄さん……織斑 一夏と言えばお前達も知っているだろう」
「あぁっ!? あの世界を変えたって言われてる武者の!」
「そうだ! その息子が一真だ。兄さんに似ててとても格好いいだろう! 自慢の甥だ」
聞いてて恥ずかしいなぁ。
あまり変な風に持ち上げないで欲しい。本音であまり目立ちたくないんだから。
「あれ? っていうことは織斑さんとは…」
そこで一人の生徒が気付いたらしく、夏耶の方を向く。
それに釣られてみんな見ると、夏耶は凄く嬉しそうな笑顔で席から立ち上がった。
「はい、そうです! 織斑 一真は私のだぁ~~~~~い好きなお兄ちゃんです!」
瞳を潤ませて熱い視線を俺に向けながら笑う夏耶。
まったく……人前で兄が好きなどと、恥ずかしくなるじゃないか。妹の甘え癖も中々に抜けないのは、兄として嘆くべきか頼られていると取って喜ぶべきか。
そしてそれを聞いたみんなは……
「「「「「「えぇええええええええええええええええええええええええええ!!」」」」」
また驚愕し叫んでいた。
ここの生徒は本当に驚くのが好きだなぁ。
そう思いながら頬を掻いていると、何やら葵さんが不機嫌な気配を漂わせ始めた。
何か不味いことでもあったのか!
すると、すっと立ち上がり俺の腕を取った。
そして顔をここに来て一番真っ赤にしてみんなに聞こえるように言う。
「わ、わたくしは一真様のことを心の底からお慕いしております! だから……っ~~~~~~!」
途中で恥ずかしさが勝って声にならなかったようだが、前半はばっちりみんなに聞こえてしまっている。
いきなりの告白に皆は……
「「「「「「えぇえええええええええええええええええええええええええ!!!!」」」」」
やはり驚愕していた。
ここのクラスは本当に驚くことが好きだと思う。
こうして一時間目から俺は若干の嫉妬とかなりの好奇の視線に晒されるはめにあった。