あれから俺は改めてアリシアさんの事を夏耶から詳しく聞くことにした。
アリシアさん……アリシア・オルコット。
イギリスの代表候補生にして、イギリスの名門貴族『オルコット家』の跡取り娘。
家族構成は母親のセシリア・オルコット。父親はセシル・オーウェル。
そして弟がいるらしい。何故両親の名字が違うのかと言えば、双方とも貴族であり、両家を存続させるためにも名字は変えなかったらしい。
ちなみに弟の名字は父方の方でオーウェル家の跡取りなんだとか。
葵さんとは違った凄いお嬢様だが、ISの技術もさらに素晴らしいらしい。
射撃戦を得意とするイギリス製第四世代型IS『アストレア』の操縦者で、一年生の中でも五指にはいる実力者なんだとか。
夏耶と仲が良いのは同じ代表候補生ということもあるが、どうも入学初日に困っていたところを助けたのが発端らしい。
それから仲良くなり、今では親友と呼べる間柄になったとか。
最初に会った時のインパクトが激しかったのだが、話を聞く限り悪い子ではないと思う。
それに夏耶は知らないようだが、俺はアリシアさんの父親のことを知っていた。
セシル・オーウェルと言えば、西洋の騎士として有名な人物である。
海外の劔冑、クルスを纏う者。東洋の織斑 一夏、西洋のセシル・オーウェルと言われ、父さんと双璧を成す御人だ。
日本の武者の憧れが父さんに集まるように、西洋の騎士達はセシル・オーウェルに憧れを抱く。
実は小さい頃に家に来たことがあり、父さんとは所謂悪友らしい。
当時は知らなかったが、どうも夜に父さんが母さんにしているテクニックはセシルさん仕込みらしい。
本当に知りたくなかったし、気付いた瞬間にセシルさんへの尊敬が下がったのは言うまでもない。
と、そんな有名人のお子さんに会えるとは思わなかった。
夏耶とは良い友人の様だし、仲良きことは美しきかなと言うべきだろう。学生時代に大切な友人が出来るのは喜ばしいことだ。
俺なんて武帝校じゃいつも襲われてばかりで友人が全然出来ない。(友人であっても容赦しないのが、武帝クオリティ)
なので妹にそんな仲が良い友人が出来て本当に嬉しい。
ただ、何故か目の敵にされている理由に関しては分からずじまいだった。
次の休み時間になった途端にアリシアさんは教室に来た。
そして実に楽しそうに夏耶と話をして、嬉しそうに帰って行く。
それが今日一日ずっとだ。
昼休みでは夏耶と一緒にお昼を食べようと誘いに来たのだが、夏耶はその誘いに俺達も誘い、姉さん達と葵さん、俺と夏耶とアリシアさん六人でお昼を食べることになった。
そこで思いっきり睨まれる俺。
葵さんや灯姉さんには普通に対応しているのに、何故か俺の事になると刺々しくなる。
颯姉には苦手意識があるみたいだから、もしかしたら俺も苦手なのかもしれない。
少し気まずい気を感じながら昼休みを過ごした。
そして放課後になった途端に教室に来て夏耶に一緒に訓練をしないか誘いに来た。
夏耶はその話を受けると、俺に見て貰いたいと抱きついてせがむ。
俺としても妹の成長を見たいというのもあって、見に行くことを承諾。
すると夏耶は嬉しそうに、アリシアさんは実に嫌そうにしていた。
そして妹の成長した姿を見届けて寮に帰りその日を終えた。
そして翌日。
何故か腕を葵さんと夏耶に抱きしめられた状態で目が覚め、二人を起こさないように気を付けながら布団から抜け出した。
あの柔らかくも甘い空間は天国のように感じるが、入り浸ってしまうと麻薬のように依存してしまいそうで怖い。これでも思春期の男なのだから、朝から刺激がきついのは辛いのだ。
顔を洗い、軽く筋トレをするために外に出る。
武帝校なら思いっきり出来るが、流石に余所様の学校で派手にやるわけには行かないので少し抑えめにするつもりだ。
そして軽くランニングを始めてしばらくすると、前に俺と同じように走っている人物を見つけた。
それは金髪を一つに纏め、走りやすいように体操着を着込んでいる少女である。
改めて思うが、IS学園の体操着は何でブルマなのだろうか? さっきから少女の発育が良く、きゅっとしたお尻がフリフリと揺れていた。正直見てて顔が赤くなってしまう。
それを誤魔化すために俺は前に出ると、その子に挨拶した。
「おはようございます。ランニング日和の天気ですね」
「ええ、おはようございまっ!?」
俺の挨拶に挨拶を返しながら振り返る少女。
その顔は俺を見た瞬間に強ばった。
俺も顔を見てやっと誰なのか分かり、笑顔で改めて挨拶をする。
「おはようございます、アリシアさん」
「な、何で貴方がここにいますの!?」
