激動の昼休みも無事に済み、今は放課後になっている。
学園の生徒達は部活動に遊びにと意気揚々に教室を出て行く中、俺はというと……
「どうしよう……どうしよう……本当にどうしよう……」
頭を抱えて机に尽き伏せていた。
何せ、『更に』女性に告白されてしまったから。
相手はもう一人の幼馴染みである『伊達 颯(だて はやて)』。
小さい頃から世話になっており、いつもぐいぐいと俺や夏耶を引っ張っていた記憶が懐かしい。
IS学園に行ったので少し疎遠になりがちだったけど、久々に会った颯姉は全く変わっていなかった。
まぁ、身体の発育は更に凄いことになっていたが。
そして変わらず灯姉さんと激しく張り合っていた。
この二人、物心着く頃からライバル視し合っており、久しぶりに見た二人のやり取りも全く変わっていない。見ていて変わらない二人を嬉しく思ってしまう。
そんな姉貴分である彼女を、俺は姉のように慕っていた。
灯姉さんは『お姉さん』であり、颯姉は『姉貴』と言った感じだ。
そんな姉同然の人に灯姉さんの時同様、人の前で告白されてしまった。
しかも昔なら意識しなかったのに、今の俺は颯姉のことを異性として意識してしまっている。
抱きしめられた上にあんなキスをされて告白されたら、いくら鈍感な奴でも気付かないわけがない。
これで普通の男子なら、誰もが喜ぶのだろうが……
俺は現在、二人の女性から告白されている。
灯姉さん、それに葵さんの二人から告白されて、悩んだ挙げ句に二人に返事を待って貰っている状態なのである。
まさに不誠実極まりない。しかし、この何とも言えない感情を持て余している俺は何とも言えないのだ、本当に。今まで恋愛なんてしたことがなかったから……。
そんな状態だというのに、更には颯姉からも告白されるとはなぁ……。
しかも颯姉、返事は言わなくてもいいって先に言ってきたし。
「返事は今は聞かない。何せなぁ…その前にケリつけなきゃならねぇ奴がいるからな」
そう言いながら灯姉さんを見る颯姉。
「そうね。でも、かずくんを譲る気なんて微塵もないけどね」
灯姉さんもそれを受けて不敵に笑う。
二人の笑い声が辺りに聞こえるが、その目がまったく笑っていないことはきっと皆が気付いているだろう。
火花を散らす二人。その二人にオロオロする葵さん。そしてそんな二人を見てもまったく動じずにお昼ご飯を食べている夏耶。ちゃっかり食べさせて欲しいとねだられてしまい、仕方なく箸でおかずを摘まんで口元に持っていってやると、小鳥の様に口を開けておかずを食べる夏耶。その変わらぬ様子に心を和ませていると、葵さんも羨ましそうな目で俺を見つめてきたので、葵さんにもしてあげた。
葵さんはまさに幸せそうな顔で食べ、二人ともうっとりとしているようだ。
結局この告白騒動は二人が俺達に気付くまで続いた。
公平を期すために、二人にも同様、はい、あーんをさせられたわけだが。
結果……俺の昼御飯のおかずはなくなっていた。
と、こんな感じで昼休みを過ごした俺は、改めて事態の重さに押し潰されているわけだ。
どんなに考えても答えが出ない。
客観的に考えても、三人とも凄い美人だ。スタイルだって抜群だし、家事炊事もできるし(颯は駄目)。恋人に出来るのなら、皆きっと周りに自慢出来るくらい凄い女性達だ。
好意を持たれていることは嬉しい。だが、それに上手く答えられない自分が苛立たしい。でも、分からないんだよなぁ……自分の気持ちが。恋愛という物が……。母さん達を見ていると、アレが極致だということは分かるのだが、初心者以下の俺では何が何やら。
これがまだ、武者としての戦闘技法とかなのなら答え……攻め方やら何やらが分かるものなんだけどな。
恋愛っていうのは、本当に良く分からなくて、難しい。
「一真様……大丈夫ですか?」
「大丈夫、お兄ちゃん?」
葵さんと夏耶の二人が心配して見に来てくれた。
二人に心配させてしまったようで、申し訳無い気持ちで一杯になってしまう。
「いや、ごめん。二人とも心配かけて」
苦笑を浮かべながら答えるが、二人の顔は晴れない。
すると葵さんは真面目な顔で俺を見つめる。
「一真様、そんなに必死に考えても仕方ないですよ」
「え?」
その言葉にポカンとしてしまう俺。
「恋というのは、考えてどうにかなるものではありません。だから、一真様……今はただ、あるがままに受け入れて下さい」
「受け入れる?」
「はい。私達が一真様を好きだということを。そこから一真様が誰を選ぶかは、全て一真様次第です。ただ、それには時間が掛かるから、今から焦っても仕方ないですよ。だから一真様、今はただ、そのまま受け入れるだけでいいんです」
その優しい言葉が心に染み渡る。
申し訳無いと思いながらも、救われたような気がした。
すると今度は夏耶が俺に笑いかける。
「お兄ちゃんがどんな答えを出しても、私はお兄ちゃんの味方だよ! なんたって、世界で一番深い絆は兄妹の絆だからね」
二人の励ましを受けて、俺は何とか立ち上がる。
いつまでも考えていても出ないなら、時間をかけて見るのも一つの手だ。
それによって出る答えも変わってくるのだから。
「ありがとう、二人とも」
「そんな、お礼だなんて。ただわたくし達のせいで一真様の御心を苦しませてしまいましたから、少しでも和らげたくて……」
「えへへへ~」
そんな二人に感謝しつつ席を立つと、途端に扉が開いた。
「ああ、良かった。まだ教室に残ってたのね」
「探す手間がなくて助かったぜ」
その先にいたのは、灯姉さんと颯姉だった。
「灯姉さん、颯姉!」
「かずくん、お昼ぶり」
「応、一真! 会いに来たぜ」
二人の登場にドキリとする俺だが、先程の二人の励ましもあってすぐに落ち着く。
本当に二人には感謝だ。
「お姉ちゃん達、どうしたの?」
夏耶が明るい感じでそう聞くと、颯姉が自信満々に前に出る。その際に胸がドドン、と効果音が出るかのように突き出された。正直目のやり場に困る。
「ああ、一真達はまだ学園のどこに何があるのか、ちゃんとわかってねぇだろ。だからあたいが案内しようと思ってね」
「そういうことか。確かにそうだね」
それに同意する俺達。
夏耶に案内してもらおうとは思っていたから、こうして申し出てくれることは有り難かった。
「つうわけだ、いくぞ、一真!」
颯姉はそのまま俺の腕を掴むと、ぐいぐいと引っ張る。
「あ、抜け駆けは許さないわよ、颯」
それに対抗して灯姉さんが反対側の腕を掴んできた。
双方から伝わる柔らかい感触にドキドキしてしまう。
「あ、待って下さい、一真様!」
「待ってよ、お姉ちゃん達~!」
そんな俺達を慌てた様子で追いかける葵さんと夏耶。
こんな感じで教室を出て行く俺。気が付けば、さっきまで悩んでいたことが頭から吹き飛んでいた。
今はまだ、焦らなくてもいいと、そう思った。
だが、この時に俺は気付かなかった。
この学園にきてからずっと敵意を持っている人物に。
そして、これからの生涯においてずっとぶつかり合うであろう、あの『男』との出会いに……。
ただひたすら、真正面から打ち砕く、あの男に。