痛い…………。
周りから突き刺さる視線が実に痛くて仕方ない。
IS学園に短期留学してから早二週間。楽しく有意義な時間を過ごしているとは思う。
見知らぬ知識に触れては感動を覚え、それが間近で見れた日には興奮したものだ。
とても充実した日々。武帝校に持って帰るには充分な思い出と知識を学べたと思う。
それはいい。自身の武者としての成長をより良くするためにきっと役に立つ。
そんな毎日が楽しい日々なのだが……。
「お兄ちゃん、はい、あ~ん」
「か、一真様……どうぞ…」
「かずくん、お口あけて♪」
「一真、ほれ喰え」
「お兄様、どうぞですわ」
現在、俺は夏耶、葵さん、灯姉さん、颯姉、アリシアさんの五人から料理の数々を一口サイズで差し出されている。
場所は学食であり、周りの生徒からは堂々と見える場所である。
そのあまりにシュールな光景に周りの生徒から好奇心が籠もった視線が俺達に向かって集まっていた。
その中には当然男子からの視線も入っており、羨ましそうな念を感じる。
何とも気まずく、視線が痛いこの光景に俺は冷や汗を掻きながら内心で悩む。
誰から最初に食べるべきか……などという事でなく、如何にこの恥ずかしい状況を切り抜けるかだ。
この光景は鈍いと言われている俺でも分かるくらい凄い幸せな光景なのだろう。
目の覚める様な美少女達五人に奉仕されるというのは、偏に男の夢だと忠保から聞いたことがある。
父さんは毎日母さんにしてもらっている光景を目にしているが、敢えて言わせて貰いたい。
気まずいと。
これを幸せに見える奴はきっと実際に受けたことがない奴か、もしくは周りが見えていないかのどちらかだ。
周りからの視線、そして顔を赤らめつつも緊張していることがわかる五人からの重圧。
この板挟みの重圧に俺はすぐにでも逃げ出したい気持ちで一杯になってしまう。
別に五人が怖いからとかそういうことではない。
その内の四人から告白を受けている。(一人は妹)
だというのに、俺は一向に答えを出せておらず、返事も返せない有様。
そんな駄目な男だというのに、彼女達は俺を見捨てることはせずに慕ってくれる。
それが有り難いと思うと同時に情けなく思ってしまう。
最近父さん達に助言を請うた時に帰ってきた返事(殆ど知りたくもないことばかり)の中に、『誰も悲しませないように』というのがあった。
それは俺も思うことで、この親しい人達に悲しい目に遭って欲しくはない。
となると、今目下いある問題は『誰もおかずから食べるか』である。
何のかんのといっても競争意識のある四人だ。ここで誰の料理を最初に食べたかで順位のような物が決められかねない。それは悲しみを生む原因になりそうだ。
それにこんな状況は恥ずかし過ぎてあまり人に見られ続けるのはゴメンだ。
五人は夢中になっている事もあってか視線にまったく気付いていないようだが、分かっている此方としてはすぐにでもこの視線から逃れたい。
きっとこれが武帝校だったのならそれこそ、その場にいる全生徒が飛びかかってきても可笑しくないだろう。
自身が置かれているのはそういう状況である。
このまま長引けば視線を浴び続ける拷問のような時間を味わうハメに遭い、すぐに決めようにも悩み時間は過ぎてしまう。そして時間は有限である。
このまま俺が悩み続けては彼女達は昼食を食べることが出来ない。
だからこそ、早急に決めなくては!
