織斑 一真の苦悩   作:nasigorenn

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今回、ライバルについて考えるお話です。
次回は遂に、戦う……かもしれません。


第46話 織斑 一真は彼の者を知る

 朝に男子から聞いた名はかなり有名だった。

 

凰 劉鳳。

 

今年入った一年生で、アメリカの企業『ネイティブアルター社』で開発された世代不明の専用機『シェルブリット』の操縦者。

ここで不明と言ったのは、今までに無いコンセプトの機体のため、世代分けの区分が付かないというのが理由らしい。

それもあるが、入学して今まで、完全展開をしたところを見た人は誰もいないらしく、常に戦う時は右手のみの部分展開だけ。

ISは部分展開こそ出来るが身体を守る装甲がないため、最近ではその分絶対防御が作動しやすくなっている。故に戦闘においての利点が全くない。

だが、その明らかに不利な状態でもその人物は負けたことがないとか。

そして素行も悪いらしく、粗暴で乱暴。邪魔する者には容赦せず、徹底的に攻撃する好戦的な性格。だが、どういう訳か困っている人がいればぶっきらぼうだが助けるという少し分からない部分もあるとか。

基本授業はサボりがちだが、試合や実習には良く参加する。

と、朝クラスメイトの男子から聞いたのはこんな話だ。

そして今、昼休みになって夏耶、葵さん、灯姉さん、颯姉、アリシアさんと一緒に学食で昼食を食べながら件の人物について話を聞いてみた。

 

「凰君? う~ん、どうなんだろう?」

 

夏耶が箸を口にちょこんと咥えながら首を傾げる。

可愛らしい動作ではあるが、少しみっともない。

だが、それよりも意外だったのは夏耶の反応だ。夏耶は人見知りが激しい方で、寧ろ件の人物には恐がりそうなものだが……。

 

「夏耶なら恐がりそうな話だけど、違うのか?」

「うん、確かに話だけだと怖いけどそこまで怖い人じゃないよ」

「と、言うと?」

「前に荷物を運んでた時、助けて貰ったことがあるの。言い方はぶっきらぼうで少し怖かったけど、それでもちゃんと文句も言わずに手伝ってくれたし」

 

それだけ聞くと不器用な好青年といった感じだ。

だが、ならどうしてあの男子はそこまで怖がったんだ?

次にカルボナーラを上品に食べているアリシアさんに聞いてみる。

 

「アリシアさんは何か知ってる?」

 

するとアリシアさんは先程まで嬉しそうに笑っていた顔が一転、顔を赤くして怒った顔をする。

ただ、よく美人は怒ると怖いと言うけれど、アリシアさんのは何というか……可愛い。

 

「あんな人、最低の極みですわ!」

「何かアリシアさんとあったの?」

「いえ、別にそういうわけではございませんが。ただ、戦いにおいて最低なのですわ! 相手への敬意を一切払わず、部分展開のみで戦うというのは相手への侮辱ですわ。その上、相手が戦闘不能になるまで攻撃を辞めないというのは、フェアプレイに反しますわ!」

「つまりは卑怯者ってことなのかな?」

「いえ、そういうわけでは。ちゃんと真正面から戦っております。ただ、ひたすら相手が動けなくなるまで攻撃し続けるというのは、紳士ではありませんわ! 相手へのいたわりが全くありませんもの。その点、お兄様はわたくしをあんなに心配してくれて……うふふふふふ」

 

怒りの赤から一転し、今度は別の紅に顔を染めて嬉しそうに笑うアリシアさん。

正直、その笑みに少しドキッとした。

二人の話を聞いた限りだと、普段はぶっきらぼうだけど実は優しい好青年。でも、戦うときは一切の容赦をせず、相手への敬意も払わない戦闘狂。

どうにも二面性の激しい人物だ。

これだけだと判断らしい判断が全く下せない。どちらかが偽っているというのならわかるが、二人の話は朝に聞いた人物像からまったくぶれていない。

そこで俺は颯姉に聞いて見ることにした。

 

「颯姉は何か知ってる? その凰 劉鳳のこと?」

「んぁ、私か?」

 

女子とは思えないくらい雄々しくどんぶりをかっこむ颯姉。

何で席で胡座をかいてるのか聞きたいと所だが、

 

「と、その前に颯姉、その……見えちゃってるんだけど」

 

胡座をかいている所為で短いスカートでは隠せない部分……よりによってアダルティなレースの黒い下着が見えていた。

それを指摘された颯姉はニンマリと笑う。

 

「何言ってるんだよ。『見せてる』に決まってんだろ。どうだ、あたいのエロい下着は。男ならぐっとくるだろ?」

 

その発言に4人が颯姉をジト目で睨み、俺は咄嗟に顔を逸らした。

そんな俺達の反応に颯姉は豪快に笑っていたが、俺は正直あの下着が頭に浮かんでしまい、その場で自分の頭を殴ることで冷静さを保つことにした。

さて、そんな雑談はさておき本題へ。

 

「それで楓姉が知ってることってあるの?」

 

楓姉は胡座を崩しつつ、俺の質問に答える。

 

「あたいは二年だからなぁ。あまり一年のことは知らないけど、少しくらいなら聞いたことがあるな」

「どんなことなの?」

「ああ、何でもそいつは放課後に良くアリーナに出て来るとか、そもそも試合を挑まれた経緯がそいつが生意気だからだとか、そういうイチャモンが多かったって事くらいかねぇ」