俺に驚くアリシアさんに俺は軽く説明する。
「いつもはもっと早く起きて鍛えているんですけど、最近は中々上手く出来ず。なので今日は軽く流す程度にしようと思って」
「そ、それは殊勝な心がけですわね!」
張り合うかのようにそう俺に答えると、アリシアさんはこれ以上話すことはないと言わんばかりに先に行く。
俺も再び走り始めると、すぐに追いついてしまった。
「ど、どうして追いかけるんですの!」
「いや、そんな気は無いのですが」
隣に来た俺を睨み付けるアリシアさん。
それに苦笑して答えると、ふんっと鼻を鳴らして更に先を走る。
だが、元々の速度が違う所為で、またすぐに追いついてしまった。
「っ~~~~~~! 付いてこないで下さいまし!」
「いや、普通に走っているだけなんだけど」
走っている所為で息を切らせているというのに、それ以上に顔を真っ赤にして俺を睨むアリシアさん。何やら凄い必死な感じがする。
そして二人で一緒……俺に抜かれると必死に追い抜き、抜いてもすぐ追い越せてしまうので更に彼女に拍車をかけることに。
その結果……
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
身体が汚れる事も気にせず、地面に横になるアリシアさん。
顔を真っ赤にして息を切らせて喘いでいる姿は何やら艶っぽく、目を向けづらい。
「あの……大丈夫ですか?」
心配して声をかけると、力無い動きでゆっくりと俺の方を向く。
「あ、あれだけ走ったのに、息一つ切らさないなんて……化け物ですか、貴方は……」
「そんな、化け物だなんて。いつもはこの三倍は走ってましたから」
苦笑しながらそう答えると、アリシアさんは目を見開き、まるで信じられないような物を見るような目を俺に向けていた。
男と女では体力の差が違うのだから、そんな驚くような事は無いと思うのだけど。
やっと身体が温まってきたので、筋トレでもしようと思ったのだが、流石に目の前に倒れている女子がいて無視するなんて出来る訳が無い。
だから未だに息を切らせて倒れているアリシアさんに声をかける。
「すみません、ちょっとだけ待っていて下さい」
「はぁ、はぁ、え? ちょっと!?」
何か言っていたような気がするが、それは後で聞けば良い。
俺はその場を駆け足で離れると、走っている際中に見つけた自販機でスポーツドリンクを二つ買うとすぐにアリシアさんの所に戻った。
「どうぞ」
未だ疲れて動けないアリシアさんにスポーツドリンクを手渡すが、アリシアさんはそっぽを向いて受け取らない。
「だ、誰が貴方の手ほどきなんて!」
「別にそんな大層なものじゃないですよ。それにアリシアさん」
「な、なんですの!」
警戒してあまり聞き入れてくれないアリシアさんに俺は笑いかける。
「目の前で倒れている人を助けないなんて人道に背くことを、俺は絶対にしたくないですから。俺が苦手なのは知っていますけど、それでも……これを飲んで少しでも元気になって下さい」
「っ!?」
俺のお願いを聞いて引いてきた顔の赤みが再び振り返したようで、真っ赤になるアリシアさん。
「………し、仕方ありませんわね。せ、せっかくのご厚意ですし、いただきますわ」
「ええ、ありがとうございます」
真っ赤な顔のまま強気でそう答えるアリシアさんにスポーツドリンクを手渡す。
だが、未だに疲れ切っている彼女はボトルを持とうとしても持てずに落としてしまっていた。
それを拾うと、キャップを開けて彼女を優しく抱き起こす。
「キャッ!? い、いきなり触らないで下さい!」
いきなり抱き起こされたものだから、アリシアさんは驚いてしまったようだ。
申し訳無く思うが、我慢して貰いたい。
「すみません。でも、これで飲めますよね」
「っ~~~~~~!」
そのままゆっくりと彼女の口元まで持って行く。
アリシアさんはトマトのように顔を赤くして縮こまっったが、ゆっくりと動きおずおずとスポーツドリンクを飲み始めた。
それが空になるまで、然程時間は掛からなかった。
ペットボトルを離すと、俺はアリシアさんを地面に座らせる。
「きっといつもより頑張ってしまったんですね。だからもうちょっと休んでいて下さい。まだ登校までは時間がありますから」
疲れで顔の赤みが引かないアリシアさんにそう言うと、軽く別れの挨拶を言って俺は駆け出した。
まだ時間はあるのだし、怠けた分を取り戻さなくては。
そう思いながら鍛錬へと戻った。
「…………織斑 一真………何なんですの、あの人」
彼女がそう呟いていたのを俺が聞くことはなかった。