この物語初の別視点ですね。
「もう……何なんですの、あの人……」
わたくしこと、アリシア・オルコットは今、あることに思い悩んでいます。
それは、最近知り合った男の方。
入学して以来、ずっと仲良しの大親友の夏耶の双子の兄。
織斑 一真。
最初は警戒しておりましたわ。
わたくしの大親友である夏耶がいつも話していた大好きな兄。
わたくしにとっては、大親友の夏耶の心を占める忌々しい存在。
夏耶には常にわたくしのことを一番にしてもらいたいですもの。
だから正直……嫌いでしたわ。
それが嫉妬だということはわかっておりますわ。醜い感情だということも。
それでも………汚い言葉にするのなら、『気にくわない』ですわ。
だというのに、それを顕わにして当たっていたというのに、この人は………
まったく気にしないどころか、全然気が付かなくて寧ろわたくしに笑いかけてばかり。
わたくしが夏耶の一番だと言い張っても張り合わずにわたくしに微笑みかけて、
「それほど大事に思ってもらえてるなんて、夏耶は良い友人を持って幸せ者だな。ありがとう、夏耶と仲良くしてくれて」
などと答える始末。
何と張り合いのないと言いますか、腑抜けてるといいますか。
肩透かしを喰らった気分、という感じですわ。
何であんなのが夏耶に好かれているのか、良く分かりませんわ。
それも周りに女性を三人も侍らせて。告白されているのに相手に応えてもいないんですのよ。そんな最低な奴になんで夏耶は……それに周りの女性も女性ですわ。
一体あんな男の何処がいいのやら。
た、確かに見た目は格好いいですし、性格も穏やかで優しいですけど……。
でも、言い替えればひ弱な精神の持ち主ということですわ!
だからそんな男は夏耶にふさわしくないのです。
だからこそ、わたくしはきつく当たっていたのですが、あの男は……
そんな日が2~3日続き、わたくしは朝の日課であったランニングで走っていた時にあの男が後ろから走ってきましたわ。
それで爽やかに挨拶なんてしてきました。本当は挨拶なんて交わしたくはありませんが、流石に礼儀知らずの女だとは思われたくはありませんから。
ですから、一応挨拶を返しましたけど。
でも、一緒に走るなんてゴメンですわ。だから引き離してしまおうと、いつもよりペースを上げたのですが………。
何であの男は付いてくるんですの!
あの男はその後難なく抜いていきますし、それでも前に行かれるのは何故か嫌で、だからペースなど気にせずにひたすら彼と張り合いました。
結果は前に見ての通り、わたくしは力尽きて息も絶え絶えで地面に倒れ、彼は特に疲れた様子もなく平然としていました。
何でこんなに差が違うのか……。
そのことを聞いたら、彼は笑顔でこの三倍はいつもしているって仰いました。
なんですか、それは!? 武者っていうのはきっと化け物しかいませんわね、絶対に。
それで終わりだと思っておりましたのに、彼は何とわたくしの心配をして介抱してくれたのですわ。
あれだけきつく当たっていたわたくしに嫌な顔一つせずスポーツドリンクを買ってきて、しかも動けないわたくしを起き上がらせて、スポーツドリンクを飲ませてくれて……。
彼はその後朗らかに笑って去って行きましたけど、わたくしはその背中から目が離せなくなっていました。
その日から妙に彼のことを意識してしまい、きつく言えなくなってしまいましたわ。
それでも認めたわけではありませんから、夏耶と一緒にさせる気はありませんけど。
そう思っていたら、いきなりやっかみに捕まってしまいました。
わたくしは五人の生徒に空き教室に呼び出され、責められるという、典型的なイジメに遭うことに。
前から何かしらやられていましたけど、気にも留めておりませんでした。だって、所詮は負け犬の遠吠えじゃないですか。わたくしの代表候補生としての地位は努力の結果。そしてその後も自分を高めることに頑張ってきたからこそ、こうして技量を向上させてきましたの。それをあの五人は生意気だのなんなのと文句を付けてきて。
別にわたくしにとってはどうでもいいこと……だと思いたかったのですが、やっぱり怖くて。でも、泣いたら負けだと思って虚勢を張っておりました。
そんな時、彼がわたくしを見つけて来てくれましたわ。
いきなり現れた彼に私は……何で来たのかと怒りたくなりました。
体力が化け物並でも、あんな腑抜けた性格で何が出来るのだと。
女の悪意はしつこく陰険ですわ。そんなきついものを彼がどうこう出来るなんて思えませんもの。
なのに彼は、わたくしを囲っている五人に毅然として立ち向かいました。
五人はそんな彼を低俗なからかいで馬鹿にしましたけど、彼はそれに臆することなく、ただ静かに、しかしはっきりと言いました。
『だまれ』
この言葉はわたくしも言われているようで、素直に従いました。
その言葉と共に何やら雰囲気や空気が一気に変わって、まるで極寒の地にいきなり移されたような、そんな寒気を感じさせました。まるで魂まで凍り付かせるような、そんな冷気を。
いつもの日向のような彼からは考えられないその寒気に驚きました。
そして彼はその雰囲気を纏いながら五人に正論を語ります。
ただ正しいことを言っているだけなのに……わたくしにはまるで死神の鎌が五人の首元にかけられているように見えました。その大本の彼が一番の死神にも。
そしてその言葉を言い終えると共に、五人はまるでこの世の終わりのような、そんな顔のまま床に座り込んでしまいます。彼はそれを見た後、わたくしに向かって先程の雰囲気からは考えられないような暖かな笑顔で私の手を引き、教室からわたくしを連れ出してくれました。
まるで颯爽と現れ、悪者を倒してお姫様を救う騎士様のように。
その時から彼の顔がまともに見られなくなりました。
見ていると吸い込まれてしまいそうで。その後、彼に引っ張られたまま教室まで連れていていただきましたし。
それからわたくしは可笑しくなってしまいましたわ。
夏耶に会いに行ってるのに、寧ろ彼にばかり目が行ってしまう。彼に話しかけられるとどこか嬉しくなって、饒舌に少しばかりの嫌みを言ってしまう。それでも彼が笑って許してくれる気がして。
そして自室に戻っても、彼の事ばかり考えてしまう。
それが何なのか………何となく分かってしまう気がする。
夏耶に抱いていた気持ちに似てるけど、それ以上に甘く切ない。
「で、ですが、それでも、認めるわけには……」
ですが、それを認めるのはわたくし自身は勿論、夏耶への裏切りのように思えてしまって………。
だからこそ、この曖昧な気持ちをどうにかしたくて、わたくしはイジメがあった日から二日後、彼に向かって宣言しました。
「織斑 一真さん! 貴方に、決闘を申し込みますわ!!」
きっとこれで……わたくしのこの良く分からない感情にケリがつくはずですから。