「ってことは正当防衛ってことなのかな」

「いや、そうでもないらしい。向こうから挑んで来ることもあるらしいからな。ただ、その時挑まれる相手ってのは、強いので有名な奴ばかりだぜ」

 

また出てきたことは余計に混乱する事ばかりだ。

戦闘狂って感じでもないのだろうか? でも、上昇志向が高いのか。

そこで今度は別の観点からの意見を聞いてみようと思い、葵さんに聞いて見る。

 

「葵さんはこの人物について、聞いてどう思いますか?」

「わたくし……ですか?」

 

葵さんはアリシアさん負けないくらい上品に焼き魚定食を食べていた。

その仕草の美しさに少し目を惹かれてしまう。

 

「そうですね………少しだけ……一真様に似ていますね」

「俺に……似てる?」

 

意外なことを言われてしまった。自分ではそんな事は無いと思うのだが。

それは俺だけではないらしく、凰 劉鳳を知っている夏耶とアリシアさんが否定し始めた。

 

「ぜんぜん似てないよ。だって、お兄ちゃんの方が、ずぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~と、格好いいもん!」

「ありえませんわ! お兄様は清く凜々しく格好いい、まさに騎士のような御方。あんな粗野で粗暴な輩とまるっきり似ていませんわ!」

 

二人は葵さんに向かって力強くはっきりとそう言うと、葵さんは少し驚いたのかビクっと肩を震えさせた。

そして慌てて訂正を入れる。

 

「いえ、別に性格が似ているとか、そんなわけではありません。ただ、その戦う姿勢に一真様に似ている部分があると、そう思ったんです」

「戦う姿勢?」

「はい。強者と戦いたいと、その人は思っているんじゃないでしょうか。それは誰にでもある心ですが、武者はそれが強いのですよ。その中でも特に、一真様はそれが顕著です」

 

言われて見れば確かに分からなくもない。

武者足る者、常に己が武を鍛える。そのため、強者との戦いは喜ばしいものであり、相手に敬意を持って戦う。

つまり凰 劉鳳も同じ気持ちなのだろうか?

そこでさらに葵さんが続ける。

 

「きっとその人物は『死合い』がしたいのではないかと」

「『死合い』を? なら、IS学園じゃなく武帝校に行って武者になればよかったんじゃ……」

「そこまではわかりません。ですが、たぶんその人はそれこそ、命を賭ける程の戦いを望んでいるんじゃないでしょうか。だからそれを出来る相手を求めてそんな蛮行に及んでいるのかと」

 

葵さんの話も含めると、さらに複雑になっていく。

はっきりと言えるのは、今の所戦闘狂ってことだろうか。

ただ強い人と戦いたい。

それだけな感じだ。

まだ、此方のように己が武を磨くためという理念があるのなら分かるが、そんな感じではないかな、聞いた限りだと。

その勝負の挑み方は『自分を証明したい』と、そんな感じがする。

そして最後に灯姉さんに感想を聞いてみることにした。

灯姉さんはデザートにとって置いたプリンを幸せそうに食べている。

その瑞々しい唇に目が奪われかけた。

 

「灯姉さんはどう思う?」

「う~ん、そうねぇ~。結構極端な子よね、その子。たぶん私も葵さんと同じかなぁ。ただ………結構危ないと思う。そういう子は暴力と力の区別をつけないから」

 

そう答える灯姉さんは少し真面目な感じだった。

その区分は武者にとって一番重要だと、父さんから教わった。

それを分けないことがどれだけ危ないかも。

以上のことから、結局イマイチ分からない感じに話は終わった。

 ただ、その後に少しあって………。

 

「あれ? 夏耶、口の端が汚れてる。ジッとして」

「え?」

 

口の端が汚れていたので、その場で夏耶にジッとするように言うと紙ナプキンで軽く拭いてやる。

偶にこうやって抜けたりするから目が放せないんだよなぁ。

 

「ありがとう、お兄ちゃん! えへへへへへ」

「何笑ってるんだ。ちゃんとしないとみっともないぞ」

「はぁ~い。えへ~」

 

何やら嬉しそうに笑う夏耶に仕方ないなぁ、と思っていると、葵さんが俺に声をかけてきた。

 

「か、一真様」

「どうかしましたか?」

「あの、わたくしの顔は大丈夫でしょうか?」

 

何が大丈夫なのか分からないが、見ると唇に何やらたれのような物が付いていた。

そのことを伝えようとしたのだが、何かを感じ周りを見ると、アリシアさんと灯姉さんも似たように何かをしていて、颯姉が慌ててご飯粒を唇につけていた。

そこから分かること、先程の夏耶にしてやったことで大体のことが予測出来る。

それに内心で苦悩しつつ、4人の唇を丁寧に拭いてあげることにした。

柔らかい唇の感触にドキドキしながら。

 

「あ、ありがとうございます、一真様」

「あぁ、お兄様に口を拭いてもらえるなんて………恥ずかしいですけど、幸せですわぁ…」

 

葵さんとアリシアさんは顔を真っ赤にして恥じらいつつも幸せそうな顔をし、

 

「ありがとうね、かずくん」

「サンキュー、一真。ノリが良くて助かるぜ」

 

姉貴分二人に感謝された。

 

 

 

そして放課後になり……それは来た。

 

「ここに『織斑 一真』ってのが居るってきいたんだけど、いるかぁ」

 

教室に入ってきたのは、茶色い短髪をした細身の男だった。

だが、その目は獣のようにギラついている。

それを見て悟った。

この男が……凰 劉鳳だと。

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