そして思い悩んだ末に、俺は答えを出した。
「あ、あーん………」
別に声を出す必要性などない。
だが、それをせねば許さないと無言のプレッシャーが俺に叩き付けられていたこともあって素直に従う。
俺が選んだのは………。
「あ~ん! どう、お兄ちゃん、美味しい?」
「………あ、ああ、美味しいよ」
夏耶だった。
最初に食べてもらえたことが嬉しいらしく、弾けんばかりの笑みを浮かべ喜ぶ夏耶。
そして食べてもらえなかった四人は悲しそうな羨ましそうな目で俺を見つめてきた。
いや、そんな目で見つめないで欲しい、妹なのだし。
「いや、そんな顔しないで。別に夏耶は妹なんだし」
「それでも、です!」
「いいなぁ~、夏耶ちゃん」
「羨ましいぞ、夏耶!」
「ずるいですわ、夏耶!」
皆から夏耶に向かって羨望の眼差しと不満が漏れる。
それを受けた夏耶は少し申し訳なさそうに謝った。
「ごめんね、みんな。でも、私はお兄ちゃんと『一番仲が良い』妹だからね~」
先程はい、あーんが出来た事が嬉しかったのか、上機嫌に答える夏耶。その様子に皆少し何かを感じたのか、表情が強ばる。
「ま、まぁ、確かに夏耶さんは『妹』ですからね。一真様も気兼ねなく出来ますからね」
「かずくんはお姉ちゃんにも優しくしてくれないの? お姉ちゃん寂しいわぁ」
「いくら将来の義妹とは言え譲れねぇなぁ」
「うふふふふふ、わたくしはお兄様とは血が繋がっておりませんもの。兄と及びしていても夏耶に負けることはありませんわ」
四人がそう夏耶に向かってそう言うと、五人でお互いに牽制しつつ火花を散らし始めた。
「あぁ、もう!」
それを見て内心冷や汗を掻き始めた俺はまず、葵さんに声をかけた。
「葵さん!」
「はい! え、一真様?」
いきなり大きな声で呼ばれた葵さんは驚いたようで俺を目を丸くして見ていた。
「喧嘩にならないよう、ちゃんとみんなの差し出してくれた料理はいただきますから。あ、あ~ん」
恥ずかしいが、それでも頑張って葵さんに口を開けた顔を見せる。
その意図に気付いた葵さんが顔を赤くしつつも嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます、一真様。あ、あ~~~~~ん!」
そして口に入れられた料理を咀嚼し飲み込む。
その味に素直に感心すると、今度は灯姉さんが差し出した料理をいただく。
俺がしようとしていることを察している灯姉さんは少し前と同様嬉しそうに差し出した。
「ありがとう、かずくん。だぁいすき……はい、あ~ん」
「あ、あ~ん………」
大好きと言われ落ち着かなくなり顔が熱くなってきてしまうが、何とか表に出さないようにして食べる。
それを食べ終われば今度は颯姉の方へと行く。
「颯姉、んぅ」
「おう、ほれ! どうだ、美味いか?」
俺が口を開けると上機嫌に箸を口の中に突っ込んで来た。
少し苦しかったが、美味しい。
そして最後にアリシアさんに向かって顔を向ける。
「アリシアさん、お願いします」
「は、はいですわ! では、あ~~~~ん!」
花が咲いたかのように顔を綻ばせるアリシアさん。
俺はその笑顔に目を奪われそうになりつつ料理を食べた。
これで全員のを食べ終わったことになる。
「みんな食べたんですから、仲良くして下さい」
笑顔でそう言うと、皆静かになった。
そして食事を再開するかと思いきや、皆顔を真っ赤にして箸をじっと見つめていた。
(((((これ、そのまま食べたら間接キスなんじゃぁ……)))))
その後、四人は真っ赤な顔のまま味わう様に料理を食べていく。
この時は気付かなかったが、夏耶に間接キスをしたことを教えられ、共に真っ赤になりながらお昼ご飯を食べた。
そして翌日、その日はいつもと全然空気が違った。
朝教室に行く前から妙に皆ざわついていて、何事かと思い近くにいた男子に声をかけた。
「なぁ、やけに皆ざわついているけど、何かあったのか?」
「え、知らないのか!? ってそうか。お前等はここに留学しに来ただけだから知らないのか」
男子は知らないことに驚いていたようだが、俺の顔を見てすぐに納得した。
二週間もすれば顔は大体知れ渡るらしい。
そして男子は語ってくれた。
「二週間前、丁度お前等が来る前に停学を喰らった奴が帰ってきたんだよ」
「何かしたのか、その人?」
「ああ。奴は…………」
男子はまるで恐ろしい物を見ているかのように肩を震わせながら口を開いた。
「片手のみの部分展開だけで五機のISを叩き潰し、操縦者を全員病院送りにしたんだよ、そいつ」
「………そいつの名は?」
話を聞いただけでわかる、明らかな危険人物。
だが、俺は何故か気になりその人物の名を聞いた。
「………劉鳳………凰 劉鳳(ファン・リュウホウ)」
その名が俺にとって忘れられない名になることをこの時はまだ思ってもみなかった。